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第一話 はじまり

 この物語は、一人の青年がある不思議な本を拾ってしまったがために起こってしまったお話である。




 最近道を歩いていてもあまり物が落ちていないとは思いませんか? 昔と比べてマナーが良くなったのか、それとも地域に住む方々の努力の成果なのか……。


 何を言いたいのかというと、今僕の目の前には大きめの辞書みたいな分厚い本が落ちているのだ。


 通勤途中なので普段ならスルーしていたかもしれないが、道端に落ちているには違和感のあるサイズの本に珍しく思ってしまい、つい足が止まってしまった。そして止まってしまったら自然と手に取ってしまうものだ。


「思っていたよりも軽い……のか」


 気のせいか手にものすごくフィットする。背表紙には『冒険の書』と書かれていた。厚みのある割りにはあまり重量感を感じさせない。見た目は荘厳で由緒正しい美術書のように少し古めかしいデザインで刺繍された装丁となっている。古本屋で高く売れるかもしれないなとか思いながらも律儀に警察に届けようと思うのは僕も大人になったということなのだろう。


「今日は少し早めに家を出たから時間には余裕がある。さっさと届けちまうか」


 それにしても落としたらすぐに気づきそうなサイズなんだけどねぇ。駅前の交番を思い浮かべると反対側の改札だったなと思い出し、駅のコンコースを反対側へと進んでいく。


 階段を下り左側に進むと交番がある。パトロール中とかは勘弁してもらいたいなとか考えていると二名の警察官が椅子に座っているのが見えた。


「よかった。すみませーん! 落とし物を拾ったのですが」

「落とし物? 何を拾ったんですか?」


 書類を準備しながらボールペンを用意している警察官。この人は何を言ってるんだろう。左手に持った本を見せながら言ってるのだ。落とし物はこの本に決まってるじゃないか。


「本ですよ。この本」


「出して下さい。本はどれですか?」


 話が通じない。なんかおかしい……いや、まさかとは思うが。


「この本が見えていないんですか?」


「あのねぇ、君。朝から警察官をおちょくるなんて、まさかお酒でも飲んでるんじゃないだろうね?」


「い、いえいえ、飲んでませんって! 念のためそちらに座ってる方にもお伺いします。『この本なんですけど見えてますか』?」


「君、ふざけてるのかい? 申し訳ないけど朝から君のような人を相手にしてる暇はないんだよ。スーツを着てるということは一応社会人なんだろ? くだらない遊びをしてないで早く会社に行きなさい」


「は、はぁ。すみませんでした……」


 逃げるように交番を飛び出した僕は駅のトイレに駆け込んでいた。


 やはり、この本が見えていないのか。どうしよう、ヤバいな。ちょっと興奮してきたぞ。誰にも見えない本が今僕の手元にある。そして、この本の名前は『冒険の書』。す、少し読んでみるか……。


 息を整えながら、本を開いて1ページ目を見てみる。真っ白で何も書かれていない。次のページもその次のページも同じように真っ白だ。拍子抜けも甚だしい。僕のわくわくとドキドキを返してほしい。


「あぁぁぁ! このまま会社に持っていくのもかさばるしなぁ。誰にも見えてないならこのままトイレに置いてっちゃうか」


 トイレの荷物置きスペースに『冒険の書』を置くと僕は何事もなかったかのように個室の扉を開いた。




◇◇◇◆◆



「えぇ、では次のニュースです。本日失踪したと思われる東京都品川区在住の会社員伊勢谷陽斗(はると)さん27歳の物と思われるカバンが駅のトイレで発見されました。貴重品等を盗られた形跡もなく何かしらの事件に巻き込まれた可能性があるとして警察は捜査にあたっているとのことです」


「最近はこういった失踪事件というのが増えていますね。事件に巻き込まれた可能性が高いとのことですが早く無事に発見されるといいのですが。それでは、次のニュースです」




 どうやら事件に巻き込まれたとされる会社員伊勢谷陽斗(はると)さん27歳であるが、まるで神隠しにでもあったかのように知らない世界に飛ばされていた。トイレの扉を開いて出るとそこは森の中だったのだ。


「うぇぇぇ!? な、何で!」


 そして、見覚えのある『冒険の書』は左手におさまっていた。トイレに置いてきたのに……あぁ、ほぼ間違いなくこの『冒険の書』のせいだろうな。後ろを振り返っても既にトイレはない。


「こ、これはあれだな。ひょっとしたら異世界かもしれないな。何しろ『冒険の書』とか持ってるしね」


 四方八方どっちを見ても木しかないし、道もない。どうやって歩けばいいんでしょうか。更に、恐いことにさっきから獣のような叫び声が遠くから聞こえてくる。ヤバい。これはすぐに死ねるな。


 スーツのポケットを確認するもハンカチと名刺入れ、キーケースがあるだけだった。スマホはカバンの中か……あっ、カバンない。トイレか……。


 ここがたまたま運良く日本のどっかの山の中だったとしても食料も水もなく生還するなんてきっと夢のような話だろう。


 空を見上げてももちろん電線とかないしね……おぉぉぉ、デカイ鳥が空を飛んでいる。


 おいおいおい、ジェラシックパークかよ。これで地球の線は完全に無くなったな……。

20時頃に第二話を投稿する予定です。

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エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
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― 新着の感想 ―
[一言] 道ばたに落ちていた冒険の書を拾ったら、異世界に拉致られました(笑) わくわくだぁ(//∇//)
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