第十四話 街へ行こう
それから僕はクロエと一緒にリンカスターという街がある場所へと歩き始めた。この世界は王都を中心として囲うようにして8つの地域に分かれており、リンカスターはクロエが賢者をしている街だ。
「褒賞ってどのくらいのお金を貰えるの? 一生遊んで暮らせそう?」
「全く……ハルトは働く気がないのか? 本当に貴族ではないのだろうな? それにしても褒賞であるか……どうであろうな。ドラゴンを倒したり、消し去った賢者というのは史実でも聞いたことがない。ひょっとしたらリンカスターは大都市に変貌するかもしれん。そう考えると……」
「そう考えると?」
「少しは期待出来るかも知れんな」
「おぉー。家から出なくてもいいんだね」
「それではまるで私と一緒ではないか」
「あっ、なんかごめん」
「あ、謝られても困る」
「ところで何でリンカスターが大都市になるかもしれないの?」
「ドラゴンの影響を受けない街になるからだ。民も賢者のために無理な協力をせずに済むのだからこぞって人が集まるであろう」
「な、なるほど。確かにそうだね」
クロエと話をしながら歩いていく方角は予想通りというか、僕の判断は正しかったようで川沿いを下っていった。更に進んでいくと草原の広がる先に大きな街が見えてくる。見えたといっても大きな壁に囲まれた外壁の部分が見えてるだけなんだけどね。
ドラゴンがいた場所からリンカスターの街までは歩いて2時間程度とわりかし近かった。岩場の多かった川辺から草原のエリアに入ると魔物の数は一気に減って、ここでは小さな魔物が殆どとのこと。この辺りでゴブリンを集団で見掛けることは稀らしい。
ちなみにここまでゴブリンやフォレストウルフなどが襲い掛かってきたのだが、あっさりとクロエが片付けてしまった。さすが賢者様である。心強い味方がいることでとても安全な帰り道になりそうだ。
「街を中心にギルドの冒険者達が魔物狩りをしているからな。知能が少しでもある魔物なら草原エリアには近づいてこない」
「じゃあ街の中は安全なんだね」
「外郭沿いの外側南には街に入れない人達がスラム街を形成しておりテントを立てて生活している。街の中でも外側に関してはゴミ捨て場や焼却施設があるのだが、孤児や盗賊、犯罪者の巣窟になっている。残念ながら街の中が安全とはとても言いきれんな」
「そ、そうなんだね」
「むっ! 火球!」
草むらの陰から現れたホーンラビットをクロエがあっさり見つけては魔法で倒していく。魔物を見つけるのが異常に早い。この世界で生きてきた経験がものをいうのかもしれない。
地球生まれの平和な国で育った僕は草がガサゴソしてようやく気づく。一人だったら草むらからソッと自慢の角で狙ってくるホーンラビットの攻撃はとても避けられないだろう。
今のところ僕が役に立っているのはウサギ肉と角を分けて皮の袋に詰めて運ぶことぐらいだ。
ちなみに、毛皮もそれなりに価値があるとのことだけどクロエの攻撃魔法は火属性に特化しているため残念ながら商品価値が無くなってしまうというか毛皮は丸焦げになってしまっている。
「クロエはやっぱり街で一番強いの?」
「そんなことはない。私は賢者とはいえ初級賢者、まだまだ未熟者なのだ。私より強い戦士や魔法使いは何人かいるぞ」
「えー、なんでその人達は今回ドラゴンの説得に来てくれなかったの?」
「ギルドの大型クエストが隣街のハープナから出ていてな。強い者達はみなそちらへ遠征に出ていたのだ」
「それはついてなかったね」
「いや、あの者達がいてもニーズヘッグを抑えることなんて出来なかっただろう。逆に犠牲者が増えなくてよかったと思っている。それにハルトに会うことができたのだから寧ろ幸運だったと言うべきじゃないか」
「なるほど。僕もクロエと会えてよかったよ。あの森に一人でいたらと思うと、ちょっとゾッとするからね」
「うむ。マウオラ大森林にレベル5では無謀にも程がある。なんで生きていられたのか不思議でならない。よっぽど運が良かったのだろうな。ハルトは隙が多すぎるし、またどこか楽観的な考えがあるように思える。もっと人を疑うぐらいが丁度いいかもしれぬ。街に入ったら気をつけるのだぞ」
そりゃ平和な国でぬくぬくと育ちましたからね。外出する時に武器とか持たないし魔法ぶっぱなさないもの。
あとは『冒険の書』があるから心にゆとりを持てているのだろうけど。
「うん。この世界に慣れるまでは気をつけるよ。それまではクロエを頼らせてもらうね」
「う、うむ。ただな、私も街ではイレギュラーな存在であるからして、どちらかというと私の方がハルトに手助けしてもらわなければならない時が多いかもしれん。そ、その時は頼んでもよいか?」
「もちろんだよ」
そろそろ街が大分近づいてきたようで大きな門がある場所へと向かって進んでいく。クロエ曰く、西側にある門でそのまま西門というそうだ。反対側に東門もあり出入口はこの二ヵ所だけなのだという。
「僕って中に入れてもらえるの?」
「私を誰だと思っているのだ。嫌われてはいるが賢者なのだぞ。任せておけ」
クロエの自虐ネタが華麗に決まった時に僕たちは門番の前にたどり着いた。
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