第百四十五話 戦略の練り直し6
初日はそれなりに調べものができた。一応、二日目は適当に時間を潰して過ごす予定だ。洞窟にも行く予定はない。
「ハルト、さすがに洞窟には行った方がよくないか?」
「といっても、もうやること無いしね。何度もアンフィスバエナと顔を合わせる方が嫌な感じがする」
「すでに昨日の夜、洞窟の天井に孔も開けておりますしね」
「ベリルも腕を突っ込んだよ」
昨晩、ローランドさんと魔方陣の頭上に孔を開けておいたのだ。ベリちゃんも覗いたり、手を突っ込んだりと問題はなさそうだ。
「うん、ベリちゃんも、ちゃんと場所を覚えたし、えらいね」
「うん! じゃあ今日は遊べるの?」
討伐の前日に僕らが遊んでいたらそれはそれでサフィーニアの人達から変な目で見られそうだよね。
「さすがに明日は討伐だから対外的に遊ぶわけにもなぁ……」
クロエがベリちゃんを手招きして呼び寄せると、ギュッと抱きしめて優しく諭すように話しかける。
「遊ぶのは討伐を終えてからよ。ベリちゃん、それまでは辛抱しようね」
「うん! わかったぁ」
とても良い返事だ。よくよく考えてみれば昨日も一日ジュリアと遊んでいたはずなんだよね。つまるところ、遊びたいのではなく僕やクロエと一緒にいたいのだと思う。うん、何て可愛い娘なのだろう。
「それからジュリア、孔を開けた洞窟の上までの秘密のルートなんだけど、本当に誰も知らないんだろうね?」
「一般の方は知りません。これは、王家のものが脱出するためのルートなので侍従の者でも限られた人にしか伝えられてません」
「そんな秘密のルートを僕たちに教えてしまうジュリアが大丈夫なのか不安になるよね」
「これは、サフィーニア公国の益にも繋がることでございます。私だって騙されっぱなしではないのです。陰ながら公国のため、アーリヤ様の為に働くのですよ」
影のMVPを狙うのはいいけど、後でバレて罰を受けないと祈る。ジュリアの心意気に免じて、こちらからバラすようなことはしないから安心してほしい。
朝食の後に、今日の予定を聞かれた僕たちは、明日の討伐準備をするので今日は洞窟へは行かないとリュカス王子に告げた。
「あ、あの、本当にもう調べることはないのですか? 昨日もこれといって、何か調べものをしているようには思えなかったのてすが……」
リュカス王子が心配するのもわかる。王子からしたら昨日の僕たちはイヨール様と少し会話して、魔方陣を眺めていただけにすぎない。
「予定通り、明日は討伐に向かいます。調べてないように見えて、ちゃんと調査は完了しているんですよ」
「そ、そうですか? アーリヤはどう思う?」
「うーん、何故か心配なさそうに思いますお兄様」
「本当か? しかし、アーリヤがそういうのなら信じるしかないか……。そ、それならば、我々は明日に向けて、洞窟周囲の警護と兵の準備を進めよう」
「リュカス王子、実は魔法陣のある洞窟奥の外周部には誰も近づけさせないようにお願いしたいのです」
「ハルトさん、それはなぜでしょう? 魔法陣の近くは、もしもの場合に備えて人員を多めに配置したいと思っておりました」
「普通に考えるとそうですよね。ただ、僕たちの討伐を考えるとかなり危険な場合が考えられます。魔法攻撃でしたらそこまで近くにいなくても大丈夫でしょう。どうでしょう、300メートルほど離れてはもらえませんか?」
「いや、しかしそれでは……」
ここで、静かに朝食をとっていたサフィーニア王が口を開いた。
「よい。リュカスよ、彼らの言う通りにしなさい。アーリヤ、何か付け足すことはあるか?」
「いえ、ありません。私たちはクロエさん達に願いを託すしかないのですから」
「リュカスよ、そういうことだ。彼らのやり易いように手伝うことが、いまの我々のできることだろう」
「か、かしこまりました」
サフィーニア王が話のわかる方で助かった。これで、討伐に向けての前準備は一通り完了したといっていい。残りは明日に向けて戦略の話し合いを詰めていこう。
「それでは、部屋で打ち合わせをしておりますね」
「うむ。何か必要な物があるようなら何でも言ってくれ。どんな物でも出来る範囲で用意しよう」
「はい、ありがとうございます」
サフィーニア王へお礼を言うと僕たちは自分達の部屋へと戻っていった。
◇◇◇◆◆
「父上、クロエさん達に何も聞かないでよろしかったのですか?」
「なんだ、洞窟への抜け道のことか?」
「それについては、後日改めてジュリアにもきつく灸を据えなければなりませんわね。それもですが、彼女らの討伐手段についてもです」
「隠したいことがあるのであろう。無理に聞いて嫌がられるのは悪手ではないか? それにリュカスがパーティにいるのだ。当日になればわかることだ」
「それもそうなのですが……」
「リュカスは何か気になることはあるか?」
「わ、私は、自分が戦力として見られていないことが悔しいのです。明日の討伐に関して戦略的な打ち合わせは一切ないのですから……」
「お前は間違いなく、サフィーニアでも五指に入る強者だ。おそらく、求めているのが強さではないのだろう」
「つ、強さ以外のものですか……」
「彼らの戦術を学ぶといい。きっと、リュカスにとっても勉強になることがあるだろう」
「は、はい、かしこまりました」
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