第百五十七話 サファリ湖の妖精1
「なんか、ちっこいのがいっぱい飛んでますね」
「ジュリアは、あれ見たことないの?」
「ええ、初めて見ました。魔物っぽくはないですね」
キラキラと光ながら、すばしっこく飛んでいる。羽は虹色に見えたり、はたまた銀色に見えたりと美しい。
火球
マンイーターの足下に魔法を放つと、効果覿面なようで、一気に弱ってしなしなに干からびていく。えっ? これで終わりか。
「パパ、この魔物今まで見てきた中で、一番弱そうだね」
ベリちゃんの言う通り、今までで最弱の魔物に思える。出来れば一番最初に出会いたかったよ。
「普段は身動きしないで、近づいてくるのを待ち構えるタイプの魔物なんですよ。子供の頃は危ないから気をつけなさいって教わっていたですよ」
「なるほど、子供の力だと捕まったらちょっと大変なのかな」
「まぁ、獣人の子は身体能力が高いから、そう簡単には捕まらないんですけどね」
しなしなに干からびてしまったマンイーターの口元から引っ張り出されるようにして、一体の妖精さんが救出されていた。
マンイーターの唾液まみれで、びちょびちょな姿の妖精さん。血の気の引いた青い表情をしており、ようやく助けられたことに気づいたのか、仲間と共に抱き合い、泣きながら喜びを噛みしめている。生きていてよかった。
しばらくして、自分たちが助けられたことに気づいたのか、おそるおそる一体の妖精さんが近づいてきたのだった。ちなみに、唾液まみれの彼女だ。
「あ、あの、この度はお助けいただきまして、誠にありがとうございます」
「このちっこいの言葉喋れますよ。これは驚きですね」
「ジュリア失礼だよ。どういたしまして。たまたまだけど助けられてよかったよ」
「あ、あの、失礼を承知でお伺いいたしますが、そちらの方は、ひょっとしてアンフィスバエナ様なのでしょうか?」
目線はベリちゃんを直視している。あー、『身隠しの粉』もう付けてないからかな……。
「そ、そんな訳ないじゃないか。ちょっとこっちに来てくれるかな」
ジュリアと少し距離をとってから聞こえないように再び話し掛けた。
「な、なんでドラゴンだってわかるの?」
「や、やっぱりアンフィスバエナ様だったのですね。私たちは美味しくないし、魔力量も小さいのでどうかお見逃しくださいませ」
「いや、食べないって。それにあの子はアンフィスバエナではないんだ。アンフィスバエナはもう僕たちが討伐したんだ」
「ほ、本当でございますか? で、でもあの方からはドラゴンの匂いがするのです」
ベリちゃんを見てあそこまでブルブルと震えるのは初めてのケースだな。この妖精さんは見た目ではなく本質を見抜いているということか。
「彼女は、ホワイトドラゴンで名前はベリル。優しい子だから安心して。あと、あのネコのお姉さんにはこのことは秘密にしているから内緒にしてもらえるかな?」
「か、かしこまりました。私はこの湖に住む妖精アレッタです。ドラゴンの気配が大きくなったり消えたり、また強くなったりと、ここ最近周辺の気配が慌ただしかったものですから調査に向かおうとしていたのでございます」
気配が大きくなったり、消えたり……。これはアンフィスバエナの封印を解いたり、討伐したりということか。また強くなったりというのはベリちゃんの『身隠しの粉』の効力が消えたこととか、この湖に近づいたことが原因かもしれないな。
「僕はハルトと言います。なるほど、調査に向かおうとして湖を出たところでマンイーターに捕まってしまったということですか」
「は、はい。お恥ずかしながら……。で、でも、湖にドラゴンの気配が一気に近づいてきたものですから、少しパニックになってしまい周りが見えておりませんでした」
少なからずというか、かなり僕たちの行動でご迷惑をお掛けしたパターンなのかもしれない。
「なんだか申し訳ないね。アレッタさんを助けられて本当に良かったよ」
「い、いえ。それよりも、異変の理由がわかって少しホッといたしました。ハルトさん達はこの湖へはどのような理由でいらっしゃったのですか?」
「そのことは、みんなで話をしようか。ネコのお姉さんが聞き耳を立てているからね」
ジュリアは顔は逆方向を向いているものの、その大きな耳はピコンと真直ぐこっちをとらえている。ジュリアも妖精を見るのは初めてだというし気になっているのがわかる。
「ジュリア、紹介するよ。この湖に住む妖精でアレッタさんだよ」
「はじめまして、小さい頃によくこちらに遊びに来ていた女の子ですね。よく覚えています」
「わ、私のことを知っていたのですか!? この湖は小さい頃からマンイーター討伐しながらよく遊んでいたですよ」
「マンイーターは私たちの天敵なのでとても助かっておりました。あらためてお礼を言わせていただきます」
「それにしても、何故今まで姿を現さなかったのですか?」
「私たち妖精は自然を守るために生きています。しかしながら、この見た目のせいで悪い人達に乱獲されたりすることも多いのです」
「なるほど、それで獣人や人の目にはつかないように隠れていたということですか」
「はい、その通りです。ですので、みなさんには私たちのことを、どうか黙っていていただくことは出来ないでしょうか。知られてしまったら私たちはここで生きていけなくなってしまいます」
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