第百二十七話 出発
翌日にはアリエスとローランドさんが到着しており、予想通りというかアリエスがごねていた。
「なんで、私だけ留守番なのよ。ローランドだけズルいわ」
「何かあった時に形式的でも賢者がいる方が、言い訳というか、説明が楽なんだよ。僕としては、アリエスとローランドさんでアンフィスバエナ討伐をしてもらえるならそれで構わないんだけどさ」
「いやよ。私は旅行がしたいのであって、ドラゴン討伐をしたいなんて言ってないわ」
この賢者は自分の実力をわきまえているのは素晴らしいとは思うのだが、サフィーニア公国に行っても討伐に加わる気はないらしい。とはいっても、賢者が旅行したい気持ちはわからなくもないのでなんとなく強くは怒れない。
「まぁ今回は残念だけど、リンカスターで羽を伸ばしててよ。旅のお土産ぐらいは買ってくるからさ」
「しょうがないわね。スパイスと甘い食べ物を買ってきなさい」
「はい、はい。それで、ローランドさんはよろしいのですか?」
「もちろんだよ。ヴイーヴルから例の粉ももらってきていますから、私がベリルちゃんに塗ってあげましょう」
「ローランド、粉は私が塗るので早く寄越してもらえるか」
クロエがベリちゃんを背中に隠しながら『身隠しの粉』を要求している。
「ざ、残念ですね……。重点的に塗る場所をヴイーヴルから聞いております。後で教えるので最初だけは一緒にやりましょう」
「大丈夫よ。私も話を聞いているからクロエに教えるわ」
「うむ、アリエスよろしく頼む」
「さ、最初だけは……」
背中から強い哀愁を感じさせるパラディンだ。もう変態性を隠そうともしていないし、引き続き注意が必要なことはよくわかった。
ということで、サフィーニア公国へ向かうメンバーとしては、ラシャド王子と半数の調査団、僕とクロエにベリちゃん、そしてローランドとジュリアだ。さて、ベリちゃんの同行をどう説明したものか。
「メンバーは揃ったようであるな。ところで、そこの幼女もまさか連れていくのか?」
僕を遮るようにしてクロエが一歩前に出た。私に任せろということなのだろう。
「はい、家族なので!」
クロエがラシャド王子に強気な対応をしている。惚れた弱みで強引でもいけるものなのか……。
「ア、アンフィスバエナ討伐の旅であるぞ?」
「そうですね。でも家族ですから」
「家族であるか……」
話を聞いていたベリちゃんがラシャド王子に話があるようで近づいてきた。何かクロエと作戦でも立てていたのだろう。ここはもう少し様子を見てもいいかもしれない。
「チリチリ、一緒にいっちゃダメなの?」
「チ、チリチリとは私のことか?」
「うん! カッコいいよね。そのチリチリ」
あー、やはり任せちゃダメだったかもしれない……。少し考えればわかることだ。こういう役割は僕の方が向いている。
「そ、そうかぁ。カッコいいか! 雨が降るともっとチリチリになるのだぞ」
「ふぉー、も、もっと凄いの? あ、雨降るかな?」
「サフィーニア公国は今の時期スコールという雨が毎日降るらしいからな。あっという間にチリチリになるぞ」
「毎日チリチリなの!? すごーい!」
「はははっ、幼女は正直で可愛いものであるな。よかろう、クロエ殿の家族なら致し方あるまい。名前は何というのだ」
「ベリルはベリルだよ!」
「そうか、ベリルであるか。よろしく頼む」
口を挟む間もなく、同行オッケーとなってしまった。ベリちゃんの可愛らしさがさく裂してしまったようだ。
「殿下、私とローランド殿を交換するという訳には参りませんでしょうか?」
「仕方あるまい。ローランド殿はクロエ殿と同じパーティを組んでいたそうだ。連携面から考えて、そう決めたと話したはずだ。逆にローランド殿も調査団の指揮など出来ないであろう。どちらにしろ一度王都で追加の小隊が合流することになっておるから心配するな。それまではローランド殿に護衛を頼もう」
「か、かしこまりました。ローランド殿、どうか殿下をよろしく頼みます」
「そうですね。ベリル様共々、しっかり守りあげてみせましょう。そもそもカイラルまではかなり安全です。気をつけるとしたら定期船ぐらいでしょう。私にお任せいただきたい」
街道周辺はギルドとの連携で拡張工事に加え魔物の討伐もかなり進められている。魔物に注意するとしたら王都までの海とサフィーニア公国に向かう大密林だろう。
とはいっても、ジュリアでも来れた道程なのでそこまで厳しい旅路ではないだろう。密林といっても商流があるからには馬車道ぐらいは整備されているはすだ。
「それでは、荷物を積み込んで出発する。よいな?」
「はい、こちらもいつでも大丈夫です!」
問題はアンフィスバエナだ。セーブして何度か様子は見るとして、魂浄化であっさりやられてくれるかがポイントになる。そもそも邪悪なドラゴンじゃなかったら効き目多分無さそうだし。魔法陣でずっと押さえられているからめっちゃ怒ってそうだよね。
やはり、キーはベリちゃんになる気がする。相変わらずいろんな人頼りになるのは申し訳ないけども、みんなには頑張ってもらいたい。
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