第十話 仮面の賢者
川へ向かって歩いていると明らかに戦闘中っぽい轟音と女性の声が聞こえてきた。人には会いたい。けど物騒なのは勘弁してもらいたい。
こっちはさっきからゴブリンやらワイルドボアやらと戦いっぱなしなのだ。様子を見てヤバそうだったら逃げるか? まぁ見てから考えよう……。場合によっては遠くから毒消し魔法で援護してもいい。
全く水場は殺し合いしかしてないのかよ。
茂みの中からソッと川辺の様子を伺ってみると、仮面の女の子がとんでもないのと戦っていた。えーっと、多分だけどあれはきっとドラゴン。深い緑の体表に大きな翼を広げて仮面の女の子を強烈に威嚇している。体長30メートル超級。あぁ、これは無理。どうやら話し声が聞こえてくる。何故だか知らないけど話している内容を理解できたのは幸いだ。
「深淵のドラゴン、ニーズヘッグよ! なぜそんなにも暴れているのだ。ここは人里近い場所である。自らの巣穴へ戻ってくれ」
「知らん。たまたま来てみたらワイルドボアの焼ける良い香りが……ってどうでもいい! お前ら矮小な人間どもに我の住む場所を決められて堪るか。……それにしてもお前は前に会った賢者と比べて随分と弱そうだなぁ。死ぬか?」
あれっ、ワイルドボアの香りだと……。ま、まさか僕のせいか!? いやきっとたまたまだ。
「ま、待て。深淵のドラゴン、ニーズヘッグよ。こちらの希望は争うことではない。深淵の巣穴へ戻ってもらうには何を用意すればいい! 出来る範囲で応えようぞ」
「お前ひょっとして代替わりしたばかりの賢者か? そうか、奴は死んだのか! それで戦える者がいないというのだな」
「ち、違っ! これ以上近づくというなら此方も相応の対応をとらせてもらうぞ!」
仮面の女の子がめっちゃ劣勢です。何で仮面してるんだろう。防御力めっちゃ高いのだろうか。それともめっちゃブサ……。いやまぁ、女の子には悪いけどドラゴンさん相手に参戦しても共倒れになってしまうだけだ。かわいそうではあるが自分の命の方が大事。せっかく見つけた第一村人ではあったが見なかったことにするか……。
「相応の対応か。ならばやってみるか」
グオォォォォ!!!!!
ドラゴンの咆哮だけで仮面の女の子は尻餅をついてしまっている。これは既に勝負はついている。
なんとか立ち上がって杖を構えてみせるも杖先は小刻みに揺れている。
ドラゴンさんは悪い笑みを浮かべながらその口に火の玉を出現させると仮面の女の子に向かって吐き飛ばした!
逃げ切れないと察した仮面の女の子はマントを被りダメージを抑えようとするも爆発とその爆風で吹き飛ばされてしまう。僕の火球の3倍はありそうな規模を悠々と吐き出していた。
よろよろと再び立ち上がる仮面の女の子はズダボロになりながらも尚もドラゴンを説得しようと話しかける。
「し、深淵のドラゴン、ニーズヘッグよ! 何とか、何とか気を鎮めてもらいたい。こちらに争う意思はないのだ。どうか! どうか退いてはもらえぬか!」
「おいおい、ひょっとしてまさかとは思うが、今一番強いのはお前なのか? 助けが来ないところを見ると、この数年で本当に戦える者がいなくなったのだな。笑える! 笑けてくるわ! 強い賢者がいるからと様子を伺っていたのだが。なんだ、もう奴はいないのか。はぁっはっは! ……ならば、もうお前らは滅ぼすか?」
「た、頼む。深淵のドラゴン……」
ドラゴンの尻尾が仮面の女の子の脇を捕らえると川の中に吹っ飛ばされてしまう。川の中で杖は折れ、仮面も外れてしまった。
それにしても、この女の子は何故に逃げないのだろう。時間稼ぎをしているような感じではない。明らかに自分が最後の砦になっている者としての意志がそこにある。
まだ若い。顔を見ると可愛らしさの残る、しかしながら意志の強そうな目をした少女がドラゴンを見つめていた。足を捻ってしまったようでその顔には諦めの表情が滲み始めており、シルバーロングの髪が川の水に濡れて頬や身体に貼り付く姿はより悲壮感を漂わせている。
ドラゴンが女の子に近づきながら口に火の玉を出現させた瞬間、僕は勝手に叫びながら飛び出していた。な、何も考えとかないんだからね!
「おらっ! そこのドラゴン死ねやぁぁ!! てぇいっ! 火球! 火球! 火球!」
僕は右手に持っていた骨付きボア肉をドラゴンの口に向かって放り投げると肉に反応したドラゴンは慌てて咥えてくれた。僕はその口目掛けてとにかく火球しまくった。
煙が晴れると、ピクピクとこめかみをひくつかせながら炭になったボア肉を咥えたノーダメージのドラゴンさんがプンプンでこちらを睨んでいた。
「何だ、お前? どうやら死にたいようだな」
「な、何をしているのだ! は、早く逃げるのだ! し、死ぬ気か!」
ブオォォォン!!
「う、うぉー、ぐはっ!!!!」
気がついたら僕はドラゴンの尻尾で吹き飛ばされており、砂利まみれの川辺を何メートルも転がされていた。
「だ、ダメだ……。ロ、ロードするか……」
意識が飛びそうになりそうな中、女の子の声が再び聞こえてきた。
「し、深淵のドラゴン、ニーズヘッグよ! 私が相手だ。その者は、その者は見逃してもらえないだろうか」
この女の子はいったい何なんだ。
この世界の人間の考え方が理解できない。まるで自分の命を捧げることに何の戸惑いも感じられないじゃないか!
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