第百三十四話 それぞれの思惑
アーリヤ姫が質問したのはクロエにだった。至極当たり前とも思える質問内容だけに返答には困ってしまったのだけども。
「クロエ様はまだレベルが三十代半ばと伺っております。正直なところ、貴女がアンフィスバエナを確実に倒せるとは到底思えないのです。上級職が一人追加になったとしてもそれは変わりません」
「おっしゃられることはよくわかります」
「一度アンフィスバエナを解放してしまったらもう後には戻れません。もしクロエ様が討伐出来なかった場合、サフィーニア公国は滅亡してしまうでしょう。それだけではありません。他のドラゴンがいないエリアにおいてはアンフィスバエナの脅威が及ぶこととなります。このベルシャザールもその影響下となる可能性があるのです。確実に倒せると思えない限り、我々は人柱の道を選択致します」
自らが人柱の候補となっているにもかかわらず、言葉に迷いがない。流石は王家の一員といったところだろう。
「そのあたりは私も気になっているところなのですよね。ニーズヘッグに関しては、弱っているところを討伐したとのことであったが、他のドラゴンについても討伐することが可能なのでしょうか。そのあたりはどうなのかなクロエさん」
「結論から言えば討伐は可能です。詳細については秘密とさせて頂きたいのですが、我々はドラゴンを倒す手段をもっています。もちろんその手段が確実という訳ではないので、実際に討伐をする前にサフィーニア公国で持っている情報や実際にアンフィスバエナを見てからの判断となります。調査を進めることで討伐可能かの判断もできると考えています」
「判断の結果、難しいとなった場合は?」
「その時は残念ながら魔法陣による封印を継続するしかないでしょう」
「そうですか……。まだあなた達を信用している訳ではありませんが、こちらで把握している情報については全て開示しましょう。もちろん、アンフィスバエナを実際に確認することも許可します。但し、一つ条件をつけます。討伐には我が公国の戦士をパーティメンバーとして加えてもらいますがよろしいですか?」
「はい、もちろん構いません」
クロエ的には眠らせればいいのよ。って感じの悪い顔をしていたので、どうやら僕の魔法がはじめて悪いことに使われそうだ。
「それから、ベルシャザール王につきましては討伐に踏み切る場合、公国を囲うようにしてアンフィスバエナ包囲網の準備願います」
「ええ、もちろんです。動員できる全ての兵力を周辺に集めましょう。サフィーニア公国はどのような動きになりますか?」
「サフィーニア公国は洞窟周辺に全ての兵を集結させます。またこちらで失敗を把握した場合は、洞窟ごと魔法攻撃で破壊します。これは例え洞窟内に生存者がいたとしてもです。そして、難しいかもしれませんが再度魔法陣を展開して封印するための動きをとることとなるでしょう」
失敗したら生き埋めになるようだ。きっと加わるパーティメンバーが何かしらの手段で情報を洞窟の外に知らせるのだろう。まぁ失敗するということはないからそこは問題ない。
というか、討伐できない場合はそもそもチャレンジしないし、討伐可能な場合は成功するわけなのだからね。気になるとしたらサフィーニア公国が裏切るケースだろうけど、これもセーブ&ロードで回避可能だ。
「アーリヤ姫、再度封印できる確率は高いのでしょうか?」
「魔法陣の中心に再びアンフィスバエナを入れることができれば可能です。しかしながらアンフィスバエナも魔法陣には最大の注意を払うでしょう。正直言って難しいと言わざるを得ません。少しでも時間を稼いで罠にはめるよう努力はしますが……」
「つまり、人柱としてアーリヤ姫の命もということですね……。ふむ。まずは『火の賢者』パーティを信じましょうか。何より人柱という儀式を継続させる訳にはいきません。何とかこの困難を乗り越えましょう」
話がまとまりかけたところでラシャドママが近づいてきた。
「あなた、それから例の件ですけど……」
ラシャドママとラシャド王子が気まずそうにしてので、おそらく例の件であろう。
「うむ、そうであったな。クロエさん、少し早い話ではあるのだがアンフィスバエナを無事討伐した暁にはノースポリアのリントヴルム討伐に動いてもらいたい。条件はそうですね、移動制限の解除でいかがであろうか。ハルトさんが元の世界に戻るための手伝いも一緒にできるでしょう」
「僕が異世界の旅人であるとわかっていたのですね」
「もちろん、ラシャドからの報告が入った時点でいろいろと調べさせてもらいました。この短期間での活躍は見事としかいいようがありませんね。ベルナールの口が重いのも理解できました」
「その条件、お引き受けします」
「クロエ……」
「迷うようなことでもあるまい。寧ろ私たちにとって都合の良い話ではないか」
「ドラゴン討伐だよ?」
「我々なら問題ないだろう」
「……何とも心強い発言ですね。ニーズヘッグに続いてアンフィスバエナ、リントヴルムまで倒すつもりか」
アーリヤ姫が胡散臭げに此方を見ている。もちろん、そんな簡単なことではないのは知っている。やりようによっては何度も死ぬかもしれないんだしね。
サフィーニア公国は隣国には内緒に生贄を使いドラゴンを魔法陣でおさえていたという引け目がある。
ベルシャザール王家は賢者の血を欲っしている。
そして僕たちは自由に旅をして回りたい。元の世界に帰れる方法があるのなら、知っておこうぐらいの感覚にはなってきているけど、その為の足枷は外しておきたい。
結果として、ドラゴンを倒せば解決する流れに巻き込まれてしまったような、自ら巻き込まれたような……。
ふと目線をずらすと扉の入口で、ずーっと綺麗な土下座をしているジュリアとその背中で楽しそうにはしゃいでいるベリちゃんがいて。それを見ていたらどうでもよくなってきた。うん、夕食食べるか。
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