第百十五話 調査団2
「パパぁ、干物ってどこで売ってるの?」
「干物はね、今のところベネットのところでしか直売していないからケオーラ商会に行かないとないんだ」
「ケオーラ商会ってギルドの近くだよね。じゃあ一番最後でいいね!」
ボア肉串を頬張りながら満面の笑みを浮かべているベリちゃん。美味しそうに食べているその姿はとても愛らしい。最近広場によく訪れるようになったベリちゃんは屋台の人からも人気になっている。しかも幼女として侮ることなかれ、とんでもない数量の注文をしてくるので太客のお客様としても大事にされている。
「ベリルちゃん、これうちの新作なんだ。一つあげるよ! たまにはラビット肉もどうだい?」
「ベリルちゃんの好きな甘いフルーツが入荷したんだ。ほら、食べてみるかい?」
なかなか試食や試飲などをしない屋台の人たちがこぞってベリちゃんに提供してくる。おそらく孤児院やビール工場がバックについているお偉いさんのご令嬢という認識なのだろう。クロエも僕もベリちゃんにはかなり甘いので、かなりの確率で食材購入をベリちゃんに委ねている。そういったのも屋台の人たちはしっかり見ているのだろう。
「うん。美味しい―の! このフルーツは10個もらうの」
「な、美味しいだろう? ベリルちゃん、少しおまけしてあとで家まで届けておくよ」
「ありがとう、おばちゃん!」
「ラビット肉はやっぱりダメかー。やっぱベリルちゃんはボア肉料理だよねー」
ラビット肉も決して嫌いという訳ではなさそうだけど、肉料理5回に1回ぐらいの頻度でしか選ばれていない。ベリちゃんは圧倒的ボア肉派ドラゴンなのだ。そして濃い味付けが大好物。スパイス大国であるサフィーニア公国と貿易が出来るようになればベリちゃんの舌も更に満足してくれることだろう。そういう点においてはネコのお姉さんにも頑張ってもらいたいと思う。食の充実、生活の充実は生きる上で欠かせないのだからね。
「次はお野菜と麦だね。パパ、市場の方へ行こっ!」
「そうだね。ベリちゃんの好きな美味しいトメイトがいっぱいあるといいね」
トメイトは名前からも何となく想像つくかもしれないがトマトが少し細長くなったようなもので、煮込み料理やスープ等にもよく使われている。リンカスターで栽培されている代表的な野菜の一つだ。
「うん! トメイトはいろんな料理に使えるから便利だってママも言ってたの!」
市場は屋台のある広場と隣接するように門の入り口方面に連なって形成されている。広場は飲食も出来るようにベンチやテーブル席も多く置かれているが、市場は飲食店や屋台の仕入れがメインなのでどちらかというと個人向けの販売は片手間で行われていることが多い。
「おや、ベリルちゃんじゃないか。今日もトメイトかい?」
「うん、いっぱいちょうだい! いつもの倍ぐらい! ある?」
「それは大量だね! もちろんあるよ! いつものように家まで持って行こうか?」
「うん、お願いなの!」
もちろん、ベリちゃんは市場の人からも業者扱いをされている。一般家庭で消費する量ではないからあたりまえなんだけどね。
そんな会話をしている時だった。市場では見慣れない服装の男性が道行く人や市場の店主に話し掛けては何かを探しているようだった。困った表情をしているその人は僕達の方にゆっくりと近づいてきた。
「あの、何か探しものですか?」
「あー、すみません。少し話を聞きたいのですが、リンカスターでは魚の干物というのは市場に置いてないのでしょうか? 来るときにカイラルで頂いたのですが、主が大変お気に入りでして。屋台でも見当たらなくてですね……」
「干物でしたら、この先のケオーラ商会が窓口になってますよ。まだ広場での出店許可が下りて無いようなんです。今は臨時で商会での販売のみ許可してるんですよ。僕たちもこれからケオーラ商会に向かいますのでご案内しましょう」
「おー、それはありがたい。ひょっとしたらカイラルまで、また戻らなくてはならないのではないかと思っていたのですよ」
「今からカイラルはちょっと大変そうですね。戻ってくるのは夜遅くなってしまいそうですね」
「いやー、助かりました。主が急に干物が食べたいと言われまして困っていたのですよ。一応確認なのですが、リンカスターは海からかなり離れているようですが、その魚の干物というのはすぐに腐らないものなのでしょうか?」
「干物は保存食なんですよ。しっかり水分を抜いていますから、かなり日持ちするんですよ」
「それは凄い! かなりというと、三日ぐらいでしょうか?」
「いや、氷で冷やしながらであれば二週間程度は大丈夫だと思いますよ」
「そ、そんなに日持ちするのですか!? 素晴らしい。それなら王都でも十分いただけますね!」
「王都ですか……。ひょっとして、調査団の方でしょうか?」
「あっ、はい、そうです。本日リンカスターに到着したばかりだったのですが、我が主がカイラルで初めて食べた干物に感動しておりまして、夕食がボア肉と聞いて私に夜食用に干物を用意しろと言われたのです」
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