第百四十四話 戦略の練り直し5
嘘が吐けないとか、何気に困るんだけどな……。
「アーリヤ様は人の考えていることがわかってしまうのですか?」
「視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という五感があるだろう。『光の賢者』には、それに加えて理屈では説明しがたい第六感が備わっている」
あれ、『光の賢者』って、イヨール様だよね。どういうことだろう?
「クロエも賢者ならではの特殊なスキルとかないの?」
「『火の賢者』はパワー系でな。他の賢者と比べて魔法強度が高いといったところだろう」
ドヤ顔決めているクロエには悪いけど、『光の賢者』が第六感とか聞いちゃうと魔法強度ちょっと地味だな……。
「賢者によっても様々なんだね。ところで、『光の賢者』様ってイヨール様ではないのですか?」
「当代の『光の賢者』はイヨール様で間違いない。私はあくまでも『光の賢者』候補だ。しかしながらその潜在能力はサフィーニア歴代でも一番だと言われている。魔力量、そしてこの第六感が高レベルで使用できるのがその理由です」
「歴代で一番ですか……。そんな賢者候補を次の魔法陣の人柱にしようとしていたということですか?」
「お主もわかっているだろう。元々、父上が私を人柱にするつもりはないのです。少なくともニーズヘッグを討伐した賢者と話をして打開策を得たいと思う程度にはな。まぁ何というか、ジュリアを使って騙すような真似をしたことは申し訳ない。父に代わって謝らせてほしい」
「アーリヤ様、そ、それは本当でございますか!?」
ジュリアが驚いたように声を上げた。やはり、話は聞かされてなかったようだ。信頼されていないというより、ジュリアの猪突猛進な優しさを上手く利用したのだろう。
「我々もサフィーニア公国を利用しようと思ってこの地へ来ています。アーリヤ様だけが謝ることではありません。寧ろ同志として力を併せてこのピンチを乗り切りましょう」
「『火の賢者』様は優しいのだな。それにしても本当にアンフィスバエナを討伐できると考えているのは驚きだ。その手段を教えていただくことは出来ぬのだろうか」
『光の賢者』の第六感は、やはり勘に近いものらしい。理由はわからないがなんとなく正解を当てられるようなもの。つまり話している内容に嘘があるかどうかはなんとなくわかるが、それが何なのかはわからない。
「申し訳ございません。それは秘密なのです。一応、お断りをさせて頂きますが、討伐方法を話したからといって別の誰かがアンフィスバエナを倒せるわけではありません。このパーティでなければ倒すことは出来ないのです」
「なるほど、パーティですか……。討伐パーティにはお兄様も参加されることになっておりますがそれは構わないのですか? さらに言うと、当代の賢者もその場にはいるでしょう」
ジュリアと違って鋭いお姫様だ。長く会話をしているとボロが出そうで怖い。
「そういえばそうですね。それでは、討伐後にリュカス王子やイヨール様からどのようにアンフィスバエナを討伐したのか聞いてください。でも内緒にしてくださいね」
イヨール様は魔法陣を解除してもらったら防御上昇して深眠してしまえば、僕たちがどう討伐したかはわからないだろう。
「むぅ……。お兄様やイヨール様がその場にいてもわからぬというのか。ますます気になりますが、言えない理由もあるのでしょう。それでは、私はここで失礼させていただきます。ジュリアと話があるのでしょう」
「何だかすみません。でも、悪いようにはしませんし、どうにか討伐できるように頑張ってみます」
「討伐の予定は明後日だったな。よろしく頼む」
部屋を出ていくアーリヤ姫を見ながら、何気なく土下座の態勢を崩して普通に座り始めたジュリアを、何となくいじめたくなってしまうのは僕だけではないだろう。
「ベ、ベリちゃん、今は足触っちゃダメなのよ!? ちょっ、くすぐったいから!」
やはり、ジュリアの足はしびれていたようだ。そこをちゃんと見逃さなかったベリちゃんを褒めてあげたい。
さて、ではアリバイ工作をお願いしようか。
「ジュリア、君に秘密のお願いがあるんだけどいいかな?」
「秘密のお願いですか? エッチなことはダメですよ。クロエさんがいるんですから」
どうしよう、すごくムカついてきたんだけどこの気持ちはどう処理したらいいのだろう。
「ベリちゃん、ゴー!」
「ちょっ、まっ、あ、足はまだダメなのぉぉぉ!!!!」
「今からお願いすることがバレてしまったら、僕たちはアンフィスバエナを討伐しないことになる。だから、アーリヤ姫はもちろん、誰にも話をしてはいけないし、見つかってもいけない。ちゃんと約束できる?」
ジュリアにそこまでの期待はしていない。最悪バレてしまったらロードしてやり直すという手段もあるっちゃある。しかしながら、アンフィスバエナを討伐し直さなきゃならないという点から極力選択したくない。
「ま、任せてください!」
即答されると、とても不安になる。とはいっても他に頼る人がいないのも事実な訳で。あっ、ラシャド王子は明後日に備えて王都へ絶賛避難中だ。昨日すぐに戻っていったので頼りにすることは出来ない。そもそも、ベルシャザールはベルシャザールでサフィーニアを囲うように兵の準備をするのに忙しいだろう。
「ジュリアしか頼る人がいないんだ。ちなみに、バレそうになっても無理に隠そうとしないでいいよ。逆に怪しまれるから」
「はい。大船に乗った気持ちでお任せください」
とても不安だが今はジュリアを信じよう。他に方法がないし、諦めが必要な時だってある。
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