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 ギルドの裏にある決闘場は、冒険者たちが訓練を受ける場としても使われている。と言ってもただ何もない更地をロープで囲んでいる程度なんだけど、広さは僕とラインが全力で動いても差し支えないほど、十分広い。


 当然ながら、そんな更地の決闘場にら小石や小枝、雑草、所々に小さな木々も生えている。


 ギルド職員の話によると、より実戦に近い状況を想定してのことらしいけど、ただ手入れが行き届いていないだけだと僕は思っている。


「ルシール焦らずにがんばるのよ」


 そう言って笑顔で送り出してくれたシャルさん。

 それだけが今は僕の心の支えになっている。


 だって――


「なんで、あんなヤツとシャルロッテさんが……」

「知ってるか、あいつ……」

「負けろ〜」

「早くしろ〜」

「タラタラするんじゃねぇ!!」


 すでに所定の位置にいるラインからは睨まれ、さらに野次馬(他の冒険者)からの誹謗中傷、罵詈雑言の数々……


 ――聞こえなーい。何も聞こえなーい。


 観戦場がギルド建物側だけで助かった。四方八方からこんな罵声を浴びた日には、戦う前から僕の心はすり減り、白旗をあげたくなっているに違いない。


 ――でも、ラインレベル高いしな……へ? ちょっと待って……


 ラインはたしか先日レベル10になったって、アレスにやっと追い付いたって、喜んでいる姿を目にした気がする。


 ――えっ、えっ、ええ!! 考えてなかったけど、ラインとはレベル5も差があるじゃない……うー、ダメかもしれない。


 レベル差を気にすればするほど、それが頭から離れなくなってしまった。


 ――あー身体がガチガチ、自分の身体じゃないみたい……


 顔も緊張で強張ってるのが分かる。多分酷い顔をしてるはず。


 ――僕が調子にのり過ぎたの?


 思わず不安になりシャルさんの方に振り返ってみると――


 ――うん。


 満面の笑みで手を振ってくれた。すごく嬉しい。嬉しいけど――


「ルシールてめ!!」

「何、シャルロッテさんに、手を振らせているんだ!!」

「滑って頭でも打ってろ!!」

「髪の毛ずり剝けろ!」


 やむことのない罵詈雑言。


 ――うう、逃げ出したい。


 考えれば考えるほど僕の負けるイメージしか湧いてこない。

 所定の位置まで残り数メートル……


「ルシール、タラタラ歩いてないでさっさとしろ!」


 ――くっ、ラインめ。好き勝手言って……


 けど、そうは言っても僕の身体は緊張で固くなっている。これではマトモに動けそうにない。


 ――何か、何かないのか……


「ルシール。笑顔がないよ。いつも通りで大丈夫だから」


 罵声の中にシャルさんの澄んだきれいな声が聞こえてくる。


 ――えがお……


 その声にシャルさんの買取所で見た、あの笑顔が思い浮かんだ。


 ――そ、そうだ!? こんな時こそスマイルスキルだ。シャルさんありがとうございます。


 僕は心の中でシャルさんにお礼を言うと――


【ルシールはスマイルスキルを使った】


 ――おお、顔が……こ、この顔が引き攣る感覚はなかなか慣れない、な……


 ルシールはニッコリ微笑んだ。


「ふふ……」


 ――おっ、これは正解かも。


 なんだか心が温まる。緊張がほどよくほぐれた気さえする。これはなかなか使えるスキルだったんだ……


「ち、調子に乗るなよルシール!! よくも人の顔見て笑いやがったな、ぎったぎったにしてやるから覚悟しろ」


 ――あれ、ラインの額に青筋が……身体もぷるぷる震えてるし、もしかして怒ってる? そんな効果だれも望んでないんだけど……


 僕は知らなかったけど、スマイルスキルには隠された効果があったらしい。


 ――ひぃい!?


 僕が現実逃避している間にも、ラインの顔はどんどん赤くなり物語に出てくる赤鬼みたいになっていた。


 ――も、もう帰りたい……


 そんな願いは叶うはずもなく、とうとう僕はギルド職員のいる所定の位置まで来てしまった。


「二人とも早速だけど始めるぞ。悪いがあまり時間を掛けれないんだ。私も仕事が残ってるからな。早速だが準備はいいか?」


 ギルド職員の声にラインが頷いので、仕方なく僕も頷く。


「ギルド公認の決闘ではこの木剣を使う。決闘申請用紙に、二人とも使用武器は剣となっていたしな、公平だろ?」


「俺は棒切れでもいいんだけどな」と言いつつラインは早くも木剣を手に取り軽く振り下ろしている。


 遅れて僕も木剣を受け取り軽く振って、その感触を確めた。


 ――悪くない……


「後は、ルールだな。そうだな「何でもありで、対戦相手の気絶、若しくは降参するまでにしてくれ!!」


 ラインは自信たっぷり、皮肉たっぷりでそんな提案をしてきた。

 その顔はすでに勝ちを確信したような顔で、僕を見て嘲笑している。


 ――腹が立つけど……これはスマイル効果で挑発したから?


「……な、何でもありにするのか?」


「そうだ。あーなんだ、やっぱり怖いからやめるか」


 ラインが右肩に木剣を担ぎ嫌な笑みを浮かべた。


「い、いや……」


「あはは、降参してもいいぜ。俺は優しいからな、泣いて謝れば許してやるかもしれないぜ」


 ――くっ!


「いや、それはちょっと……」


 ――シャルさん応援してくれてるし……!?


 周囲からは相変わらず耳障りな声が聞こえる。


 ――ん?


 なんと今度はどっちが勝つか、僕が何分持もつのか、と賭けごとまで始まっているようだ。


 ――みんなで僕を見世物にして……あれ今、シャルさんがいたような……


 見間違いかもしれないが、賭け事の元締めのところに一瞬だけシャルさんがいたように見えた。


 そんなまさかと思い、首を降って、仲間の控え場所に視線を向けてみれば――


 ――やっぱり気のせいか……


 そこには満面の笑みを浮かべたシャルさんが座っていた。なんかえらくご機嫌になっているように見える。


 ――なんで?


「ほらいえよ。俺が怖くなったからやめたいって。降参するって」


「……」


「おい!! 聞いているのか!」


「へ? ああぁ……いや、ラインごめん。今なんて言った?」


「こ、このやろ!! 後悔させてやるよ!」


「ほう、お互いそれでいいようだな。よしいいだろう。決闘は公認するがケガについては自己責任だ。

 まあ、有料だがギルドにも回復魔法や薬草があるから遠慮なく使ってくれよ」


 なぜかギルド職員が感心して、いつの間にかラインの提案が通ってしまった。


 ――ううっ、僕がラインの話を聞いてなかったから、えらく怒らせてしまった。み、見切りスキル買ったから大丈夫だよね。


「では、君たち少し離れて構えてくれ」


 ギルド職員の指示に従って僕とラインは少し離れて木剣を構えた。


「ああ、いい忘れたが、相手を死亡させた場合や、決闘後に今回の件で揉めるようなことがあったら、冒険者を辞めてもらうことになる。

 これは決定事項だから異議は受け付けない。そのたのの決闘だからな。分かったかい」


「はい」

「ああ」


「よろしい」


 僕とラインの返事を聞いて頷いたギルド職員が開始の合図を出した。


「はじめ!!」


 ラインがギルド職員の合図と同時に動く。ラインは真っ直ぐ突っ込んできた。


 ――おわっ!! 速いっ!!


 そして間合いに入るなり木剣を大きく振り下ろしてくる。


 ラインの初撃は力任せの渾身の一撃だった。その剣撃は鋭く風切音が聞こえてくる


 さすが期待の新人の一人と言われているだけあると思うけど――


 あまりにも単調すぎて、これがラインの攻撃スタイルなのだろうかと疑ってしまうほどだ。


 と、言うのも僕にはこの剣筋がはっきりと見えるんだ。だから僕はその筋から身体を少し反らすだけで――


 ――よっと。


 それを難なく、ヒラリと躱した。


「なっ!?」


 ラインは驚きつつも、その手を止めることはせず、流れるような連撃を繰り返してくる。


 ――ふふふ、見える。見えるぞ。見切りスキルすごい!!


 僕も負けずに見える剣筋から身体を反らす。すると、面白いようにその剣を躱せてしまうのだ。


「おっ、お前……本当にルシールか!?」


「何を言ってる?」


 ――ふふふ。


 ラインの驚いている顔が面白くて思わず笑みが溢れる。


 ――凄いぞ見切りと回避スキルのコンビは……あれ?


 気付けばラインの足が止まっていた。肩が上下に揺れているのことから少し息が上がっているのかもしれない。


 ――ふふ、なら、今度はこっちの番だ。


 ――――

 ――


 一方、外野でも驚いている者たちがいた。


 それはライン側の樽に腰掛けているアレスパーティーのメンバーだ。


 いつも身近でラインの剣撃がどれほど凄いか見ている。

 すぐに決着がつくだろうと高を括っていたのだが、どうも様子がおかしい。


 手加減をしているようにも見えない。アレスたちは互いに顔を見合わせ首を捻っていた。



 一方、ルシール側で一人樽に腰掛け観戦しているシャルロッテは、満足気な表情でルシールを見守っていた。


「まあ当然よね、スキルのレベル2って本当はレベル20までになれるか、なれないかのレベルだもん。

 ルシールはレベル5だけど、見切りと回避はレベル2。たかだかレベル10ていどの攻撃なんて当たるはずないのよ。

 あら、今度はルシールから仕掛けるのね。うん。いいタイミングだわ……

 ふふふ、ルシールの剣術もなかなか様になってきたじゃないの……でもまだまだ問題もあるのよね。さて、ルシールはこれけらどう動くのかしら?」


 ――――

 ――


 僕は足の止まったラインに向かって木剣を振り抜いた。


「はあぁぁあ!!」


「ぐっあ!!」


 スキをついた攻撃だったけど、ラインは右腕を上げることで防がれてしまった。


 ――あ、上手くやれたと思ったんだけど……


 ラインの右腕には薄くアザが浮かび上がっているけど、すぐに反撃がきそうな気がして僕はすぐに、後方にステップで距離をとった。


 ――力が足りない?


 もう一度アザのできた右腕の方から木剣を叩きつけてみる。


「たぁぁぁ!!」


 カンッ!!


 今度は木剣で受け止められてしまった。


「あ」


 考えて攻撃したつもりだったけど、早まって単調な攻撃になってしまったようだ。


「くぅ、痛て~な~、ルシールの分際でぇ!!」


 怒っているらしいラインがアザのできた右腕を使い木剣を振ってきた。


「おわっ!!」


 その剣筋はまだまだ鋭く、僕の当てた攻撃が効いているようには思えない。


 ――これってレベル差? 力が足りない?


 少し距離を取りながら考えてみる。


 ――ならどうする。貫通スキル?


 木剣がラインの身体を貫くイメージしか見えない。僕はすぐに首を振った。


 ――これはダメ、恐くて使えない。


 ラインの剣筋を躱しつつほかに何か手はないのか考えた。考えたけど何も思い浮かばない。


 ――これは……もしかして詰んだ? いやいやそんなはずない。


 その考えを振り払うように木剣を振り払う。


「遅えよ」


 カン!! 簡単に剣筋を見切られ木剣で受け止められた。


 ――ま、まずい。


 その後は、警戒したラインの攻撃に隙がなくラインは大振りすることなく細かく刻んでくる。


 僕も見切りスキルと回避スキルのおかげで難なく躱しているけど、僕の木剣は簡単に防がれる。


「こ、こいつ!!」


「くっ」


 しばらくは、ラインの振る木剣が、空を切る音だけが響いていた。


「ちょろちょろ逃げるな、卑怯者め!!」


「そんなこと言っても、当たったら痛いし」


「ぐぬぬぬ!!」


  再び頭に血がのぼったらしいラインが力任せに木剣を振り下ろしてきた。


 ――ん、これは……


 今度の剣筋はくっきりはっきりの太い剣筋だった。躱しててずっと思っていたことがある。


 ――剣筋は見えているんだ、それを躱しながら攻撃したら……よし!


 もしかしたら攻撃して身体が流れているラインの身体に当てることができるんじゃないかと思った。


 ――いまだ!!


 僕は剣筋に木剣を合わせ、木剣で受けとめると見せかけつつ、一歩前に踏み出し躱すと同時に身体を捻って木剣を振り払った。


「たあぁぁあ!!」


 ラインは僕の思惑通り、まさか攻撃がくるとは思っていなかったらしく、流れた身体を戻せていなかった。


 結果、僕はラインの鳩尾に木剣を思いっきり叩きつける形になった。


 そう、僕は知らぬうちにカウンター攻撃をしていたのだ。

 ラインの攻撃の勢いを逆に利用した形になった僕の攻撃は、先ほどよりも遥かに強力な一撃となりラインの身体に叩きつけた。


「がはっ!!」


 それをまともに受けたラインは、身体をくの字に曲げそのまま前のめりに倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ――やった、の?


 しばらくラインを見ているけど、ラインの身体はピクリとも動かない。


「ははは……」


 ――やった、僕がラインを……


「や、やりましたよシャルさーん」


 嬉しさのあまり、僕はシャルさんに振り向いてそう、叫んでいた。


 けど、僕を見ているシャルさんの顔は優れない、それどころか何か言っているような……叫んでいるような……


 ――はて? ……ん、前を、向け?


「ま、え!? がっ!」


 前を向いたと同時に鳩尾とアバラに激痛が走った。


 バキバキッ!! っとあばら骨が折れる嫌な音まで聞こえた。


「い、いい……ぐはぁ、はぁ……」


 僕は堪らず片足を付いて、顔を見上げると木剣を突きだし口角を上げたラインの顔があった。


「危なかったぜ。ルシールはルシールだ。俺に勝てるワケない。いや、勝ったらいけないだろ、がっ!!」


 さらにラインの蹴りが脇腹にめり込んだ。


「ぐはっ!!」


「まぐれ当たりでいい気になるなよ!!」


 ――ぐぅ……ま、まずい。身体が動かない。ち、治療を……


 僕はすぐに治療スキルを意識して使ったけど、治りが遅く思ったより時間がかかりそうだ。


 ――こ、こうなったら……


「不意打ちでしか僕に当てられなかった癖に、何が期待の新人だよ。笑わせるな」


 ――何でもいい。せめて立てるようになるくらいまで、時間を稼がないと……


「くっ、違う。俺はてかげん、そうだ手加減をしてやったんだよ。すぐに終わったら面白くないだろう」


「じゃあ、すぐに立つからもう少し待ってよ」


 ――頼む……


 そこでラインが不敵に笑う。


「くっくっく。いや、もう充分だ。それにこれ以上はみんなが心配する。早くみんなに手加減していたと教えてあげない俺の評価が下がるからな、あ、き、ら、め、ろ、な」


 笑みを浮かべたラインが木剣をゆっくりと振り上げた。


「くそぉ!!」


 ――こ、ここまでなのか剣筋が見えてるのに、見えてるのに、負けたくない……


 ――負けたくない……


『……』


 ――パーティー解散なんて嫌……だ!?


『……ぅ』


 それがなぜなのか、僕には理解できなかったけど、ペンダントになってるボックリくんが突然、光った。


 ほんの一瞬のことで見間違いかとも思ったけど――


【ルシールのスキル効果がUPした】


 そんな声が聞こえ、僕の身体は治療スキルの効果が促進され、すごい速さで回復していくのが分かった。


 ――これは!? 


 僕は木剣を握る右手にぐっ力を入れた。本当にぎりぎりだった。


 ラインが振り上げた剣を勝利宣言のように掲げつづけ、周りに向かって手を振っていなかったら間に合っていなかっただろう。


「くたばれ!」


 ラインはその視線を僕に向けると同時に木剣を力一杯振り下ろしてきた。


「ぬぁぁ!」


 ――ぐっ、痛!!


 完治までは時間が足りてなかったのか、動けば痛む身体をなんとか必死に動かし、僕はラインの振り下ろした剣筋を紙一重で躱した。


 それは前に転がる様で見かけとしては無様な避け方だった。


 けど、まさか動けると思ってなかったラインはスキだらけ。


「僕は負けないっ!!」


 僕は避けて転がった勢いを利用し中腰のまま身体を回転させた。

 油断してスキだらけの鳩尾に僕は思いっきり木剣を叩き付けた。


「ぐはっ!!」


 狙ったわけじゃないけど同じ場所、鳩尾に叩きつけた木剣は、ラインのあばら骨を何本かへし折っていた。


 たしかな手応えがあったから間違いない。ラインは堪らず顔を歪めつつ身体をくの字にしたまま――


 ――まだ踏ん張っているっ!?


「このぉ!!」


 僕は、鳩尾に叩きつけていた木剣を、今度は真上に振り上げた。

 それは倒れそうで倒れないラインの顎にキレイに決まった。


「ぐぇっ!」


 ラインはカエルが潰されたような声を上げると、腹部押さえつつ白目を向いて倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ――今度こそ、やった、か……


 しばらく警戒し、様子を見ていたけど今度は大丈夫そうだった。


「ふぅ……」


 足音が聞こえてくる。ギルド職員が駆けつけているのだろう、僕は木剣を身体の支えにしてギルド職員を待った。


「そこまでだ!! ルシール君の勝ちだ」


「や、やった……」


 ――勝った……今度こそ僕は勝ったんだ……?


 いつからだろう周りを見渡しても会場は静まりかえっていた。


 僕はおかしいと思い辺りを見渡せば、中には青ざめた顔をしている人もいる。


 ――何でだ? あれか、賭け事? あ、でも僕に賭けた人なんていないだろうから賭け事として成立していないはずだよね?


「ルシール!」


 ――……シャルさん?


 僕を呼ぶ声に視線を向けると、シャルさんが笑顔を向け手を振っている。


「まずはルシール、よくやったわね。おめでとう」


「シャルさん、ありがとうございます見切りスキルのお陰です、それとボックリくん」


「ボックリくん?」


「はい、シャルさんでしょ?」


「ごめんルシール、よく分からないわ」


「へっ?」


「そんな事よりも途中、油断したでしょう。決闘に集中してないなんて、ひっぱたこうかと思たわよ。でも無事でよかったわ。戦い方も上手くなっていたわよ」


 その後もシャルさんの長い説教がつづいたが、ただ一人勝つとは信じてくれていたシャルさんは最高の笑顔をくれた。


 ――これでまた、シャルさんとパーティー活動が続けれる。よかった。


 どうやらラインは、パーティーメンバーのマリアに回復魔法をかけてもらって無事に回復したようだけど、大事をとってギルドのベッドにしばらくは横になるみたいだ。


 項垂れているラインをアレスが背負っていった。


 僕? 僕は治療スキルで完全復活です。


 フレイはこちらが気になりチラチラ見ていたようだけど、シャルさんがまた連絡すると優しく声をかけていた。


 フレイもシャルさんに声を掛けてもらい喜んでいるようにも見えたが、表情が乏しいフレイの表情は分からないや。


 ぼーっとシャルさんたちの成り行きを見守っていると突然――


【チリン、チリン】


 ――あれ、鈴の音?


【カウンタースキルの経験を積んだので割引があるよ】


 突然、スキルショップから連絡が来た。こんなこと初めてだけど、さすがレジェンドスキルはすごいと思った。


 ――あれ? でも僕はいつカウンターの経験値を……もしかしてさっきの戦い方がカウンター?


「ルシール? 何ぼーっとしているの、行くわよ」


「へっ、あっ、待って下さい」


 会場を出るとき野次馬たちがなぜか羨ましそうにシャルさんを見ている。


 ――なんで?


「ルシール。ここでちょっと待ってて」


「は、はい」


 そう言ってシャルさんは僕から離れていったけど――


 ――あれ、あそこって……


 ホクホク顔のシャルさんは、賭け元締めのところで立ち止まり何かを受け取っていた。


「シャルロッテさんの一人勝ちかよ」って声が聞こえてきたけど気のせいだよね?


 こうして無事シャルさんのパーティーメンバーとしてギルド公認となった僕だけど、何故か、みんなからはシャルロッテさん身の回りを世話する従者だの下僕だの思われている。


 ――何かおかしい……


――――

――


 残念ながらパーティー経験の無いルシールは、すでにシャルロッテの巧な手腕で従者への階段を登っていた。


 料理、洗濯スキルを取得させられた時点で気付きそうだが、残念ルシールはまだ気付いていない。



――――――――――――――――――


【名前:ルシールLv5】ギルドランクG

 

 戦闘能力:70

 種族:人間

 年齢:14歳

 性別: 男

 職業:冒険者

 スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉

〈剣術レベル2〉〈治療レベル2〉

〈回避UPレベル2〉〈文字認識〉

〈アイテムバック〉〈貫通〉〈見切りレベル2〉


 魔 法:〈生活魔法〉


 *レジェンドスキル:《スキルショップ》

 所持金 :1,213カラ 

 借金残高:3,239,850カラ


――――――――――――――――――――


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