第百四十六話 アンフィスバエナ戦1
翌日、出発にあたり多くの兵の集まる前でサフィーニア王より激励のお言葉をもらっていた。
「クロエ殿、ハルト殿、ローランド殿、どうかアンフィスバエナの討伐をよろしくお願いします」
「はい、お任せください」
「みなのもの、長年苦しんできた生贄の儀式は本日を持って終了させる! つらい想いをした者も多くいるだろう。しかしながら、我ら家族から今後、誰一人として犠牲者は出さぬ!」
「「おおぉぉぉ!!!!」」
「そして、これはアンフィスバエナからサフィーニアの誇りを取り戻す戦いでもある! リュカスと賢者殿のパーティに心からの気持ちをぶつけるのだ!」
「「うおおおおおお!!!!!!」」
目の前にはサフィーニア公国の全ての種族が集結し、王の言葉に感化され益々熱気を帯びていく。戦うのは君たちではなく、僕たちなんだけどな……。
とはいえ、このあと僕たちが失敗した場合に備えて戦いの準備が進められていくのだろう。どこまで、僕たちを信用してくれているのかはわからない。でも、単純に失敗に終わることはない。なぜなら成功するまで繰り返すだろうからね。
リュカス王子が声援に手を上げて応えている。こう一歩引いてみてみると、パーティメンバーにサフィーニアを代表する王子が入っていることは大事なのだなと思ってしまった。
外部の人間だけで、はい討伐したよって言われても、何だかんだ気まずい空気になりそうだもんね。
「リュカス王子、それでは向かいましょうか」
「そうですね。参りましょう」
かなり好奇の目で見られているのを感じる。少なくとも、サフィーニア公国に獣人以外の種族が滞在していること事態が稀なのだと思う。もちろん、ドラゴン討伐に向かう若いパーティ、いや、『火の賢者』を一目見ようという方もいるのだろうけども。
「イヨール様、こちらにおいででしたか」
洞窟の前に辿り着くと、入口に警備の者と一緒に『光の賢者』であるイヨール様がいた。今日は魔方陣から離れているようだ。そして、警備の様子は、前回とは異なり熊獣人ではなく、獅子獣人に代わっていた。
「警備の方は変更されたのですね」
「スピード重視ですね。今回は情報の伝達が大事です。何かあったらすぐに外へ連絡をできるようにしています」
「なるほど。ということは洞窟内にも一定の距離ごとに配置されているというこですか」
「ええ、その通りです」
「この者たちは王子を守る親衛隊じゃよ。公国でも屈指の部隊であるのじゃ。あまり変なことは考えん方が身のためじゃぞ」
さすが、『光の賢者』イヨール様。僕がこの屈指の部隊をすべて眠らせようとしていることはわからないでも、なんとなく嫌な予感はあるのかもしれない。
「みなさん、よろしくお願いいたします。無事に討伐できるよう頑張ります」
とりあえず、入口を警備している獣人さんまで眠らせる訳にはいかないので、無難な挨拶をしておく。人の良いイメージは挨拶からだよね! この後、洞窟内の部隊をすべからく眠らせていく人の挨拶には思えないだろう。そう考えると自分がなかなかに危ない性格の人に思えてくる。
そして、ここでセーブ1を上書きしておく。
「それでは、クロエさん、ハルトさん、魔法陣の場所まで行きましょう。イヨール様もお願いいたします」
リュカス王子が気を引き締めた表情で松明の灯る洞窟の先へと促した。とりあえず、ここからは僕は最後尾に回り、クロエとローランドさんに二人を巻き込みながら会話をしてもらう。
「アンフィスバエ寝てないかなー。イヨール様、今日のアンフィスバエナのご機嫌はいかがでしたか?」
「ふん、いつも通りじゃ。機嫌は最悪であろうな」
「間違って寝てくれていたら私の大剣で先制攻撃を加えられるんですけどね」
「獣人は真っ向勝負が美とされています。ローランドさんは寝ているドラゴンを倒すのを善しとされるのですか?」
「ドラゴン討伐は私も初めてですからね。命を大事に、そして可能な限りリスクは負いたくありませんよ」
「なるほど、その意見には私も賛成だな。求められているのは結果であって手段ではない。そうでしょうリュカス王子」
「確かにそうかもしれませんね。そ、それにしても洞窟の中なのか、声が響きますね。二人の声も少し大きくありませんか?」
「そうですか? 洞窟の中は声が響くから歌など歌うと気持ちがいいのだろう」
「そうですね。私の美声をベリル様に是非聞いてもらいたい。アンフィスバエナ討伐後はこの場所にベリル様を誘ってみようか」
「ローランドさん、残念ながら却下よ」
「ローランド殿は歌が上手なのですか?」
洞窟にいる獣人さんの配置だが、全部で5名。一定の距離を空けて待機していた。ちなみに、一番最後尾を進む僕が何事もなかったかのように深眠で眠らせながら進んでいる。二人に大きな声で会話を誘導してもらっている間に粛々と作業を進めていく。
奇跡的にバレていないようだ。そもそも、味方を眠らせる理由がわからないだろうし、そんな魔法があるなんて知らないから想像すらできないだろう。
そして、魔法陣のある最奥の場所まで、もう少しという所でリュカス王子が眠りについた。さすがにアンフィスバエナの見ている前でこの魔法を使用する訳にはいかない。
「な、何をした! お主らはやはり敵なのか!?」
「味方ですよ。これからちゃんと、アンフィスバエナを討伐しますし。大きな声は出さないでください。これから、僕たちの言う通りに動いてもらいます」
「言う通りに動かなければ?」
「リュカス王子が危険な目に合うことになりますね」
「ちっ……」
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