第十三話 クロエの告白
「ハルトになら話してもいいかもしれないな」
若干の溜めがあったけど、どうやら話をしてくれるらしい。お互いに秘密の話を共有すれば何となく結束するというか仲良くなるものだ。
「なら先ずは仮面をとろうよ。せっかく可愛らしい顔をしているんだから勿体ないじゃないか。今は戦闘もしてないんだからさ」
「か、可愛らしい!? わ、わ、私がか? い、いや仮面はだな戦闘とか関係なくてだな……いや、ハルトには関係ないのか。……くっ、わかった」
恥ずかしそうに仮面をとるクロエはやはり可愛らしい顔をしている。シルバーの髪がサラッサラに輝いていて目鼻立ちも良い。もう少し女の子らしい口調で話していたら男の子もほっとかないのではないだろうか。
「クロエの年齢はいくつなの?」
「16歳だ」
「あー、やっぱ若いね」
「そなたも、いや、ハルトも同じ位ではないのか?」
あっ、そういえば僕若返ってるんだったね。どうしよう。前の世界では27歳だったとか言ってもちょっとややこしいか。
「いや、うん。僕も16歳だからクロエと同じだよ」
「そうか。ハルトの世界の16歳というのは随分と落ち着いて会話するのだな。精神年齢が高いというか……。いや、精神年齢が高かったらニーズヘッグに突っ込んだりはしないか」
悪かったね。行き当たりばったりでドラゴンに喧嘩売ってしまって。我ながら『冒険の書』があるからとはいえ、またしても死ぬところだった。
「僕から見たらクロエも大人っぽい話し方をするように思えるけどね」
「うむ。そうかもしれないな。私は賢者であるがゆえ、生き方も話し方も普通の者とは変わらざるをえなかった」
「クロエは何で賢者になったの?」
「賢者というのは特殊でな、生まれながらの職業なのだよ。正式には先代が引退した時に賢者候補から賢者となる」
「先代が引退してクロエが賢者になったってこと?」
「そうだ。正確には先代は引退ではなく死去したのだがな」
「それはまぁ、こんな世界だから例え賢者でも死ぬことがあるということかな。クロエも死にそうだったし」
「わ、私は引き継いだばかりなので別だ。け、賢者は成長すればドラゴンと同等以上の力を持つようになる。そう簡単に死ぬはずがない。おそらく、先代は何か罠に嵌められたのであろう……と思う」
「そんなにも強い賢者を誰が何のために……?」
「そ、それはわからない。だが、賢者という職業は人の死の上に成り立っている。なんと説明したら良いものか……。賢者とて最初から強いわけではない。最初の頃はパーティーを組んで戦っては弱らせた魔物の命を断つのが賢者。パーティーの仲間が殺られても一番に逃がされるのも賢者。賢者を助けるために亡くなった者は数えきれない。この世界で一番恨まれているのが賢者という職業なのだ」
「なぜそこまでして……」
「ドラゴンの監視役だ。この世界アストラルには8体のドラゴンと同じ数の監視役の賢者がいるのだ。全部のドラゴンが攻撃的なわけではないのだが、獰猛なタイプも少なくない」
「つまり、この世界にとってドラゴンを抑えられる賢者は早く育てなければならないということ?」
「その通りだ。しかしながら私の場合は先代の急死により賢者として育ちきる前にデビューすることになってしまった。そのため、急ぎ経験を積まなければならず民衆からの評判は最悪なのだよ。家族が、仲間が、私の無理なレベルアップのために死んでいくのだ。私が仮面をしているのは素顔や表情を隠すためなのだ」
「ならもう解放されるんじゃない? 深淵のドラゴンとやらはもう消えちゃってる訳だし」
「このようなケースは初めてなので少々戸惑っている。戻って領主様にこの事をお伝えしなければなるまい。もちろん私自身の今後についても相談が必要だろう」
「それもそうだね」
「それとハルトのことなのだが、領主様にどこまで話すべきなのか私には判断が出来ぬ。ハルトはどうしたい?」
「僕は元の世界に戻る方法を探りながらこの世界で可能な限り安全に暮らしていきたいと思っている。だからあまり目立つようなことは避けたいんだ。出来ればドラゴンを倒したのはクロエということにしてもらえないかな?」
「ドラゴンスレイヤーは英雄だぞ。目立ちはするが褒賞もかなりのものが与えられるはずだ。それでもよいのか?」
「全然構わないよ。その代わりといっては何だけど僕がある程度生活に困らない程度のフォローというか手助けをクロエにお願いしたいのだけど、どうかな?」
「それは勿論構わないのだが、私が近くにいるとハルトもその……嫌な思いをするかもしれぬぞ。それにだな、そもそも私が一人でニーズヘッグを倒せる訳がないのだから、少し苦しい言い訳が必要になる」
「まぁ、きっとなんとかなるよ。この邂逅はちょっとした運命なのかもしれない。僕のいた世界では『一期一会』という言葉があってね。初めて会った人との大切な出会いを大事に思うという意味なんだ。僕たちは初めて会ったにも拘わらず互いを助け合いドラゴンを消し去ることが出来た。それにお互いの秘密も語りあった仲間だ。嫌な思い? そんなこと気にしないよ」
「ハルトは貴族の生まれなのか? 16歳とはとても思えない博識だな。『一期一会』か。とてもいい言葉だ……。その言葉私も心に刻もう」
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