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改史 大戦  作者: BT/H
21/83

第4章 第2次米墨戦争編-5 前夜と初戦

 この時期メキシコ関連の航路は硝石輸送に使用される民間船に対する臨検を行い、抵抗した場合は拿捕・撃沈、しなかった場合でも拿捕、接収をし、メキシコ国内での火薬の総量を減らす作戦だ。

 しかし、この時点ですでに開戦より2か月以上開戦と同時に急遽輸入された硝石船団の一部はすでに入港している。戦場に大量の火薬が供給されればその分前線火力は増大する。そうなれば陸戦の犠牲が多くなり、勝利が遠のく。アメリカにとってこの航路の遮断は最重要課題なのだ。


 渡米直後 マハン邸

「まったく困ったものだ。陸軍には」

 米国海軍退役少将アルフレッド・セイヤー・マハンは頭を抱える。目の前には2人の東洋人。2人ともは数年前にあったことのある人間である。

「陸軍と海軍は対立するものですね。日露戦争でもそうでした。しかし閣下のおっしゃりようでは海軍と陸軍の対立が米国の戦略に関して大きな重石となっているということですね。」

 そのうちの一人秋山真之中佐はマハンの思いを言葉に出した。

「秋山中佐。対立そのものが問題ではないのではないでしょうか。程よい対立は競争を生む。そして双方が同じ戦略目標を持つ以上協力することも可能。本当の問題点は陸海軍の戦略構想の相違…すなわち双方が同じ目標に向かっていないこと…フロンティア消滅(西部開拓の終了) 以降の戦略それに差異が生じたということではないでしょうか。」

 もう一人は佐藤 鐡太郎中佐。秋山と同じようにマハンの著書を愛読しその影響を大きく受けている軍人である。秋山と同じく海軍大学の教員(さらに生徒でもある) でありその講義をまとめた資料は天皇に献上されたほどの代物である。

 作者の私見としてこの時期の双方の立ち位置は秋山真之が戦術(戦うこと) を得意とする参謀であるのに対し、国家戦略的思考のできる参謀であると考える。ただし第1次世界大戦ごろには秋山自身も国家戦略級の志向ができる人間にまで成長している。

 ちなみにこの時点で中佐としては佐藤 鐡太郎のほうが先任であり、本来ならば海軍側代表になるべき人間でもあったが、同行する陸軍将官が秋山真之の兄である好古であったこと、軍神東郷平八郎や島村 速雄らの後押しから秋山が代表になっている。

「アメリカ…特に海軍動きは明らかにアジアに向けて動いています。すなわち西進です。ハワイ併合、米西戦争そして現在建設中のパナマ運河いずれも西を向いている。」

「ということは米陸軍は南向き…すなわち南米!!」

 秋山は佐藤の発言に続いて米国の問題点を叫ぶ。

「そうだ。米陸軍はおそらくフロンティアの消滅以前から消滅時のことを考えていた可能性がある。メキシコに対して行った開戦謀略(第1次米墨戦争時) をはじめ南向きの動きはしていた。南北戦争で陸軍は消耗しなければ確実にさらに南に向いていたことは疑いない。」

 マハンは佐藤と秋山の発言を肯定する。

 米国は50年前の内戦(南北戦争) で多くの国力を消耗した。双方の動員兵力の総数は245万人以上、そのうちの50万人弱が戦病死した。この犠牲者数に当時3100万人いる民間人の死亡者数は換算されていない。これは史実第二次世界大戦の戦病死者(40万人強) よりも多くのアメリカ人が死亡することになる。世界初の総力戦ともいわれるこの戦争でアメリカは多くの国力を失うことになった。陸軍はその影響を大きく受けた。当然軍部は緊縮を強いられることになる。特に陸軍はそれが顕著になる。海軍は外国勢力の介入を防ぎ、そして砲艦外交を仕掛ける重要な要素だった。さらに造船技術の革新で従来艦艇が軒並み旧式化した。そのためそれなりの予算がかけられ増強され、増強された。その一方陸軍はアメリカが他の主要国と海で隔てられているため、予算はつけられなかった。直近の戦争である米西戦争では民兵合わせてようやく30万人が動員できる規模に縮小されてしまっている。

 南北戦争さえなければ…マハンの戦略がなければ…米陸軍はさらに南米への圧力をかけ海軍はその支援をするその体制が組まれていたのだろう。下手したらメキシコという国は消滅していたかもしれない。

(日本としては当面のうちは米国の意識が南に向かっていたほうがいい。だがその間に米国は国力を増大させるはずだ。将来確実に西に向いた時に脅威となる。今我々が苦労するか将来の子供らが苦労するかだな…。)

 秋山たちはしばらく話したのちにマハン邸を離れる。

「情報を流そう」

 佐藤は秋山に声をかける。

「流して動きそうな勢力はあるか?」

 秋山は切り返す。

「一つしかない。マハン先生もおそらくそれを期待してわれらに話したんだろう。」

「子らの世代に苦悩残すことなかれだな…。」


 南米某所

「米国の介入は急進的すぎです。メキシコの次は我が身です。」

「でもどうやって妨害する。我が国の兵力だけでは米太平洋艦隊の半数も満たない兵力しかいない。戦えば負けるぞ!!」

「ここに集まっている人間は聞いているだろうが…欧米某国が支援してくれるそうだ。今回艦艇を失ってもその分新型戦艦の就役とともに旧式化した艦艇を無償で譲渡してくれるそうだ。失わなくともくれるそうだが」

「しかし戦えば兵が死ぬ!!陸軍みたいに動員が通用しない海軍は平時負担が大きい失われた将兵を鍛える時間はない!!本格的に対立すれば増強の暇もなく押しつぶされるだけだ。」

「訓練を早めるためにはいち早く戦艦が到着している状態を作らなければならない。」

「では!!」

「今回、間に合わなかったとしても戦艦は手に入れる。某国には伝える。」

「戦闘はどうします!!わが1国だけでは勝ち目は」

「連合海軍を編成する。それしかない。当局単位で命令系統などの再編を急ぐ。」


 欧州某国海軍省

「よろしいのですか。」

「構わん。旧式中の旧式だ。人員的・費用的に利点は多い。、」

「しかし4か国合計譲渡艦艇数戦艦20隻、巡洋艦8隻、駆逐艦28、今作戦中派遣するは最新鋭の戦艦6隻多すぎるのでは?」

「初動から全力でやる。戦力の逐次投入ほどばかばかしいことはない。戦力の低下も短期のこと。長期的にはよいことしかない。新造艦の予算請求にとって好材料にしかならない。現状動かせる最大限の兵力それが最新鋭戦艦6隻だ。」

「しかし米海軍の総兵力は…」

「いきなり米国が太平洋に大艦隊を回航するとは思えない。カリブ海での作戦が大詰めの今来たとしても装甲巡洋艦数隻、戦艦がせいぜい2隻以下。6隻いれば当面十分だ。それで不十分だというのならば例の船の完成と派遣を急がせろ。追加で合計5隻圧倒するぞ。」


 ペルー沖 商船団 7月12日

「集団護衛とはシンプルかつ大胆な方法だ。」

 南米各国は米国の早期の介入を恐れ結託した。その結果、ペルー沖には南米各国の艦艇が集結。米国の海上封鎖を恐れ停泊していた多数の硝石運搬船を伴い北上する。汽船、機帆船、帆船の入り混じった小船団を護衛することは極めて困難なことだがやり遂げなければならない。火薬の原料である硝石をメキシコに運ばなければ次は我が身だ。

艦隊の編成は

 主力隊(旧式艦の寄せ集め)

 総旗艦(名目上の旗艦)

総旗艦ワスカル (名目上の旗艦) (旧チリ海軍艦艇、作戦に合わせて返還、現ペルー海軍)

アルミランテ・コクレーン   (チリ海軍艦艇)

リアシュエロ         (ブラジル海軍艦艇)

アルミナンテ・ブラウン    (アルゼンチン海軍艦艇)

 打撃隊(装甲巡洋艦を主軸)

旗艦ガリバルディー    (アルゼンチン海軍艦艇)

ヘネラル・ベルグラノ   (アルゼンチン海軍艦艇)

ジェネラル・オヒギンズ  (チリ海軍艦艇)

エスメラルダ       (チリ海軍艦艇)

ブエノス・アイレス    (アルゼンチン海軍艦艇 防護巡洋艦)

 第1巡洋隊(別名ブラジル隊 ブラジル艦4隻、アルゼンチン艦1隻)

アルミランテ・バロソ、ベンジャミン・コンスタント、レプブリカ、アマパ

 以下アルゼンチン艦

パタゴニア

第2巡洋隊(別名チリ隊 チリ艦5隻)

プレシデンテ・エラースリス級

プレシデンテ・エラースリス、プレシデンテ・ピント

ブランコ・エンカラダ

ミニストロ・ゼンテノ

チャカブコ

第3巡洋隊(別名ペルー隊 ペルー艦2隻、アルゼンチン艦2)

アルミランテ・グラウ級

アルミランテ・グラウ、コロネル・ボロネジ

 アルゼンチン艦

ベインティシンコ・デ・マヨ、ヌエベ・デ・フリオ

(巡洋隊はいずれも防護巡洋艦で編成)


 と寄せ集めの

超旧式戦艦4隻(事実上の戦力外 装甲艦)

装甲巡洋艦4隻

防護巡洋艦15隻

 だった。


 彼らが相手をするのは米国の太平洋艦隊所属の装甲巡洋艦6、防護巡洋艦6と打撃力は米国が有利であろう。

「唯一の救いは彼らが通商破壊のため分散行動している点だけだ。」

 打撃隊旗艦装甲巡洋艦ガリバルディーに乗船するマヌエル・ドメック・ガルシア大佐(のちの海軍大臣) の発言である。


1907年7月19日 ペルー沖 硝石運搬船(英国船籍)レシントン号

「石炭煙を確認!!」

 マストの見張り員が叫ぶ

「発見されたな。」

 船長は冷静。

「米艦ならば追ってくるはず。速力では勝てない。が、時間稼ぎにはなる。回頭180度機関全速。会敵を打電。」


 同国南に数十Km 総旗艦ワスカル 

「先行していたレシントン号が米艦隊と思われる石炭煙を確認。」

「他の先行船は退避開始を打電。打撃隊と第1,2、3巡洋隊は全力で支援に当たれ。」


 装甲巡洋艦カリフォルニア

「停戦信号従わず南面方向に逃走。撃沈許可を」

 副艦長が問う

「撃沈を許可する。」

 艦長は一言命じる。


 レシントン号

「敵艦発砲煙確認」

 見張りが叫ぶ

「進路転舵!!回避しろ!!」

 艦長は叫ぶ。船は右に傾き射点をずらす。同時に左舷に至近に砲弾が命中大きな水しぶきを上げる。

「機関室!!窯が焼き切れて構わん全速だ!!」


 防護巡洋艦マーブルヘッド

「目標艦進路変針。」

「チャンスだ。前に回り込んで併走状態を築く。機関最大!!カルフォルニアの前に出る!!」

 レシントン号は砲弾回避のためにランダムな転舵を繰り返す。

「射程に入り次第各砲自由射撃。斉射はするな。狙いが正確なほど避けられる。」

 軍艦より商船は遅い。


 レシントン号

(どれだけ耐えられるかだ…この作戦に志願して参加してくれている精鋭を失うわけにはいかない…。彼らが乗るべき船はこんなボロ船ではない)

「船尾に被弾!!」

「よし偽装煙を発生させろ!!油にも火をつけろ!!」

 艦長は命じると同時にレキシントン号後部は火に包まれる。

「前方に多数の煤煙を確認!!見えました!!」

 見張り員の声は苦しいが輝いている。助かったその安堵の声だ!!

「よしタイミングを見て転舵。会敵させるぞ」


 打撃隊 旗艦 装甲巡洋艦ガリバルディー

「提督。レシントン号火災発生です。」

マヌエル・ドメック ガルシア大佐(参謀) は隣にいる司令官に話しかける。

「レシントン号より灯火信号『ソウコウジュンヨウカン1、ボウゴジュンヨウカン1』です。」

「偽装か本物かはわからない。だが状況は作ってくれた。」

 アルゼンチン人の提督は笑う。

「第一目標防護巡洋艦全力砲撃を行う。交戦旗を掲げろ。第2巡洋隊は減速し、打撃隊と第1巡洋隊の陰に入れ!!敵に見つかるぞ!!」

 第1巡洋隊は3列の縦陣の最右翼(煙幕の影響が少ない。) から煙幕に隠れるため減速。打撃隊縦陣の後方につける。もともとそこには第3巡洋隊が位置していたが彼らは第1巡洋隊の動きに合わせ3列の縦陣の最左翼後方につけ艦隊陣形は3列(中央列のみ隻数が極端に多い) から二列縦陣に移行する。

 装甲巡洋艦ガリバルディーのマストの旗が変わる。変わり終えると同時にその場のすべての砲門が動き始める。

「レシントン号回頭」

 レシントン号は西に向けて進路を変える。レシントン号後部から発生する煙は南から向かう連合艦隊を北からくる米海軍2隻から隠す。

「エシントン号は無事のようだな。」

「はい。偽造煙のようです。」

 提督とガルシア大佐(参謀) はつぶやく。

 しかし風は吹き煙幕はまき散らされる。だがその間に彼我の距離は8000mに迫る。

「非武装の船舶を襲う海賊行為を見過ごすわけにはいかない。全艦打ち方はじめ」

「陣形を整えろ!!二列縦陣!!射角に入らぬように注意!!」

「敵艦隊の左舷方向に回る面舵!!左舷舷側打ち方」

「距離7000フレンドリーファイアー(同士討ち)に注意打て!!」

晴れた煙幕に映える2隻の米艦。煙幕に紛れて接近したがために回避が遅れた2隻の米艦に対し左舷側全門が火を噴いた。狙いは2隻のうち前にいた防護巡洋艦マーブルヘッドたった1隻の防護巡洋艦に対し装甲巡洋艦3隻、防護巡洋艦15隻から放たれた砲弾が集中する。斉射戦術なんてまるで無視だ。斉射戦術の利点は自艦の放った砲弾の判別ができ、修正が容易であるということだ。

しかしつるべ打ちのごとく砲撃が集中すれば防護巡洋艦などたまったものではない。外れた砲弾を含め多数の水の柱が立ち、数分後には浮いている廃墟と化す。

「目標変更装甲巡洋艦!!装甲を貫徹させる必要はない。上部構造物を徹底的に破壊せよ。戦闘不能になったのちに魚雷もしくは衝角で仕留める。」

「ヌエベ・デ・フリオ轟沈」

「アマパ戦列を離れる」

 直後、風にも命中弾2発。ヌエベ・デ・フリオは運悪く敵主砲弾を弾薬庫に受けたようで一瞬のうちに波間に消える。チャカブコも装甲巡洋艦の主砲弾が命中したようだが爆沈しないが船速が落ちる。こちらは機関室に被弾したようでだ。

 防護巡洋艦…装甲が限定されている彼らにとって装甲巡洋艦の主砲は甚大な被害を生じる。まともに打ち合えるのは同等の砲を持つ装甲巡洋艦のみ。それ以外の砲弾は装甲を貫通することはできない。連合艦隊の防護巡洋艦は装甲内部にそのため大きな損害を与えることができない。しかしながら艦上部構造物内にいる乗員や武装に対しては有効だった。砲弾を集中し数分後多くの外れ砲弾と少数の命中弾による物量によりカリフォルニア艦長が戦死もしくは砲員の多くが死亡したと推測される。負傷し反撃はまばらになる。

「接近し、さらに砲撃を加えろ。沈むまでだ。」

 その号令のもと砲撃は続行された。装甲巡洋艦カリフォルニアは白旗を掲げることはなかった。おそらく白旗を掲げられる乗員は戦死していたか白旗を掲げられる状態ではなかったためであろう。

「打ち方やめ」

 艦隊が射撃を中止したのは装甲巡洋艦カリフォルニアの艦尾が持ち上がり始めたころだった。装甲巡洋艦カルフォルニアが史実で戦没したのが1918年7月19日。史実よりも11年早く海に消えた。改史においては就役して1年未満(史実では完成もしていないのだが) という新鋭艦が失われたうえにその後生還者を捜索するも見つからなかった。生き残って脱出したとしても外れた砲弾の水中爆発の圧力で死亡したとみられている。これは防護巡洋艦マーブルヘッドも同様で米国軍は一人の生還者もいなかった。


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