第4章 第2次米墨戦争編-6 湾口の海戦
連合艦隊の戦果は南米を沸かせた。非武装の貨物船に対する数々の砲撃、さらにアメリカからの圧力と恐怖はすでに南米全域の市民の心に響いていた。特に南米各国はかつてスペインとポルトガルという2つの国に植民地支配されていた。当時の植民地支配は英仏の植民地時代よりはるかにひどい。略奪や戦争、奴隷化はもちろん伝染病の生物兵器的利用による人口減少をも行われている。その恐怖は独立へと邁進させた。同時に次の植民地支配に対する恐怖と抵抗へと発展した。
その中でペルー人の怒りは大きかった。各国の新聞が『ABC海軍海賊行為を行っていた米国海軍艦艇を撃沈』と報じたためである。ABCとは南米の強国3か国アルゼンチン(Argentina)ブラジル(Brazil)チリ(Chil)の3か国であるこの3か国は南米の強国であり、中小国ではトップクラスの国力を有している。この3か国のイメージが強すぎて忘れられている。ペルーという南米での中規模国家は他国に無視されてしまったのだ。ただの怒りではない。自分たちのような弱小国見向きもする必要はなく、たやすく滅ぼしてもよい対象でしかないそういっているも同然のことなのだ。
一方アメリカも黙っていない。アメリカ国内の一部ジャーナリズムは生存者がいないことを『白旗を掲げるが撃沈、捕虜虐殺』と過剰報道。当時最新鋭の装甲巡洋艦を撃沈されたことを宣戦布告なしに一方的に沈められたっことを受け南米への敵愾心をあおった。同時にメキシコ戦争への志願兵の増大を生んだ。無論すでに失業者優先で兵士、人夫、工廠労働者が動員されたためそれ以上の動員は国家経済に与える影響が大きい。そのため初動動員の補充兵程度に抑えられている。
太平洋艦隊は1戦隊装甲巡洋艦1隻、防護巡洋艦1隻の2隻一組のグループ6つと戦艦1隻1グループ計7つで通商破壊、陸上部隊への支援行動を実施してきた。しかし敵艦隊の数を考慮に入れれば分散運用は各個撃破されることになる。長期間の安定的な運用を前提とするなら1組を補給と整備に、陸上支援に1組を動員する必要がある以上残りは5組しかしそのうち1組が失われた今、艦隊決戦が行われた際に動員できるのは4組。速力等の面から総合的に判断すれば装甲巡洋艦4隻防護巡洋艦4隻が最適だ。
「4組では負けないけど勝てんな。」
防護巡洋艦ボルチモアに着任して数か月のチェスター・ニミッツ少尉(のちに太平洋艦隊司令長官として日本と戦うことになる男) はアーネスト・キング(のちのニミッツの上官) に対し以上のことを説明して最終的に一言で表した。
「だが勝てるのならば…」
「必ず勝て。戦艦ウイスコンシン以外すべてを投入する。」
艦隊司令部は決定を下した。
「陸上支援に必要な最低限の艦艇を残し、全戦力を持って敵艦隊をたたく。」
「よろしいのですか今回の戦いで甚大な損傷を受ければこの戦争中に復帰できません。そうなれば通商破壊はおろか陸軍の支援すらできなくなりまります。艦隊の保全を優先すべきではないでしょうか敵の艦隊と接敵すれば逃げればいい。」
「そうかもしれない。だが国民はそれで認めてくれると思うか?新鋭艦1隻沈められておいて何もしない…そして勝たないなんてありえないのだ。だから命じる。勝て!!」
「確かに陸上支援兵力以外のすべてを投入すればABC艦隊(ペルーを忘れている。) に勝てないことはない。だがそれだけでは不十分だろう。」
アーネスト・キング(のちのニミッツの上官) はニミッツにそう返事を返す。
「確かに。だが足の遅い旧式戦艦など足手まといにしかならない。その巨砲を持って陸上支援でもさせておればいい。我々を含めた双方の兵力が相殺されても戦艦は残って十分な陸上支援ができる。」
「相殺って…俺たちも死ぬじゃないか。」
「準軍事的に見れば我々など替えが聞くタダの歯車に過ぎない」
……2人はのちの太平洋艦隊の司令長官と海軍作戦部長という対日戦争での海軍トップ2になる人物である……
「それ以上に考えなければならないのがどうしてABC艦隊など編成できたのかそこに疑問がある。」
「今現在、大西洋艦隊ではタンピコ攻防戦の海上支援で手いっぱいのはず。だがその手が空いたら大西洋艦隊は必ずブラジル・チリ・チリの順に回航してきて同時に沿岸都市は艦砲射撃で壊滅するだろう。ABC艦隊という名称から見れば国を空にして艦隊を編成している。大西洋艦隊の来襲を考慮に入れていないように思える。」
「それに艦隊の損耗も考慮に入れていないように思える。全兵力を統合して来襲しているなんて…」
「どこか後ろ盾があるのか?それなら考えられる。」
「背後を守る国…ブラジルを守れる位置にあるということはブラジル以北に植民地を有する国…ということになるそうなると限られる。」
「まさか!!」
「そうなると大西洋艦隊は世界最強の海軍とまみえることになる。最悪な。」
ワシントンDC
「至急最新鋭の装甲巡洋艦2隻を太平洋に回航させたい。大統領。許可を願います。」
海軍長官はホワイトハウスの大統領に直談判をする。太平洋艦隊とABC艦隊との交戦が勝利に転んでも多数の味方艦艇が消えることがわかっている。それでは太平洋を守りきることは困難だ。
「だめだ。ABC艦隊が太平洋艦隊と交戦すると決まったわけではない。回航中に襲われたら兵力差的に沈められるだけ。それに航続距離の問題も大きい。25万キロの航海は必要だ。資料によると航続距離はその半分しかない。海流を利用したとしても補給能力上到達はできない。補給のための貨物船を拿捕した船舶から供給すればメキシコ東岸上陸部隊への補給が不十分になる。」
「ならいつまで待てと。」
「陸軍がタンピコとの陸上補給路を確保するまでだ。」
「それでは重要戦局に間に合いません。陸軍補給路は鉄道敷設と同音異語です。河ひとつあるだけで年単位の時間がかかる。」
「太平洋艦隊には2隻の戦艦、5隻の装甲巡洋艦がいるはずだ。十分な戦力のはずだ。」
「足の遅い戦艦は役に立たないですし1隻は整備中。陸上支援部隊も必要なのです。そのすべてを投入できると思わんでください。乗員も新鋭艦優先。退役軍人かき集めているところなんですから。」
「それでも戦艦2隻が実戦投入できるようになるのはおそらくABC艦隊との決戦の後になるのだろ。わが艦隊は別に勝たなくてもいい。ABCは勝たなくてはならないのだがな。それなら艦隊保全。もしくは双方が戦闘能力を喪失する引き分けでもわが海軍の勝ちだ。」
「戦場では何があるかわかりません。敵の3倍の兵力を適切な補給・戦術の元戦わせて初めて勝利は確実になります。戦力的にABC艦隊と太平洋艦隊は五分。語攻めの戦艦も足が遅いのでABC艦隊に逃げられればおしまい。太平洋での戦いに何も寄与しません。」
「この戦争戦略的に太平洋側での価値は必要ない。カリブ海のみの勝利で決着がつく。太平洋側に必要以上に戦力を回す意味はない。」
パナマ沖 8月2日
ABC艦隊は損失と次の戦闘に向けて再編成を実施した。一言でいうならアメリカの装甲巡洋艦と戦う部隊とアメリカの防護巡洋艦と戦う部隊である。
以下編成
打撃隊(対装甲巡洋艦部隊) 装甲巡洋艦4隻、防護巡洋艦(火力が大きいいもの)3隻 計7隻
旗艦ガリバルディー (アルゼンチン海軍艦艇)
ヘネラル・ベルグラノ (アルゼンチン海軍艦艇)
ジェネラル・オヒギンズ (チリ海軍艦艇)
エスメラルダ (チリ海軍艦艇)
ブエノス・アイレス (アルゼンチン海軍艦艇 防護巡洋艦)
チャカプコ (チリ海軍艦艇 防護巡洋艦)
ベインティシンコ・デ・マヨ(アルゼンチン海軍艦艇 防護巡洋艦)
(本来ペルー沖海戦で戦没したヌエベ・デ・フリオを含めて4隻ずつになるはずだった。)
第1巡洋隊(対防護巡洋艦部隊) 5隻 (本来6隻)
ブラジル艦
アルミランテ・バロソ、ベンジャミン・コンスタント、レプブリカ、(アマパ)
→アマパ(修理断念につき戦線に未投入)
ペルー艦
アルミランテ・グラウ級
アルミランテ・グラウ、コロネル・ボロネジ
第2巡洋隊(対防護巡洋艦部隊) 5隻
チリ艦
プレシデンテ・エラースリス級
プレシデンテ・エラースリス、プレシデンテ・ピント
ブランコ・エンカラダ
ミニストロ・ゼンテノ
アルゼンチン艦
パタゴニア
打撃隊にはABC艦隊に所属する装甲巡洋艦と装甲巡洋艦級の大型艦砲を装備する防護巡洋艦が配属された。
巡洋隊にはそのほかの防護巡洋艦が配属され、米国の防護巡洋艦を数で圧倒した。
問題を上げるとすれば指揮統制が困難である点が一番である。多国籍艦隊であること。特にブラジル艦とその他の国は言語が違うため意思疎通が困難だった。
前回そのようなことを無視し、圧倒的戦力差で勝利することができた。しかし今度はどうなるか
「アメリカは艦隊を保全させようとするはずだ。アメリカを早急に艦隊決戦に誘い込まなければならない。」
旗艦ガリバルディー (アルゼンチン海軍艦艇) 乗船の参謀マヌエル・ドメック ガルシア大佐はとある作戦を立案した。そのために弾薬補給船と民間船改造の工作艦(砲身の交換を主目的とする装備を搭載) を調達。とともにペルーの港を出港、パナマ沖に進出した。
「艦砲射撃用意。目標パナマ市街打ち方はじめ。」
ABC艦隊はパナマ運河が建設されている地域の沿岸都市に艦砲射撃を実施した。射程の関係上、内陸分の施設に被害を与えることは困難。施設そのものに損害を与えることは事実上困難である。しかし、アメリカの威信はどうだ。パナマはアメリカがコロンビアから独立させた事実上の傀儡国だ。さらに米国はパナマ運河地帯を永久租借し、世界各国から募った資本を利用して建設している。
その地域が艦砲射撃された場合、どうなるか。アメリカは威信を失う。次同じことをされないように艦隊を差し向けてくることは疑いない。
「民間施設への攻撃に関してはアメリカがすでに行っている我々の行為はその報復でもある。アメリカに文句を言う資格はないし、今回も十分な警告時間を与えた以上法的問題点はない。それにかの町の住民は軍事施設の建設に協力している以上、中立的な一般人とは言えない。戦争中運河の建設を中止するなら中立性は確保されるがアメリカはそんな悠長なことは言わないだろう。」
作戦会議ではマヌエル・ドメック ガルシア大佐以外の参謀がそう持論を言う。
パナマ市街は艦砲射撃で火の海に包まれる。アメリカが港湾都市に行った攻撃を数倍の規模で実施、市街地の99%が焼失することになる。
ヨーロッパ 某国
「パナマ運河施設が攻撃を受けました。」
執務室に駆け込んでくる秘書。
「わかっている。予定通り価格の暴落した債権を買いに走る。急げ、そしてばれぬようにだ。パナマ運河をアメリカに抑えさえてはならない。それに商売になるからな。」
パナマ運河施設攻撃の効果はそれ以外の点にも波及した。それは経済特に証券市場である。パナマ運河は経済。軍事的にアメリカの西方進出の礎になる。それが破壊される恐れがあるということはつまりアメリカの西方進出の障害になるのだ当然それによって利益を受けるだろう企業は悪化が予想されるそうなれば投資した資金を回収しようとする動きが生じる。同時にパナマ運河の投資そのものも引きあげられる恐れもある。
「我が国が彼らに投資するということは同時に彼らを資金面から支配するということにつながる。アメリカよ世界の覇者は我々なのだ。」
ワシントン
「艦隊を出撃させよ!!」
ルーズベルトは怒鳴っている。
「艦隊を保全せよとは閣下の命令ではないでしょうか。」
「そうだ。だがパナマは別だ。」
「確かにあそこまで大胆にABCが動くとは思いませんでしたね。早急にたたかなければならないと私は主張しましたが。」
「パナマ運河が狙われるということを君は言わなかったではないか。言われていれば私とて動く。言わなかった君が悪い。」
「責任のなすりつけ合いは後にしてどうすればいいか考えましょう。生還者からの情報ではパナマ運河を砲撃した艦隊は旧式化した装甲艦を主力の砲撃を実行、装甲艦は帰還した模様です。足手まといの旧式艦を排除したということですね。」
「そんなことはどうでもいい。艦隊を出動させよ。」
「それは命令ですね。」
「そうだ。」
「かしこまりました。太平洋艦隊を出撃させます。」
メキシコ アカプルコ
ABC艦隊は入港・整備・補給を行っている。アカプルコは太平洋側の港湾都市のひとつであり、米国の艦砲射撃の被害を受けた都市でもある。アカプルコは住民男で総出でABC艦隊の支援にあたっている。さらに補給物資も焼け出された中、進んで提供している。市街地を狙うそれはこのような効果もあるのだ。
ようやく建てられた酒場に上がる水兵は酒場の客からの驕り攻めにあう。
整備内容はパナマ砲撃の際に消耗した大砲の交換。正しくは大砲の砲身の交換、砲弾等の補給。これらはあらかじめ用意された輸送船と工作船の資材と機材を用いて行われている。
あらかじめパナマでの砲撃は交換が比較的容易な速射砲もしくは旧式化した装甲艦の大型艦砲を使用していた。大型艦砲を搭載した装甲艦は艦隊決戦には障害にしかならないのですでに帰還している。予備砲弾すら補給船には積んでいない。
「補給完了いたしました。」
「乗員には十分休ませろ。そして楽しませろ。われらも彼らもおそらく死ぬのだから。」
とある艦長はつぶやいたという。
米太平洋艦隊
「無茶言いますね。」
「無茶でも勝つにはそれしかないし、そうでもしないと彼女は戦闘に参加することはできない。幸いあっちも彼女を戦力外とみなしているだろう。」
「手配はしておきますがあてにはできなせんよ。彼女抜きで勝つことだけを考えておいてください。」
プエルト バヤルタ北西沖200海里 カルフォルニア湾 湾口部 ABC艦隊旗艦ガリバルディー 8月12日
「偵察艦より入電。米艦隊発見。カルフォルニア湾内部から外部方向。編成は装甲巡洋艦5、防護巡洋艦5 2列縦陣。右列が装甲巡洋艦5隻、左列が防護巡洋艦5隻。」
通信員が報告してくる。この偵察艦はもともとヨーロッパ某国の貨客船(蒸気動力) である。複数の偵察艦が前線にいる。彼らは民間船に偽装しており、いざ見つかっても臨検されるだけ。積み荷は少量の石炭。いざとなれば燃料庫の石炭を含め全力でボイラーに叩き込んで逃走する。民間船は装甲がないので軍艦よりも機動力があるので貨物が少なければ逃げ切る時間を稼げる。
「軍艦は主にカルフォルニア湾にいる。メキシコ軍からの情報通りですね。」
米国はすでに軍用艦船での通商破壊を断念している。そのかわり軍用艦船よりも軽くそして接近しても拿捕・撃沈対象にばれにくい存在を通商破壊に参戦させようとしている。戦争初期に拿捕した民間船だ。これに陸軍から移譲された大砲を搭載させたものである。これを通商破壊船という。史実では第1次世界大戦中に大西洋やインド洋などで猛威を振るった存在である。
彼らは単独行動を行い、同じく単独行動をしている船を狙い、通商破壊を実施している。
これに抵抗するために民間船も多少の武装をすることもある。だが、陸軍から移譲された制式火器と民間レベルで手に入る武装では差がありすぎるうえに武装を搭載すれば商船も機動力、搭載能力が落ちる。その分通商妨害が可能なのだ。
ABC艦隊側もこれを撃滅したいだろうが、撃滅するには分散している。彼らに分散する必要がある。そうなればカルフォルニア湾から進出した米艦隊は分散したABC艦隊艦艇を各個撃破するだろう。
先日のペルー沖海戦のように…彼我が逆転し繰り返すことになる。
そのためABC艦隊が通商破壊船を討伐するには米艦隊を撃滅する必要があるのだ。
「見えた!!米艦隊です!!」
ABC艦隊は沿岸部を北上した。そして同時に沿岸を南下してきた米太平洋艦隊と接敵する。
「湾口まで進出してきている。やはり作戦を読まれている。」
米軍はおそらく偵察艦からの無線を傍受している。内容は暗号電文でわからないだろうが商船に無線機があまり普及していないこの時代、商船から無線が放たれただけで怪しまれる。ABC艦隊の襲来方向がわかっている以上、接敵するために進出してくる。
「これでは地形を利用することができませんね。」
ABC艦隊がさらに有利に戦える状況にするにはカルフォルニア湾内で戦う必要があった。カルフォルニア湾内に米艦隊を押し込んでしまえば米艦隊は逃げることはできない。その一方ABC艦隊は逃げ出すことができる。
「陣形を整えている間に速力を落としたのが響きましたね。」
ABC艦隊は編成の再編と同時に陣形を変更した。敵艦隊との遭遇戦に適した陣形だったが、陣形の変更に手間取るのがネックだった。陣形転換後の編成は米軍と同じく2列縦陣だが位置が違う。右列に第1・2巡洋隊(すべて防護巡洋艦)、左列に打撃隊(装甲巡洋艦及び補助の防護巡洋艦) となっている。
「だがそれも想定の一つにあった。作戦通りだ。打撃隊1,2番艦隊列をずらす。後方の防護巡洋艦は装甲が弱い。回頭まで守るぞ。」
打撃隊1番艦、総旗艦ガリバルディーが1船体分進行方向左側にずれる。
「距離15000」
「打撃隊1.2番艦打ち方はじめ!!」
すみません。考えてみて大西洋に戻ります。太平洋だけだと時が狂う
更新失敗のお詫び
申し訳ありません。
早急に対応します
データが無事なら今日明日中に公表予定




