第百五十九話 キャリバー家の優先順位
カルダモン、クミン、ターメリック、コリアンダー、クローヴ、シナモン、トウガラシ、サンショー、コショーなどなど、畑ごとに分けられ育てられているスパイスは発育もよく、見た目にも素晴らしく思えた。
「さすが、スパイス作りの名家と呼ばれるだけはあるね。今年は豊作なの?」
「いつも、こんな感じですよ。年々慣れてきているのもあるとは思いますけど、このあたりの気候が栽培に適してるのではないでしょうか」
「私たち精霊が近くに住んでいる影響もあると思いますよ。周囲の環境が良ければ、その更に周辺も影響を受けます」
アレッタさんの発言に妙に納得してしまった。キャリバー家のツキというのも凄まじい。
「なるほど、ここでも強運が流れ込んでくるのか……」
「妖精さんと連携したらもっと良くなるのですね。これは、たまりませんね」
「あんまり欲をかくと大変な目に合うよ。そもそも、まだ妖精さん達が協力してくれるとは言ってないんだからね」
「それはわかってますが、父のことは私もよく知っております。たまに無謀なことはしますが、大切な人への礼儀はわきまえているのですよ」
大切な人というのは、この場合は僕やクロエのことを指しているのだろう。つまり、僕が紹介した話を無碍にし、妖精売買をやっちゃって稼ごうというのは礼儀に反するということなのだろう。
「キャリバー家ってお金は好きそうだけど、スパイス栽培が柱だからね」
「そうです。スパイス栽培第一なのですよ」
しかも、妖精さんがいなくなったらスパイス栽培にも影響が出そうだもんね。半分以上答えは出ている。だからこそ、アレッタさんに来てもらったというのもあったりする。
「それで、アレッタさんはキャリバー家に何か聞いてみたいことはある?」
「聞いてみたいことですか? そうですね、キャリバー家というよりは、その、ハルトさんに質問があります」
「えっ? 僕に」
「はい。キャリバー家では、人となりや、雰囲気を感じて判断しますので。それで、聞いてもよろしいですか?」
「うん、構わないよ。話せる範囲でだけどね」
チラッとジュリアの方を一瞥したので、何となくは理解はしてくれただろう。
「何故ハルトさんはドラゴンを倒されたのですか? アンフィスバエナは封印されていたと聞いております。わざわざ封印を解いて討伐したということですよね」
「そうだね。僕たちは、この国で封印を継続するために生贄を捧げていたことをジュリアから聞くまで知らなかったんだよ」
「それでは、ここに住む獣人のために危険を侵して戦われたというのですか?」
「もちろん、それだけではないよ。それに、信じられないかも知れないけど、僕たちにはドラゴンを倒す秘策があったからなんだ」
「ドラゴンを倒す秘策というのが、とても信じられませんが、実際に倒されていると聞くと驚き以外の言葉が出てきません」
「ハルトさんはニーズヘッグ、アンフィスバエナと討伐され、続いてこの後はリントヴルム討伐に向かわれるんですよ」
あきらかに妖精さん達が引いてしまっている。そりゃ、簡単にドラゴン討伐とか言われてもピンとこないだろう。しかも、実際に二体倒してしまっているというのも異常だと認識しておいた方がいいね。
「ハルトさんは、この先もドラゴンを倒していくのですか?」
「どうだろうね。困っている人がいるのなら、仲間と相談して決める感じかな。実際に優しいドラゴンもいるし、知識や経験はドラゴンの方が優れている」
「ドラゴンにお詳しいのですね」
「うーん、そうかもしれないね。話し合いが出来るドラゴンなら共生の道を選んでもらいたいからね」
この世界に来てからドラゴンと関わることがほとんどだったからね。ニーズヘッグ、ヴイーヴル、アンフィスバエナ、そしてベリちゃん。おそらく、これからも密接に関わっていきそうな予感はある。
ちなみに、お屋敷に戻ってジュリアのお父さんに説明したところ、あっさりと返事をしてくれた。
「妖精が湖に。へぇー、そいつは驚いたな。妖精って意外と近くにいるもんなんだな。それで、俺たちは何をすればいい?」
こちらの説明に対して、回答を丸投げしてきやがった。これを信頼と言っていいのかは悩ましい。
「キャリバー家で、妖精を守ってもらえませんか? 代わりに妖精たちは作物の成長を助けてくれると思います」
「なるほど、断る理由がねぇーな」
「それから、キャリバー家の領地に妖精がいることは秘密にしてもらえますか?」
「もちろんだ。いなくなってしまっては、うちの作物にも影響が出るんだろう。マンイーターからも、外部の者にも一切秘密にすると誓おう。おい、ジュリア」
「はいっ」
「湖周辺から屋敷までの、農地関係者を今すぐに集めさせろ。段階を追って情報は広げていく。秘密を洩らした者への罰についても説明するぞ」
「はいっ! かしこまりました」
ジュリアがとても誇らしそうに返事をしている。そうなるだろうと思ってはいても、多少は不安だったのだろう。
「それで、ハルトさん。妖精の方々へは挨拶に伺った方がいいのかね?」
「うーん、そうですね……」
僕の後ろに隠れていたアレッタさんが、姿をキャリバーさんにその姿をみせた。
「あ、あの、失礼致しました。実は隠れてお話を窺っておりましたのです。私はあの湖周辺に住んでいる妖精のアレッタと申します」
「おおぅ、妖精さんいらっしゃってたのかい。まったく、ハルトさんも人が悪いぜ」
「ごめんなさい。妖精さん達に信頼してもらうためにはと考えまして、僕の案で隠れてもらったんですよ」
「領主様、それでも隠れて話を聞くような真似をしたことをどうかお許しください。今回の件ですが、ぜひ協力関係を築きたいと思っております」
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