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改史 大戦  作者: BT/H
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第5章 第1次世界戦争編 G-0006 マンザラ湖畔の戦い-3 終章

 ラス・エル・バー沖 揚陸作業中の艀、タグボート群 11月1日00:30

 砲撃が始まっておよそ8時間。砲撃はいまだに行われている。時間当たりの砲撃数はかなり少ない。砲弾の総量を考慮して、一晩中砲撃を浴びせる気だったからだ。その様子はラス・エル・バーへの揚陸作業中の作業員たちの耳にも届いている。砲撃音と発砲炎は見えているからだ。

「なんだ?」

 集中力を欠いた作業員がたまたま荷下ろし中の艀から陸地を眺めると、その光に照らされた何かがエンジン音と共に複数通り過ぎた。それは砲撃中の戦艦方向へ走る。しばらくして戦艦から聞きなれない爆音と水柱と火球が上がった。


 オスマン艦隊旗艦 旧独巡洋戦艦 ゲーペン 現ヤウズ・スルタン・セリム

「何の爆発か!!腔発 (砲身内での砲弾誘爆のこと) か!!」

 だがそれは振動が否定する。30秒近くの間に8回の爆発が艦を大きく震わせる。

「機関室に浸水あり!!防水不能!!隔壁閉鎖し、浸水区画の制限を!!」

「後部弾薬庫も浸水を確認。同様に封鎖」

 損害は極めて大きい。

「バカな!!本艦の防御構造は石炭庫を緩衝材とした2重底構造だぞ!!隔壁2つを突破されない限り機関室はおろか弾薬庫に浸水なんてありえないはずだ!!」

「後部着底しました。」

 水深が浅いので浸水し、喫水が深くなればすぐに船底が海底と接触する。すなわち、状況は急速に悪化している。既に航行不能だ。

「魚雷攻撃か!!敵艦を探せ!!2次攻撃の恐れがあるぞ!!」

「浮遊機雷による触雷の可能性もある海面にも目を凝らせ!!」

「各水兵は武器庫より小銃を装備せよ。機雷を見たら狙撃せよ。」

 さらなる被害の拡大を防ぐための措置をとる。だがすでに

「一部機関停止。発電機は生きています。排水ポンプに全力を!! 隔壁閉鎖を急げ。」

「砲塔へ回す電力を喪失。揚弾機使用不能。砲撃継続不能。」

「砲術科員も防水に走れ攻撃は中止だ!!」

 艦を救うために兵が走る。

「見張り員から漂流者を発見したとのことです。アジア人が複数名。」

「破壊工作か!!」

「警戒していたのではないか!!」

 騒ぎ出す参謀たち

「それよりも情報が欲しい。救助せよ。」

「了解。」


ドゥミヤート 総司令部

砲弾がやんでしばらくして報告に伝令が入ってくる。

「ラス・エル・バー前哨陣地から入電。ゲーペン襲撃に成功…着底を確認。」

「そうか…。」

 中島中佐の策は窮余の策だった。

元々、避難民輸送のために航空機エンジンを民間から徴用した小型船舶に搭載し、タグボートのように運用することを計画していた。それを流用したのだ。

敵の砲撃が始まると同時に彼らは砲兵隊から移譲された大型砲弾(榴弾)を複数小型船の船首に搭載して川を下ったのだ。彼らのやったことはわかるだろう。太平洋戦争末期における特攻ボート震洋と同様の小型艇による体当たり戦術、現代でも行われた小型特攻ボートによる襲撃戦だ。

ただし、砲弾搭載までの時間を舵の固定装置作成に投じていたために舵の固定後、脱出するのが前提となっていたが。

 さらに2重底は同じ個所に複数のボートを命中させる方法で内側の隔壁まで破壊した。

「あとは攻め寄せる敵を押しとどめるだけだ。死守せよ!!」


 オスマン艦隊旗艦 旧独巡洋戦艦 ゲーペン 現ヤウズ・スルタン・セリム

「大日本帝国空軍所属中島知久平中佐か。」

 救助された日本人の代表は中島中佐自身だった。合計8隻投入され、各2人の搭乗員計16名中12名がゲーペンに救助された。のちにわかることだが、4名は何とか陸まで泳ぎ切り、全員が生還している。

「救助されたことは感謝します。我々は捕虜ですから国際法に準じた扱いをお願いいたします。まあ、この船は航行不能の模様ですのでとっとと船を捨て、スエズに撤退すべきであると愚考いたしますが。」

「それは挑発か?」

「いえ。ただ意見を述べただけです。オスマン帝国に整備設備が不足している以上、この艦がこの戦争中に戦線復帰することは不可能。だからとっとと捨てるべきと申したのです。我々も死ぬのは嫌ですからね。では。」

 中島は艦橋から外に出る。行先は独房代わりの部屋だった。


 英国海軍 地中海艦隊 分艦隊 (高速艦艇のみで編成) 旗艦インディファティガブル

 セルビア救援任務に投じられていたほぼすべての地中海の協商陣営艦艇の内、外洋での高速航行が可能な大型艦を抽出し、救援艦隊を編成した。その結果、抽出された艦はオスマン帝国に逃げ込んだゲーペンを追撃した艦隊の内アレクサンドリアたまたま東地中海におり、その関係でマンザラ湖周辺の戦いに参加できた『ディフェンス』以外の巡洋戦艦 (インフレキシブル、インディファティガブル、インドミタブル) 3、装甲巡洋艦 (ブラック・プリンス、ウォーリア、デューク・オブ・エジンバラ) 3の合計6隻だった。

「日本軍の強行作戦でゲーペン航行不能とのことです。」

 その艦隊には

「アーチボルド中将。」

「私の失点は弟子たる日本海軍が晴らしてくれた。」

「海軍ではなく、空軍の志願兵で編成された小型民間船…カッターのような船に航空機用エンジンと火薬を搭載し、体当たりを仕掛けた模様です。」

「空軍だと⁉」

「体当たり攻撃では生存者は!!」

「情報は入ってきていませんが、おそらく皆無です。」

「そうか…だがこれで練度を踏まえれば戦力的には互角だ。敵が足手まといの補給用船舶や上陸部隊を抱えている以上、戦略的機動性はわれらが増援艦隊に有利だ。」

「大口径砲力は敵が勝っていますが、速力は当方有利、練兵もトルコ海軍の教師であった祖国が上であることに疑いない。」

「さらに敵にはわが艦隊の存在が頭にない。奇襲ができますな。」

「わかっていても構わんさ。戦略的選択肢は逃げるか戦うかだが、前者は陸上部隊を見捨て、後者は陸上部隊の撤収時間を稼げれば陸上部隊が生き残るが、そこまで持つとは思えんし、速力が勝っている以上、敵は逃げきれん。残存艦艇はわが国が全滅させることができる。そうなれば英連邦の陸軍部隊の到着で日本軍から指揮権を奪還し、スエズを奪還できる。これは奇襲でもさして変わらん。」

「確かに」

(それに日本には確実なら損害が入り、それは欧州戦線への大兵力投入を誘発する呼び水となるだろう。)


 オスマン艦隊旗艦 旧独巡洋戦艦 ゲーペン 現ヤウズ・スルタン・セリム オスマン帝国軍士官

「英国艦隊が接近しているだと⁉」

「ええ。セルビア救援艦隊の内、高速艦艇が抽出された。戦力的には互角、陸上部隊に拘束されているトルコ側が不利。艦隊が殲滅されれば英連邦の増援陸上部隊にスエズまで奪還される。今、講和すればスエズは交渉次第で当面オスマン帝国が管理できる。」

「そのような情報を流して…下手したら機密流出に関する罪だ…普通の日本人がやる手ではない。それは君の独断なのか?」

「ええ。私個人の考えです。長引けば同胞の命が危うい。日本が総指揮をとっている間に解決せねば彼らは日本軍を使いつぶす…それこそ捕虜の命すら捨て駒にして。」

 彼はしばらく捕虜と話して、捕虜の収容されている部屋を出る。

「協商軍も一枚岩ではないか…司令部に水上機の派遣を要請してくれ。『停戦交渉をすべき。英国艦隊接近中戦力同等』だ。」


 ドゥミヤート 総司令部 11月1日08:00

 捕虜から得られた情報をもとにオスマン帝国が動いた。オーストリア=ハンガリー帝国水上機部隊を動員して交渉使節をドゥミヤートに送り込んだ。その中にはあのオスマン軍士官もいた。

「この接収行為は英国の不法、不当、不正義な行為に対して抗議するために行われたものであり、英国に敵対するものではないし、その意思もない。我々は戦艦の引き渡し、もしくは違約金が支払われるまでの期間スエズ運河の管理権と駐留を主張する。むろん自由通行は認めるが、通行料を延滞金として要求する。それに、水資源確保のため、スエズ運河に駐留している間、ドゥミヤートへの駐留を容認せよ。」

 という内容がオスマン帝国の要求だった。

 つまりは戦艦を英国が略奪したので返せ。その間スエズ運河を人質にとる。というのが要求だった。

「不当に拿捕せしめている船舶、人員、食料以外の物資を返還せよ。」

 日本側の要求はそれだけだ。スエズ運河はもともと日本のものではない上、他人の財布から支払いをするようなもの。運河が使えれば運河の奪還は必要ない。

「それに奪還しても商船なりを自沈されて封鎖されては意味がない。それに交渉とは双方が6:4で勝っていると思える状況を作り出すことが肝要だ。」

 のちにある日本人がつぶやいたことだ。何しろ日本は閉塞船として利用できる商船を拿捕されている状態なのだ。日本にとって、オスマンに抑留されているものがすべて無傷で帰ってくること、オスマンにとっては戦艦とスエズの利権だ。損をするのは英国。そして双方から疑念の目を抱かれているのも英国だ。

「双方の要求に交渉する余地がないですな?」

 それもそうだ。双方承認するだけ。交渉時間もかなり短い。

「いやスエズ運河が通行可能だからと言って!!」

 文句を言うのは英国。

「視点が狭い。このまま戦力をそろえてスエズ運河を奪還しても多数の商船が向こうにある以上、自沈させ運河を封鎖するという最終手段が使える。それでは運河が使えない。」

「しかし、要請は奪還では!!」

「奪還の目的は?」

「スエズ運河を使用できる状況にするためです。」

「しかし奪還では先の危険が生じる。奪還はスエズ運河を使える状況にするという目標ための手段であり、ほかに手段があり、それが確実な手段である以上、それを使っても問題はなかろう。」

「しかし…」

「馬鹿者!!下級司令部に与えられた権限は何のためにある!!独自の判断ができないのならば下級司令部はいらない!!指揮官のみ存在すればいい!!」

「そもそもの問題、英国自身がオスマン帝国に不義理を働いたこと、それがスエズ失陥の原因である。英国の損失は考慮すべき事象ではない。責任は英国がとるべき事象だ。」

 何も言えない。

「そしてここに戦力がとられている間にセルビアは陥落する。セルビア戦線で逃げおくれた人間がどうなっているかの報告は聞いているのだろ?」

 これについても何も言えない。史実においてセルビア戦線はオーストリア=ハンガリー帝国とブルガリアによるジェノサイドの舞台だった。それが現在進行形で起きているのだ。

「では交渉は妥結だ。早く戦争を終わらせるためにオスマン帝国水上機をお借りする。謄写版で休戦の旨を記入した紙をばらまいて戦闘を終わらせる。」


 スエズ攻防戦は1914年11月1日終戦した。2日に予定されていた英国によるオスマン帝国への宣戦布告は中止された。日本人たちはその日のうちに解放された。返還された船舶に直ちに乗り込んでアレクサンドリアに向かって出航した。解放が既定路線であったために商船の機関にはすでに火が入った状態でもあったらしい。

 そのためにこの後に起きる事件に巻き込まれることはなかった。

 

1914年11月2日 英国による参戦要請(キャンセル遅れ) に伴うロシア帝国のオスマン帝国への宣戦布告と、ロシア軍コーカサス方面軍の前進


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