第4章 第2次米墨戦争編-3 初戦と上陸
いつの間にか100ポイント超えてましたありがとうございます。
以下アメリカ兵を2通りに分ける表現をします
正規兵=第2次米墨戦争開戦以前から米国本土軍軍人だった人間練度、兵器ともに最新型を使用する。
新兵=第2次米墨戦争開戦のために急募した兵士。練度が低いうえに兵器は旧式
アメリカ合衆国、メキシコ軍ともに兵士を国境に集めた。
その双方に大きな問題があった。アメリカ軍はこの戦争にために急遽集められた素人が主力だった。アメリカ軍正面戦力の総数はおよそ40万人。そのうち正規兵は4万ほど。その他すべてが新兵だ。この新兵も恐慌で生じた失業者から募集し、入隊テスト(歩兵は小銃の命中率や体力などが基準。砲兵などは計算能力に関する能力試験なども基準になっている。) で選ばれただけであり、戦術に関する教育など何も受けていないずぶの素人である。当然練度には大きな問題がある。
メキシコ軍はが集結した軍は20万人程度。しかしメキシコ軍はすべての兵士に武器を与えられるほど小銃を保有しているわけではない。そのため「戦死した仲間の銃を拾って打て」という命令が出されている。そのため数と比較して戦闘能力は極めて低かった。
練度不足の米軍と武器不足のメキシコ軍。合計60万人の兵士が3000㎞以上の距離に展開した。距離に比して兵数が少ない。そのため戦闘は散発的なものとなった。防衛線はあってないようなものであり、間隙をついて後方からの物資輸送部隊が襲われるケースも多く、たびたび補給は途絶した。そのため前線の兵士は極限のストレスの中におかれた。そのの状態で兵士が都市部に侵入しようものなら兵士による略奪や虐殺が多発することは容易に想像できる。守るほうも非正規兵によるゲリラ戦など国際法違反行為が目白押しになることは容易に想像できた。結果、両軍ともに動けないという状態に陥った。
硬直した戦線が動くようになるのは1907年6月のことになる。
1907年6月
海上封鎖からおよそ2か月。アメリカは十分な数の貨物船を入手するとともに後方からの上陸部隊の編成を急いだ。船はバラバラ。この当時の貨物船はいまだに風の力を利用した帆船も多い。帆船といっても動力付きで非常時のみ動力を利用する機帆船という例も多い。むろん前世代的な船であり、軍用として使いづらいことは否めない。第1次世界大戦ではその点をついて通商破壊作戦に投入された「ゼーアドラー」のような例もある。
ただどのような船でも物資輸送、兵員輸送には使える。弱小の海軍すら持たないメキシコ相手ではこのような旧式貨物船でも安全な航海が保障されているといってもよかったのである。ただし、そのような船は物資輸送に使用されることになっている。
1907年6月24日 ヒューストン停泊地 総旗艦 戦艦コネチカット露天艦橋
「とうとう後方への上陸作戦ですね。兄さん。」
真之は戦艦コネチカットに乗り込んできた兄の秋山好古と話している。周りには数隻の戦艦とその10倍近い貨物船、さらに小型の防護巡洋艦や駆逐艦が停泊している。
「そうだが、上陸地点はまだ公表されていない。艦隊の集結地はここのほかにもメキシコ沿岸の各港湾都市すべてを動員している。国内には間者もおるだろうし、兵士を集結させていることはばれている。どの都市に上陸作戦をかけるかどうかあちらは困惑しているだろうな。」
秋山好古は上陸作戦が行われる段階になると乗船し、その上陸作戦を観戦する予定だった。そして上陸作戦直前になっての旗艦となる戦艦コネチカットに乗り込んできたのだ。
「第1次米墨戦争時はベラクルスという港湾都市に上陸作戦をかけたはず。今回もそこなんじゃ…」
第2次米墨戦争はほぼ第1次米墨戦争と酷似した戦略で移行している。補給物資の輸送や戦略機動などを考慮し、メキシコ湾岸の港湾都市を攻略、そこから首都メキシコシティーに侵攻した。
「それはあちらも読んでいるはずだ。」
それ以外に有効な戦略がないからだ。
アメリカ本土からメキシコの首都メキシコシティーは遠い。補給物資輸送を考慮に入れれば陸路ではとても到達することは困難だ。しかし海路メキシコ湾を経由した場合、それは可能なことになる。
「確かに。両軍ともに国境線にそろえた兵の数は全力ではない。アメリカはメキシコ湾上陸作戦の兵力として…メキシコはその迎撃戦力としての余裕を残している。」
秋山好古は他の観戦武官(米墨国境線司令部付) からの情報を総合して判断する。
「それよりも疑問に思うのが集結させた兵士の数だ。情報では各地の基地に合計2万。わざわざパレードなんぞ行いおって見てくださいと言わんばかりじゃないか。」
メキシコ湾岸都市に配属された兵士の多くは堂々と大規模な軍事パレードをを行いつつ集結した。その数総数にして2万名程度。
「本格的上陸作戦はまだ先ということでしょうか?」
秋山以外にいる若手将校が聞く。
「違うな。船の総数から見て偽装。」
真之は浮かぶ船を見ながら言う。上陸作戦は実施される。
「おそらく市民に化けて多くの兵士が集結しているはずだ。数はどの程度かわからない。第2次上陸作戦の兵力もここに集結しているはず。」
「米軍は何人の軍隊を編成したのだろうか…そんな偽装をするなんて…」
「フィリピン軍含め70万人というわけではないだろうな。」
「切が良くて100万か?」
冗談を込めた口調で真之が言う。
「そんな数動員するわけがなかろう」
それに対してほとんどの人間はその場で笑うしかなかった。
1907年7月4日
艦隊は出港した。目的地は艦長クラスしか知らない。目的地を知らせないまま。メキシコ湾岸の港湾都市からメキシコ湾岸に配備されているすべての戦艦、巡洋艦、駆逐艦などすべてだ。総力出撃というべきだろうか。
向かうは何処か
1907年7月24日 メキシコシティー
「襲われた都市は…襲われていない港湾都市を上げたほうが早いほどだな。」
メキシコの独裁者 ホセ・デ・ラ・クルス・ポルフィリオ・ディアス・モリ大統領は報告書を見る。艦砲の圧力を受けた各沿岸都市は次々と降伏してしまった。しかし米軍は各都市に関してほぼ放置を貫いている。各都市を民主的に選ばれた代表に統治させているだけだ。
「問題はどこに上陸するかです。このメキシコシティーを占領しなければ戦争は終わらない。前の時も終わりませんでした。前の通りならばベラクルスに上陸すると思われます。」
メキシコ湾岸都市の中でも有数の大都市であるベラクルス第1次米墨戦争では米軍はこの町から陸軍部隊を上陸させた。そしてその陸軍部隊は首都メキシコシティーへ進撃。これを陥落させ米墨戦争を終わらせたのだ。
「ベラクルスに対する反攻作戦の用意はできています。上陸直後は艦砲の射程内ですので陸軍部隊は狙い打たれるだけ。ベラクルスの守備は放棄し、内陸部で迎え撃ちます。徹底して遅滞戦争を行うことで物資の消耗を誘い、最終的にはベラクルス―メキシコシティー間の鉄道に対する破壊活動を持って補給を遮断。直後、米軍に対する攻勢に転じます。これで米国に費用面、人的資源面での出血を強要し、終戦に導きます。」
国力差から見てメキシコに勝機はない。正しくは負けなければ勝利だ。米国に厭戦気分を盛り立て、戦争が利益にそぐわないことを示す。それ以上の損失を防ぐために戦争をやめさせる。それしかメキシコに勝利の道はない。
しかし、死神の足音はすぐに聞こえてくる。
会議室の扉が思いっきり開かれる。
「アメリカ軍の上陸を確認!!上陸都市はタンピコです!!」
作中に登場するベラクルスーメキシコシティー間の鉄道はメキシコ初の鉄道で1873年に建設されました。なので第1次米墨戦争当時にはなく、第2次米墨戦争当時にある重要なファクターです。鉄道なしで大量の戦時物資輸送などできませんから。
なお、今後の予定としては第2次米墨戦争太平洋戦域と外伝(1話分)をやってからタンピコの攻防戦を書く予定です。