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改史 大戦  作者: BT/H
13/83

2章2-3戦間期 陸軍の戦い 陸軍の争い

 陸軍篇ですこれが最後の第2章です。次からは第3章 国外派遣編です。これがしばらく書いたのちに、私が独自に入れる戦争第2次○○戦争が起きる第4章国外之戦争編です。○○はどこでしょうか。ちなみに浦塩と同じ表記ですがウラジオストックではありません。


 陸軍省 大臣室1906年8月

「秋山。海軍の用事で欧州派遣が決まった。」

「海軍の用事になぜ陸軍が?」

「…児玉閣下の遺命を順守せねばならなかったというのが1番だ。児玉閣下は常々『秋山を欧州に派遣せよ』と人事部に言ってたからな。」

 日露戦争を勝利に導いたとされる名将児玉源太郎は日露戦争の緊張状態で余命を使い果たしたともいえるようなタイミングである1906年7月23日に死亡した。彼は生前、陸軍の参謀本部総長だけでなく、満州鉄道[史実の南満州鉄道。改史では譲渡された距離が長かったために『南』が抜けている。] の創設にもかかわっており、激務の中での急死だった。

 急死だったために遺書は残されていなかった。しかし、人事部や同僚の参謀にいくつかのことを常々言っていたことが『遺命』になってしまったのだ。

「わかりました。児玉閣下が私に残した『遺命』も報告に上げておきます。」

「頼む。」


 陸軍省 技術審査部

「秋山少将。欧州に行くんじゃろ」

 秋山少将は大臣室を訪れる。

「ええ。有坂少将。最新鋭の武器を見てまわっってきますよ。」

 有坂と呼ばれた男は有坂成章少将といい、日本の銃器開発者の一人である。第2次世界大戦時に運用された38式歩兵銃の原型である30式歩兵銃の開発者である。銃器開発者の専門家としてこの時、技術審査部議長を務めていた。

「よく言った。秋山少将。よろしく頼む。」

 諸外国を旅する軍人には諸外国の軍事を見るという仕事が存在するのは言うまでもない。有坂は兵器政策の専門家である以上、それについての情報、できれば現物を欲するのは当たり前だろう。

「だが君の要件はそれだけではないのだろ?」

 有坂はその上で秋山に声をかける。

「ええ。私は軍縮に対応した兵器に関してのお話をしに参った次第であります。」

「軍縮に対応した兵器だと?」

 有坂は食いつく。軍縮に対応した武器とはどのようなものであるかその概念を知らなかったためである。

「私はなくなられた児玉閣下の軍縮では兵の練度低下が避けられないのではないかと考えております。」

「確かに閣下の原案では兵の練度低下に関しての記述もあったな。対応するために学校での兵科教練や国民向け射撃練習所の配置が検討されていた。」

 有坂は高級軍人として配布されてた資料を見ていた。

 その一方秋山はその発言に否定的な表情を浮かべる。

「かつて教員だったものからしてみれば兵科教練は賛成できませんな。」

「君教員だったのか。」

「軍に入る前でしたが。

 ともかく、練度の低下を抑える策はとられていますが、練度の低下を前提とした策はとられておりません。」

 秋山は話を切り替えると同時に発想を切り替える発言をする。

「練度の低下した兵でも使える武器を作るべきだといいたいのか?」

「はい。」

「どのような武器がそのような条件にあてはまるだろうか?」

「整備の手間が少ない、戦時生産性が良い、練習しなくてもよい、あともう一つこれは兵役の縮小の関係で兵力不足になることが予想できることから小銃ならば発射間隔を短くすることが必要であると考えます。」

「整備の手間はわかる。今、日露戦争で問題が起きた30式歩兵銃は部下の南部君が改良をしている。その中には生産性と整備性改善の項目が含まれている。だが練習しなくてもよいということはどうゆうことかね。あと発射間隔を短くするにはどのタイミングでやるべきだろうか。」

「後者の場合、簡単なことです。鎖閂(読み方はササン ボルトアクションのこと) をしなくても次弾が出てくるようにできればいいのです。拳銃のように。」

「拳銃か。確かヨーロッパにはリボルバーライフルというものがあったらしいが、欠陥ばかりで廃れた。リボルバー以外の方法で次弾が装填できれば可能かもしれん。機関銃の装填機構を参考にできればより。」

「上に伝えていただければある程度の試験品を供与していただけるでしょうから研究をお願いいたします。」

「では『練習しなくてもよい』ということの答えは?」

「…それについては私には確たる答えはありませんが、海軍が答えを教えてくれました。いいえ正しくは弟の秋山真之海軍中佐が答えの手がかりを教えてくれました。」

「その答えは?」

「『連合艦隊解散之辞』です。この中には『百發百中ノ一砲能ク百發一中ノ敵砲百門ニ對抗シ得ルヲ覺ラバ』という文言があります。これは明言をしていませんが『100発100中の砲1門は100発1中の砲100門に勝る』といっているのに等しいです。」

 秋山は数枚のガリ版刷りの紙を有坂に渡す。

「弟はこれを否定しています。

 ただ私は弟の考えに関係なく、この話を応用いたします。100発100中の砲を維持するにはそれだけの訓練が必要です。その余裕が陸軍にはない。1発1発狙い撃つにはそれだけの平時の鍛錬が必要です。その余裕がないのならばむしろ100発の銃弾いいえ30発の銃弾でもいい。ばらまいて1発の命中を期待するのも一つの考え方ではないかと。」

「戦場で銃弾をばらまくのはもったいなくはないのか」

「戦場の命中精度は平時に訓練に消費した弾薬の量に比例すると考えております。平時にバカスカ打ちまくって戦場では1発の銃弾を惜しむというのは矛盾してはいませんか?」

「兵站や戦場での戦力維持に関しての負担はどうする?銃弾の生産能力均衡化や資源面ではどうだ?」

「兵站及び戦場での戦力維持に関しては私に策がございます。とりあえずこれをご覧ください。」

 数枚の紙を手渡す。

「これについても私は欧州を調べてまいります。そのほかの項目については欧州に行っている間に報告書をまとめます。」


 数日後、陸軍 技術審査部

「南部君。」

 有坂は南部麒次郎を呼び出した。この時彼は傑作小銃と呼ばれるようになる38式歩兵銃の開発を行っている。

「有坂閣下どうされました?」

「ボルトアクションなしで連射できる小銃を作れるか?」

「私は日本初の自動拳銃の開発者ですよ。できないことはないです。」

「それは拳銃の発射スピードだ。機関銃のように連射できるものは?」

「必要でしょうか?戦場では携行できる銃弾の数が限られているはずでは?」

「そうだな。両方できる代物はできないか?」

「ちょうど小銃の改良がひと段落したところです。…やってみましょう。」


 参謀本部会議

「児玉閣下の『遺命』を実行したとしても兵士の練度低下は免れないだろう。ここではどのようにして兵員の練度維持をすべきかということを議題にしたい。各員の自由な発言を期待する。なお、今回の話し合いは欧州派遣組の行動に影響する可能性もあるので秋山少将を同席させている。」

 秋山は起立し、頭を下げる。

「秋山君も自由に発言したまえ。」

 彼は便宜上、秋山を速記の役割の位置(隣)に座らせる。急死した児玉源太郎の後を継いだ参謀本部総長 奥 保鞏 は難聴で筆談なしに話すことが困難であるためだ。通常、副官がその任を行っているはずだがこの日は欠席していた。奥は旧佐幕派の人物で難聴という障害であったのにもかかわらず、能力と性格が良かったために陸軍部内での地位を確立していた。

「児玉閣下の『遺命』では

・学校教育内での兵科教練の実施

・民間向けの射撃訓練場の開設

・兵役対象者の選抜方法の改良

 があげられているが、ほかに方策がある者はいるか?」

「民間向け射撃演習場を開設したとしても民間人は利用するだろうか?何か特権が与えられない限り、厳しいだろう。」

「射撃大会でもやりますか?日本全国対象で優秀者には勲章の贈与でもやりましょうか?」

「確かにそれは名誉だろう。勲章に対する特権もありかもしれない。たとえば金一封とかでもいいだろう。」

 方針の一つとして射撃大会という大筋ができ始める。

「しかし、それは兵役経験者に有利なものだ。兵役経験者以外でも通用する種目が必要じゃろうて。それについての考慮も願いたい。」

 とある老年将校が述べる。その意見も取り上げられ、とりあえず長距離走と短距離走が加わる。

「下士官兵の不足を解消するために近衛師団所属兵すべてに下士官兵級の教育を施し、戦時、転出させれば動員にもつかえるだろうから丁度いいはずだ。下士官兵を増やせば訓練に回せる下士官も増えるだろうからな。」

 話はどのように兵士の練度を維持するのかという話に移ってゆく。

「秋山君。君は何か意見はないのかね?君は一切話していないからな。」

 奥は言葉を出す。奥は難聴であり、聞くことは難しかったが一応話すことはできた。

「はい。私のような若輩者が差し出がましいようですが、練度の維持に関して今回の対策は改善はできても根本的解決には至らないかと存じ上げます。」

 秋山は会議に爆弾を落とす。

「練度低下の根本的解決のためにはやはり、徴兵の増加が必要であることは否めないかと思います。」

「児玉閣下の策を否定するおつもりか!!」

「いいえ。児玉閣下は予算削減の中最善を尽くす策を考案なさったと思います。しかしながら、練度低下はどのような対策を立てても発生すると小官は考えます。ならば練度低下を前提とした策をも検討に入れたほうがよろしいかと存じ上げます。」

「確かに兵員の練度の低下が発生するのは否めないだろう。」

「私はさらに問題としたいのは練度の格差であると考えます。低練度の兵が戦場で足を引っ張るという現象が生じるのではないかと小官は考えます。」

「確かにそうじゃ。そんな時は下手に練度の低い兵を入れるよりも熟練兵のみで編成させたほうがいい。練度低い兵は再訓練ののちに戦場に送り込む。」

「ならば従来の階級制度では対応できない。従来は兵役を終えた者のみを徴兵対象にしたが、今後は労役に赴いたものも徴兵される。この間に大きな練度の差が生じるのは必至だ。」

「平時における国民の自主訓練の促進は先ほど上げた策が使えるが限界はある。」

「戦時における早期育成のための仕組みも必要だ。」

「即応できる兵士を第1次動員、短期訓練で出せるものを第2次動員などに分けたらどうだ」

「戦力の逐次投入にはならないか」

 会議は進む。しかしまた秋山は黙ってその様子を書き記し、奥に見せる。

「練度が十分に上げれないと仮定した場合どうする?平時の鍛錬を怠ったものが戦時、急に訓練したとしても練度は早々上がらん。戦場で痛い目を見ないとわからないだろう。」

 奥は冷静に言葉を紡ぐ。

「練度の低い兵にも使える装備や容易に訓練できる装備の開発や使用を推進すべきではないでしょうか。」

 会議に出席している有坂はそれに対する答えを話す。その内容は先日秋山と話した内容とほぼ同じだった。

「考えてみれば確かにボルトアクションをする時間はもったいないな。」

 ある将官が言う。有坂は目の前で新型小銃である38式歩兵銃を実際に使用して実演をした。

「確かに訓練でバカスカ打って戦場で1発を惜しむのは矛盾しているな。双方ほどほどにしなければならん。」

「しかし戦場への補給は困難になります。戦時は当然大量の弾薬を消費しますが、平時においてはその能力は無駄になります。戦時と平時の弾薬消費量の均等化を考えるならば平時の訓練も怠るわけにはいきません。」

「命中しないなら数撃つしかなかろう。それとも兵士に死ねと申すか?」

「大量に打てる小銃は機関銃の代用になります。機関銃の配置が重量の関係上遅いのならば、機銃到着までの時間稼ぎのため、大量の銃弾を打ち出す兵器が必要だろう。それに射撃間隔が短いのならば容易に長くすることができよう。」

「それならば戦場での機動を重視した機関銃を開発してもいいのではないか確か日露戦争の鹵獲品似たようなものがあったはずだ。」

「技術審査部では鹵獲された機関銃の一つマドセン機関銃を研究しています。」

 日露戦争は世界初の機関銃大量使用による戦闘で有名な戦争である。その多くがホチキス社やマキシム社製の歩兵一人で運用することが難しい重機関銃であった。しかし、ロシアではデンマークから輸入された歩兵一人での運用が可能な軽機関銃が少数運用されている。当然、日本軍の鹵獲兵器の一つに少数ながら名を連ねていた。

 配備数そのものが少なく、鹵獲された数も部隊で運用するのには適さなかったが、研究資料には十分だった。

「兵士一人が持てる銃弾の数など限られている。戦場での活動時間が短くなるだけだ。」

「それについては騎兵を利用しましょう。」

 秋山が口を開く。

「旧来の騎兵は限定的用途しか活躍ができません。ならば補給部隊を任せてもらえばいい。」

「それに2次動員予定者の一部を工兵として野戦軽便鉄道の敷設に充てることもできる。」

 それに付随して有坂が口を開く。

「工業力はどうだ。戦時と平時の弾薬生産力の差はその方法であればより拡大する!!」

「戦時に生産力を急拡大させられる方法を模索することも重要だ。そもそも戦時において平時と同じだけしか生産できないことが問題だ。そもそも帝国憲法では工員の徴用も可能なはずだ。砲弾や銃弾の生産を工廠だけに頼る状況を改善する必要があると考えるがその点に関してどう思うか!!」

 議題は移り変わるされど決まらず。


 参謀本部

「あまり好かんな」

 奥は会議が終わり執務室に行くと2つの資料を見る。目の前には秋山がいる。

「もうしわけありません。」

 奥は言葉がわからないが状況と話し方である程度何を言っているかわかる。少なくとも秋山がこの時、謝罪していることはわかった。

「会議のことではない。もう1枚の報告書のことだ。会議のことは君独自の判断に任せる。経験はあるのだろフランスで。」

 秋山好古は当時の陸軍将官たちが行っていた留学の際にフランスに行ったという事情がある。他の将官候補者のほとんどがドイツ(当時、普仏戦争のプロイセン(のちのドイツ) の勝利で日本は陸軍をドイツ式に整備することを聞けていた。その中でのフランス留学は陸軍部内での少数派となり、出世コースから外れることを意味した。) 留学する中での少数派であるフランス留学経験者となった。その際に騎兵運用の研究を行った。この時、陸軍は人員の不足などの原因で当時大尉であった若手軍人一人に陸軍の重要兵科の一つである騎兵の研究を任せてしまったのである。

「はあ…」

 秋山はため息をつく。同時に用箋挟(クリップボードのこと) に挟んだ紙に文字を書く

『同じことを期待されても困ります。』

 フランス国内だけの活動ではない。これまでにないものを作るのだ。参考にできる前例がない以上、動きようがない。

「とりあえずデンマークには寄ってくれ。マドセン機関銃に関して国内での採用を行うか検討したい。38式小銃と同一銃弾を使用できるようにしたものを日本国内で生産したい。儂としてはな。」


 陸軍は陸軍で欧州派遣を利用する気満々です。偶然にも兄弟(秋山好古と真之) が同じ任務に就きます。さてどうなることかお楽しみください。


 なお題名の数字がわかりにくいとおっしゃる方もいるでしょうが申し訳ありません。もっと長く、戦間期編を書くつもりでの書き方だったのですが、留学は留学でまとめたほうがよろしいと思いましたのでこのような形とさせていただきました。よろしくお願いします。


 春休みの終わりにつき更新ペースは月の終わりの金曜日になります。よろしくお願いします。

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