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第百十九話 調査団6

 部屋の前では聞き耳をたてながらラシャド王子が呼び掛けている。そのすぐ後ろにはレイエノールさんがアワアワしていた。


「どうしたのだ。ここまで来たのも何かの縁であろう。私でよければ話を聞こうではないか」


「殿下、これは獣人の国の話でございます。殿下が間に入るとことが大きくなります」


 ケオーラ商会を入ってすぐ左側の応接室に熊さん三人組と捕まったジュリアがいて、扉を挟んでラシャド王子が話し掛けているという不思議な光景が出来上がっていた。


「ベネット、これはいったいどういう流れなのかな?」


「あっ、ハルトさん。じ、実は……」


 昼ご飯の後、暇をもて余したラシャド王子は、すぐに干物を用意してくれたケオーラ商会にお礼と見学を兼ねて訪れていたとのこと。おそらくは干物の輸入に関する話でもするつもりだったのだろう。


 すると、そこで面白そうな揉めごとが発生して首を突っ込んでいる状況らしい。ちなみにクロエは夕食に向けてドレスの試着と最終調整があるため同行できなかったらしい。


「あっ、ベリちゃん!」


 するすると人垣を越えてベリちゃんが扉の前に進んでいた。ベネットと話をしている間にいつの間にかいなくなっていた。


 ベリちゃんは普通に扉を開けて、パタンと扉を閉めた。


 ガチャン


「お、おい! レイエノール、扉は閉まってなかったのか!?」


「どうやらそのようですね」


「ところで、今しがた入室した幼女が中からカギを掛けたように思えるのだが」


「はっ、そのようでございますね。間違いございません。確かあれは、ついさっき知り合いになったばかりのベリルちゃんですね」


「ほう、レイエノール、お前は干物を探しながら幼女と知り合いになっていたのか」


「い、いえ、そのですね、正確には幼女ではなくその父親と知り合ったといいますか……。あっ! ハルトさん! も、申し訳ありませんが、ちょっとこちらに来ていただけませんか」


 レイエノールさんは自身にかけられた幼女好き疑惑を払拭させるため、僕の姿を見付けて安心したような表情をしていた。調査団の副団長としての威厳とかもあるだろう。部下のみなさんもレイエノールさんを見る目が若干微妙になっていたからね。


「レイエノールさん、さっきぶりですね。そちらのお方はラシャド王子でしょうか」


「はい、そうです。殿下、こちらが先程のベリルちゃんの父親であるハルトさんです。先程、市場にてお会いしまして、干物の売っている場所を教えて頂いたのです。また、彼は調査に同行いただく冒険者の一人とのことにございます。そちらの方は?」


「あっ、はい。同じく調査に同行しますギルドマスターのロドヴィックさんです」


「そうであったか。ハルト殿、ロドヴィック殿、調査の際はよろしく頼む。あと、干物についてはこの香ばしい熟成された味わいにすっかりハマってしまいまいしてな……お恥ずかしながらレイエノールに探させていたのですよ。リンカスターに干物があって本当に良かった。カイラルで購入してこなかった自分を恨みそうでした」


 干物をかなりお気に召された様子だ。これでまたリンカスターの税収が上がるかもしれない。お金が集まればいろいろとお願いごともしやすくなるからね。


「夕食には冷えたリンカスタービールも準備しておりますので、是非お楽しみ頂ければと思います」


「うむ、聞いておる。何でも雑味も無く、たいそう美味しいエールビールであるとか。エールビールのような安い酒はあまり飲ませてもらえないのだが、大衆に人気のリンカスタービール楽しみにしておるぞ」


 ベネットがチャンスとばかりに僕を紹介する。ビール、王都にも売りたいものね。


「ハルトさんはリンカスタービールを製造している商会の会長でもあるのです」


「ベネット、誠であるか。冒険者でありながら商会の経営もしているとは興味深い。どうだ、このあと少し話をしようではないか」


「殿下、それよりも今はこの扉の先を気にしなくてはならないのでは?」


 ラシャド王子は、すっかり忘れていたと言わんばかりの顔をするものの、すぐに僕の方を見て質問を飛ばしてきた。


「部屋に入った幼女はハルト殿の子供とか。幼子が一人部屋に入るのは危険であろう。すぐにカギを開けさせた方が良いのではないか?」


 ベリちゃんに危険はない。どちらかというと心配するのは熊さん達の方だろう。カギを閉めたということはベリちゃんなりにジュリアを守る手立てを考えているのか? いや、そこまで頭が回るとは思えない。そうなるとジュリアを守りながら時間稼ぎをしていると思った方がいい。


「そうですね。中にいる獣人に私共の知り合いがおりまして、実はとある事情を抱えております。ラシャド王子には、もし可能でありましたらお力添えをお願い致したく思っております」


 レイエノールさんの目が鋭くなった。ラシャド王子をサフィーニア公国との外交的な問題に付き合わせはしないという考えがあるのだろう。


「話を聞こう。それからの判断にする。レイエノールもそれでよいな」


「はっ!」


 僕は部屋の中の獣人の関係性と、ジュリアが『火の賢者』に助けを求めており、サフィーニア公国への同行をお願いしていることを伝えた。一応、熊さんに配慮してアンフィスバエナのことは伏せようかとも思ったけど、真直ぐに話を聞いてくるラシャド王子に隠し事をする方がマイナスだと判断して全てを説明することにした。


「なぁハルト、俺ここに来た意味あるのかな?」


 あぁー、ラシャド王子がいたことでロドヴィックさんの役割が失くなってしまったようだ。

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