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01 序章・出逢い。



ハローハローハロー

メリークリスマス!







 一つ、願いが叶うとしたら、あなたは何を願いますか?

 


 もしも願いが一つだけ叶うのなら、色々悩むけれども、私は異世界に行きたいとお願いしたい。それも魔法で溢れたファンタジーの世界に行きたい。

 私は恋い焦がれていた。子どもの頃からの夢。

 もしかしたら寝て起きてみたら、どこまでも広がる草原に横たわっているかもしれない。だなんて空想していた。

 もしかしたらこのドアを開けば、見知らぬ森か城にいるかもしれない。だなんて幾度も空想していた。

 でもそんな願いを叶えてくれる神様がいるわけなく、早々に、諦めることを選んだ。代わりに、物語の中で味わって満たした。些細な楽しみを、幸せだと思って満足してこようとした。

 働くくらいなら、本に埋もれていたい。それでは、生きていけない。残念。

 細部までこだわったファンタジー映画のワンシーンを、スクリーンではなくて直接見てみたい。大人になっても願いは、色褪せることなくあった。

 毎日同じことの繰り返しで、特に面白くもない仕事を淡々とこなして、他の人はなんのために生きているんだろう。なんて、戯れたことが時々過る。案外楽に生きているように見えて、羨ましい。それなりの苦労や不幸せを味わって来たのだろう。だけれど、やっぱり私は別の世界に行きたい。

 そんな私は。


 拾われた。

 私は文字通りそう。


 ぬくぬくとしたベッドで眠っていたけれども、急に浮遊を感じた。

 身体が浮き上がったのだ。

 驚き飛び起きた瞬間には、私は。

 黒いカラスのような翼を背にした黒髪と琥珀の瞳を持った男性の膝の上にいた。息を飲むほど美しい。


「ーー今日からおまえは、俺様のものだ」


 ふわりとしていそうな黒髪は短いと思ったけれど、襟元で長い髪が垂れている。前髪の下には、長い睫毛。形のいい眉毛。それも黒。スーと通る長く高い鼻。陶器のように美しい肌。シュッとした輪郭。美麗イラストからそのまま出てきたかのような美しい顔立ちの男性だった。

 なめらかで静かな低い声。

 嗚呼、うっとりする。

 でも暫く琥珀の瞳を見て、夢心地だった私はハッとした。バッと離れて、起き上がる。

 ベッドにいた。見知らぬベッドだ。キングサイズで、赤と黒の天蓋付き。


「!?」

「離れるな」


 腰に何かが巻き付いたかと思えば、蛇のような尻尾だった。それに引っ張られて、彼に引き寄せられる。逞しい胸板に、手をついてしまった。慌てて手を離す。けれども、今度は彼の手が伸びてきて、私の顎を掴んだ。


「声を聴かせろ」


 腰に蛇の尻尾が絡まっているし、顎を掴まれてしまっている。近い。


「あの、ここは何処ですか?」

「ふん、そういう声か」


 興味深そうに私を見つめる彼。

 親指が私の頬を撫でる。柔らかさを確かめるように、むにむにした。


「あなたは誰ですか?」

「おまえの持ち主だ」


 いや、答えになってない。

 追及しようとしたその時。

 唇が塞がれた。彼の唇によってだ。

 私は口付けをされたのだった。

 放心してしまい、固まる私。

 すると、ちゅうっと吸われる。ゴクリ、と彼が喉を鳴らす度に力が抜けていく。

 あ、これ、何か吸われている。

 気付いた時には、遅かった。満足したように彼が唇を離せば、私はガクリと崩れてしまう。でも彼の腕が支えてくれた。


「こういう味か。気に入った」


 私の味を確かめたらしい。そして気に入られた。

 なんなんだ。カラスのような翼があり、蛇の尻尾を持っているからして、人間ではないのは一目瞭然。悪魔か。私は地獄にでも堕ちたというのか。

 ああ、でも私は堕ちたというよりは、浮いたのだった。


「名をなんという?」

「こう……幸です」

「コー、か」


 こう、だけれど……それでいいけれども。

 疲労がのし掛かっているような身体では、直す気力もなく私は彼の腕に抱かれたままでいた。

 そこに響くノック音。


「入れ」


 彼は許可を出す。

 え、待って。こんな態勢なのに他人を部屋に入れちゃうの?

 そう思う私だけれど、首を動かすことが精一杯で、ノック音がした扉を見た。

 開かれた扉のところには、長い長いプラチナブロンドの男性が立っている。青い軍服のようなものをビシッと着ていた。背には、蝙蝠のような小さな翼がある。


「人間の気配がしたので確認に参りました。問題はございませんか?」


 人間とはもちろん、私のことだろう。


「俺様が拾った。問題はない」


 私は拾われたのか。


「さようですか。失礼しました、魔王様」

「……ま、おう?」


 今プラチナブロンドロン毛はなんと言った?

 間違いなく彼を、魔王様と呼んだ。

 私は驚愕して、彼を見上げた。小首を傾げて、魔王と呼ばれた彼は私を見下ろす。


「その反応、いいな」


 今まで無表情だったけれども、形のいい唇の端を僅かに上げて、それから目を細めて微笑んだ。

 魅了されてしまうほど美しい微笑みを見たのは、生まれて初めてだった。


「俺様はレイヴォン・シュワルツ・コルヴォだ」

「レイヴォン、さま?」

「悪くない」


 満足気な笑みに、また魅了されてしまう。

 美形とはずるい生き物だと思った。


「魔王様。そのままでは汚いですし、その人間を洗わせましょうか?」

「そうしろ」

「かしこまりました」

「へっ?」


 今さらりと汚いと言わなかったか、このプラチナブロン毛。そのプラチナブロン毛が長い人差し指を出したかと思えば、ひょいっと上げた。すると、同時に私の身体も浮き上がる。ジタバタ暴れるけれども、下りられそうにない。


「あまり待たせるなよ、コー」


 ベッドに寝そべったレイヴォンが、頬杖をついて言った。

 そんなことを言われても。

 私は問答無用で連行された。

 

 

 

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