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改史 大戦  作者: BT/H
3/83

日露戦争ー03 浦塩の陥落

 ○○はどこでしょう。この回で判明します。

 ウラジオストク近郊海岸線 (夜間) 某日

「ご苦労様です。」

「任務の成功を願います。」

 艦載艇が岸を離れてゆく。そして岸には3人の男がいる。それぞれが馬車を仕立てている。

「よし。作戦開始まで潜伏するぞ。」

「了解。」


 ロシア軍司令部。1905年6月2

9日 AM1:00

「迂回進撃の失敗で失われた兵士13万人。ロシア騎兵の中で生還したのはおよそ600。正面陽動作戦での損害、5000名。日本軍右翼を攻撃した歩兵隊の損害およそ45000名。いずれも戦死、戦傷、捕虜の総計。18万人の戦闘人員の減少」

 状況をまとめた参謀の顔色が曇る。明らかに悪い戦況。しかし、戦闘を初めて何も戦果を出せず、兵を失っては主戦派の立場もない。

「緊急電であります!!ウラジオストックが日本艦隊からの攻撃を受けました!!」


 6月29日AM1:00 ウラジオストック沖日本艦隊

「目標ウラジオ砲台。当てなくていいから付近に落とせ。」

「距離5000!!」

「砲撃を開始します。」

「よし。」

「全門斉発距離5000打ち方はじめ」

 しばらくして艦内に轟音が鳴り響いた


 砲台

「砲撃だ!!火を消せ!!」

 日本の砲撃を受けた砲台では応戦と被害対策が開始される。しかし、海戦でも猛威を振るった下瀬火薬の影響で砲台は火に包まれ、兵は焼かれる。露砲台(砲台が装甲でおおわれていない) や砲弾が外に置いてある砲台などは端から誘爆を起こり吹き飛ばされる。

「反撃!!」

「敵を目視できません」

「とりあえず打ちまくれ!!」

 光の性質上、明るいところから暗いところを見ることは難しい。そのためあてずっぽうで砲弾が放たれる。


 同時、四軒街 露軍司令部。

「様子を見る。明日の攻勢は中止する。」

 責任逃れの雰囲気が漂う司令部にもたらされた一報はその場を大きく動かす。攻勢中止の口実ができた。責任逃れの口実ができたということである。ある意味活気あふれる司令部は攻勢中止を連絡する電話で騒がしくなった。


 AM5:00 ウラジオストック砲台

 砲撃は朝まで続いた。しかし、朝になってみればそこに浮かぶは数隻の駆逐艦。彼らは見つかるとすぐに退避行動をとる。夜で、敵に見えなかったからこそ損害はない。しかし、見えれば撃沈のリスクもある。逃げるのは当然の判断だろう。さらに戦艦が打っていると誤認して、あらぬ方向に砲弾がばらまかれていると知った。下瀬火薬は焼夷弾に近い効果があるので小さな砲弾でも数多く打ち込めば同じような効果があるのだろう。装甲貫通力はないが、火事を起こそうと思ったら最高の砲弾だ。

「緊急電であります!!」

 兵士が指令室に飛び込んでくる。

「ナホトカです!!日本の主力艦隊はナホトカに上陸!!あの艦艇は囮です!!」


 ナホトカ ほぼ同時

「打電!!ウラジオストックにだ!!『日本の艦隊来襲。戦艦6、装甲巡洋艦11他多数!!』」

 直後砲撃が場を揺らす。

「ウラジオストックは陽動だ!!初めのしばらくは戦艦がいたかもしれないが、駆逐艦にすり替わっている!!」

 しばらく、通信はつながっていた。つまり第一報は各部隊に伝わった。しかし、その後、通信は各所で遮断される。

「潜入した部隊がいたのか…」

 潜入工作部隊による通信網破壊作戦により、各所との通信が遮断、増援の動きはわからなくなってしまった。

 しかし、そのような援軍は間に合わなかっただろう。その日の昼には日本の第15師団の上陸を受け、ナホトカは陥落してしまったのだから。


 ウラジオストック 砲台PM5:00

「敵戦艦視認!!」

 暮れに日本の戦艦が迫る。ナホトカを陥落せしめたのちに反転してきた艦隊だ。昼間にのこのことやってきた艦隊など陸上砲台には格好の的であろう。

「速く撃退せな夕暮れになる。火炎弾使ってくるからこっちの照準が合わんくなる。」

 砲手は叫ぶ。

「撃て!!」

 司令官が叫び、その命令が各所に伝わる。轟音が響き渡る。しかしその音は、砲撃音ではない。

「司令!!砲台が爆発してゆきます!!」

 事態を知らせに来た士官が慌てる。そのはずだ。砲台は一発の砲撃も受けていない。なのに爆発するのはあり得ない。

「消火急げ!!弾薬に誘爆するぞ!!」

 しかし時すでに遅く一部の弾薬に誘爆。大爆発を起こす。

「何が起きているんだ!!」

 叫ぶが外からは返事がない。司令はドアを開けて外に出る。そこには額に日の丸を書いた鉢巻をしたロシア兵が銃を向けてきていた。

 拳銃はアメリカ製のコルトM1900とロシア製のリボルバー ナガンM1895。持っている小銃はモシン・ナガン。いずれも先端部に円筒形の見慣れないパーツをつけている。

「降伏しろ。」

 ロシア語が聞こえてくる。司令官は何が起きているかわからず、声を出さない。

 バス!!

 銃声ではない聞きなれない音が鳴り、司令官の足に穴が開く。

「降伏しろ。」

 再びロシア語。指揮官は手を上げるしかなかった。


 ウラジオストックの沿岸砲台は降伏。ロシア兵は退避させられたのちに砲台は破壊されたが占領はされなかった。戦略目的は達成していたのだからであった。


 ウラジオストック 西方海岸線 6月30日PM7:00

 日本の部隊が上陸作戦を敢行している。上陸するは第2師団(本土で補充を行ったために定数の人員がそろっている) と近衛師団、その他総計4万である。これらの師団は満州から引き抜かれたもので歴戦の師団といってもよかった。

 目標はこちらもウラジオストック。東西から包囲しようという作戦である。

「作戦通りならば東側に上陸した助功の第15師団にウラジオの戦力は引き出されているはずだ。上陸を完了した師団から速攻をかける。夜襲だ!!」

 軍団長は命じる。

 日露戦争時、史実においてウラジオストックの攻略についての議論はされたことはあった。しかし、陸軍の戦力が払底していたこと、冷戦の時期と比して軍港としての能力は限定的で、占領する価値はなく、さらに終戦交渉に対して大きな影響を与える可能性が高いことから占領作戦は行われなかった。

 軍港としての機能を具体的に言えば、ドックは装甲巡洋艦サイズのものが1つしかなく、大きな石炭庫もなく、その石炭も枯渇していたのだ。

 ロシア太平洋艦隊各艦は日本海海戦時、このことから石炭を捨てることができなかった。それも被害を拡大させた原因の一つである。

 それでも太平洋艦隊が入港した場合、石炭は少なく、ろくに大規模出撃はできなかっただろうことは想像ができる。出撃には火力の小さい樹木をも燃やしたとしても不足することは目に見えていたためである。

 日本海海戦後逃げ込んだ敵艦の数は少なかったことも理由の一つであろう。

 確かに、その意味では重要ではなかった。しかし、この世界では清国新建陸軍の参戦による余剰兵力を考慮に入れ、占領作戦が実施されるに至ったのだ。

 理由は地政学的利点と脅威。満州進出の拠点にここほど日本にとって都合の良いところはない。満州南部はともかく北部にはウラジオストック経由のほうが旅順・大連経由よりも近い。進出に際して利点が大きかったのだ。

 さらにここの港湾としての資質を見てロシアにゆだねておくのは危険かつもったいないとも考えられたのだ。

 上陸拠点は全くの無抵抗だった。満州方面の陸軍はおそらくその多くの戦力が四平街の主力軍に合流させられているのだろう。ウラジオストックの兵力もそちらに回されていると嬉しい限りだ。

 軍は動き出す。先遣隊は第2師団。かつて師団単位での夜襲を成功させたことのある歴戦の師団だ。戦いは始まったばかりだった。


 ウラジオストック 港湾部 7月1日AM5:00

「第2師団。撤退を開始します。」

 第二師団の夜襲は失敗ではなかった。完全な成功ではなかったが。

「最外郭陣地の鉄条網の破壊成功!!要塞砲、機関銃陣地の被害軽微。なれど、夜襲部隊損害軽微。」

 今回の夜襲は被害を与えることよりもけん制としての意味合いが強かったようだ。しかし、夜襲が終わったロシア陣地にはさらなる厄災が降りかかる。

「湾港突入。水深に注意しろ!!本丸を一気にたたく。」

 艦隊は複数に分かれて湾港部分に突入を開始する。

 先ほども記述した通り、ウラジオストックの軍子押しての機能は限られている。ウラジオストックは沿岸部の一部に過ぎない。よって正しくはウラジオストックを含む地域のロシア軍勢力を排除するというのが正しい。

 湾口部突入兵力はこの時点で投入できる戦艦、装甲巡洋艦のすべてである。

「市街地を狙うな。打つなよ!!正確に敵陣地を破壊しろ!!陸戦隊はタッカーに移乗。上陸作戦を敢行する用意をしろ!!」

「西側、近衛師団突入開始。」

「陸軍の連中の無線報告を受けろ!!着弾観測情報を信じて撃ちまくれ!!」

「西側から陸戦隊を揚陸させろ!!」

「戦艦の艦砲に直接支援させろ!!」

 命令が行き交う。砲は轟音を上げ、砲弾は地面を掘り返す。

 近衛師団も海軍の支援を前提に行動する。海沿いの部隊の層を厚くしている。

 ウラジオストックにはこのころ旅順要塞ほどの軍備はない。湾港規模もない。あれば旅順艦隊のいくらかはウラジオストックに配備されているはずだろう。逆を言えばロシアにとって守る必要性が低いものだったといえる。

 近衛兵団は第2師団が開いた鉄条網の穴を砲撃でたたいたのちに強襲。その日の夜にはウラジオストックに侵入を果たした。


 四平街 ロシア軍司令部

「ウラジオストック陥落。増援は間に合いませんでした!!」

 司令部には驚愕が広がる。

「増援が間に合わなかっただと!!そんなに早く陥落したのか!!」

 ウラジオストックに送った兵力は残存24万人のうちおよそ4万。ちなみにこのとき、日清連合の総兵力は20万ということになり、ほぼ同数である。さすがのロシア軍も敵の同数未満にはしたくなかったらしい。

「早く呼び戻せ!!」

 参謀は叫ぶ。

「そうしてくれ。これでにらみ合いだな。さらに樺太の戦力は孤立。戦争が長引けは補給ができずに自滅する。本国はすでに社会主義革命の弾圧で兵力を出し切っている…。独ロ国境はがら空き。つまり、継戦能力は…ほぼ喪失。長引けば更なる領土失陥の可能性も高くなる。」

 総司令のニコライ・リネウィッチ大将は冷静に状況を分析、その分析を言う。

「司令!!」

「長期戦はもともと日本の望むものではなかった。戦前の想定ではそうだった。我々もそのつもりで戦ってきた。ロシア本国からの大兵力の援軍。それの到来と戦力の集中を図り、圧倒する戦力で敵を粉砕する…。それが基本戦術だった…。」

「…」

「それが狂ったのは血の日曜日と旅順、奉天、日本海、清国だ。血の日曜日で援軍は期待できなくなり、旅順で回航艦隊の母港は失われ、奉天で陸戦兵力を失った。日本海で海軍が惨敗し、この戦争に見込みはなくなった。」

「…」

「それに乗じてやってきた清国の裏切りすべてが計算違いだ。血の日曜日以外、日本の努力によるものだ。」

 ニコライ・リネウィッチ大将はそう言うが血の日曜日事件も日本の明石大佐の活動だったという説もあり、これが事実ならばすべて日本の努力によって戦況が覆されたといってもよいだろう。

「日清連合、ロシア双方が継戦能力を失ったが、日本はともかく、清国はまだ無傷の軍団が多数いる。状況はこちらが不利…。いいや清国の参戦時から形勢は逆転していた。」

「司令!!」

「防御陣地の構築を急げ。縦深防御を採用し、多層的な防御を編成する。広範囲に。後方は満州人の人夫に塹壕を掘らせよ。撤退時、日清連合軍の出血を強いながらの撤退戦だ。急げ。」


 浦塩とはウラジオストックの当て字の一部です。ウラジオストックのことをウラジオと省略して呼称するため、浦塩と表記されることが昔はありました。

 ちなみにサプレッサー(消音器、減音器、サイレンサーともいわれる代物)はオートマチックピストルにしかつけれない(正しくは使えない)と思っている方安心してください。ロシア製のリボルバー ナガンM1895は特殊でリボルバーなのにサプレッサーがつけれます。

 モシン・ナガンは銃剣が固定装備(外すと照準を整備しなおさなければならない)なので特殊な構造をしており、サプレッサーはモシン・ナガン専用です。

 なお、アメリカ合衆国が好意中立なのでアメリカ製の拳銃を登場させています。同時期のベルギー製FNブローニング1900を登場させようか迷いましたが政治を考慮に入れました。サプレッサー自体もアメリカ生の特注品ですしね。

 鹵獲されたら大変だーーーいろいろ使われそう。

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