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第百二十九話 定期船

 たくさんのお土産を手にラシャド王子は上機嫌で乗船している。海鮮バーベキュー接待はとても喜んでもらえたようで、手には干物を持ち身を千切っては口に放り込んでいる。


「ママぁ、ロカと船の中を探検してきてもいい?」


「いいけど、船員さんの邪魔をしないようにするのよ」


「うん、わかったぁ! ロカ行くよ」


 行くよと言われたロカは、バーベキュー会場でもらった生魚をボリボリ食べていたのだが、名残惜しそうに魚を見つめると端っこに隠すように置き、ベリちゃんの後を追うようについて行った。野良猫の食欲に勝るベリちゃんの指令に驚きを隠せない。ロカ用の食事を後で追加しておいてあげよう。


「クロエはどうする? 船内で休んでる?」


「私は海が見たい。先日王都へ行った時は船内にずっといたから景色をちゃんと見てなかったのだ。ハルトも一緒に行こう」


「う、うん」



 甲板に出ると心地よい風と一面の海が広がっている。天気も良く、波も穏やかなので船酔いすることも無いのではと思われる。空からはカモメが羽休めにやってきたり、波の間を楽しそうにイルカが泳いでいる。


 甲板ではローランドさんやギルドから雇われた冒険者が海上からの大型種の魔物襲撃に備えて物見をしている。ここにベリちゃんはいないようなので、どうやら船の中から探検しているようだ。


「冒険者だけで20人近くいるのかな?」


「通常だともう少し多いはずなのだが、調査団が乗っているからかもしれぬな。魔物が出てもすぐに対処できてしまうだろう」


「クロエ、海に出る大型種ってどんな魔物がいるの?」


「そうだな。聞いたところによると、巨大イカの『クラーケン』や、海の怪物『アスピドケロン』というのがいるらしい」


「へぇー。『クラーケン』はなんとなくイメージできるけど、『アスピドケロン』ていうのはどんな魔物なの?」


「確か、別名で蛇亀と呼ばれていてその大きさは定期船とほぼ同サイズだという。性格は穏やかだとの見解もあるようなので、見つけてもむやみに攻撃したり刺激することはないであろう。そもそも、大型種の出現はここしばらく目撃情報もないようだから大丈夫なはずだ」


 クジラとかの見間違いではないのかなとも思うけど、アストラルは魔物がいる世界なので油断はできない。


 現在、僕とクロエとベリちゃん、それからローランドさんはパーティ登録をしているので冒険の書からマップ機能を使えば敵意を持って近寄ってくる魔物の類は事前に判別できる。


「それにローランドさんが『冒険の書』でチェックしているみたいだから安心だね」


 甲板の先頭で左手を胸の位置に掲げながら明らかにマップを確認しているローランドさんが見える。周りの人からは『冒険の書』は見えていないので、上級職の人が優雅に瞑想しているかのようにしか見えない。


「さっき私もマップを確認してみたのだが、小さな赤印が船から逃げるように散っていっていた。おそらくマーマンであろう。この大きな船に仕掛けてくる魔物もそう多くはないのかもしれぬな」


「小型の舟だと団体さんで襲ってくるのにね」


「うむ、マーマンがもう少しレベルアップしやすい魔物であるなら良い狩場になるのだがな」


 この賢者の頭の中は、どうしても魔物やレベルアップについて考えることが多い。同じ年頃の女の子ならもっと服装や髪形、化粧とかが話題になりそうなものだけど。それだけ大変な思いをして生きてきたということなんだと思う。これからは僕もクロエの力になれるようもう少し成長したいところだ。


「お、おい! あ、あれは何だ!」


 急に甲板の上が騒がしくなる。冒険者の一人が何かを見つけたようだ。


「ま、まさか! アスピドケロン!!」

「アスピドケロンだと!」

「そんな馬鹿な! 大型種はここ最近出現していないって話だったじゃないか」

「船長に、船長に早く伝えろ! 近づけさせるな!」

「は、早く調査団に報告を!」


 まだかなり遠い。かなり遠いのに大きく見えるというのは相当な巨体であることがわかる。優雅にゆっくりと泳ぐ姿はまるでこちらを警戒していないかのように壮大に進んでいく。時折り潮を上空へ吹き出す姿はどこかクジラを想像させるが、背中には大きな甲羅を背負っており全長もかなりありそうだ。まさに蛇亀という名の通り。


「みなさん落ち着いてください。アスピドケロンに敵対の意志はありません。船長には近づきすぎないように距離を維持しながらこのまま進めるように伝えてください」


「そ、その話は本当なのか、ローランド殿!」


 調査団の一人がローランドさんに詰め寄るも、まるで問題ないとでもいうように落ち着いた素振りで説明していく。マップ機能でアスピドケロンの方向を確認しても大きめの緑色の印があるだけで、こちらを気にする様子もなさそうだ。なんならアスピドケロンの方が少しづつ離れていこうとしているようにも思える。


「大丈夫です。少なくともあのアスピドケロンからは敵意を感じません。このまま進んで大丈夫でしょう」


 やはり、海には大型種の魔物が存在する。海は豊かで多くの生命が存在するし、大型種にとっても食糧に困らない。また、その大きさを自由に動かせる懐の大きさがこの広大な大海にはある。

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