第百四十二話 戦略の練り直し3
帰り道にリュカス王子に洞窟の天井部を案内してもらうと、再びセーブ1にロードして同じことを繰り返した。これは、天井に孔を開けてることをサフィーニア公国側にも内緒にするためで、今夜か明日にでもバレないようにこの場所に戻って手のひらサイズの孔を開けておこうと思う。
「洞窟の天井に孔を開けに行くのは夜の方がよいでしょう。サフィーニア公国側でも警備を高めているはずです。私とハルト君で警備が手薄な夜間に向かいましょう」
「そうですね。それがいいでしょう」
「ハルト、その天井にはベリちゃんが控えるということだな」
「うん、そのつもり。アンフィスバエナは意外と用心深い。身隠しの粉を使っているベリちゃんなら匂いを隠せるから見つかりにくいと思うんだ」
「なるほど、考えられているのだな。それにしても、プリフィーソウルを避けてしまうとはニーズヘッグが如何に頭が弱かったかがわかるな」
「あの時は、僕も勝てるとは思ってなかったから悲壮感漂ってたと思うし、相手にされてなかったからこそ隙をつけたんだと思う。今回のアンフィスバエナ戦も隙をついて考えさせる前に消し去りたい」
「うむ、そうだな。ここで躓いているようでは、次のリントヴルムにも苦戦してしまいそうだ。とにかく油断をさせて一気に仕留めよう」
「うん、そこなんだけど二人とも妙な余裕が行動や動きに出てしまっていてね。アンフィスバエナが変に勘繰りを入れていたんだよね。セーブとロードがあるからという安心感が妙な違和感に繋がってしまったようなんだ」
「なるほど、そんなことがあったのだな。そこは注意して直さないとならないな」
「ハルト君的には何か策は浮かんでいるのですか?」
「うーん、そうですね。アンフィスバエナは氷と呼ばれる個体と炎と呼ばれる個体に分かれているのですけど、氷の方が冷静で思慮深く行動するのに対して、炎の方は猪突猛進というか、食欲と殺戮しか頭にない」
「見事に両極端なのだな。それで一つの行動をとれるというのが不思議でならんな」
「基本的には、氷の方が行動を決めているように思えたんだ。だから深眠で氷だけが眠った時はより凶暴性が増すような気がしたんだけど、そこにチャンスがあるような気がするんだよね」
「何故、氷の方が眠ったのだろうな」
「クロエさん、ひょっとしたら精神的なものに作用する魔法だから、よく脳を使っている方が影響を受けたとか?」
ローランドさんの言うことがごもっともな気もするけれど、必ずしも氷が眠るとは考えづらいので作戦に組み込んでいいのか悩むところだ。
「ハルト、氷を眠らせるのは私も賛成だ。なるべく考えさせないほうが都合がいい。炎が寝てしまったならロードしてやり直してもいいだろう。あとは、逆に氷と話し合いに持ち込んで隙をつくパターンを考えておくのもありかもしれないぞ」
「なるほどね。油断させて、なるべく警戒させないように、そして考えさせずに仕留めることが重要だね」
「炎の行動はある程度読めそうか?」
「そうだね、炎だけで行動させるとイヨール様が先に攻撃を受ける。さっきは、僕が防御上昇を掛けたことで何とか生きていた。その後は、僕に向かって食べられそうになったところでロードしたんだよね」
「恨みを持っている『光の賢者』様を先に狙い、次に怪しい魔法を使うハルト君を攻撃したということですか。猪突猛進ながら理にかなった行動をしますね。本能的なものなのかもしれませんが」
「その順番で攻撃してくる可能性が高いなら、罠を張っておくことも可能だな」
無防備のイヨール様が生きていたのだから僕の防御上昇は一度は攻撃を防げると考えてもいい。それならローランドさんに防御に徹してもらえば僕とベリちゃんが魔法を撃つ隙を作れるかもしれない。クロエには派手な魔法で目を逸らしてもらえば更に確率が高まるはずだ。
「うん。なんとなく頭の中で整理がつきそうだよ。あとは状況に合わせて何パターンか考えておくことにして、今夜はジュリアを説得しようか」
「ベリちゃんのアリバイ工作に協力させるのだな」
「そうそう。一応作戦の肝でもあるからね。ベリちゃんの戦力が隠し玉ということはバレてはいけないからね」
ちなみに、ベリちゃんは作戦会議のためジュリアに預けておいた。今では安心してベリちゃんを預けておける優秀な侍従さんだ。いろいろと問題のある頭の弱い子ではあるが、ベリちゃんとの相性の良さ一点においてのみだが、我が家に欲しい人材ではある。貴族の令嬢なので引き抜きは難しいとは思うし、そこまでして欲しい人材ではないので所望したりはしないけど。
「では、私がベリル様とジュリアを呼んできましょう」
「あっ、すみませんがよろしくお願いします」
「そういえばハルトは、どのようにしてジュリアを説得するつもりなのだ?」
「説得ね。いや、まあジュリアだし何とでもなるんじゃないかな」
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