第百二十三話 告白3
「お、おい! 大ニュースだ! 『火の賢者』様が婚約したぞ!!!!!!!!!!」
「しかも相手は、リンカスタービールの商会長だあ!!!!!!!!」
「今日はリンカスタービールが半額だあああ!!!!!!!!!!!!!」
ケオーラ商会の外でも、大きな声が響き渡っていた。あっという間に噂が広がっていくことだろう。今後、無いとは思いたいが万が一クロエと別れたりした場合、リンカスターに僕の居場所は無いだろうな。それからリンカスタービールは決して半額ではない。
たくさんの拍手とともに立会人であるラシャド王子とマリエールさんからあらためて祝福していただいた。
「ハルト殿、素晴らしい愛情あふれる求婚であった。私も、もう少し早くクロエ殿と会っていたら違ったのだろうか……。いや、そんなことは今いうべきで言葉ではないな。今日は二人の幸せを大いに祝福しよう!」
「はい、ありがとうございます」
「やっぱりクロエが先にいってしまうのね。もう、いつだってクロエは急なんだから! これからは二人でゆっくり幸せに生きていくのよ」
「ありがとうマリエール。これからも変わらずハルトと共に仲良くしてほしい」
「もちろんよ!」
ジュリアも泣きながら喜んでくれている。なんか、ありがとうネコのお姉さん。
「そういえば、何か忘れているような……。レイエノール、何かやり忘れていたことがるような気がするのだが……」
「そうですね。獣人のことでしょうか」
「おお、そうだった。すっかり忘れていたが、何も解決していなったな。ハルト殿、そろそろ熊の獣人達も目が覚めるのではないか?」
「そうかもしれませんね。彼らが起きたら、ラシャド王子よりこの度の件について話をして頂きたいと思います。先ずは、サフィーニア公国と話し合いの場を持ちたいということ。アンフィスバエナついてはアストラル全域での脅威にもなり得ます。安全保障上の問題、人道的な観点からも知ってしまった以上は力になりたいと」
「うむ。あいわかった。サフィーニア公国に恩を売ることでスパイス関連の商取引を優位に進めることもできるやもしれぬ。秘薬という魅力ある物があることもわかったのだ。この交渉、上手く進めてみようぞ。それから、力になると言うからには『火の賢者』の移動制限の解除についてベルナール殿と話をする必要があるな」
「そうですね。取り急ぎはニーズヘッグの調査を終わらせてからになりますでしょうか」
「レイエノール、竜の巣へは明日から出発可能か?」
「はっ、こちらは問題ございません。ロドヴィックさん、リンカスターの冒険者は大丈夫でしょうか?」
「はい、こちらも大丈夫です。ラシャド王子がリンカスターに入られてから既に人員は揃っております」
「よし、竜の巣へは明日出発で話を進める。レイエノール、ベルナール殿へその旨を伝えよ。それから熊の獣人については、こちらで面倒を見よう。目覚めたら公国への私からの手紙を届けさせる」
「ラシャド王子は竜の巣へは同行されるのでしょうか?」
「私が一緒に行くとなるとスピードが遅れる。竜の巣に関してはレイエノールに一任する。私はベルナール殿と話し合いをして待っていよう。戻り次第、サフィーニア公国へ向かうものと覚悟しておくように」
「ラシャド王子、よろしくお願いします!」
「うむ。では、今宵はあまり飲み過ぎぬよう注意しながら二人の婚約を祝い、晩餐としようではないか。レイエノール、ベルナール殿に連絡を」
「はっ、かしこまりました!」
その日は、領主様の計らいでリンカスタービールは本当に半額となり提供された。街の広場では酒飲みや酒好きの冒険者であふれ、朝方に、樽が無くなるまで続けられたという。
領主様の館での晩餐を終えた僕とクロエが広場に登場すると祝杯のかけ声が広がり、何故か僕だけが揉みくちゃにされた。
「うわっ、ちょっ! 嘘でしょ」
「こ、これは凄いな……。みんな、ありがとう」
酔っぱらいも、ドレス姿の美しいクロエにはビールを掛けられない。もちろん僕が全面的にビールまみれにされた。お祝いと羨望からくる悔しさをぶつけられた気がするけど、これはこれで悪くない。
どうやら明日の調査は欠伸をしながら進まなければならなそうだ。
◇◇◇◆◆
「こうして二人を見ていたら、ハルト殿とクロエ殿はかなり前から好き合っていたのだろうな」
「そうでございますね。ラシャド王子におかれましては……」
「構わん。クロエ殿の幸せが、今の私が考える一番のことだ。妻としては難しかったが、友としての道は諦めておらぬ」
「友としての道でございますか?」
「ベルナール殿、竜の巣の調査が終わったらクロエ殿に課せられた移動制限について一つお願いをしたいのだ」
「他の国へ行くことを了承しなさいと?」
「そうだ。ニーズヘッグがいないのであればこの地に賢者が居続ける必要はないであろう」
「そのことについては、『火の賢者』様、ハルトさんとも話し合いが必要でしょう。いくら安全が確保されたとしても、今後何が起こるかわかりません。私にはこの領を守る役割がございます」
「うむ、そうであろうな。そこで私から一つ提案があるのだが聞いてもらえるか」
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