第百二十二話 告白2
「クロエさん、王族と婚姻を結ぶということは地位と名誉そして権力がついて参ります。王都でも人気のあるクロエさんなら今後、政治に介入していくことさえ可能でしょう。そして、ラシャド様との間にお子を授かればそのロイヤルベイビーは王家と賢者の間に生まれた初めての子。奇跡の子としてその血は今後ずっと生き続けていくでしょう。これは王家の歴史が変わる出来事と言ってもいいことなのです!」
「よい、レイエノール。クロエ殿の気持ちは変わらぬであろう。私はクロエ殿の幸せを祝福しようと思う。……しかし、好きになった者の幸せを願うというのもなかなかに辛いものであるな」
僕とクロエはラシャド王子に何となく一礼をした。王族の権力を使えばそれなりに理由をつけてクロエを説得するために王都へしばらく連れていくことだって可能だと思うんだよね。そうせずに、僕たちの気持ちを聞いてくれて身を引いてくれるラシャド王子は本当にクロエのことが好きだったんだと思う。
「そ、その、ありがとうございます」
「うむ、クロエ殿を不幸せにするようなことがあったら私が許さぬからな」
「は、はい」
どう許さないのかはわからないけど、きっと殺される的なことのような気がするのは間違っていないだろう。
「ふう。よしっ! せっかくの機会だ。私が立会人となるからハルトよ、存分に求婚するといい」
存分に求婚って何? いやまぁ、王子が立会人とかってきっと凄いことなんだろうけど、怒涛の展開過ぎてついていけてない。
「おい、ベネット! 今すぐ花束を用意しろ。あと、神父はいねぇからマリエールを連れて来るんだ」
「は、はいっ、かしこまりました!」
慌てて外へ走っていくベネット。いや、ベネットが行くんじゃなくて部下に行かせなよ! なんだろう、みんなテンパっているな。というか、結婚するわけじゃないんだから神父代わりのマリエールさんは必要ないのでは!?
バタバタし始めてようやくクロエの方を見ると、そのドレスはとても似合っていて綺麗だった。あまり派手ではなく白地に薄いピンクの入った体のラインがわかるドレス。クロエはベリちゃんと手を繋ぎながら少し恥ずかしそうに、照れたような笑顔でこちらを見ていた。
「なんだか、すごい展開になってきたね」
「ハルトはこういうのを後回しにするタイプだからな。これはこれで良いきっかけになったと思うぞ。そもそも、好きでもない者と一緒に暮らす訳がないだろう……」
少し目を逸らしながらそう言うクロエの言葉は、後半部分が小声で聞き取りにくかったけど、しっかり僕の耳には届いていた。
「ロドヴィックさん! マリエールさんと花束です!」
「ちょ、ちょっと何事なの? って、あらっ、クロエ素敵なドレスね」
「では、これよりハルトさんによるクロエさんへの求婚を始めさせていただきます!」
「ちょっと、待ってレイエノールさん!? 僕のタイミングとか聞いてもらえないの?」
「二人とも前へ。マリエール殿と言ったか? お主も立会人としてこちらへ」
「ラシャド王子!?」
「へっ、王子ですって! ん? た、立会人!? クロエに求婚!!」
相変わらずカオスなケオーラ商会であるが、噂を聞きつけて外では町の人や冒険者なども集まってきている。これ以上人が増える前に終わらせなければならない。何でこんな大勢の前で求婚しなければならないんだよ。
ロドヴィックさんから花束を受け取った僕は、クロエと共にラシャド王子とマリエールさんのいる応接室へと進んでいく。いや、これ結婚式みたいになってるんだけど違うからね。そもそも求婚とかどうすればいいのかわからないし、アストラル流のやり方とかあっても知らないからね。
僕は記憶をフル回転させて、プロポーズのシーンを思い出す。跪いて指輪の入った箱をカパッとしながら掲げるイメージだけども婚約指輪は当たり前だがもっていない。こういうのは雰囲気が大事なはず、迷うな感じるままに気持ちを伝えよう。
僕は頭に浮かんだ映像を元に、片膝をついて跪いて花束を掲げながらクロエに自分の気持ちを伝えることにした。
「クロエ。初めて会った時から、とても信じられないような出会い方をして、僕はいつもクロエに助けてもらってばかりだ。最近はようやく、ここでの生活にも慣れてきて僕にも余裕が生まれてきたけど、楽しく過ごせているのはベリちゃんはもちろん、クロエが側にいてくれるからなんだ。いつも自分の事より周りを優先するクロエの優しさが好きです。僕が昼寝をしていると横で同じように昼寝してくれるクロエが好きです。僕がクロエに出来ることはあまり多くはないかもしれない。でも僕はいつどんな時でもクロエの味方だし、クロエがピンチの時にはきっと身を投げ出してでも助けに入ってみせる。だから、クロエ……。僕と一緒にこれからも共に生きてほしい」
涙を拭いながらクロエは僕が差し出した花束を受け取ってくれた。
「はい。私もハルトと一緒に生きていきたい。これからもよろしく頼む」
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