第百六十六話 孤児院の恋
その後、ベリちゃんセレクションによる甘いフルーツや、王都で人気のお土産物などを一通り購入して配送の手配をお願いした。もちろん、試食を頂いたガレットも大量に購入済みだ。
「ケオーラ商会は王都にも支店を出していたのだな」
配送はケオーラ商会に、まるっとお願いをしている。信頼できる商会があると、こういう時にとても助かる。
「王都との貿易が間もなくスタートするからね。さらにいえば、サフィーニアからの農作物もベルシャザールに届くことになるだろうから忙しくなるはずだよ」
「それで、ベネット宛に手紙を書いていたのだな。ケオーラ商会は今後かなり大きくなりそうだな。ベネットが出世してくれたら孤児院の子達も喜ぶだろう」
ベネットは孤児院の出ということもあって、リンカスターに戻ってからは、よく顔を出すようになっている。子供達の中には、ベネットを目指して勉強している子達もいる。
「僕はマリエールを狙っていると、踏んでいるんだけどクロエはどう思う?」
「ベネットがマリエールをか?」
「うん」
「……なくはないか。マリエールは面倒見がいいから、小さい頃からよくベネットの世話もしていたのだ」
「なんとなく、想像できるよ。ベネットって、ちょっとマイペースなところがあるから、テキパキと動くマリエールが面倒を見てたんだろうね」
「ふむ、その頃からマリエールに惚れていた可能性はあるやもしれぬな」
「ママ。ベネット、マリエールが好きなの?」
「うん、まだわからないんだけど。ひょっとしたらそうかなって」
「ベリル孤児院でね、ベネットがマリエール見ていたの知ってる。みんな知ってるよ!」
どうやら孤児院の子達にはバレバレだったらしい。子供達は大人をよく見ている。
「マリエールはどう思っていると思う?」
「頼りになる男として、みていない可能性があるな。子供達の面倒をよくみてくれているので助かっている部分はあるはずなのだが、求めているのはそういうのではなさそうなのだ」
「ベネット、リンカスター支店を任されているし、給料もかなりいいと思うんだけど」
「お金も、もちろん大事なのだが、男として守ってもらえる力強さみたいなものを求めがちなのだよ」
アストラルならではのものだと思う。なんだかんだと死が近い世界だけに、魔物を退ける強さは女性が男性に求めるものとして、かなりの影響を与えている。
「まだ決まったわけではないけど、ベネットがマリエールを好きなら応援してあげたいな」
「そうだな。二人がそうなれば私も嬉しく思う」
「ベリルも!」
こうなるとマリエールさん次第なところもあるけど、マリエールさんって行動的だけど、恋だの愛だのを孤児院があることで後まわしにしてきた気がするんだ。最近では、ビール工場までお願いしていることもあって益々忙しい。
「これは、あれかな。リンカスターに戻ったら僕たちも孤児院をお手伝いしてマリエールさんに少し自由な時間を与えた方がいいのかもね」
「そうだな。マリエールも自分のことを考える時間が必要な気がしてきた。きっと、ベネットのこととか何も感じてない可能性がある」
「孤児院に遊びにいくの?」
「うん、マリエールさんの時間を僕達で作って、ベネットにデートに誘わせるんだ」
「ふおぉー、ベネットがんばれー!」
「二人のデートをみてみたい気もするが、見つかったら怒られそうだな」
「僕達が手伝えるのはそこまでだよ。それとね、落ち着いたらクロエとベリちゃんとも旅行に行きたいんだ」
「旅行か、それはいいな。で、どこにいくのだ?」
「クロエは行きたいところある?」
「二人と一緒ならどこでも構わないよ」
「じゃあ、ポーネリア諸島とかどう?」
ポーネリア諸島は貴族の避暑地としても使われている美しい島々がある場所だ。白い砂浜、コバルトブルーの海。ベルシャザールから船で向かえるらしく、そこにはドラゴンもいない。
「高級リゾートだけに、お金が掛かりそうだが、たまの休息ならいいかもしれないな。旅行か……。何だかとても楽しみだ」
「三人で旅行?」
「うん、どうせなら島を一つ貸し切ろうと思ってるんだ。好きな物を食べて、一日中海で遊んでゆっくりと過ごすんだ!」
「やったー!」
「島を貸し切りにするとか、アリエスが悔しがりそうなワードだな」
ベルシャザールの港でポーネリア諸島の観光費用を調べていたら、意外と自分がお金持ちだと改めて認識できた。島ぐらいなら一ヶ月借りっぱなしでも痛くもかゆくもない。
「せっかく移動制限が解除されるんだからね。今までの分もしっかりお休みしよう」
「うむ、楽しみが増えたな。その前にノースポリアのリントヴルムか」
「そうだね」
明日からはノースポリアへニーナ様と同行でリントヴルムと会うことになっている。何が嫌って、ニーナ様がどんな行動をとるか読めないところだろう。
ラシャド王子が同行してくれたら、おとなしいのだろうけど、さすがに共生していないドラゴンのそばに王族を連れていくわけにはいかない。
何事もなければいいのだけどね……。
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