第百十八話 調査団5
「パパぁ、早くぅ!」
先導するようにギルドの方へと駆け出していくベリちゃん。慣れたもので細い裏道が多いリンカスターの街も迷わずに進んでいく。
ここからギルドまで走れば五分も掛からずに到着する。昼前なのでギルドは割かし暇な時間帯のはず。何か情報を持っていたらすぐに教えてもらえるだろう。
「ごめんベリちゃん、先にエミリーに話を聞いてみてくれるかな。僕は念のため書き置きを残しておくから!」
「わかったぁー!」
曲がり角で僕を待っていたベリちゃんはそのままギルドへと向かって走っていった。
さて、手紙か。
クロエとジュリアへ
この手紙をクロエが読んでいるということは、まだ僕達がジュリアを探しているということになります。僕達のマーカーを追って合流してほしい。ジュリアがもしこの手紙を読んでいるのなら家から出ずに必ず待っていること。僕達を探しに出なくていいからね。あとでゆっくり言い訳は聞きます。勿論しばらく焼魚抜きです!
こんなところでいいか、よし僕も向かおう。ギルドのそばにはケオーラ商会がある。ベリちゃんがギルドで情報を集めている間に僕はベネットに話を聞こう。干物が届けられていた以上、商会の人間がジュリアと会っているはずだ。ひょっとしたら何か知っているかもしれない。
ケオーラ商会に到着すると何やらザワザワとしていて、さっきまでとは雰囲気が異なる。
「ベネットは?」
「あっ、ハルト様。ベネット様は領主さまの館へ干物をお届けにいっております」
「そうかー。それで、この雰囲気は何かあったの?」
「そ、それがですね。実は……」
ギルドに到着した僕はエミリーの膝の上で賢茶をごちそうになっているベリちゃんをすぐに見つけた。昼間でギルドの業務も暇ということもあってか、ベリちゃんへのサービスが過剰だ。
「パパぁ、エミリー何も知らなかったの」
「ご、ごめんねベリルちゃん……賢茶のおかわりいる?」
エミリーは申し訳なさそうにポットを片手にベリちゃんの頭をゆっくり撫でている。気持ちはわからないてもない。これだけの美幼女はなかなかお目にはかかれまい。
「遅くなってごめんねベリちゃん。エミリーありがとう」
「いいのいいの。今の時間は暇だしね。それよりも探し人は見つかりそうなんですか?」
「うん、とりあえず場所がわかったから大丈夫」
「パパ本当!?」
「うん、どうやら熊さんに見つかってしまったようなんだ」
「ふぇー、熊さん帰ってなかったんだね」
「ハルトさん、熊さんってひょっとして獣人ですか? リンカスターに獣人なんて珍しいですね」
「うん、ちょっと訳ありでして」
「ということはジュリアちゃんっていうネコっぽいお姉さんというのも、まさか獣人さんですか?」
「あっ、はい。すみませんが内緒でお願いします。ギルドにはその内話をするつもりだったんてすけど……」
「うーん、ギルマスをお呼びしましょうか? 厄介ごとなら手慣れてますし。ハルトさんの力にもなってくれるでしょう」
「そうですね。同行いただけると助かります。サフィーニア公国と揉めるのもよくないですからね」
ロドヴィックさんも珍しく暇だったようで聞き耳を立てていたようだ。すぐに扉が開いてこちらに歩いてきた。
「話は少しだけ聞かせてもらったぜ! 獣人の国と喧嘩するんだな。俺に任せとけハルト」
「違うよっ! ロドヴィックさん絶対喧嘩しちゃダメだからね!」
「冗談に決まってるだろ。とりあえず事情を詳しく聞かせてくれ」
こうして、ハープナであった熊さんとネコのお姉さんの追いかけっこと、アンフィスバエナの件を説明してから僕達はケオーラ商会に向かうことにした。
「ジュリアはベネットの家にいるの?」
「うん、実はね王都に帰ろうとした熊さん達なんだけど、よくよく考えてみたら『火の賢者』のいるリンカスターを調べずに戻る訳にはいかないだろうということになったようで、リンカスター行きの便を探していたそうなんだ」
「そこにケオーラ商会の馬車があったということか」
「はい、リンカスターからビールを持っていき帰りは干物を積みますが馬車のスペースは空きますからね。護衛も兼ねて一緒にリンカスターへ行くことになったそうなんです」
「それからどうしてネコの獣人が見つかることになったんだ?」
「今日、干物を大量に購入しまして、大変だったので運んでもらうことにしたんですよ。その配送にですね、お礼も兼ねて少しでも商会のお手伝いをさせてほしいと」
「そうして熊さんが干物を届けたのがハルトの家だったという訳か」
「そのようです」
熊さんが荷物を届けに来るとは思いもしないジュリアは玄関の扉を開けて満面の笑みで大量の干物を受け取ったと同時にあっさりと熊さんに捕獲されたそうだ。連れ去られる前に一枚だけ干物を抜き去って……。
もっと他にやることがなかったのかな。せめて干物を小さくちぎって商会までの道に撒いていくとか何かしら知恵を働かせてもらいたかった。
再び戻ってくると、またしてもザワついているケオーラ商会。ベネットと一緒に今度はレイエノールさんともう一人。雅な衣装で髪の毛がクルクル天パーの青年がご来店されていた。
ラシャド王子だね。
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