2章2-2戦間期 陸軍の戦い 軍縮の嵐
陸軍(児玉)が軍縮に前向きです。
陸軍参謀本部 1906年4月12日
陸軍参謀総長は前日より児玉源太郎が任命されていた。任命されてすぐ児玉は高橋是清の訪問を受けている。
「労役ですか?」
大蔵省は会議の結果、財政の健全化のため徴兵の縮小を陸軍に求めるしかなかった。兵員の縮小はもちろん徴兵期間の縮小(3年→2年) をもしなければならないと断じた。
当然、陸軍の反発覚悟で児玉源太郎に話に行ったのだ。
「そうじゃ労役じゃ」
児玉の返答は反発ではなかった。むしろその改良案を上げてきたのだ。
「財政の関係ですべての国民に兵役を課すことはできない。その代り働かせるということですか。」
「そうじゃ。平時にゃあ何も生産性のない軍隊よりもその方がええ。」
日本の歴史での税としての労役は奈良時代の租庸調の時代の税制にまでさかのぼる。現代での労役は刑罰としての労役が有名である。むろんそんなこと児玉は知らない。
「しかし、それでは練度の維持が困難になるのではないですか?」
この時代、徴兵は国家の最重要課題である。徴兵を前提とした軍備を各国はしている。平時における常備軍は幹部クラスが多い頭でっかちな組織になっている。徴兵でピラミッドの底辺を供給することでようやく戦力として当てにできるのだ。徴兵の削減はその戦時の動員を妨げる要素になる。
「それについては考えがある。学校教育の中に教練の一部を入れるこたぁできんか?さらに射撃場を軍主導で作れんか?」
「兵役前に兵役でする教育の一部をするということですか。」
「左様。」
「費用や教員はどうされます?」
「学校教育は当面予備役に任せる。しかも下士官級。そのうち正規の下士官にやらせる。これなら下士官兵の定員も増大するけぇ結果的に戦時の動員兵員総数は増大する。」
戦時動員の限界は歩兵の数ではない。平時から教育しなければならない下士官兵や砲兵、騎兵がボトルネックになる場合が多い。逆を言えばその定数が増えれば動員可能人員が増加するのだ。
「射撃演習も同じゃ。予備役下士官を教官と管理職に据える。そのうち正規の下士官にやらせる。費用は銃弾を有料にすりゃあええ。軍の保有弾薬は新しいほうがええけぇ古い弾薬を放出することもできる。生産設備を維持することにもつながる。」
常時、弾薬が一定数消費できる状態になれば備蓄弾薬の放出で新鮮な弾薬を備蓄できることになる。その数も増加するだろうから戦時の備えにはよいだろう。その管理費用もかかるが弾薬の売却利益で補填することもできるから支出は少なくなるだろう。
「労役と兵役の選別は不公平と不満が出る。」
徴兵制が日本で施行されたころ、国民からの反発が生じた。しかし、この時期には兵士になることが名誉とされている。兵士の定員が減れば不公平が出る。
「労役をせんほうが問題じゃ。兵役に選ばれだったもの (選ばれなかったもの) も国家に貢献できる名誉がある。徴兵に選ばれるよりは不名誉なことでないかもしれんがね。」
「選別方法は?」
「試験をすりゃあええ。試験で上位の奴と鍛えなおさなならんほど下位を取ったやつ。前者は下士官兵に上げて後者は鍛えなおしちゃればええ。これなら徴兵前に訓練ができる。」
児玉はこのタイミングで一度言葉を切る。
「ウラジオストックや満州の開発の労働力がおるじゃろそれを安う供給できるじゃろうて。」
日露戦争時、兵士はうまい飯が食えることからという意味でも人気だった。しかし労役はそんなに優遇する必要はない。飯は平均的な水準にし、給与は現地で遊べるだけの金額にする。そうすれば通常の労働者を雇うよりも安く済むはずだ。
「労役の戦時徴兵に関しては?」
「対象にすりゃあええ。だが、即応にゃあ向かん。早期育成すりゃあええ。即応要員でないけど後詰にゃあ十分じゃろ第2次動員の際にゃあ十分戦力になる。それに塹壕戦になったら力仕事しとるほうが戦力になろうて」
「なるほど。」
「それにな徴兵が施行できとらん地域があるじゃろ。その地域は労役のみでもできるじゃろ。開発にもってこいじゃ。」
数日後、同室
「例の件に関してどうだ。秋山。」
児玉は秋山を迎える。秋山は旅順で大島義昌中将の話をすぐに児玉に伝え、行動を起こした。その時の報告に来ている。
「飛行器は面白いものです。しかし、それ以上にその動力について注目したいですね。石油を動力にしてます。弟に聞きましたが海軍もその動きがあるそうです。」
秋山が言う。秋山の弟 秋山真之 は史実よりも造船官のつながりが強かったため、その情報が早く入ったようだ。
日本海軍は世界的に見て比較的早く重油の利用を決めた国家である。日本初の石油を動力として採用(基本的に石炭と混合して利用)をした主力艦は1905年…日露戦争時代に計画されたの筑波型装甲巡洋艦(事実上の戦艦) だった。
ちなみに諸外国においては
起工(ネームシップ基準)
英国キング・エドワード7世級1902年3月8日
仏国クールベ級1910年9月1日
伊国ダンテ・アリギエーリ1909年6月6日
露国ガングード級1909年6月3日
独国カイザー級1909年12月
米国フロリダ級1909年3月8日
日本筑波級1905年1月14日
と、英国を除き、極めて早い段階である。このように石油を重視していた軍隊が太平洋戦争前に仮想敵国に石油を握られているという事態が信じられない事象である。
「石油に関して陸軍でも研究に上げるべきでしょう。同様の動力を搭載したオートモービルに乗ってみましたが、あれは面白いものです。研究に値するものであると考えます。」
「何をするべきかね。」
「動力、オートモービルともに購入が一番早い道です。金さえあればですが。」
海軍好きのために陸軍の話なのに海軍の話が混じっています。次は海軍編楽しみです。