第4章 第2次米墨戦争編-12 決戦の序曲
1907年12月12日 装甲巡洋艦 サウスダコタ
「本国より入電。襲撃命令です。」
通信兵が艦長室で休む艦長に電文を持ってきている。
「ペルーの港湾都市リマから出港した商船団を襲撃せよ…か…。」
艦長はつぶやく。内容に疑問があったからだ。
「どうやら現地諜報員からの情報の模様です。」
隣にいる副長が艦長に説明を加える。
「商船団ということがおかしいのだ。我々の攻撃を防ぐには圧倒的な戦力での護衛もしくは少数に分散して襲われるリスクを減らすかだ。今のABC艦隊にはそんな戦力はないはずだ。圧倒的戦力があるような動き…嫌な予感がする。」
「艦長考えすぎではないのでしょうか。ABC艦隊がそう簡単に艦艇の補充ができるわけがありません。あの回線で多くの兵士を失っている以上補充できても兵士が不足していますまともに戦えないでしょう。」
「そうだといいがな。」
リマ 埠頭 ほぼ同刻
「例の情報は流したな」
「ああ。あの船団の水兵に悪いだが勝つためだ。見てろ米国!!我と我らの仇打たせてもらう。」
男の右袖は空しく風にたなびく。そして男は左手に持った酒瓶の栓を口で開け、それを海にささげた。
1907年12月27日 太平洋 エクアドル領 イサベラ島北方沖合 装甲巡洋艦メリーランド
ここに集結した米艦隊は装甲巡洋艦2、戦艦1隻である。もう1隻の戦艦は沿岸防衛を目的に設計された旧式のインディアナ級であり、太平洋上での運用は適していないため陸軍への支援砲撃を行っている。
「情報通り目標の船団を発見しました。船団南に回頭。散開しつつ逃走します。」
「最新鋭装甲巡洋艦の速力を舐めるな。必ず撃滅してやる」
船は走る。だが追いつけない。追撃する船は同時に艦砲射撃を行う。しばらく走るとエクアドル領イサベラ島の東側と通過する。
「奴らおそらく空荷です!!喫水が浅い!!」
「なんだと!!」
商船は積み荷次第で速力は変わる。重ければ当然速力は遅くなるのだ。
「急速反転!!あの船団は囮だ…」
艦長が叫び終わる前に水面に大きな水柱が上がった。
数刻前 ABC艦隊主力、旗艦
「囮船団が敵艦隊を発見。予定通り退避中。」
「測敵をしっかりせよ。1発目で挟射しろ。機関!!燃料を無煙炭に移行。煙を目立たせるな。」
水兵たちが走る。数刻が経つ
「見えました!!米国艦隊です!!」
「距離1万m!!最大射程です!!」
「先制する。戦闘旗を掲げろ。戦闘旗の掲揚が確認出来たら全主砲打ち方はじめ」
「せ、戦艦級12インチ砲以上の砲撃です!!」
水柱の大きさから見張はそう判断した。
「馬鹿なABC艦隊には1隻も戦艦は配属されていないはず!!なぜ!!ここに戦艦が!!」
水兵たちだけでなく指揮官も混乱する。
「第2射挟射されました!!」
「敵艦を確認右舷方向数は…じゅ・12隻!!」
「撤退する。機関炊き切れても構わん。最大船速!!」
ABC艦隊の保有する12隻の戦艦はもともと英国の旧式化した戦艦である。
12隻の戦艦はアルゼンチン・ブラジル・チリ・ペルーの4か国で各3隻の譲渡を受けた。
3隻のうち1隻は近代戦艦の始祖と呼ばれるロイヤル・サブリン級だ。
ロイヤルサブリン級は前級のトラファルガー級の弱点であった低い乾舷(波がかかりやすく遠洋航海が不得意) を是正した船で合計7隻が建造された。低い乾舷を是正した代償に主砲に露砲塔を採用し防御力が低下している。なおこの間を原型に日本の戦艦富士級が建造されている。
3隻のうち2隻はマジェスティック級。上記の富士級で試された最新技術を導入して建造された戦艦である。特に主砲は砲弾重量よりも貫徹力のために初速度を向上させた12インチ砲を搭載している。(ロイヤルサブリン級は13インチ砲) 合計9隻が建造された。これを原型に日本の敷島級が建造されている。
これらの艦艇はただの第1陣であり、第2陣としてカノーパス級各1隻、フォーミダブル級各2隻が売却される予定である。
「ロイヤルサブリン級か…本来使いたくなかったが戦力不足な状況ならば仕方がない。」
これはアルゼンチン海軍のマヌエル・ドメック・ガルシア大佐の発言である。
ロイヤルサブリン級の主砲塔は露砲塔である。この露砲塔は重量軽減のために装甲の一部が削減された主砲塔である。装甲がないところはただの布がかけられているだけである。
日本海海戦の戦訓によって軍艦の火災に対する脆弱性が大きな問題になった。主砲塔が露砲塔であればもしも火災が発生した場合、容易に主砲弾が誘爆・撃沈される危険があった。そのため本来、練習艦として運用されることになっていたのだ。
「挟射させられたのは第2射のみ…まぐれだな。やはり練度不足は否めないか。」
この戦いでは圧倒的にABC艦隊が有利である。単純な艦の性能も速力以外の面ではアメリカ海軍艦艇に勝っている。数も4倍。
唯一の弱点は水兵だ。
先の湾口海戦でABC艦隊は多大な犠牲を生んだ。それは船だけでなく熟練水兵の喪失が大きかった。
これに対してABC艦隊は民間船員や陸軍砲兵将校・兵員を臨時転用し、応急的に対処した。結果、何とか戦力として期待できるだけの水兵を供給できたのだ。
だが米国を脅すには十分だ。米国の太平洋艦隊の主力艦は戦艦2隻、装甲巡洋艦2隻の合計4隻しかいない。そしてこの場にいるのは3隻。米国は逃げ出した。
双方の速力は互角、しかし、米国艦隊は奇襲を受けた。エクアドル領 イサベラ島の南側に隠れていたABC艦隊はすべての主砲塔がぎりぎり砲撃できる角度で接近している。
「ABC艦隊の進路は北北東このままでは退路が!!」
「装甲巡洋艦の速力では逃げ切れるだがウィスコンシンの速力は敵艦隊と互角…数を考慮に入れれば…逃げ切れない…」
に装甲巡洋艦サウスダコタ転属したニミッツとキングは冷静に判断をすると同時に艦橋に走る。
「艦長!!ウィスコンシンを見捨てないでください!!いいえ見捨てる必要はありません!!奴ら素人です!!」
キングは見抜いていた。ABC艦隊の練度の低さを。
事実、装甲巡洋艦が逃げず的を増やした結果、ABC艦隊の砲弾の欠乏が発生した。ABC艦隊と米艦隊の位置の関係上、前部主砲しか使用できなくなった関係で後部砲塔の砲弾に余裕が生じたこれを人力で移動させたうえでの砲撃も命中弾こそ生じたが、撃沈に至ることはなく、ABC艦隊の追撃中止によってこの海戦は戦術的に引き分けになった。しかし、戦略的影響は大きかった。太平洋における米国の優位は消失した。




