第百三十三話 サフィーニア公国からの使者
「それで、ハルトは何か良い作戦を思いついたのか?」
「流石ハルトさんですね。その作戦で行きましょう!」
まだ僕は何も発言していないのだが、どうやら作戦は僕に丸投げになっているようだ。こういう退屈な話はベリちゃんは苦手なようなので作戦が決まってから説明することにしている。つまりこの場には三人で、ベリちゃんはジュリアの部屋へ遊びに行っている。
「とりあえずは一度アンフィスバエナを見てみたいと思うんだ。僕の魂浄化が効果のある邪悪なドラゴンなのか。次に、魔法陣から解放されてからの動き方も見てみたい。話ができるような状況なのか、すぐに攻撃されてしまうのか」
「魔法陣でずっと動きを押さえられていたのだ。話が通じるような状況とは思えないがな。ちなみに、万が一ハルトの魔法が効かない場合はどうするのだ?」
「魂浄化が効かないドラゴンの場合は撤退する。ジュリアには悪いけど、まともに戦って何とかなるなら封印なんてしてないと思うんだ」
「ハルト君、魔法陣についても情報がほしいですね。解放直後からアンフィスバエナはフルパワーで動けるのかとかですね」
「そうですね。そのあたりに関してはサフィーニア公国から情報を得たいところですが素直に教えてもらえるかが不安ではありますね」
サフィーニア公国としては、人柱の歴史がバレてしまったので、こちらの行動に積極的に賛同するとも考えづらい。
「洞窟の前でセーブをする。そこから何回かロードをしながら情報を集めることにする。これは規定路線でいいね。それから討伐メンバーにベリちゃんを連れていきたいから、上手く説明する必要があるかな」
「それなら任せろハルト」
「クロエ、家族だからの一本調子では後々疑われかねないからね」
「ダ、ダメなのか……。それなら大きなバッグに入れて連れていこう」
「うーん、普通に連れていくのは大変そうだよね。ジュリアを使ってアリバイ工作でも考えようかな……」
「シッ! ハルト君、誰か来たようだ」
コンコン
「失礼いたします。夕食の準備が整いましたのでお知らせに参りました」
侍従の方か。続きはまた夕食の後にすることにしよう。
「はい。すぐに向かいますので、ご案内お願いできますか?」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
お城というのは城内の様子がわからないように階段や廊下が記憶出来ないよう複雑に配置されていると聞いたことがある。しかしながら僕たちが案内されたのは城の入口近くにある迎賓用の棟らしく、同じく食事の場所もその横にあり、王様と王女様そしてラシャド王子が訪れるとのこと。
「こちらでございます。どうぞお入りください」
開けられた扉を入ると、おそらく一番奥にベルシャザール王と女王様、中央にラシャド王子と知らない獣人の女性がいた。
「ア、アーリヤ様」
ジュリアがそう呼ぶのはラシャド王子の側にいた獣人の女性。つまり、第一王女で生贄予定のアーリヤ様ということらしい。ジュリアと同じ猫獣人の王女様だ。
「ジュリア、貴女に話したいことはたくさんあります。しかし、私のために行動をしたこと一点においてはお礼を言わせて頂きましょう」
「も、申し訳ございません」
「それから、皆様におかれましては、ジュリアが面倒をお掛けしまして大変失礼致しました。私はサフィーニア公国の王女アーリヤと申します。この度は、ベルシャザールへの使者として参りました」
壁際には見たことのある三人組の熊さんが立っている。どうやら本物の王女様で間違いないらしい。
「ジュリアのことでしたら、ベリちゃんの面倒を見てもらってるし、家の掃除もしてもらったりとこちらも助かってますよ」
「ジュリアいい子にしてたから、あんまりいじめないでね」
「あなたがベリルちゃんですね。とても可愛らしいお子様ですね。あなたに免じて少しだけ怒りを静めましょう」
「さて、私もご挨拶をさせてもらおうか。クロエさんは先日ぶりですね。ローランドさんもお久し振りですな。そちらがハルトさん、ベリルちゃん、そしてジュリアさんですね」
ベルシャザール王がかなりフレンドリーに挨拶をしてきた。まだ見た目にも若々しく二十代に見えないこともない。
「ローランドさんも面識があったのですね」
「ええ、私は以前王都の武闘大会で優勝してますのでね」
なるほど、優勝したら王様から褒美的なものが渡されそうだもんね。忘れていたけどローランドさんって実は凄い人なんだよね。時々そんなことを忘れてしまうぐらいダメな所もある人だけども。
「それでアーリヤ姫につきましては、サフィーニア公国からの使者としてこちらに来てもらっている。食事をとりながら親交を深めたいと思っているのですよ」
「サフィーニア公国として、隣国への隠し事についてのお詫びと、今後の話し合いをするために参りました」
「実は、アーリヤ姫から提案があるそうなのです。もう一度先程の話を聞かせてもらえるかな?」
アーリヤ姫は少し俯きながら口を開いた。
「『火の賢者』クロエ様にお聞きしたいことがごさいます」
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