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第百三十七話 サフィーニア王

 到着した場所は自然の中に突如として現れた建物だった。街や城としての概念自体が薄いのだと思う。一般的な街の造りとは明らかに違っていた。住みやすさ便利さというものより、別のものを優先しているように感じられた。


「さあ、案内しましょう。ここが父がいる建物になります」


「何というか、建物というよりも自然の一部に近いのだな……」


「うん、何だか凄いね……。どこから建物なのかわからないや」


 クロエの言う通り、木々や蔦に覆われていて外観はここに住居があるようにはとても見えない。そもそも入口が何処にあるのかもわからないのだから。アーリヤ姫とジュリアが先導するように蔦に覆われた一部分を捲るようにして入っていく。


「あの蔦が入り口だったのだな」

「なんか面白そー!」


 いつの間にかラシャド王子に肩車されているベリちゃんがチリチリの髪の毛を操縦するように蔦の入り口へと進ませる。王子、すみません。本当にすみません。


「よーし、ベリルちゃん、落ちないように気をつけるのだよ」


「あ、あの、ラシャド王子、申し訳ございません」


「ハルト殿、気にしなくてよい。ベリルちゃんと一緒にいると昔に妹たちと遊んでいたころを思い出してな。さすがにベルシャザールでこの姿を見られる訳にはいかないが、サフィーニア公国でなら問題ないであろう。では、先に行っているぞ」


 ローランドさんがとても恨めしそうに二人を見ながらついて行っている。不憫だが、ベリちゃんには触れてもらいたくない。


「あ、あれ、大丈夫だと思う?」

「心配なのか? ラシャド王子がいいと言っているのだから問題あるまい」


 隣国なら確かに影響は少ないかもしれない。あとあと面倒ごとになってベリちゃんやラシャド王子に何かあったら大変だけど……まぁ本人が問題ないというのだから大丈夫か。幼生体の頃の超人見知り時代を知る僕からすると何とも感慨深いものがある。子供の成長はとても早いのかもしれない。


「ハルト、何をしている。私たちも早く中に入ろう」

「あ、うん。ちょっと待って」


 蔦で覆われたグリーンのカーテンを捲って入ると、室内は近代的というかしっかりと造られていた。石畳で通路が造られており、天井も高く調度品なども質の高さが窺える。何なら室内の方が少し涼しく感じるし、よく見たら水も引かれていた。


「すごいね。外観からは想像できない室内だ」


「あぁ、びっくりしたな。ハルト、部屋の中に水が引いてあるなんて驚きだな」


「水回りがしっかりしているのは衛生的な暮らしができている証拠だよね。何より便利だからリンカスターでも真似をしたいところだね」


 しばらく進んでいくと大きな部屋に辿り着いた。どうやらここが来客と話をする場所なのだろう。ラタンで造られたような編み込まれたソファーとテーブルがあって、サフィーニア王、そしてアーリヤ姫が並ぶようにして一番奥に座っていた。右側にはラシャド王子がいたので僕たちは左側の空いている場所に座ることにした。


 獅子の姿をした獣人、それがサフィーニア王の姿だった。


「揃ったようですね。それでは、まずラシャド王子に改めてお詫びを申し上げます。歴代の王が秘密にしてきたこととはいえ、お恥ずかしい限りです」

 

「出来ることならベルシャザールに相談してもらいたかったところですが、長年続いてきた秘密を告白するというのも難しいことであると理解しております」


「そういって頂けると助かります。そちらが『火の賢者』様でしょうか? もしも本当にアンフィスバエナを討伐できるというのなら生涯の感謝と望まれる褒美を叶えたいと思う」


「調査をしないことには、はっきりとしたことは言えませんが、期待に応えられるよう努力いたします」


「うむ、それからそなたらのパーティに加わる者を紹介しよう。入りなさい、リュカス」


 扉からはサフィーニア王と同じ獅子獣人の青年が入ってきた。


「お、お兄様! お兄様がパーティに……」


 アーリヤ姫が驚いたようにリュカスと呼ばれた獅子獣人を見ている。お兄様……か。


「第一王子のリュカスと申します。アンフィスバエナ討伐にあたりパーティメンバーとして同行させていただくことになりました。よろしくお願いします」


「第一王子ですか……」


「リュカスはサフィーニア公国でも指折りの剣士であり、スピードでは肩を並べる者はいません。この討伐が失敗したら我が一族は王家から追放される。一族としてもやるからには命をかけなければならないのですよ」


「失敗したら他の一族が王になるということですか」


「王の座を狙う種族は多いです。撤退されるというなら、残念ですがアーリヤの命は諦めます。しかし、討伐を決心されるというのなら我が一族は心を決めます」


 サフィーニア王は本気のようだ。討伐の可能性があるのなら勝負したいということだろう。自分の娘の命で得られる安住などいらない。隣国に生贄のことが知られた以上、堂々と国を動かしてことに当たるということ……つまり?


 ジュリアの顔を見るとポカンとした表情をしている。次いでサフィーニア王を見ると、ニヤついている。


 まさかとは思うが、サフィーニア王はこの展開を狙っていたのかもしれない。だとすると、ジュリアと組んでいた? それはないか。ジュリアに高度な演技とか求められないのは僕でもわかる。それならジュリアの気持ちを利用してわざと逃がした可能性の方が高いか。


 まあ、どちらでもいい。僕たちも利用させてもらうことに変わりはないのだから。

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