第百四十一話 戦略の練り直し2
このスピードを見る限り、普通に攻撃しても魔法は当たらなそうだ。魂浄化の霧は猛吹雪でかわされた。深眠は片方しか寝かせることができない。突破口というか、可能性としては一応は話し合いに乗ってきたところぐらいしか浮かばない。
「これで魔法陣が簡単に造れなくなった訳だと思うのだが、賢者が死んだというのに全く焦りを感じさせないのは一体どういうことだ?」
「怖くて動けねぇだけじゃねーか」
「次代の賢者が魔法陣を造るまであなた方を継続的に眠らせてしまえばいいだけだからな。イヨール様が亡くなったことは悲しいことだが、いくらでも仕切り直せる。そもそも、そちらの意志が共生を望んでいないようなので討伐する方向になりそうなのだが」
「おい氷、この小娘本気で俺たちを殺せると思っているぞ」
「炎、どうやらそのようだな。他にも隠していることがありそうだ。油断するなよ」
どうやら僕たちを警戒しながら倒していくという流れは変わらないようだ。こうなると、もうできる実験は限られてきそうだ。
魂浄化!
「なんだぁ? それは攻撃魔法か?」
「炎、避けろ!」
避けられた魂浄化は壁にあたって霧散していった。やはり、ここまで警戒レベルが上がってしまうと簡単に受けてもらえそうにない。
「おい、今のは何の魔法だ! 言え!」
「言う訳ないでしょ。でも一回ぐらいあたっても何てことない魔法だよ」
「今の魔法は嫌な感じがした。あれは絶対に受けてはならない魔法だ。炎、賢者の小娘よりもそっちの小僧の魔法に注意しろ。そうだな、最初に賢者の小娘、次に鎧の男の順に殺していくか」
僕がここまで警戒されてしまうと、もう実験も何もできない。ここはあきらめてロードしよう。
アンフィスバエナがクロエに向かって炎の魔法を放った瞬間に僕はまたロードした。
次にロードしたのはセーブ1だ。
頭が揺れるような感覚の後、目を開けると封印の洞窟の前でリュカス王子が説明をしているところだった。
「アンフィスバエナは用心深く、常にこちらの隙を突こうとしています。最近は魔方陣の効果が弱まってきていることもわかっているのでしょう。生贄を捧げる儀式が近いことも感じているはずです。必ず片方の頭は眼を覚ましています」
「今回は両方とも目を覚ましていそうな予感がしますね」
「ええ、そんな時もあるでしょう」
僕はクロエとローランドさんに三回目のサインを手で送る。
二人とも少し驚きながらも了解の意を示す。
実のところ、討伐可能であるならやってしまおうと思って作戦を練っていた。理想をいうなら一回目の魂浄化による大量の白い靄であっさり討伐したかったし、それが難しくても深眠で眠らせてから魂浄化すれば意外と簡単にいけるのではと思っていたのだ。
「この先に『光の賢者』イヨール様がいらっしゃいます。ちなみに調査はどのように行われるおつもりですか?」
「今日は、イヨール様に魔法陣のことについて説明していただくのと、実際にアンフィスバエナを見るだけで十分です」
洞窟の奥へと進んでいくと、椅子に腰掛けたイヨール様が見えてくる。
「そうですか。ではご紹介しますね、あちらにいらっしゃるのが『光の賢者』イヨール様です」
本日だけで二回もアンフィスバエナに食べられてしまっている熊獣人のイヨール様。アンフィスバエナからしてみれば一番憎くて堪らないのが『光の賢者』なのだろう。毎回、一番最初に狙われる。魔方陣の管理をしているのだから当たり前といえば当たり前か。そりゃ、イヨール様も脅さないと魔方陣を解除してくれないよね。
「イヨール様、『火の賢者』様のパーティをお連れ致しました」
「貴女が『火の賢者』クロエか……。このアンフィスバエナの姿を見ても討伐できるとお思いか?」
木の椅子に腰掛け、不健康そうな顔は相変わらずだ。これを死相というのだろう。みんなも気をつけた方がいい。この顔の人はすぐにドラゴンに食べられてしまうはずだ。
魔法陣を見ると、相変わらず中央にはこちらに睨みを利かせているアンフィスバエナが鎮座している。口パクで悪口でも言いたくなるが、優先的に殺されかねないので止めておこう。僕の顔にも死相が浮かんでしまいそうだからね。
一通り、イヨール様から魔法陣についての説明をしてもらい、アンフィスバエナについての情報も再度適当に聞き流しながら改めて洞窟内を見渡してみる。アンフィスバエナは前掛かりに突進してくるので、魔法陣のある中心部の天井は死角になりやすい。狙いどころはそのあたりになるかな。
「リュカス王子、討伐にあたり魔法陣のある天井部に小さな孔を開けたいと思っているのですが許可頂けますでしょうか?」
「孔ですか……それは何か理由があるのですか?」
「討伐するのに必要な魔法攻撃を頭上から見つからないように行うつもりです。もしもの場合に備えてのものですけどね。もちろん正攻法で倒すつもりですが、何事もイレギュラーケースはつきものです。万一に備えておきたいのです」
「そういうことでしたら、後ほど場所をご案内しますね。大きな孔ではないですよね?」
「はい、子供の手のひらサイズぐらいの大きさで十分です」
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