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改史 大戦  作者: BT/H
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日露戦争-04 ポーツマス

 日露戦争途中からの中途半端なスタートなのでもう終戦間近です。これからは政治の…外交の時間です。

1905年7月7日 樺太

 日本はさらに樺太作戦を行った。作戦に投入されたのはウラジオストック制圧に使った主力艦隊と日本海海戦での鹵獲艦のうち損害の少ないインペラトール・ニコライ1世(壱岐)、ゲネラル・アドミラル・アプラクミン(沖島)、アドミラル・セニャーヴィン(見島) が投入されていた。

 陸軍は新編成の第13師団を投入。この師団の出動で日本が日露戦争のために編成したすべての師団が出払ったことになる。本土が無防備になるが、ロシア海軍は完全に制海権をうしなっており、勝利の可能性は皆無になっていたためそのような思い切ったことができたのである。

 この出兵にはアメリカ大統領ルーズベルトの発言がもとになっている。講和と有利に進めるための出兵である。


 樺太には多くの兵力はなかった。ロシアもそんなところにまで兵力を回す余裕もなかった。

 ロシアを東西に横断するシベリア鉄道はこのときまだ単線で、輸送力が小さかった。(ないより圧倒的にましだが) 物資の輸送では貨車の片道使用(欧州から来た貨物車はその場で廃棄する。) をして何とかその膨大な需要に対応していた。

 そんな中、海陸軍共同作戦でウラジオストックが陥落。ウラジオストックからの補給路が断たれた。海上輸送は無理だった。

 冬ならば海上が氷結し、その上を輸送路に使える。しかし今は夏だ。

 7月31日あっという間に樺太は陥落した。


 北京

「講和会議か。」

 袁世凱は青木宣純大佐の発言に答える

「清国に余裕があったとしても日本国は1年以上前に開戦しています。日本はもう体力が付きます。アメリカ、ポーツマスで講和会議が行われます。ここで講和いたしましょう。」

 袁世凱は苦い顔をする。

「我が国はロシアに対して権益の返還、領土の返還、賠償金を要求したいと思っている。」

 袁世凱の発言に青木は顔をゆがめた。

「…ロシアだけでなく、日本国民も黙っていないと思います…。」

「どうゆうことだ」

「この戦争で日本は12万人の命が失われ、18万人が手足を失い、18か月も国民は苦しい生活を余儀なくされました。清国は4か月、戦死、戦病死含め3200名、負傷、4800名…出兵した兵士と総数と比較すれば被害割合は大きいですが、絶対数は圧倒的に少ないです。国民が知れば怒りに震え、日清は対立することになります。その隙に付け込まれるでしょう。軍部も手柄の横取りを主張。不和は確実に広がることでしょう。」

「…そうだな。前線からは秋山君たちがいなければ10~20倍の戦死者を生んでいたという報告が来ている。確かに多くを求めすぎるのはもらいそこなう可能性も大きいからすべて失う恐れも大きいからな。」

「それに…領土と権利を返還してもらって閣下に何か得になることはあるのでしょうか。」

「!?」

「閣下だけが日本にお味方くださいました。それなのに清国のその戦果を奪われる…。それは理不尽ではありませんか?」

 青木はそう確信を突いた。

「私は清国皇帝の臣である。そしてわが兵は陛下の兵でもある。われの功績はすなわち陛下の功績。」

「ですが、あなたにも利益があってもよいはずです。あなたの決断なのです。清国の参戦は。」

「…」

「領土や権益を取り戻してもあなたの手元に残る可能性は低いと思います。しかしお金であれば話は別。軍の近代化予算に全振りしていただけるように進言すればそれなりにあなたの手元に結果的に残る計算になると思います。」

「…確かにそうだ考えておこう。ところでそっちの要求は何にするつもりかな。」

「領土要求は樺太全土と北緯45°以南の沿岸州、賠償金16億、朝鮮に関する権利と、ロシア保有の権益の一部を求める方針です。」

「日本もそれなりに強欲ではないか。」

「そうですか?アメリカ大統領にお話ししたところ穏当という返答をお受けいたしましたが。まあすべてが通るとは思えないので一部は吹っ掛けているのでしょう。」

 青木は肩をすくめる。

「日本国民に対し情報統制を敷いているため、国民は戦争の本当の姿を知りません。国民を納得させるには領土、旅順大連、金が必要です。その中すべての要求が通るとは私は思っておりません。その一つ賠償金に関して小村さんに頼まれてきました。」

「つまり講和会議でのすり合わせだな。」

「はい。日本はロシアの出方からしてこの順番で譲歩の圧力をかけてくると思われます。」

 和紙を渡す。


ウラジオストックの割譲及び賠償金>樺太割譲>大連・旅順>朝鮮に関すること。


「なるほどな。」

「問題なのはウラジオストックと賠償金についてです。こちらに関してこうしたいと思い、具申します。」

 青木は2枚目の紙を渡す。こちらは酸性紙(洋紙)でできている。

「了解した。」


 ポーツマス講和会議、1日目 1907年8月9日

 ポーツマス講和会議には、日本から小村寿太郎、ロシアからはウィッテ、清国からは無名の外交官が出席した。

 会議のはじめ小村と清国外交官は初めの要求書を提出した。同時にウィッテに

「各地から集まった新聞記者の中には様々な風説をねつ造し、利益を上げようとする者もいる。

 そこで会議で話し合われた内容は部外に対して秘密としたい」

 と提案、ウィッテは了承した。

 これは今の言葉でいうのなら『マスコミはフェイクニュース流すから一切秘密でやろうぜ!!』という意味になる。双方が了承し、その日の会議は終わった。


 次の日の朝。

「小村さん!!」

 一人の外交官が執務室に飛び込んでくる。

「騒ぐな。何かあったのか?」

 小村が聞くと彼は新聞を突き出す。

「ロシアからのリークと思われます。」

 新聞には昨日、ロシアに渡した要求が書かれていた。


「ひどい言われようだ。」

 すぐに開かれた日清の会談の冒頭で清国代表団は声を荒げる。曰く『清国は火事場泥棒のくせに要求が大きい。』というものだった。

 一方日本の要求は妥当という記事が目立つ。

「落ち着いてください。ロシアは清国から切り崩す腹つもりです。両国の歩調は死守しなくてはなりません。」

 小村は清国代表団を落ち着かせようとする。

「すでに手は打っています。記者会見を開きましょう。」


 8月10日 AM10:58 アメリカポーツマス

 新聞記者が集まっている。日本が雇ったアメリカ人(有色人種) たちに付近にある新聞社に連絡を取らせている。そのうえ、ポーツマス講和会議のためにアメリカに訪れている多くの外国人記者にも話はつけて連絡先を交換している。今回、それをまとめたリストを利用して片端から電話をかけまくってかき集めたものだ。

「何のために呼ばれたのですか?」

 先頭に立つ記者は聞く。

「あと2分お待ちください。お時間になりましたら発表させていただきます。」

 アメリカ人女性…黒人女性がそういうと記者は少し表情を変える。

 まだ人種差別は残っている。劣等人種の黒人が我々白人に何を言う。そう言いたげだ。

 舞台の袖には小村がカーテン越しにその様子を見ている。

「まだ差別は残っている…か。」

 小村はつぶやく。と同時にその目線を変える。怒りの形相から冷静な顔に一気に変える。

「少し早めだが出る。そして何も言わずに待たせる。」

 小声で部下にそう伝えると、部下は走り出す。

小村は舞台袖から歩き出すとテーブルの上ににつく。少しそのまま黙っている。

 少しして時計を見る。

「東部標準時間AM11:00 予定通り日本の記者会見を始めさせていただきます。」

 袖口に立つ日本人男性がそう告げる。

「日本国講和使節団代表、小村寿太郎です。今回我々が発表したいことは3つです。まず第一にロシアへの非難、第二に記者の皆様への謝罪、第3に記者の方々への協力要請です。」

 小村は口を重々しく開く。

「まず初めに2つ目の謝罪についてお話ししようと思います。

 日本国は今回の講和会議に際して昨日の第一回会議で会議の部外秘を提案いたしました。これは報道統制ともいわれてもおかしくないものです。まことに申し訳ございませんでした。」

 途端にシャッターが切られ、場が白くなる。

「私は『各地から集まった新聞記者の中には様々な風説をねつ造し、利益を上げようとする者もいる。

 そこで会議で話し合われた内容は部外に対して秘密としたい』と主張いたしました。私はあなたが偏向報道を行うと思い、情報の開示を禁じようとし、ロシアのウィッテ氏もこれを認め、第一回会議ではそれが双方に認められ、部外秘となりました。」

 小村は言葉に一拍を置く

 途端に質問を求める声が上がる。小村は礼を終え、司会に目配せをする。司会は1枚のプレートを立てる。

 しばらく、質問をしようとする記者の嵐は収まらない。しかし、一切、答えない態度に記者たちの怒りは増大する。

 しかし立て札に気が付いた記者が行動を始める。席に着席し、黙る。

 しばらくしてすべての記者が着席し、場は静かになる。

 プレートに書いてあった内容は『着席し、静かになったものから優先的に質問を受け付けます。』とのことだった。つまりうるさいほど質問は受け付けられないということだ。新聞記者の方々は名簿をもとに席が決められており、だれがどこに座っているかわかるようになっていた。そのため質問の順番を決めることができたのだ。

「ではこの時点での質問にいくつかお答えいたします。この際、順番を考えたほうがいい質問もあるので、答えないものもあります。しかしそれ以外の質問にはできる限りお答えいたします。では初めに着席、お静かになってくださったトーマスさん。お願いいたします。」

「どうしてこのタイミングでそのことを公表なさろうと思われたのですか?今朝の新聞に関連することですか?」

「はいそうです。今朝の新聞に多くの情報がリークされました。日清両国は両国の講和条件についてのすり合わせを現在のところ全くしておりません。なので要求が重なっているところがちらほら見られます。」

 これは実は嘘で本当は条件のすり合わせは実施していたのだが意図的にそれを公表しなかったのである。

「これが一つ目。ロシアへの批判につながります。約束を破って情報を公開したことに対する批判です。」

「ロシアのウィッテ氏は講和交渉の内容を公表したいと会議で発言したそうですがそれはほんとですか?」

「事実ではありません。ロシアのウィッテ氏は講和交渉の部外秘に対して了承をいたしましたが公表を主張されたことはありません。それは彼が流した偽情報です。ねつ造です。この点からもロシアに対して信用をするべきであるか疑問を呈しております。」

 しばらく質問が続く

「3つ目についてはどうなんですか?」

 という質問が飛び出してくる。小村は司会に目配せをする。

「そろそろ待ち遠しくなってきたようなので3つ目に行きたいと思います。」

 司会が言うと、小村が口を開く。

「我々はロシア帝国を信用できなくなりつつあります。戦前においては清国領土からの撤兵協定を守らず、今回も情報を勝手にリークいたしました。少なくともロシアよりは記者諸君のほうが信用に足りると思います。

 そこで、私は次の会議において会議の完全開放を提案いたしたいと思います。これについて記者の諸君に意見を求めるのと同時に協力を求めたい。」

 すぐに騒がしくなる。

「会議中、その部屋に入れるのですか!!」

 記者が大声で叫ぶ。

「いい案ですね。提案してみましょう。全員は無理でも速記と抽選で入る記者を決めて会議室に入れるようにするのもいいかもしれませんね。」

「会議の後我々の質問タイムを設けてほしいのですが…」

「各国の判断にゆだねますが、私はお約束します。日本がそのような質問タイムを開くよう働きかけることを。」

 様々なアイディアが出る。しかし最後に小村は言う。

「しかしながらそれは記者諸君にある意味義務を負わせます。正しい、そして真実を世界に伝える義務。それが生じます。世界はリアルタイムでこの講和会議について知ることができます。それがあなた方の仕事であります。それに誇りをもって報道をしてください。

 最後にまとめますと1つ目にロシアが情報をリークしたことへの批判。2つ目に情報を統制しようとしたことに対する謝罪、3つ目にこの講和会議について完全なる情報公開に対して協力を求めるということにあります。記者諸君の報道に期待いたします。」

「以上で日本の記者会見は終了いたします。」

 フラッシュが場を焦がし、小村は目を閉じる。あまりにもまぶしいからあらかじめ目を閉じているのだ。

 記者たちは急いで帰り、夕刊に間に合わせるように急いで文章を作成。その日の夕刊の見出しは日本の記者会見と記者への協力を求める記事が躍った。


 8月15日 第4回会議

 第二・三回会議では記者の立ち入りについての議論が主となり結果的にマスコミの圧力に負けたロシアが記者を会議室に迎え入れることを了承した。そのため会議室は蒸し風呂のような暑さと閉所恐怖症の人間が発狂しかねない状況となっている。

「ロシアは大国であります。世界の大強国が講和条件において譲歩した例は決して稀ではありません日本の条件は穏当かつ最低限のものであります。世界各国の利益と世界人類の幸福のため今こそロシアが平和的に時局を収集する決断をすべき時ではありませんか。」

 小村はさっそくそのように言う。それは史実通りである。

「ロシアがこのような条件を認めないのは我が国が有色人種国家であるからでしょうが、それはもう古い考え方です。白色人種が有色人種よりも優れているのであればこの戦争でロシアが大敗を喫すことはなかったでしょう。この講和に関して迫害的発想や人種差別的発想を抜きにしてお考え下さい。」

 と続けた。これはアメリカ社会にそれなりに響く。もともとアメリカはヨーロッパで迫害を受けていた人々が逃げてきて建国した国である。一部において黒人奴隷という人種差別問題があったが、基本、迫害が嫌いであり、自由主義の盟主たる国である。さらにロシア国内でユダヤ人が虐殺されていることもこれには含まれている。アメリカ社会においてユダヤ人は少ないものの重要な階級であったためである。つまりこれはアメリカ世論を味方につけるように言った言葉だった。

「賠償金、領土の割譲は敗戦国のすることだ。ロシアは敗戦国ではない。2,3度の小さな戦いに敗戦しただけだ。まだ勝てる。」

 とウィッテは返す。要求を認める気はない。

「一度も勝っていませんがね。まだ戦うとおっしゃるのならば我々は同盟国と共に貴国の反攻作戦をことごとくつぶして差し上げましょう。我々の目的は国防戦争であり、これ以上の戦火の拡大は望みません。この戦争では多くの方々に迷惑をかけております。これ以上迷惑はかけたくはありません。講和条件をお認めください。」

「賠償金の支払いと領土の割譲は受け付けられない。我が国とて戦争はしたくない。開戦前、皇帝陛下も同じ意思であった。貴国はそれを宣戦布告なしに踏みにじった。貴国にはその2つの要件に対して譲歩を要求する。」

 ウィッテは言うがその時小村は鞄から多数の茶封筒を出す。

「残念ながら我が国が受け取った外交文書には一切平和を望むような内容はありませんでした。今、もっているのはその外交文書です。何なら皆様にお見せいたしましょう。」

 小村は茶封筒の封を破りながら言う。

「我が国こそ戦争をしたくはありませんでした。たとえ盗賊のような貴国との妥協点を模索したとしてもだ。しかし、あなた方は本当の盗賊だ。それは清国が結ばされた極秘条約でも推し量れることだろう。盗賊精神を持ち、他国を侵略するしかない国を放置することはできません。」

 小村の発言と同時に清国の代表者も茶封筒を出し、封を切ろうとする。

「我が国が求める領土は我が国の防衛にとって重要な拠点のみです。サハリンは将来、軍用基地化の恐れのある土地であり、ウラジオストクは重要な軍事拠点である上に、町の名の由来は『東方を征服せよ』という意味の言葉からなります。ウラジオストクから東方にある国は日本しかありません。事実上『日本を征服する町』という意味です。キューバに『北方を征服せよ』という町に軍用港湾施設があるようなものです。この2つは決して譲れない条件であります。賠償金に関しては…減額の余地はあるでしょう。国際社会の平和と正義のために。」

 小村はわざと意味を間違えた。ウラジオストクの名の由来は『(ロシア本国から見て)東方を征服せよ』であり、『ウラジオストックから見て東方を征服せよ』という意味ではない。なので実質『東アジアを征服する町』ととれる名称なのだ。どちらにしても迷惑な話ではあるが。

 その日の会議は終わった。日本の記者会見でもこの発言は重要視され、その次の日のトップニュースはそれになった。


 ロシア 交渉団

 ウィッテは本国に連絡を取った。あまりに不利な交渉状況から本国の指示を待ったのだ。しかし、その答えは変わらない。『陛下の意思は領土、金ともに一切与えるべからず』だったことは彼を落胆された。

 28日の第5回会議ではさらの強硬にその主張をしただけだった。


 29日フランス 日本国大使館

「ロシアは民衆を弾圧しております。」

 日本はフランスにいる記者を集めて言う。

「フランスはロシアと同盟を結び、シベリア鉄道の建設などで大きな支援を与えました。つまりフランス政府はロシア帝政という民衆への弾圧を行う政府を支援しているといってもよいでしょう。」

 場がざわめく。確かにそうだ。支援をしているといわれても仕方がない。

「フランス国民よ。それでいいのですか?あなた方は暴力的な政府をその手で打ちこわし、国民による国民のための国家を打ち立てました。そんなあなた方が暴力を容認する政府を支援してよいのでしょうか。」

 場は静まり返る。

「それは国民が決めることです。我々はその真実をお伝えするだけです。」

 外交官はそのことを伝えたのちに少量の質問を受けたのちに記者会見は終わる。

 次の日の朝、朝刊は日本の記事で埋まった。


 30日、ポーツマス 日本外交団会見

「昨日ロシア側から通告がありました。領土、賠償金共に折れる気は一切ないとのことです。」

 場はざわめく。

「さらにこのとき、脅しに近い文句も見られました。『ロシア帝国ははまだ戦える。条件が飲めなければ講和はできない。我が国は敗北してはいない。このような講和条件は敗戦国が飲むものである。サンクトペテルブルクを落としていないのに負けとはならない。』とのことです。」

 小村は怒りの表情を浮かべる。

「我が国は日露両国国民にこれ以上の犠牲を強いたくはありません。だいぶ前に宣言したように賠償金について減額する用意があります。ロシア帝国が国民の幸せを願う政府であるのならば講和を受けるべきでしょう。」

 小村は怒りをおさめ無表情になる。

「ロシア帝国はもっと危機感を抱くべきだと考えます。このまま戦争を続けようならば『血の日曜日事件』のような惨劇を繰り返すだけではありません。サンクトペテルブルクを陥落せしめるのは民衆となることでしょう。」

「要求はこれまでの報道通り穏当なものです。要求の緩和交渉に入るべきであると考えます。」

 小村はその後も声明を発表。質問タイムに入る。

「どの程度の譲歩をするおつもりですか?」

 とある記者が聞く。

「我が国は相手よりも大きな譲歩をするつもりはありません。具体的なところは外交機密なのでこれ以上は公表できません。」


 31日 講和会議

「我が国は賠償金の支払いに応じません。その代わりサハリン南部の割譲を認めます。」

 ウィッテは会議の冒頭、ついに折れた。実は本国からの命令無視である。

 議場拍手が沸き上がった。

「相手にすべてを折らせといて自分たちは一部しか折れないおつもりですか!!!!」

 小村は会議中初めて声を荒げる。同時にウィッテの発言に対しての拍手は一気に静まり返る。

「残念ながら我が国の譲歩の限度を超えています。貴国は我が国に賠償金額の100%の譲歩を求め、自国は樺太半分しか譲歩するおつもりはないのですか。」

 小村はため息をつく。

「我が国は相手よりも大きな譲歩をするつもりはありません。つまり我々の譲歩が90%ならば貴国は91%譲歩すべきという方針でした。しかし、我が国はこれにさらに譲歩しましょう。譲歩割合を互角にいたしましょう。具体的条件でいうのなら賠償金要件は日本国がすべて折れます。しかし、領土要求はすべて認めてもらう。それが新たな提案です。」

 議場が沸き立つ。小村はそれを手で制すと同時に言う。

「これは貴国にとって悪条件ではないはずです。もともと我が国は賠償金の減額に関しては認めていましたが、賠償金要件をすべて破棄することは認めておりません。大きな譲歩です。」

「しかし…。」

 ウィッテは返答をしようとしているが小村はそれを遮りながら言う。

「しかしながら日本はこの特別条件の返答期限を1905年9月5日アメリカ東海岸の新聞の夕刊が返答期限です。返答なき場合。この条件は二度と出ないとお考え下さい。」

 小村が言うと場が鎮まる。しかしそれを破ったのは清国の代表だった。

「我が国も譲歩しましょう。第2次要求で賠償金以外の条件をすべて破棄し、賠償金要求を増大させました。その額、日本円で16億円。それを8億円まで減額いたしましょう。しかしこれの回答期限も日本に合わせます。1905年9月5日アメリカ東海岸の新聞の夕刊が返答期限です。返答なき場合。この条件は二度と出ないとお考え下さい。」

 清国代表が宣言を終えるとその日の会議は終わる。

 さらに清国はこの日、江東六十四屯で発生した虐殺事件『アムール川事件』を公表。更なる外交攻勢をかける。


 9月1日 日露休戦が成立。

「ロシアからはウラジオストックの名称の変更を提案する。」

 ウィッテは言う。しかし小村はひかない。

「ウラジオストックではなく、ウラジジャパニーズにでもされたらたまったものではない。そもそも日本は最低限譲歩した。これ以上の譲歩はしない。これは先日発言した通りである。これらの領土要求が認められぬ場合、貴国からの脅威は残り、国民は貴国からの恐怖におびえる。そのような状況では貴国との真の友好は結ぶことは困難です。」

「我が国の国民もウラジオストックの割譲は脅威に感じてしまう。それこそ問題だ。」

「ならばこの場で友好条約まで決めてしまいましょう。少なくともわれらはこれ以上の戦争を望んでいません。」

 彼はさらに茶封筒を出す。そのうち1部を記者に渡す。

 直後会議は終わる。しかし直後、講和条件をロシアは飲んだ。9月5日、最終確認が終わり、調印。ついに戦争は終わった。


 基本内容は

1、日本の朝鮮半島における優越を認める。

2、日露両国は鉄道警備隊を除きすべての戦力を満州から撤退する。清国北洋新軍は本拠地に帰還。本拠地を満州に設けてはならない。

3、樺太全土及び北緯45度以南の沿岸州の永久割譲及び国境線よりロシア側100キロの警察力(砲が禁止)以外非武装

4、ロシアは東春鉄道のうち旅順―哈爾浜間と哈爾浜―ウラジオストック間の本線及び支線、炭鉱、鉱山、鉱物資源採掘権の租借権を譲渡する。

5、ロシアは関東州における権益をすべて譲渡する。

6、日本はロシアの沿岸州およびカムチャッカ、オホーツク海の漁業権を獲得する。

7、ロシアは1894年の日本円相当8億円の金銀を清国に支払う。

であった。


 エー昨日に引き続き4話目の更新ですが、ストックが尽きましたので更新ペースが遅れます。

 次は戦間期の10年間。しばらく戦闘描写はできません。しかし、戦争は平時こそ重要なのです。多大な被害を出した日本軍は辛くも勝利いたしましたが史実で問題は山積しております。さてどうなるでしょうか。

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