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Knight of Story  作者: 高奈
第1章 旅立ち
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第6話

アンは、ジャンティーに許可をもらい再度着替えるために自室に戻っていた。チェイン・メイルを慣れた手付きで着込み、上からいつもの平服を被る。腰にベルトを巻き、マナーの範囲である化粧を施すと、自身の武器である弓と矢筒を背中に背負い、扉を開けた。そこには待たせていたジャンティーと、先に国王に謁見の許可を取らせにいった部下が戻っていた。


「お待たせ。どうだった?」

「はい。国王陛下もその話が本当であれば、ぜひ話をしたいとの事でした。」

「うん、わかった。じゃあ行こうか。」

「は、はい。」


アンは部下とジャンティーを引き連れ、国王の御前に向かうため歩を進めた。その間、ジャンティーに様々な質問をし、彼の素性を探りつつ場の雰囲気を和ませていた。

曰く、彼はアンドレイアー王国の城下町で一般的な夫婦に育てられたらしい。特にこれと言って特筆するような事はなく、将来は世界を見て回るため冒険者になりたいと言って両親を困らせていたそうだ。両親は彼が勇者になるべく産まれたのだという事は知らず、今回彼が城に赴く際はひと悶着あったらしい。それでも、送り出してくれた両親には心から感謝しているとジャンティーは言っていた。

それを聞いたアンは、もう一度彼を守らねばという強い意志が生まれた。彼を育てた両親のためにも、彼は無事に送り届けなければなるまい。


「着いた。」


アンが決意を新たにしたところで、王の間の目の前に到着した。大層な扉の横には担当の警備兵がおり、緊張した面持ちであった。


「お疲れ様。陛下は?」

「アン隊長、お疲れ様です。陛下は首を長くしてお待ちです。どうぞ中へ。」


2人の警備兵が目配せし、アンに確認を取ると扉に手を添えゆっくりと開いた。

アンは最高潮に緊張しているであろうジャンティーの頭をやんわりと撫でてやると、ジャンティーの前に立ち玉座へとゆっくりと歩を進めた。国王が待ち構える玉座の目の前に立つと、慣れたように膝を付き首を垂れた。ジャンティーもそれに倣い、ぎこちなくではあるが膝を付きゆっくりと頭を下げた。


「長らくお待たせしてしまい、大変申し訳ありません陛下。こちらに見えますのは、古より我々が誕生を待ち望んだ伝説の勇者ジャンティー・ヴァリエンテでございます。このアンドレイアー王国城下より、馳せ参じたとの事です。」


顔を上げ、国王の目をしっかりと見ながらアンはジャンティーの紹介をした。アンドレイアー王国の現国王は、文武に秀でた人物であり顔は荘厳で力強いオーラを発しているが、性格は柔和で民に慕われている。とは言え、弱冠16歳の少年がその強面を目の前にするとどうしても萎縮してしまうのは仕方のないことである。


「じ、ジャンティー・ヴァリエンテと申します…この度は謁見に与りまして心から感謝いたし…」

「フッ…よい、ヴァリエンテ。そう強張らなくとも、そこのアン・カエルムから主について報せを受けておる。」


今までの厳しい表情が嘘のように、国王は優しく微笑んだ。年齢のため皺の多いその表情はあまり変わったように見えなかったが、重苦しかった雰囲気がスッと和らぎ歓迎の意を酌むことができるようになった。ジャンティーは隣で笑いを堪えているような表情のアンを一瞥し目が合うと、何も教えてくれなかったアンに対して抗議の意味を込めて少しだけふくれっ面をした。


「して、ヴァリエンテ。我々王族には、勇者と名乗る者には背に天使の名残があると言い伝えられておる。この場で脱げというのは酷ではあるが、そなたが真の勇者であるという明証に私に見せてもらえるか?」


国王からの申し出に、アンはそっと横目でジャンティーを見た。その顔はやはりどこか不安そうであったが、動揺は見られずこうなるだろうと予測していたようだった。実際、応接室でも背中の傷について語っていたようだと、サキから聞いていた。ジャンティーは了承の返事をし、荷物を置くと、産まれた頃からその背に残る天使の羽が手折られた傷を見せるため上半身の衣服を脱いだ。

そこには、くっきりと2つ何か生えていたものが折られたような傷跡が残っていた。肩甲骨ではないそこに近い場所にそれはあった。


「ふむ…確かに言い伝え通りのようだな。気恥ずかしい思いをさせてすまなかったな。もう着衣して構わんぞ。」

「はい…」


ジャンティーは急いで脱いだ服をもう一度着直すと、やっとホッとしたように息を吐いた。それを確認したアンは国王に顔を向け、次の指示を仰いだ。


「いかがいたしましょうか、陛下。皇帝閣下にご報告致しますのはもちろんですが、再度勇者に明証を示させるのは酷ではないでしょうか。」

「うむ…だが、あの方に信じてもらうには同じ手を取る他あるまい。我らを信用なさってはいるが、書面や言伝のみで結論を出しては国家の存亡に関わるからな。」

「承知致しました。」


アンは即座に提案を却下されたとは言え国王には敬意を払ったまま、次の言葉を待った。勇者が現れた以上、皇帝に報告しないなんてことはナンセンスだ。アンドレイアー王国の信用を失う事になるし、何より伝説の勇者に授けられる「勇者の剣」はアンスロポス帝国の城内にて保管されている。それを得るためにもやはり帝国には参上しなければならない。


「アン・カエルム支援部隊長。お前はこの者の責任を取ると言うたそうだな?」

「はい。ジャンティーから真の勇者である力を感じましたため、彼の事はわたくしが責任を持って陛下の御前にお連れ致しますと…」

「よろしい。では、只今よりお前を勇者の同朋とし、彼の者を支えるよう命ずる!それはこの世界に平和をもたらすまでと心得よ!」


この国王の差配に周りはざわついた。アンは確かに優秀であるが、それでもこのオムニスを救うための旅に同行させるなど、何か特別な力を持っているわけでもないのになぜ…。唯一ジャンティーの味方をし、見抜いた心眼は評価に値するが、実績が足りないのではないか?帝国の師団長も若くしてその地位についているのだから、彼に任せる方が良いのではないか…。様々な意見が飛び交う中、国王は決定を変える事はなかった。じっとアンを見つめその返答を待つ。

アンは国王の指令に、沸き立つ興奮を噛み締めていた。グッと歯に力を込めギリギリと音が聞こえるのではないかという程に強く。そして輝いた瞳で大きく頷き、声を張り上げた。


「身に余る光栄でございます!アン・カエルム、命を賭してジャンティー・ヴァリエンテを守護し、この世界に真の平和をもたらさん事を、誓います!」


そうして、アンはジャンティーと共にアンスロポス帝国に向かう準備をする事となった。



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