第百六十話 ベルシャザールへの帰還
妖精さん達とキャリバー家の関係はきっと上手くいくと信じている。来年には大量のお米を生産してくれることを祈るばかりだ。
一応、種に回さなくても大丈夫な分を頂いてきた。リンカスターに戻ったら三人でカレーライスにして食べようと思う。
「スパイスはそれぐらいで足りますか?」
「あまり多く持って帰っても使いきれないしね。ジュリア、妖精さん達と仲良くね。アレッタさんも何か困ったことがあったらすぐに相談してください」
「お任せください!」
「お心遣い感謝いたします」
というわけで、スパイスは無難にターメリック、クミン、コリアンダー、トウガラシを適量だけ頂くことにした。配合とかは今後ゆっくり考えよう。
「ジュリア、またね! 干物ばっかり食べたらダメなんだよー」
「うー、ベリルちゃんとお別れしなけれならないのがジュリアはとてもさみしいです」
「たまには遊びに来てよ。僕たちも顔を出すつもりだからさ」
「そうですね。アレッタさんとスパイスやイネの栽培を頑張りますね! では、お元気で」
「うん、またね」
用意された馬車に乗り込むと、ベルシャザールへと向かって走り出す。サフィーニア公国、さようなら! 深い森と自然に囲まれた獣人達の国。またいつか遊びに来たい場所になった。
「クロエもお土産貰ったんだね」
「奥様から数種類の茶葉と器具をセットで戴いたのだ。あとで、美味しい紅茶を淹れよう」
「ママ、紅茶と賢茶とどっちが美味しい?」
ベリちゃんからするとお茶と聞いたら賢茶を思い浮かべるらしい。どちらも美味しいけど、香りを楽しむなら紅茶だろうか。ミネラルが豊富なのは賢茶の方なので、まだ体の小さいベリちゃんには賢茶の方がいいのかもしれない。
「そうだな……。冷たくして飲むならやはり賢茶の方なのかな。ベリちゃんにはミルクを入れた紅茶を淹れてあげるね。飲みやすくて、夜もぐっすり眠れると奥様から聞いたのだ」
「ミルク紅茶楽しみ!」
「うむ、期待しててくれ。美味しい淹れ方をしっかり学んできたからな」
この後は、ベルシャザールで王様に今回のご報告をすることになっている。少し休みももらえるとは思っている。さすがにリントヴルムと連闘とか勘弁してもらいたい。そもそもローランドさんハープナに帰ってしまっているしね。
とはいえ、リントヴルムについての話し合いを中心にすることになるのは間違いない。こちらのドラゴンさんも、最近こそ被害が出ていないらしいが、共生をしておらずフリーなドラゴンさんらしい。
「次はノースポリアかぁ。確か『風の賢者』ニーナ様が守っている地だっけ?」
「そうだな。私とも年齢は近いと聞いている。しかしながらストイックに討伐をしており、レベルは間もなく40になるらしい。賢者としての強さでは私の遥か高みにいる方だ」
「そういえばレベル40を超えると賢者としても大幅にステータスが上がるとか言ってたっけ?」
「上級職のない賢者にとって、一つの目標だな。ここからはレベルアップの度にそれぞれの特色に応じてステータスが大幅に上昇すると言われているのだ」
もちろん強ければ、戦いも有利に進められるとは思う。でも強さだけを求めて生きていくのはつまらない。僕たちは戦闘狂ではないのだから。もっと周りの風景を楽しみながら強くなっていく感じのゆるさが丁度いい。
「やっぱりクロエもレベル40を目指しているの?」
「うーん、以前はそうだったのたが、今はそうでもない。もちろん、強くなることでみんなを守れる力が手に入るのはよいことだとわかっている。しかし……」
「そうだね、クロエだけが頑張らなくてもいいんだよ」
「うん! ベリルも頑張るの!」
「そうなのだ。私は一人ではない。ハルトにベリちゃんがいるのだからな。みんなと力を合わせて乗り越える方がきっと楽しいと思うのだ」
どうやら、クロエも僕と同じような気持ちでいてくれたことが何よりも嬉しい。
「な、なんだハルト、何をひとりでニヤけているのだ!」
「いや、違うんだ。僕も同じようなことを考えていたというか、もっとゆるーい感じかもしれないんだけど、のんびりでもいいのかなと。僕が言うのも何だけどね」
「そ、そうか。だったらいいのだ」
クロエも少し恥ずかしそうに俯きながら外の景色を眺め始めた。膝の上に乗っていたベリちゃんがクロエと僕の顔を交互に見ながら、「えへへ」と楽しそうにしている。
平和だな……。
リントヴルム、どっかで転んで死んでたらいいのにな。気分は長期休暇に突入してしまっている。ノースポリアは北の街なのでこれから気温がグッと下がってくる。本格的な冬が来る前には片付けたい問題ではある。冬場の野宿とかきっと死んでしまうと思うんだよね。
しかしながら、ベルシャザールへ戻る途中、僕たちの予想外の事件が起きたのだ。
それは馬車の襲撃だったのだけど、そこには何故かノースポリアから移動できないはずの『風の賢者』ニーナ様が、とてつもなくデカい狼とともに待ち構えていたのだった。
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