第百八話 豊穣祭6
「アンフィスバエナか……。ジュリアさん、実は私には領主様より行動範囲に制限が設けられているのだ。その範囲はリンカスター、ハープナ、そしてカイラルまで。例外があるとしたら王都から呼び出しがあった時ぐらいだろう。つまり、私がサフィーニア公国に行くということ自体が無理なのだ」
「そ、そんなっ! な、なぜそのうような制限があるのですか! ニーズヘッグはもう討伐されているのですよね?」
「そ、それはそうなのだが、また第二のニーズヘッグが生まれる可能性もあるし、豊穣祭の後には王都からも調査隊が来ることになっておるのだ」
「わ、わかりました。では、その調査が終わるまでクロエ様に勝手ながら同行させていただきます。私としてはいち早くクロエ様と共にサフィーニア公国に戻ってアーリヤ様を安心させたいところではございますが致し方ありません」
「ど、同行するんだ。魔法陣はまだ大丈夫なの?」
「あなたは、変な魔法を使う……」
「ハルトです……」
「そう、ハルトさんですね。魔法陣の強化にはまだ半年以上の猶予があります。ですので、私の行動目標としましては半年以内にリンカスターの領主様とクロエ様を説得してサフィーニア公国に連れていくことになります!」
対象相手に自分の行動目標を宣言されてしまっても何というか困るとしか言いようがない。同行するって言うけど最長で半年も一緒にいるつもりなのか……。
「意気込みはよくわかったのだが、私がニーズヘッグを討伐できたのは様々な幸運が重なってのことなのだ。賢者としてのレベルもそこまで高くもない。まだ時間があるというのなら他の賢者を頼ってみることは出来ないのか?」
「無理です……。これでもここに辿り着くまでに近隣の賢者様には何名かお声掛けはしてきたのですが、どの賢者様も回答はNGでした。自分が離れている間にドラゴンを抑えるものがいなくなる。そもそも、そんな危険を冒してまでアンフィスバエナを討伐することは出来ないとのこと。当たり前ですが優先順位は自領の平和なのです」
それはそうだよね。賢者は気軽に旅行などできない。それに身近にいる住民たちの目もあるだろうし。ドラゴンは畏怖と恐怖の象徴。自分の街の賢者が他の街のドラゴンを討伐するために旅に出ることを良しとする者はいない。
「ジュリアさん、共生をしている賢者なら多少は動きやすくもあるんじゃない?」
「共生をしている賢者様は無理に強くなる必要性がないからそのレベルも低い方が多いのです。若くしてレベルが高い方だと言われているハープナの『石の賢者』様でさえレベルは30前後だとか。そのレベルではさすがにお願いするわけにもいきません。そうなるとドラゴンの影響下になく且つ、共生をしていない強い賢者様、つまりクロエ様しかおられないのです」
軽くアリエスもディスられているようだが、そのアリエスとそんなにレベルが変わらないクロエも困ったような表情をしている。ジュリアさんもまさかニーズヘッグを討伐した『火の賢者』がアリエスとレベルがそう変わらないとは思いもしなかったのだろう。
「ジュリアさん……、その少し言いづらいのだが私のレベルはアリエスとそう変わらない。実力からいうと他の賢者様の方が数段上であろう。やはり申し訳ないのだが……」
「い、いえ、それでもニーズヘッグを討伐したことは確かなのでしょう! つまりレベル以上の力がクロエ様には備わっていると思うべきです。そ、それに、ここでクロエ様に断られてしまったら……もう私には選択肢がないのです……」
気持ちはわからなくもないが普通に考えて無理がある。魔法陣の詳細を聞いてみないことにはわからないがアンフィスバエナが身動きが取れない状況だというなら、条件次第では僕が一人で行って消し去ってもいい。一人旅とかなんか怖いから可能であればローランドさんあたりに同行お願いしたいけども。一応、聞くだけ聞いてみようか。
「ジュリアさん、期待しないで聞いてもらいたいんだけど、アンフィスバエナを討伐するということだけど、それは魔法陣で身動きがとれなくなっている状況で攻撃できるということなのかな? さらに言うと一方通行に魔法攻撃ができる状況と考えてもいいのか知りたいんだ」
「攻撃するときは魔法陣を解除しないとできません。ですので、サフィーニアの賢者が魔法陣を解除してから戦いが始まります。もちろん解除するのをアンフィスバエナも見ているので一方的な先制攻撃は難しいでしょう。ガチンコ勝負です!」
ガチンコ勝負です! じゃないよっ! 僕が一人で行ったら真っ先に殺されるな。
「アンフィスバエナが寝ている時に、こそっと解除するとか裏ワザと無い訳?」
「ないですね。例えアンフィスバエナが寝ていたとしても魔法陣の効力が弱まる瞬間を逃すようなドラゴンではありません。魔法陣を強化をする時でさえ、隙をついて攻撃してこようとするようなドラゴンですからね」
「そ、そう。さらにお役に立てないことがよくわかったよ」
「いいのよ。別にあなたにお願いしているわけではないの。これからじっくりクロエ様を口説いて行くわ」
三人組の熊さんに早めにお引き渡しをするべきだろうか。全く困ったものだ。
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