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 翌朝、僕はギルドの中で手頃な依頼書を見ながらシャルさんを待っていた。


 これがなかなか、文字が読めるようになったから、見ているだけでも知らない依頼があって面白いんだ。


 ――ん、解毒草の採取? うわ、これ薬草より報酬が高いぞ……ああ、なるほど採取場所か……でも僕、薬草の採取好きだったから、そのうちこれも受けてみたいな……


「よっ! ルシール」


 依頼書に夢中になっていると背後から誰が僕を呼んだ。


 ――ん?


「お前も戦えるようになったんだな」


「あ、はい」


「そうかそうか、荷物持ち頑張れよ」


「はぃ?」


 そう言って壮年の冒険者は、依頼書を持ってカウンターに向かっていった。


 今日は朝からずっとこんな感じだ。


 これは昨日までの僕からすればとても信じられないことなんだ。


 ようやく僕は、他の冒険者からも声を掛けてもらえるレベルになったってことかな……


 ――あれ、でもアレスたちだけは声を掛けてくれてた?


 ただ今のやりとりでも分かったと思うけど、僕はシャルさんの荷物持ちだと思われているのが、いただけない。


 ――うーん。


 僕が首を捻っていると――


「ルシール待たせてごめんね」


 いい香りを漂わせてシャルさんがやってきた。


「大丈夫ですよ。依頼書を見てました」


「そう、何かいい依頼書でもあったの?」


「ありました、これとか「私も行きたい」


 ――!?


 突然の声に驚き、そちらへの方へ反射的に振り返ると、そこには淡い色の法衣を着て、右手には青い魔石の付いたワンドを持っている美少女、フレイがいた。


「ん」


 フレイはいつでも冒険に出れるぞと、いった様子で胸をはる。


「あら、フレイさんじゃないの」


「あ、シャルロッテさんどうも。私、フレイでいい、です」


「分かったわりそれで、そのフレイはどうしたの?」


 顔を少し赤く染め、どこか照れたようすに見えるフレイがコクりと頷いて口を開いた。


「私もついてく、約束したし」


「えっなんで。アレスたちは?」


 僕が割って入りフレイにそう問いかけると、シャルさんへの態度と違って、フレイは僕をキッと睨んだ。


「今日、ラインは荒れてる。依頼どころではない、マリアはアレスに付いてどっか行った」


「そうなんだ。なんかごめん」


「自業自得、気にしない。でも時間が一杯できた。約束行くのが一番いいと思った」


「そうなの……」


 そんなフレイの勝手を、シャルさんは少し考えただけで「じゃあ、いいわ」と言った。


 ――え? そんなあっさり……


 僕が呆けている間にも話がどんどん進んでいく。


「ところでフレイはレベルいくつかしら?」


「私レベル10、水魔法、風魔法が使える。ます」


「へぇ、もう2つの属性魔法が使えるのね」


「水魔法はやっとレベル2になった」


「すごいじゃないの。レベル10で魔法レベル2は誰でもできることじゃないわよ。頑張ったわね」


「ん」


 シャルさんが褒めると、フレイは照れて嬉しいのか顔を少し赤らめた。ように見えた。


 ――やっぱりフレイは魔法がすごいんだ……一つ歳下なのに……魔法か……


「毎日魔法書読んでる。でも風魔法はまだレベル1」


 ――ん? 魔法書? そっか僕が読んで覚えたのは生活魔法だったっけ……


「いいなぁ、僕も魔法書読んでみたい……」


 嬉しそうに見えるフレイの話を聞いていると、考えていたことがぽろりと口から漏れていた。


「あら、ルシールも魔法を? でも適性がないと魔法書を読んでも使えないわよ」


「がっかりするかもしれないわよ」とシャルさんは言いつつも、何やら口元に笑みを浮かべいる。


「はい。でももう生活魔法は全部覚えましたし……」


「あら、そうだったかしら?」


「はい。この通り、パチンッ!」


 僕はできるかぎり大きな炎を出した。すると拳大の炎が現れた。


 ――あ、これはやばい。


 炎を出したはいいが、ここがギルド店内だと気づいて、すぐに消したけど、見ていたらしいギルドの職員に睨まれてしまった。

 僕はその職員に軽く頭を下げて、心の中でちゃんと謝った。


「ここじゃ無理でしたけど、ちゃんと覚えましたから」


「ふーん。なかなか魔力をうまく扱えるようになってるわね」


「そうですか。じゃあ。僕でも魔法剣士になれますかね」


 思わず口にしてしまったけど、昔読んだ物語の英雄も魔法剣士だったんだ。だから僕の目指すところも魔法剣士でありたいと密かに思っている。


「ルシール。生活魔法は誰でも使える」


 フレイが呆れた顔をした。でもシャルさんはそんな僕を見て何かを考えている様に見える。


「い、いいだろ。言ってみたかったんだよ」


「うーん。でもルシールならなれるかもしれないわね。

 基本の生活魔法は使えるようになったわけだし、後は魔法を補助するスキルさえ身につけていけば、ねぇ」


 シャルさんがアゴに手を当て僕を見ている。スキルショップのことを考えてそう言ってくれたのだろうけど、シャルさんがそう思ってくれただけでもすごか嬉しい。思わず口元が緩んでしまう。


「よーし。僕も、まずは魔法書を買うと……」


 そこまで言いかけてシャルさんが先ほど言った適性という言葉が頭によぎった。


「ぁ……と、ところでシャルさん。どうやったら適性があるって分かるんですか?」


「ん、そうね……魔法書を読むことかな」


「はい?」


 ――どの適性があるか判断するのに魔法書を読む? 意味が分からないんだけど……


「その顔、はぁ……信じてないわね。いぃい。適性がある魔法の魔法書は読みやすく感じるのよ。逆に読みにくい、読みたくないとなると適性は低い、またはないと判断した方がいいわね」


「あはは、なるほど……そういうことですか」


「いいわ。私の魔法書を貸してあげる。けどレベル2までの初級の書よ」


「えっ!! シャルさんが僕に。ありがとうございます」


「いいわよ。ちゃんと全部読みなさいよ。そうしたらどの属性が自分に合っているのも分かるから」


「はい!」


 僕は、シャルさんから全属性の初級魔法書を受け取るとアイテムバッグスキルに収納した。


「ルシール羨ましい、私全部買った、でも直ぐ使えたのは水と風……え!?」


 ちょうど収納するところを見ていたフレイが小さく声を上げ驚いた表情をした。ように見えた。


 逆にシャルさんは声を出さず僕を見て……


 ――バ・カ……?


 と口が動いた気がした。


 ――え?


 僕は意味が分からず首を捻っているとフレイが僕の袖をちょいちょいと引っ張った。


「ルシール、今の、どうして? ルシールはアイテムバッグを持ってる?」


「へっ?」


「アイテムバッグスキルがあれば運搬依頼が楽にできる、楽ちん」


 ――なるほど……


「でもアイテムバッグスキルは、ほぼ固有スキル、もって生まれた才能、後天的には取得できない、はず。この王都でも数人しか持ってない」


 ――なんと!


 そんな事実知らない。ちらりとシャルさんを見れば顔を背けられた。


 ――う、うう……


「あはは、そうなんだ〜」


「ん、ルシール持ってる信じられないけど、見て」


 そう言うとフレイはギルド内でひときわ賑わっている場所に視線を向けた。


「なに?」


 僕もフレイの視線の先が気になり少し顔を動かしつた横目に見た。


 ――ん!?


 中年位のぽっちゃり冒険者がいた。ただその周りにいる人はすべて女性冒険者だ。


「なにあれ。あの人すごいモテモテ。ええっ、じゃ、じゃあ僕も……いずれは……」


「こほん。ルシールじゃあ僕も……その後は何かしら?」


 顔を背けていたはずのシャルさんが、なぜか僕を見て満面の笑みを浮かべている。けど――


 ――ひぃっ、目が、笑ってない……


 僕は身の危険を感じるともに、ここで初めて心から逆らってはいけない人じゃなく、エルフだと悟った。


「ぅ、運搬の依頼も頑張ろうかなと思いまして……」


 まだ少し不機嫌そうに見えるシャルは……


「ふーん。そうなの……」


「はい。頑張りたいと思います」


「……はぁ……まあいいわ」


 何がいいのか分からなかったけど、そう言った後のシャルさんは普通に戻っていた。

 先ほどの笑顔が幻だったような気さえする。


「ちょうど隣町の近くにあるヌボの沼に用事ができたのよ。ついでに隣町までの運搬依頼を受けたらいいわよ」


「はい!」


「でもアイテムバッグスキルのことは他言無用よ。気をつけて」


「へっ」


「その顔はなんでって顔ね」と言ったシャルさんは顔を少し近づけ小声で話してくれた。


「いいルシール。もう少し強く、せめて自分の身を守れる程度になってからじゃないと、いいように利用されるわよ。悪質な人や組織に……」


「それだけアイテムバッグスキルの利用価値は高いってことよ」そう言ってシャルさんの顔は離れていった。甘くていい香りを残して……でも僕の頭の中は恐怖でいっぱいになっていた。


「……何それ、怖いです」


「だから私の馬車を使うと言って依頼を受けてくるといいわ。

 ルシールが私とパーティーを組んでいることは、すでにギルドでも周知の事実となっているでしょうし」


「馬車? ですか……」


 ――あれ、おかしいなぁ。馬車ってものすごく高くて冒険者では簡単に所持できるものじゃないって聞いたことがあるんだけど……


 そう思ったが僕はすぐに首を振った。


 だって僕は、シャルさんが金貨の入った小袋をホイホイと気にした様子もなく何度も取り出す姿を目にしている。


「そうよ。運搬系の依頼は馬車かスキルがあれば受けることができるの、私はその馬車を持っているから」


「分かりました。スキルのことは内緒でちょっと依頼を受けてきます」


「よろしくね。私はここでフレイと待っているわ」


「はい」


 僕は早速、隣町までの運搬の依頼書を探すことにした。


 ――――

 ――



「あの、私もついて行っていい。ですか?」


「そうだったわね。急に運搬の依頼を受けることにしたから……今日中には帰ってこれないわよ。

もっと簡単な、別の依頼の時でもいいわよ(パーティーを認めさせる為にしたことだから)」


「大丈夫です。私も行きたい、です」


 フレイはじーっとシャルロッテを見つめて顔を背けない、どうやらフレイの意思は固そうだ。


「うーん分かったわ。でもパーティーのメンバーには知らせてきなさい。みんな心配すると思うからね」


 フレイはコクりと頷いた。


 ――――

 ――


 僕はすぐに隣町のトバリ町までの運搬依頼を見つけ受けてきた。


「シャルさんありましたよ! 《トバリ町に石材運搬》を受けてきました。

 ただ報酬が間違ってるのかと思い聞き返してしまいましたよ。あははは……」


「へぇ、いくらだったの?」


「1万カラでした。運搬系の依頼って凄いんですね」


「そうかしら。それで、その職員には何か言われなかったかしら?」


「はい、スキルか馬車の確認をと言われて、シャルロッテさんの名前をだしたら、馬車の確認はいいって言われました。シャルさんって凄いですね」


 そう、シャルさんの名前を出した途端、大急ぎで処理をしてくれたんだ。

 さすがAランクになるとギルドでも扱いが違うんだなぁと思ってしまった。


「ま、まあいいわ。そうそう今回はフレイも一緒に行くことになったから。分かったわね」


「へっ、フレイも行くの?」


 思わずフレイの方に視線を向けてみたけど、フレイは割と普通に立っていてコクリと頷いた。


「いく」


「ほら。ルシールは、早くフレイの荷物を持ってあげなさい」


「女性にはさりげない気遣いが大事なのよ」とシャルさんは続けて言うけど意味はないのだそうだ。


「あ、はい」


「じゃ、お願い、する」


 フレイは少し躊躇しながらも自分の荷物を差し出してきたので受け取ると……


 ――ぐっ……


「何これ重い」


 ――よく、こんな重いものを平気な顔して……ぁ……


「ルシール、デリカシー足りない、魔法書が入ってるから重いだけ」


 フレイは少し不機嫌そうな顔をしてるように見えた。

これは僕の方が悪いと思って素直に謝ることにした。


「ごめん」


 そのフレイの袋を収納するとフレイの袋は《フレイの素朴な袋》と表示された。

 その見たまんますぎて笑いそうになったけど、はたと《ルシールの凄く汚い袋》の表示を思い出し首を振った。


 ――ふぅ……


「ルシール、今失礼なこと考えた?」


「き、気のせいだよ」


 意外にフレイも勘が鋭い。気をつけねば。


「そうだったわルシール。お願いがあるの、トバリ町まで私の馬車を使うけど、それでね……」


 ――――

 ――


 僕は20万カラで馬術スキルを買った。フレイはアレスたちのところに行っているから気にせず買えた。


「えっと、シャルさんの馬車は……」


「ん? もう少し先の厩舎に預けているの」


 預けてあったシャルロッテ仕様の馬車は凄かった。


「こ、これがシャルさんの馬車!?」


 馬が小屋を引いているようにみえる、と言うかこれはもう小屋だ。魔法で軽くしているらしいから大丈夫らしいけど、これは目立つ……


「そうなんだ」


「そうよ」


「……」


「ふふふ」


 これ以上は聞いたらいけないらしい。


「つ、次は、依頼主さんのところに行きますよ」


「お願いね」


 厩舎から少し馬車を走らせると依頼主の大きな倉庫がいくつか見える。

 依頼主は結構大きな商人のようで倉庫は厩舎の近くに持っていたらしい。


「おお、君たちが……!?」


 僕もびっくりしたけど依頼主さんもこの馬車を見てびっくり。


 僕は依頼主から石材を預り、上手く馬車に積み込むフリをしてアイテムバッグスキルを使った。


 依頼主が最後に積み残しがないか確認しだした時には、シャルさんの小屋の中まで確認するのでは、と少し焦ってしまったけど、そこまでは確認することはなかった。おかげで助かった、けど……


 シャルさんが笑顔で依頼主と楽しそうに話をしていたのはなんだったんだろう。


「最後はフレイをギルド前で拾ってっと……」


「そうね。ルシールなかなかうまいわよ」


「ありがとうございます」


 そう、先ほどから御者をしているのは僕。そのために馬術スキルを買わされ……こほん。買ったんだから。


 今回の日程は一泊二日。トバリ町で一泊。次の日にシャルさんの目的地であるヌボの沼に寄って帰るんだ。


「そうだったわルシール。ヌボの沼の魔物はレベル12だから気を付けるのよ」


「えっ!?」


 ――僕全然レベル足りませんけど……


 聞かなきゃよかったと思いつつ、ギルドの前で待っていたフレイと合流した僕たちはトバリ町を目指した。



【本日の出費:シャルさんへの借金20万カラ増】



 ――――――――――――――――――――


【名前:フレイ:Lv10】ギルドランクE

 

 戦闘能力:60

 種族:人間

 年齢:13歳

 性別: 女

 職業:冒険者

 スキル:〈棒術:1〉〈文字認識〉

 〈魔力回復:1〉

 魔 法:〈生活魔法〉〈水魔法:2〉

 〈風魔法:1〉


 ――――――――――――――――――――


【名前:ルシール:Lv5】ギルドランクG

 

 戦闘能力:70

 種族:人間

 年齢:14歳

 性別: 男

 職業:冒険者

 スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉

 〈剣術:2〉〈治療:2〉〈回避UP:2〉

 〈文字認識〉〈アイテムバッグ〉

 〈貫通〉〈見切り:2〉〈馬術〉

 魔 法:〈生活魔法〉


 *レジェンドスキル:《スキルショップ》

 所持金 :1,213カラ 

 借金残高:3,439,850カラ

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