第百四十八話 アンフィスバエナ戦3
「おい、おい、おい、よりによって、ニーズヘッグかよ」
「あの馬鹿から『身隠しの粉』をもらわねばならぬというのか」
どうやらニーズヘッグさん、ドラゴンからも嫌われていたらしい。適当に知っている名前を出してみたけど効果は抜群のようだ。
「ちなみにですが、ニーズヘッグの『身隠しの粉』は、既に僕たちが持っています」
アンフィスバエナに見えるように小瓶に入ったヴイーヴルの『身隠しの粉』をみせる。
「おいっ、その粉もっとよく見せろ!」
「炎、静かにしろ。あれは確かに『身隠しの粉』で間違いないだろう。但し、ニーズヘッグの物だという確証はないがな」
やはり、氷の方は知的で冷静に思える。やはり油断できないのはこちらの方と思っていいだろう。
ここでローランドさんからそっと肩を触られる。これは、ベリちゃんからの準備オッケーの合図なのだが、僕が目線を動かすとバレ易いので、離れているクロエがアンフィスバエナを見上げるように天井を確認し、更にローランドさんを経由して知らせるという念の入れようだ。前回のようなミスは繰り返さないんだよ。
「この粉を身に振れば、奇病に対する耐性ができます。しかし、ただで渡すわけにはいかない」
「交換条件ということか」
「俺たちがお前を殺して奪う可能性は考えなかったのか?」
「敵対の意思があるなら残念ですが、すぐに瓶ごと破壊します。僕の横にいるローランドさんは上級職のパラディンです。それぐらいの時間稼ぎはできますよ」
「なるほど、して条件を申してみよ」
「おいっ、話を聞くのかよ!」
「アンフィスバエナ、あなたの『身隠しの粉』が欲しい。それと交換でニーズヘッグの『身隠しの粉』を渡そう」
「構わぬ。その代わり、その粉がニーズヘッグの物だという証拠を示せ。また、交換が終わったあと、獣人どもを滅ぼすことは決して譲らぬぞ」
「構いません。しかしながら人の国、ベルシャザールの領地には干渉しないでもらいたい」
「ほう、獣人どもはどうなっても構わぬと申すのだな」
「残念ですが、致し方ありません」
「もう一つよいか? 我らの『身隠しの粉』はどのドラゴンに有効なのだ?」
「宝石のドラゴンヴイーヴル」
「なるほど。予知か……あの人間好きのドラゴンなら考えられなくもないか」
「ヴイーヴルがいなければ、ドラゴンはもちろん、人類は全て滅亡していたでしょう。私たちが生きるために協力してくれた彼女をどうしても助けたい。その為ならば……」
「獣人など食われても構わぬと申すか」
「……」
「では、次にその『身隠しの粉』がニーズヘッグの物だと証明してみせよ」
「それがちょっと難しいんですよね。どうすれば信じてもらえるのやら……」
氷の方が目を瞑り、何か考えているようだったが、目を開けるとおもむろに話し始めた。
「まずもってニーズヘッグが、人間の話を聞くはずがない。どうやって手に入れたかを話すだけでもよい」
「ありがとうございます。ニーズヘッグは、おっしゃる通り話が通じませんでした。しかしながら、既に奇病を発病していたため、かなり体力が落ちていたのです」
「つまり、弱っているニーズヘッグから直接『身隠しの粉』を手に入れたというのか」
「はい。ちなみに、ニーズヘッグは既に奇病で亡くなっています。この粉はニーズヘッグの最後の『身隠しの粉』となります」
「はんっ、どうにも嘘くせーな」
「後ろにいる彼女は『火の賢者』クロエ。彼女がこの場にいることがニーズヘッグが亡くなっている証にはなりませんか?」
ギョロリと目線をクロエに向けて品定めをしているように感じる。
「炎、どうだ。何か感じるか?」
「ああ、確かに炎の力を感じるな。確かにこいつは『火の賢者』だろう」
「つまり、ニーズヘッグが本当に死んでいるというのか……」
「あの粉がねぇーと、俺たちも遅かれ早かれニーズヘッグのように死ぬというのか、マジで竜種が死ぬのかよ」
「我らを魔法陣から解放したのだ。獣人どもと手を組んでいるとは思えぬ。信じてもいい……か」
「そうだな。こいつらの話には変な矛盾もねぇ。それにあれが最後の粉だ」
「うむ、あれが最後の粉。我らは手に入れなければなるまい」
奇跡的に話が上手くまとまりそうだ。やはり、話のなかに本当のことが混じると信憑性が高まるというのは間違いないようだ。
「取引は成立ということでいいのかな?」
「よかろう。まずは我らの『身隠しの粉』を用意しよう。して、どのように渡せばいい?」
ここからが問題だ。『身隠しの粉』なんてどうでもいい。どうやってアンフィスバエナのそばに不自然なく僕が近寄れるか。この一点に勝負を掛けている。
「それではこうしましょう。私が『身隠しの粉』を受け取りに近くまで行きます。私が粉を受け取ったら、ローランドさんがアンフィスバエナにニーズヘッグの『身隠しの粉』を投げ渡してください。瓶を受け取っている間に私は元いた場所に戻ります」
「それで構わぬ。その後はどうする」
「我々がベルシャザールに戻るまでは洞窟周辺にいて頂きたい。一日経てば、あなた方は自由です。その代わり……」
「人間達には手を出すなということか。ちなみに、約束を守らなかったらどうなる」
「共生を誓ったドラゴンと共にどちらかが死ぬまで戦うことになるでしょう」
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