認められない強さ
ある意味で、最強という、力が欲しい。
『……………』
『あんた、神様なんだろ……。俺は死んで命を与えるなら』
『……………』
『最強の能力もオプションで付けて、生き返らせてくれ!!でなければ生き戻るのを拒否する』
『そー?そんなの欲しいの?』
ここは白い部屋。何かがいるくらいしか知らない。それが神様なんじゃねぇのかと、想い、信じるのは自暴自棄から生まれた神様だ。
神様はたぶん座った気がした。自分自身、今、どんな形なのかよく分かってはない。けど、自分を見るには鏡ないと分からないもんだ。
『”最強の能力”で良いのなら、都合がいいのが、今、1つあるけど。おススメしないよ』
『おススメなんてどうでもいい。ネットの評価や折り込みチラシのおススメが全てじゃないだろ?』
『それも一理あるねぇ。隠れた名店的な、そんな能力で良いの?』
『いいんだ!最強なら、最強として生まれ代わったら、俺は楽しい人生を歩める気がするんだ』
『それは……残念だね。周りの評価を自分の人生とするか』
『文句あるか!?』
『ないよ。そーいう人もいるし、そーいう人ほど拘りがあるものね』
神様はトーンっと、俺を押し倒して、能力を渡した。
『能力名は、”名もなき 能力”』
それは最強かもしれないけど、多くが考える最強とは違うんじゃない?
そうとは知らず、蘇る一人の青年。
◇ ◇
「ふぁっ!」
起きると病室……痛めつけられた記憶が蘇り、身体には記憶通り刻まれていた。
しかし、なんだか奇妙な頭痛がする。あの白い部屋にいたという記憶も確かにある。夢では……夢ではない気が……。
なんと言ったか?戻って来た時、神様らしき奴はなにかしやがった。そして、伝えたのだ。
「”名もなき 能力”……?」
なんだそれは?よく分からない内に戻ってきてしまった。嫌な学校に……
「あ、起きたの?また随分と虐められていたのね」
「あ。保健の……」
「学校としては虐めとか言われて、騒がす日常だからねぇ」
止める先生がいたとしても、その現場をいつも見張ってくれるわけでもないし。
今日のところは帰るしかないのかな。
「あの、どれくらい。寝てました?」
「うーん、1時間ぐらい?」
「そ、そうですか」
保健の先生、綺麗だなぁ。優しいし……。ここだけが居場所みたいだ。
「す、す、すみません。帰ります。今日も」
「そー」
色々と忘れよう、たった一人のだけ、強い自分になれることでいい。それだけでいいんだ。自分は弱いんだ。弱い……弱いまま、生まれてしまったから……。
だから、強弱なんてカンケーのない能力に憧れるんだよ。
なんだっけ?あそこで知れたもの、
『”名もなき 能力”……伝えろ、伝えろ』
「え?」
今、鬼神が宿ったとでも、思われていい。
『いつでも俺を伝えろ。伝えろ。伝えるんだぞ』
ここから誰にも負けない、無敵と言える力を備えた気がした。心臓の中にいる、なにかと一心同体になった。
◇ ◇
それから1週間後。
発端を生んだ存在は、仲間にまた厄介ごとを頼むのである。
「やぁ、広嶋くん。元気」
「今度の用事はなんだ?」
めんどくせぇの表情でカフェオレと手作りパスタをいただく、広嶋健吾。アシズムからしたら彼が最も頼れる存在であり、趣味の後処理担当でもある。まんざらでもないのが良い。
「いつもの如く、厄介かつ危険な能力を狩ってきて欲しいんだけど」
「それはお前のせいでもあるだろ」
「私が生んだ能力じゃないので、私のせいにされてもねぇ」
いつもなら敵の資料を手渡すアシズムであったが、今日はそれが一切なかった。
「能力者の名前は羽水灰斗。住所は記載されたところ。今回はそれだけの情報ね」
「は?それだけかよ、情報」
「今回はね。私が言えば納得するだろ?ちょっと厄介な能力で、君でも危ういかも」
「のんやミムラ類の能力じゃなきゃ、構わねぇけど」
もしかすると、今回の適任はミムラちゃんかもね。それならお互い、戦うという間合いにはならない殺し合いになるから。
「というわけで頼んだよ。もう被害は、鬼神は暴れているようだ」
「へいへい。始末してくるよ」
確かに最強という類の能力なんだろうけど。残念ながら、それ以上の化け物はいるもんだ。広嶋くんはその典型。私の、自慢できる協力者の1人だ。だから、羽水くんに教えてあげよう。
世の中、縋ることより己を頼れと
◇ ◇
”名もなき 能力”
その力を羽水が自覚した時、想像を超えていた強さ故に精神のタガが外れ、自惚れや傲慢、自意識過剰に呑まれたのは当然だと思えた。
「羽水くーん」
「いくら持ってきたー」
虐めの類。ゆすりの類。日常的になっていた。羽水は
『情けねぇ奴だな。さぁ、伝えろ。俺を伝えろ。俺を伝えるんだ』
悔しさ、怖さが、今までにないものだと感じた。中二表現であるが、内に秘めたる鬼神が心を支配しようとしていた。それに屈する形で呟く。従い、
「”名もなき 能力”」
「は?」
「なに?」
脅す者達にとっては何を言ったのか、よくは分からない。しかし、確かにその言葉を聞き、
「能力は、”能力を知った奴を殺す”」
「はい?」
ふざけていて意味が分からないこと。しかし、今。僕達はその意味不明で理不尽な世界に入った。相手にそのことを伝えた瞬間。羽水の心にいた鬼神が解放された。その機を待っていた赤い鬼神は、制約に従った能力通り、全てを殺害に移す。
『あはははははは!』
「!?な……」
「なんだこいつ!?」
鬼神にとっては、この条件でようやく外界と干渉ができる。
自分を知った存在の肉体を掴み、ミキサーのように超高速回転し、肉体を螺子切ってぶっ飛ばす。瞬間的に現れ、殺害する。有無を言わさぬ強力にして、確実な殺害。
複数だろうと同時に葬り去る。(知った人数の数だけ、鬼神は現れる)
「え」
『これで俺を知る者はいなくなった』
鬼神は数秒現れただけで、再び羽水の心臓の中に戻っていく。
この能力の恐ろしさは、対策が全くできない事にある。
能力者を除いて、能力と能力名を知る者を問答無用に、どこにいようが、何人いようが、同時に葬るという性能。まさに最強、無敵の能力。
「こ、こんなにも……」
『俺を知らせろ。俺とお前だけが知ることができる能力だぞ』
その力に触れて羽水が、まともになれるわけでもない。鬼神の囁きに負けるように、伝えたくて伝えたくてしょうがなかった。
全てが嫌になるように、壊れるようにと、告げまくる。とっても簡単なこと。
「”名もなき 能力”。能力は、”能力を知った奴を殺す”」
その手段はなんだってありだ。
言葉、声、文章。それらが伝わればいい。学校内の嫌な奴で10人程度試してから、放送室を使って校内中に放送。聞いた者は当然ながら、鬼神を目の前に畏怖する間もなく、肉体を吹っ飛ばされる。
さらには
『SNSやツイッターでもやれ。もっと知らせろ。もっと知らせろ。拡散しろ』
「……うん」
現代社会では当然となった代物を使った物でも、条件が満たす。恐るべき殺戮能力を誇る。知った瞬間に死ぬとあっては、どうにもならない。何もできずに死んでいくを抗うなど不能。
無敵だ。最強だ。
「僕は誰よりも強くなったんだ!!誰にも僕を止められない!!」
『そうだ!俺は最強で無敵だ!』
鬼神の強さに溺れる羽水だった。そーいう自負を持ってしても、この広い世の中。誰かが挙げる最強は数あれど、それを頷き自覚する者はそういない。上には上がいたり、相性というものが確実にある。
また、強さとは常に漠然としたものではないのだ。
今は恍惚になり、1人となった家で過ごす羽水にとっては、鬼神を伝えることしか頭になかった。
ゴーーーーーーーッ
だから、
「まったく」
いきなり、巨大大型船が自分の家に突っ込んでくるなんて、想定もしていなかった。
ドガアアアアァァァッ
「よく分からんが、能力を知ってヤバイなら、瞬殺が一番だろ」
その船に乗っているのは広嶋健吾。一見家など軽く押し潰せる船を投げ飛ばしたのは、広嶋の能力の一つ”投手”である。投げる物ではないが、投げることができればなんだってできる。それだけの力に鍛え上げ、研ぎ澄ましている。
先制攻撃ができるという利点を持つ者が、先制攻撃されると途端に脆く崩れる。広嶋は瞬殺することができた。しかし、今の一撃でその必要はまったくないと判断した。厄介なことである。
「げほぉっ、がはぁっ」
弱々しく、潰れた家から這い出てきた羽水。潰された家をどう思ったか、自分ではなく、鬼神が殺した人間達のように見えただろうか?君がしてきたのはこんな理不尽だと。
「おー、上手い事、直撃しなかったか。ナイスピッチング」
「な、なんだお前は……」
広嶋の姿を見るなり、それが誰であろうとなんだろうと。
「”名もなき 能力”。能力は、”能力を知った奴を殺す”」
殺す、今、殺す。鬼神がお前を殺すと、それがあまりにも他力本願であるのを知らずに。
「!」
『はははははは!強そうなのが来たな!だが、無駄だ!誰だろうと俺に殺される!!』
突如として、広嶋の前に現れる鬼神。どんな奴だろうと、この能力を知る者は殺す。殺してしまう。
パシィッ
「奇襲するなら」
『あ?』
「黙ってやれぇぇ!!」
しかし、この時。そんな制約など破たんにさせる怪物がいた。現れた鬼神の声と同じタイミングで反応し、超スピードで掴んで投げ飛ばした。
今まで出会った奴とはまったく違う反応だった。
『がはぁっ!?』
「お前程度なら正面切って戦ってやる。なんだっけ?能力を知ったら、死ぬとか、殺すとか、なんとかよ」
『!そうだよ!!』
鬼神は倒れても立ち上がる。制約に従い、なんであれ、能力を知った広嶋を殺しにかかる。素早く一直線に来たが、百戦錬磨の広嶋の目に追われている。難なくと体を掴みにかかるが、
スカッ
「!」
鬼神の実体を掴めない。空のような状態。透き通って、広嶋の体内に入り込もうとする鬼神。問答無用に心臓を鷲掴み。これならどんなに強かろうと、死ぬ。心臓が死ねばいい。
フワッ
『は!?』
しかし、鬼神が殺す刹那に広嶋が霧散した。空ぶったのはお互いであり、それに慣れていない鬼神は歴戦の差を痛感。掴むといった直接的な触れ合いを拒否したが故、鬼神の肉体がブチブチに吹っ飛んだ。もう一つの能力、”同士討血”を展開し、惨く殺すことに移行。
『ごあああぁぁっ!?ああぁっ!?』
「なんだよ。この程度で根を上げんのか?」
広嶋はいつの間にか、崩れた家の瓦礫の上に座っていた。一体どんな移動を使ったか、一体どんな攻撃をしてきたのか、まったく分かっていなかった。
腕と脚、胴体をバラバラにさせられ、苦痛を浴びせられて、殺意のある戦意は吹っ飛んだ。この時点ですでに鬼神の勝ちはなくなった。制約を満たし、広嶋を殺そうとしても、それを拒む面が見えて、広嶋は休息をとっていた。
『がはぁっ、ぶはあぁっ』
「ったく」
つまんなそうに空を見上げて、鬼神が完全に死ぬまで待っている広嶋。しかし、
「おい!何をしているんだ!殺すんじゃなかったのか!?殺すんだろ!?そーいう能力なんだろ!!」
羽水は鬼神の不甲斐なさに叱咤した。そのための奴が、こうもやられては一体、得られた能力はなんだという結果だ。しかし、それに激怒したのは鬼神の方。
『ふざけてんのか、テメェ!クソガキ!』
「な!?」
『テメェのためなんかに動いているわけねぇだろ!!殺したいから殺してるんだ!!』
にも拘わらず、この男。どんな化け物だ。
『お前は俺に操られるだけのカスだろ!!俺の殺人にやらせるための、駒!道具!自分じゃ何もできねぇ弱者が!吠えてんじゃねぇ!!』
能力を知った奴がいる限り、鬼神は外界と干渉することができる。広嶋には勝てないと悟り、今起きた怒りの原因。あろうことか、自分の能力者である羽水に殺意が向かう。
『俺を知っている奴は殺してやる』
鬼神がそう思えばできる。広嶋に差し向けられた鬼神ではもうダメ。また新たに己を、羽水の前に生み出そうとしていた。それを見た瞬間、羽水は自分を知った。
「ま、待て!ぼ、僕を殺す気か!?止せ!」
『利用され、利用するのが理だ』
死。死。死。
道連れにしていこうとする。
「死ぬのはテメェだけで良いだろ」
しかし、広嶋は鬼神そのものを殺しに来ていただけだから、羽水が攻撃を受けるその直前で手を下した。
◇ ◇
「はっ」
「起きた?」
目覚めた時、また保健室だった。いつもの保健医さん。
「魘されていたけど、大丈夫」
「…………はい」
なんだか、ぼやぼやする。悪い夢を見ていた気がする。
『俺を伝えろ!!』
「?……なんだっけ?」
「ほら、もう時間だから気を付けて帰るのよ。この近くには、通り魔もいるみたいだし」
「……ああ、そういえば」
そーいう言葉を聞かされて、そんなニュースを見たような。
『羽水!伝えろ!俺を伝えるんだ!俺を忘れるな!!』
何か心の奥にいるみたいだけど、なんだっけ?思い出せないなぁ。
「先生、ありがとうございました」
「いいのよ。明日も頑張るのよ」
「はい」
何かを頼ったりもするべきだけど、それを踏まえて、自分も頑張らないと。そんな気がした。そーいうものを見て来た気がした。
『俺に殺しをやらせろーーー!!お前まで忘れたら、俺が完全に死ぬのだ!』
これからは何か大切なものを探しに行こうか。
羽水は家に帰っていく。そして、自分の道を進んでいく。
完全に終わるまで、見守るのが広嶋やアシズムの仕事。
「こんなんで良いか?あいつは誰も殺しちゃいねぇよ」
「情報操作が大変だったけど」
「それは、お前があんな代物を一般人に与えるからだろ。報酬は弾ませろよ」