第百十六話 調査団3
どうやら、ラシャド王子かなり干物にはまってしまったようで、ボア肉も好きなようなのだが、夜のお酒のお供に干物の焼魚がどうしても欲しくなったらしい。確かに寝る前はこってりのボア肉より干物の方が合いそうである。
「領主様に相談されれば干物の準備もされていたと思いますよ。肉料理ばかりでは飽きるのでと手配されていたはずです」
「なんと! さすがはリンカスターの領主様ですな。夕食を用意して頂いているのに干物まで用意してくれとは言いづらくてですな、はははっ。それにしても、かなり内情に詳しいですね? 失礼ですがあなた様は?」
「あっ、僕はハルトと申しましてこの度の調査に同行させていただく冒険者なんです」
「おー、そうでございましたか。私はレイエノールと申しまして、此度の調査団の副団長を命ぜられております」
副団長自ら干物を探すために街中を探し回るとは……。調査団というからにはそれなりの人数で来ているはずなんだけど。
「団長って、もしかしなくても王子様ですよね。ってことは副団長は調査団実質のトップではないですか! 干物ぐらい部下に探させればいいのでは?」
「部下は部下で仕事がですね。何しろ王族の護衛任務が第一優先なものですから……」
なるほど、言われてみればそれもそうか。副団長がフリーというのも微妙な気がしないでもないけど、そういうものなのかもしれない。何より少し若そうに見えるレイエノールさんはその動きも軽快そうなのでいろいろとお願いしやすいのかもしれない。十代半ばの僕に対しても礼儀正しい言葉を使っているあたり、その人柄が滲み出ている。副団長とかもっと偉そうでもいいと思うからね。
「確かにそれはそうかもしれませんね。何はともあれ、ここでお会いすることが出来てよかったです。干物はまだリンカスターでも知る人ぞ知る食材なので、その存在を知らない人の方が多いのですよ」
「それは助かりました。ご案内お願いしてもよろしいでしょうか」
「かしこまりました。こちらです」
「パパぁ、この人はママが手伝いに行ってるところの人?」
「うん、そうだよ。ベリちゃんもご挨拶しようか」
「はじめまして、ベリルです。パパとママがお世話になります。よろしくなの!」
「うん、よろしくお願いします。ベリルちゃんは偉いね。ちゃんとご挨拶できるんだね。それにしても、ママというのはハルトさんの奥様ですか? 同じく調査に同行されるということでしょうか。それとも領主様の館で働いていらっしゃるのですか?」
「ママはママだよ! 『火の賢者』なの! すごいでしょ」
ベリちゃんの爆弾発言により、レイエノールさんの動きが一瞬固まった。ベリちゃん、それは副団長に話さない方が波風立たないような気がするのだけど。言っちゃいけないともいってないし、ベリちゃん的にはママを自慢したかった的なあれだろう。
「『火の賢者』様がハルトさんの奥様……。しかもお子様までいらっしゃるとは……」
「あ、あの、レイエノールさん? ちょっと複雑な家庭の事情みたいなものがありまして、ベリちゃんは僕たちの本当の子供ではないのです。もちろん本当の子供のように愛してますけどね。そ、それから僕とクロエも結婚しているわけではございません」
「そ、そうなのですか!? で、でもパパとママと呼んでいるということは」
「クロエとは、その、同じ冒険者パーティとして、またベリちゃんの父親、母親代わりとして三人で共に暮らしているのです」
「そうでしたか。ち、ちなみにこんなことを聞いてよいのかわかりませんが、ハルトさんは『火の賢者』様のことはどのように思われておるのでしょうか?」
「命を預ける仲間であり、もちろん家族のように大切に思っております」
「一緒に暮らしてるのですからそうですよね。そりゃそうですよね……。それにしても、うーん、困りましたね……。実はこの度の調査団の目的は二つありまして、一つはご存じの通りニーズヘッグの生存調査なのですけど、もう一つは調査結果に伴う『火の賢者』様の移動制限の解除でした」
「移動制限の解除ですか。それはどういうことですか?」
「はい、ラシャド王子の婚約者候補として王都へ迎え入れたいという考えからです。もちろん、『火の賢者』様のお気持ちもありますのでそれらをクリアした上での話とはなりますが。また、この件は王室としても強く希望をしておりまして王様もお后様もかなり乗り気なのです。通常、賢者様というのはその土地から動けないものですが、ニーズヘッグを討伐された『火の賢者』様は例外となります。つまり、賢者様と王族による初の婚姻が可能になるかもしれない! とですね、実は王室でもかなり盛り上がっているようなのです」
「な、なるほどですね。それで移動制限の解除ですか」
「しかもニーズヘッグを討伐された賢者様としてクロエ様は王都でも大変人気ですし、また何よりとてもお美しい。王都でもラシャド様と仲良くされておりましたので、少しは可能性があるのではと思ってしまったのです」
「そのことについてはクロエに直接話をしてみてください。繰り返しますけど、僕とクロエは結婚しているわけではありません。僕的には複雑な気持ちが無くもないのですが、将来のことを選択する権利はクロエにありますので」
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