第百二話 この気持ちは?
「それで、王都はどうだったの? 結構な祝賀ムードだったって聞いているけど」
「慣れないことばかりで疲れただけだった。あまり周りを見るような余裕もなくてな。街の規模が大きいとか、人や建物がいっぱいとか、そんな程度の感想しか……あっ」
「何かあったの?」
「い、いや、おそらくお世辞か社交辞令のようなものだと思うのだが、第三王子様からやたら美しいとか綺麗だとか言われてな。妙に気に入られてしまったようなのだ。やたら親切にされて恐縮したのを思い出してな」
「へ、へぇー。やっぱり王子様って、金髪サラサラヘアーでスタイル抜群でカッコいい感じなのかな?」
「うーん、どちらかというと見た目は愛嬌のある感じであったな。私より少し背が低くぽっちゃりとしていて、茶色の癖っ毛でカールしているのだ。毎朝のセットが大変そうな髪だったぞ」
なんだか少し安心したような……これは親心とか友達だからとかではないよね。実際の年齢と差があるとはいえ、アストラルではこの年齢にかなり引っ張られており、自分自身が若返ったような感覚でいる。どうやら、僕はクロエに友達以上の気持ちを抱きはじめているのかもしれない。
ベリちゃんも一緒にいるとはいえ、これから一つ屋根の下に一緒に住むという事実に急にドキドキしてしまった。いやいや、今までも普通に野宿したり、カイラルでも同じ家で過ごしていたじゃないか。
「そ、そんなに気にいられていたらリンカスターにも来そうだね」
「実はな、来るっぽいのだ。名目としてはマウオラ大森林の調査ということでだがな。竜の巣までの道案内などを頼まれることになるだろう」
「調査といっても危険なドラゴンの調査に王子様がわざわざ来るものなのかな?」
「もちろん、護衛の者は手練れを連れて来るであろうが、これが妙に気にいられているという所以なのだ」
「ちなみに、その調査ってのはいつぐらいから始まるの?」
「流石にすぐに来れる訳でもないらしくてな、おそらく豊穣祭が終わってからの話になるであろうとのことだ。竜の巣の案内には我々の他にロドヴィック殿とダリウス殿にも同行をお願いする予定だ。おそらく道中で大型のワイバーンの話や私がニーズヘッグを倒した時のことなども詳しく聞かれることであろう。一度口裏を合わせておいた方がいいかもしれんな」
「なるほどね。ベリちゃんはどうする?」
「些細なことでベリちゃんがホワイトドラゴンだと疑われても困る。ベリちゃんはマリエールにお願いして孤児院でお留守番だな」
ここ何日か一緒に過ごしたことで、すっかり孤児院の子供達とも仲良くなったベリちゃんなので、お利口に留守番してくれることだろう。調査の人たちが戻ったころに竜の巣へ連れていってあげてもいいかな。ベリちゃんにとってもあの場所は生まれた場所でもあり、想い出の場所の一つだろう。クロエと一緒に三人でお弁当でも持っていって食べるのもいいかもしれない。
「なんだ? 何か楽しそうなことでも考えていたような顔だな」
「いや、調査とか一段落したらベリちゃんと三人で竜の巣へハイキングに行くのもありかなぁとか考えていたんだ。お弁当持っていって、たまにはのんびりとするのもいいかなって」
「そうだな。その意見に賛成ではあるが、ハルトは深淵を甘く見過ぎている。多少は強くなったが、以前のように大型のワイバーンが突然現れることだってあるのだ」
「まぁね。でも、今あのワイバーンが現れても僕とベリちゃんの魂浄化で瞬殺だと思うんだよね」
「そう言われてみるとそうなのだが、何事にもイレギュラーはある。シーデーモンとの戦いで嫌になるほど身に染みたであろう。冒険者を続けるのであればしっかりとした準備と細心の注意を心掛けるべきだ」
「そうだね。もう少しレベルを上げて更にすごい魔法を覚えるんだ」
「そういえば、ベリちゃんもホワイトドラゴンならではの魔法も今後覚えていくのだったな」
昨日、ヴイーヴルから言われたことなのだが、成長するにつれてベリちゃんも種族ならではの特徴と魔法を覚えていくことになるというのだ。ホワイトドラゴンの特徴としては光属性による攻撃と治癒を兼ね備えた魔法になるという。また、特徴的なその白い羽毛はさらに長毛となり光沢を帯びた美しいものに変貌を遂げるという。まぁ、今後ベリちゃんがドラゴンに変身することはそうそうないとは思うんだけどね。
「魔法、楽しみだね。そういえばベリちゃんは?」
「さっきまでみんなと片づけを手伝っていたようだが……寝てしまったようだな」
クロエの指さす方向にはソファーでぐっすりと寝てしまっているベリちゃんがいて、ちょうどドニーがタオルケットを掛けているところだった。やるじゃないかドニー、偉いぞ。今度何かお菓子を作ってあげようじゃないか。
ベリちゃんは孤児院の中では年少組なので、お兄さんお姉さんの手厚いお世話を享受している。お世話している子がドラゴンだと知ったらそれは驚くことだろう。
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