第5章 第1次世界戦争編 E-0006 追撃の逆撃
あけましておめでとうございます
1914年8月25日 未明 タヒチ島
「あれを見ろ!!あの艦艇わが軍のものではないぞ!!」
タヒチ島にいた見張りの兵士が双眼鏡を覗きながら隣の兵士に話す。
「装甲巡洋艦2隻…。あれは…ドイツ東洋艦隊!!敵です!!」
「警報を鳴らせ!!応戦するぞ!!」
サイレンが鳴り響き、砲台から砲弾が放たれる。しかし射程外。届きもしない
「敵艦接近。砲撃を確認」
「糞ッ。一方的にやられる。」
「襲撃を知らせろ!!」
砲撃戦は続く。
「スコールだ…」
空から雨が降る。戦局は悪化するばかりだった。
1914年8月28日 仏領タヒチ島 大日本帝国海軍第1南洋艦隊
日本艦隊は進路をタヒチに向けた。正しくは艦隊のうち戦艦と巡洋戦艦計6隻だ。小型艦は石炭の残量、速力・戦力を理由にマルキース島に残留した。
これまで日本艦隊はドレーク海峡の封鎖を目的に行動していた。しかし、サモア・タヒチへの襲撃はその前提を崩しかねなかった。ドイツ艦隊がインドシナ方面へ戻ろうとしているのではないかという疑念だ。シュペー提督が、防衛艦隊との遭遇を予想できるサモアやタヒチのような重要拠点への攻撃を企画したということは、ドイツ艦隊の中に何かが起きていると考えさせる効果もあったのだ。
これは燃料の枯渇かもしれない。あるいは重大な故障かもしれない。その結果、本国への帰還をあきらめ自暴自棄になり、死に場所を求めるように、攻撃するべき敵戦力を求めているのではないだろうか。一戦交えて名誉を確保すれば、傷ついた艦隊はチンタオへ戻ろうとするかもしれない。ドイツ艦隊の動きを読み切れないドレーク海峡の封鎖は無意味になるかもしれないのだ。そうなればより直接的な追撃を行うしかない。よって日本艦隊は方針を急遽変更したのだ。
「ひでぇ…これがタヒチか…」
タヒチ島は襲撃を受けて3日しかたっていないが未だに炎がくすぶっている。フランス側がドイツに奪われないように備蓄してあった石炭を燃やしたためである。
「捜索を開始します。」
各戦艦1隻だけでドイツ東洋艦隊以上の戦力がある。問題は日本艦が1隻だけだと分散して逃走する船が現れた場合だ。だがこの場合でも複数回会敵させることで問題はないし、会敵すればどこに敵艦隊がいるか判明する・。それだけで十分だ。太平洋の広い範囲のどこにいるかわからない敵艦隊よりも会敵地点付近にいるドイツ艦隊の方が捜索、殲滅は楽だ。
タヒチまで最短距離を航行した艦隊はタヒチの被害状況を確認するとドイツ艦隊の捜索のために散開した。
しかし、再び日本艦隊はドイツ艦隊に振り回されることになる。迂回航路をとり、ドイツ艦隊が襲撃したのはフランス領マルキース島だった。
マルキース沖海戦
1914年8月29日 AM01:00仏領マルキース島 貨物船 インフレキシブル
「燃料庫、準備完了です。」
「乗員総員退艦準備完了」
「よし。電通盤通電。」
直後、貨物船は炎に包まれた。
同刻 大日本帝国海軍所属1等駆逐艦 時津風
「貨物船インフレキシブル爆発しました。」
日本海軍の艦艇は昼間、ドイツ艦隊の捜索を行い夜間に燃料を補給している。そのために各石炭輸送船に2隻ずつ接舷。人夫を動員し、石炭を補給している。
「補給中の1等駆逐艦海風・山風、防護巡洋艦平戸引火します」
「人夫が次々飛び込んでいます。」
「乗員救助急げ。糞甲板上にまで積載した石炭が…」
急遽長距離公開をする可能性を考慮し、甲板に積み上げた石炭が爆発の余波で飛び散った燃える石炭をかぶり。炎上している。
「消火する。石炭の積み込みが終わっていない船は急ぎポンプを始動させ放水せよ」
「1等駆逐艦浦風、江風了解の信号が上がりました。」
「あの2隻は重油専燃缶とディーゼルだ。ほかの船よりも機関始動が速い。」
浦風、江風ともに浦風級駆逐艦と呼ばれる船である。この船は日本国駆逐艦最後の国外生産艦である。そして改史において日本初のディーゼル機関搭載艦である。
後者については説明を要する。
史実においてこの艦の建造は第1次世界大戦と重なったために大きな問題が生じた。機関部品の一部がドイツ製だったのだ。この部品は当時の軍艦の主流動力である蒸気タービン機関とディーゼル機関をつなげる部品がそれだ。それが禁輸され到着しなかった。そのためにディーゼル機関の搭載をあきらめるしかなかった。(ディーゼルエンジンはドイツ製だが戦争前にイギリスに到着している。) 結果海軍にとって保有意義が失われた。2番艦江風はイタリアに売却されている。搭載されなかったディーゼル機関は中立国経由で日本に輸送され剣崎という給油艦に転用された。
しかし、改史では全体的に軍艦の建造ペースが速まっているために第1次世界大戦による影響なく日本海軍に編入運用されている。
なお、このような設計がなされていたため石炭を一切使用していない。給油も専用の補給設備のない民間の貨物船だったが、停泊中はサイフォンの原理を利用した給油を行っていたために給油の手間は少なかった。
2隻はディーゼルエンジン2基と蒸気タービン用のボイラー3基を有している。通常、ディーゼルエンジン用の重油は常温であれば粘度が高く、使用ができないために予備過熱し、粘度を下げる必要がある。このためにディーゼルエンジンの始動にはそれなりの時間がかかる。しかし、軍用艦船は停泊中にも乗員・設備のために一部のボイラーが稼働している。この稼働ボイラーに予備過熱の役目を負わせていた。そのため始動が速かったのだ。
このことが2隻にとって幸運か不運かそれは分からない。消火開始10分後、停泊していた海域に大きな水柱が立った。
「砲撃だ!!火を消せ目標にされているぞ!!」
「自沈の許可を!!このままでは出港もできずに撃沈されるだけです。」
「糞…自沈を許可する。キングストン弁を破壊。進水させろ。乗員は陸まで泳げ。浦風、江風はインフレキシブルを撃沈処分せよ。」
「応戦のために出港する緊急出港だ!!機関最短で始動しろ。何1時間かかる!?」
「撃沈完了次第浦風、江風を時間稼ぎに出させます。」
「了解。」
「糞戦力の逐次投入になる!!石炭も捨てさせろ!!」
「時間を稼がなければ本隊が戦闘もできずにやられます。」
背後で浦風がインフレキシブルに向けて砲撃を敢行。互いが停止しているうえに至近距離であるがためにすべての砲弾が命中。貨物船は船尾からゆっくりと沈み始める。ほかの3隻もゆっくりと水面下に没しつつある。
「浦風、江風進発します。」
大日本帝国海軍 1等駆逐艦浦風
「水中の大きさ、数からみてドイツ東洋艦隊主力。装甲巡洋艦2隻の主砲からの砲撃だ。主砲弾の節約のため接近をもくろんでいると思われる。我々の目的は時間稼ぎ。本隊到着まで耐えろ。」
「艦長!!機関はまだ十分ではないです。ボイラー1基・ディーゼル機関こそ使えていますが、ボイラー2基の圧力は未だ低調です。速力は不十分です。」
「そんなことは分かっている。それ以上に疑問だ。火災と襲撃に時間差がない…まさか!!」
艦長は双眼鏡を取り出し、貨物船インフレキシブルを見る。マストにはドイツの旗が燃えていた。
ドイツ東洋艦隊 旗艦シャルンホルスト
「日本艦隊には戦艦はいないようです。陽動攻撃につられた模様です。」
「情報通りだ。それでも防衛戦力に防護巡洋艦3隻に駆逐艦8隻…機関始動する前に仕留めるぞ。」
長めなので次話に




