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第百二十話 調査団7

「なるほど。猫の獣人は、アンフィスバエナを『火の賢者』に討伐してもらいたい、故にサフィーニア公国に来てほしいと願っていると。それにしても王女を人柱にして魔法陣を維持するとはな……」


「レイエノール、どう思う?」


「殿下、獣人の国は基本的に秘密主義なところがございます。また、国外を出ること自体が非常に珍しいことです。それらを鑑みるに、サフィーニア公国としては我々に知られたくない事情があり、その猫の獣人を連れ戻そうとしていると考えていいでしょう。熊の獣人は間違いなく公国の兵士です。つまり、ハルトさんの言っていることは事実である確率が高いと考えられます」


「まぁそうだろうな。ハルト殿が我々に嘘を吐く理由もない。猫の獣人と行動を共にしていたという点からも、少なからず力になりたいと思っていたのだろう」


「ですが殿下、公国がこの一件を我々に頼るつもりがないということは兵士の動きからもわかります。下手に手を出すべき案件ではないでしょう」


「わかっている。しかしだなレイエノール、私は『火の賢者』に同行を求めたという点に注目している。これは『火の賢者』の移動制限を変更する一つのきっかけになるかもしれん。それに、隣国の助けとなることも王家の一員としての役割であると思っている」


 どうやらクロエの移動制限に興味を持ってもらえたようだ。賢者の管理については領主の権限が強いようでラシャド王子もクロエの移動制限については頭を悩ませているようだった。王子を利用するようで悪いけど、これは僕とクロエにとっても悪い話ではないと思いたい。


「しかし、殿下。公国は納得しないでしょう」


「そうだな。納得させるよう話を持って行けばいい。理由はどうあれ王家はサフィーニア公国の窮地を知ってしまったのだ。助けなければなるまい。ハルト殿、そろそろ扉を開けてもらうよう伝えてもらえるかな?」


「はい、かしこまりました。ベリちゃん、もう大丈夫だからカギを開けてくれるかな」




 カチャッ


 ドアノブに手を掛けたまま扉を開けて中からベリちゃんが顔だけ出してきた。どうやら一応、外の状況を確認したらしい。


「ジュリア捕まらない?」


「うん、ラシャド王子が話を聞いてくれるそうだよ」


「王子って、ママがお手伝いにいってる王子? そこのチリチリの人?」


 ベリちゃん、きっと本人も気にしてるはずだから指を指したらダメ。ほらっ、ラシャド王子髪の毛触っちゃってるから。


「そうその王子だよ。ジュリアの話を聞いて力になってくれると思う」


「わかった。ジュリアおいで」


 するとしばらくして部屋の中からベリちゃんを後ろから抱きしめるようにしてジュリアが出てきた。王子と聞いて少し緊張しているようだが、ジュリア的にはビッグチャンスといってもいい。王子に直談判できるのだから。


「ベリちゃん、ところで熊さん達はどうしたのかな?」


「あのね、ビビビってやったらパパの魔法が出てね、熊さん達が寝ちゃったの!」


 ほめてほめてと云わんばかりにその場で小さくジャンプしている。もちろん頭を撫でてあげるけど。これは僕の深眠(ディープスリーパー)をマスターしたということだろう。ベリちゃんがもの凄いスピードで成長している。


「それって、ハルトの例の魔法じゃねぇか……。つうか、適当にごまかすぞ」


 ロドヴィックさんも驚いている。この分だと、僕の特殊な魔法は全て覚えてしまいそうだ。


「何故に捕まえた側の兵士の方が寝ている。部屋の中で一体何があったのだ?」


 ラシャド王子とレイエノールさんが訝しげに部屋を確認している。さて、どうやって誤魔化そうか。


「これは、サフィーニア公国に伝わる秘薬なのです。そうだよね? ジュリア」


 ポカーンとしているジュリアに合図を送りながら強引に話を進めていく。


「は、はあ……」


「ラシャド王子、こちらは様々な薬の配合で眠らせるものでして、実は極秘にギルドでも研究させてるところなんですよ」


「ジュリアにはギルドに協力してもらって秘薬の配合指導をしてもらっているのです。先程使ったのはサフィーニア公国から持参してきたものでしょう」


 秘薬と聞いてすぐにハンカチで鼻を押さえるラシャド王子とレイエノールさん。


「影響を与える範囲、時間はとても短いので、もう大丈夫なはずです」


 そう言いながら、奥の窓を開けて換気する振りをしておいた。


「最後の秘薬を使い切っちまったようだな。現物をもっと調べて研究したかったんだが、しょうがねぇな。また時間が掛かっちまうか」


「ほう。リンカスターはすごいな。食文化もさることながら、このような秘薬の研究までしておるのだな。やはり、見分はしてみるものだなレイエノールよ」


「はっ」


「ジュリアといったか。可能であるならば王都のギルドでもその秘薬をご教授願えないものであろうか」


「えーっと……」


「ラシャド王子。秘薬の研究については大変危険を伴う実験も多いものですから、先ずはリンカスターで安全面を確認してからギルドを通じて広げていこうと思っています」


 ナイスフォローだロドヴィックさん。


「そ、そうであるか……。屈強な公国の兵士をあっさり倒してしまう秘薬、是非とも開発に成功させるように」


「か、かしこまりました」


 多分というか、絶対開発できないけどね。念のためもう一押ししておこう。


「マウオラ大森林を抱えるリンカスターは薬草の種類も豊富なので研究場所としてもうってつけでしょう。ジュリアとしても『火の賢者』と協力関係を築いている以上、この場を離れようとはしないでしょう」


「ふむ、協力関係か」


「ハルトさん、その協力関係というのは先程のアンフィスバエナの件であろうか?」


 レイエノールさんがそう口を開いた時に、商会の入り口から大きな声で僕とベリちゃんを呼ぶ声が聞こえてきた。


「ハルト! ベリちゃん! ジュリアは大丈夫なのか!?」


 そこには、ドレス姿に薄く化粧を施した普段の『火の賢者』からはとても考えられないほど美しく変わったクロエの姿があった。


「あっ、ママだー。うわー、すごいきれい! お姫様みたーい!」


「ママ……だとっ!」

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