第4章 第2次米墨戦争編-11 戦線の膠着
1907年12月
カリブ海方面戦線は膠着した。大統領の予測通りだ。米軍は合計4つの谷間からメキシコシティーに向けて進撃した。メキシコ側はカリブ海側にある山脈の回廊とも呼べる谷間に多重の塹壕陣地を構築。結果米軍側が多大な犠牲を払う結果になっている。武器さえ回収すれば兵員の補充は可能だったがそれでも多い損害を生じさせていた。だがメキシコ側も太平洋側戦線は兵員がカリブ海方面に引き抜かれたために戦力不足に陥り、撤退。大きく戦線を後退させるも陸上から首都メキシコシティー侵攻には補給線の長さが足を引っ張り実施できずにいた(もともとする計画はなかったが)そして大きな変化が生じるはオリサバだった
「ようやく到着したか。」
目の前にあるのは特殊な列車それには大きな布の覆いがかぶされている。
「これが海軍からの貸与兵器を急遽転用したものか。」
「でかいな。」
「これだけの代物があれば…やってみる価値はある。」
12月3日
とてつもない爆発音が鳴り響いた。
「何が起こっている!!」
混乱は当然のことだった。塹壕を外したが、その激震は周囲に衝撃を走らせる。野砲…75㎜クラス(当時の野戦砲の主力サイズ) と比較にならない爆発音。塹壕は直撃しない限り対ショック姿勢をとった塹壕内の兵士を砲弾の爆発から守る。しかし、そんな砲撃も直撃や至近弾を受けた場合、命中個所の付近にいる兵士を殺しかねない。最悪、その区画の兵士を全滅させる。
「砲撃は1発基準砲撃(本格砲撃前に1発撃ち込んで照準が問題ないか調べる。)だ。効力射(本格的な砲撃)が来るぞ」
兵士が石の雨の中叫び走り出す。その砲撃は通常の砲撃と違った。地面にめり込み、地面を掘り返すように爆発する。遠くで爆発した場合でも塹壕内に岩石などの破片が降りだ。塹壕付近に落ちたものは塹壕を消滅させた。メキシコ軍にとって幸いなのはその巨大爆発はまとめて数発同時に発生したのちに10分以上の間隔が存在することだ。それでもその10分間にも通常の野砲よりもはるかに大きな爆発が繰り返される。
その爆発でも地面を掘り返すような爆発がそこら中に発生した。こちらは断続的な砲撃だ。
「これじゃ石の雨だぜ」
まともに精神と保っている兵士は軽口をつぶやきながら他の兵士を落ち着かせる。砲撃の後に来るのは何かわかっているからだ。きわめて単純な策だ。
(どんだけでかい砲弾を使っているんだ奴らは。)
その砲撃の正体は米軍陣地に存在する巨大な物体が原因だった。
列車砲だ。
この列車砲群は戦艦の主砲や副砲を転用したものだ。砲弾の大きさ、搭載のしやすさの関係上12インチ砲が選ばれ、大西洋艦隊で最も旧式な12インチ砲搭載戦艦「アイオワ」の主砲計4門と副砲の8インチ砲計8門、4インチ砲6門のすべての砲身を取り除き、急遽生産した台車や貨車に載せたものである。ほかの戦艦に搭載されている主砲以外の砲もいくつか砲身を転用されこの場にいる。主砲以外の砲に関しては比較的容易に旋回砲を貨車に搭載することができるため主砲転用砲よりも多く配備されている。主砲転用砲に関しては製造が追いつかずに配備が遅れている。そもそも取り外しにも大きな手間が必要である点も大きかった。
10分おきの超大型砲撃は主砲転用砲、その間に発射される砲弾は副砲転用砲である。副砲転用砲は主砲転用砲と違い砲弾の装填にデリック(クレーンのこと) を使用しなくてよいので早い発射ペースを維持できている。さらに旋回砲なので命中性もよい。
「命中修正!!主砲(主砲転用砲の略称) 今度こそコード03塹壕に命中を食らわせてやれ!!ファイア!!。」
この時の砲撃は効率が良かった。主砲転用砲の第一斉射以外、副砲転用砲の基準砲撃(目標との距離情報を集めるための砲撃。) を実施してるために命中率がいい。塹壕は先ほどの記述通り主砲弾が命中しなくても一撃で破壊されてしまう。
「副砲弾の残数が少なくなりすぎます。」
「砲撃密度の低下を要請。副砲は基準砲撃に制限。」
問題は砲弾の残数だ。主砲弾は装填の時間がかかるために砲弾の消費スピードは遅い。総数こそ少ないがそれを考慮すると副砲弾が圧倒的に早く砲弾が尽きる計算になる。
「コード3に命中弾。」
「目標をコード5に」
「しかしそれでは」
「鉄道線が破壊される。それは仕方がないことだ。奴らとて撤退時に破壊するだろうからな。」
直後砲撃のものとは思えない爆音が西から響く。それ驚き、全員が外に出る。西からは煙が上がっている。
「副砲基準砲撃命中直後大爆発を起こした模様。」
「爆破を起こしたのはどこだ!!」
「塹壕以東の鉄道線から後方まで距離は不明!!」
「やはりプレゼントを残していたようだな。」
「プレゼントが無駄になって残念ですね。」
メキシコ軍への皮肉を述べる副官。
「敷設資材・人員の用意も完了しています。壊れたものは直すだけ。それにそれ自体を宣伝戦略に利用できる。メキシコ政府は民間人よりも勝利を優先させ、民衆に犠牲を強いているとな。」
「敵陣地もそろそろ崩れたはずです。」
「そうだな。」
直後、米軍は導入可能な部隊ほぼすべてを投入した突撃が行われ、第1塹壕線を突破、第2塹壕線に多大な犠牲を生みながら第2塹壕線の突破に成功。2線の陣地を抜かれたメキシコ軍は少々後退。合計500mの領域をあけ渡すことになる。この時の戦死者は約1000名、二度と戦えない重傷者はその3倍を超えた。
再度の攻勢を繰り返すもこのような数メートルに何人もの犠牲者を生むことになる。
これは列車砲を持ち込むことのできないほかの戦線でも同様…否さらに悪く、補給力の不足から大規模な砲撃すら不可能であった。




