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 意識が徐々に戻ってくる。いつもより重いまぶたをゆっくり開けると、部屋はまだ暗い。夜は明けていないらしい……


 ――部屋? あれ、ここはどこだ。


 辺りを見渡すけど……


 ――分からない……けど。


 いつも僕が泊まっている馬小屋でないは分かる。


 ――さあ、思い出せ、思い出すんだルシール……ぅお!? そうだ。


 僕は確かシャルさんの魔法付与魔法(ファジカルブースト)の副作用で身体中が痛くなった。


 ――それから……どうなった……


 分からない。分からないから、とりあえず上体だけでも起こしてみようと思った。


「うーん……あれ!? よっ、あれれ?」


 上体を起こそうとするけど、全く動けない。


 ――おかしいぞ……ぇ!? て、手も足も動かない。


 僕の全身から冷や汗が噴き出していた。


 これは僕が思っている以上に深刻な状況なのではと、嫌な予感がして頭から離れない。

 そんな時だった――


 ゴゾゴソッ!


 ――なんだ!?


 暗くてよく見えないけど、部屋の奥に人の気配がする。


「誰だ!!」


 僕は思わずそう叫んでいたが、帰ってきた透き通るような声に僕は胸をなでおろした。


「あら、ルシール起きたのね」


 ―――なんだシャルさんか……え?


「シャルさん! うわっ、シャルさんが、どうして僕と同じ部屋にいるの!?」


「あのね……」


 シャルさんがベッドのそばにあるランプに火を灯し上体を起こした。


 ――うわ!?


 いつもは動きやすい短めの法衣に大きめのマントを羽織っているけど、今は可愛らしい袖のない寝間着を着ていた。


「ルシールは覚えてないの「シャルさんの寝間着姿……とても似合ってますね」」


「えっ」


「あ」


 思わず、そう口にしてしまっていたが、もう遅い。顔を真っ赤にしたシャルさんが右手のひらを僕に向けてボソボソ何かを唱えていた。


「え、え、それって……魔ほ……」


 僕が最後まで言葉を口にする間もなく、その向けられた右手のひらが光りだし拳大の石が飛んできた。


「おわっ、石!!」


 慌てて躱そうと思ったけど、身体が全く動かない。


「あぁぁぁぁぁあ!!」


 ゴン!! 凄い音を耳に僕は再び意識を失った。


 ――――

 ――


「う、うーん」


 意識が戻ると部屋は明るくなっていた。どうやら夜が明けたらしい。けど残念なことにまだ身体は動かなかった。


 何故か頭も凄く痛い。ガンガンする。


 ――これはいよいよまずいのでは……


 僕が少し物思いに耽っていると、澄んだきれいな声が聞こえてきた。


「おっ、おはよう、ルシール。ご機嫌いかがかしら……」


 どこか気まずそうにしているシャルさんはいつもの普段着姿だった。


「シャルさん。おはようございます。それが頭が起きてからガンガンするんです」


「だ、大丈夫よ。何ともなってないわよ(おでこ以外はね)」


 シャルさんが僕の傍まできて頭をじーっと見ている。


「そうですかよかった。でも、それよりもっとまずいようなんですシャルさん」


「まずい? 何がなの?」


 シャルさんが僕を見て首を傾げている。


「僕、身体がまったく動かないんです。手も足もそうです。僕、もうどうしたらいいのか……

 せっかくスキルも取得して、これからもっと頑張ろうって思っていたのに……悔しいです」


 シャルさんに話していると、だんだんと悔しさがこみ上げてきて涙が溢れそうになる。


 ――ぐすっ。


「あーそりゃあ、そうでしょうね。それだけ布団を身体に巻き付けていたら動けないわよね」


「……布団って何です?」


 シャルさんがちょいちょいと僕の身体じゃなくて、巻き付かれている布団を指した。


 ――あ、布団だ。


 布団が僕の身体に巻き付いている。僕はなんでこんなことに気が付かなかったんだ。


 ――でも、何で布団が?


「ほら、フィジカルブーストの副作用って回復魔法が効かないの」


 僕の顔に出ていたのだろうか、シャルさんは僕の思っていたことについて話してくれた。


「え、そんなこと一言も……」


「それでルシールを眠らせたまでは良かったんだけど、連れて行くところがなくて……結局、私の泊まっている宿まで連れてきたのよ。

 私もか弱い女の子だし、困ってしまって。それで仕方なく布団を巻き付けたのよね」


 ――か、か弱いって……誰のことを………


「何か言った?」


「いえいえ。そ、そうだったんですね。ありがとうございます」


 シャルさんの顔色が少し不機嫌になりそうだったのでお礼を先に伝えた。


「そうよ。大変だったんだから」


 シャルさんが指をパチンと弾いた。


 ――あ。


 すると僕に巻き付いた布団と固定していたであろう植物のツルのような物がパラパラ枯れて消えていく。どういう仕組みなのか、布団もスルスルと勝手に離れてくれた。


「動ける。おお……動ける!」


「ふふ、その感じだと、もう大丈夫そうね」


 僕はどこか違和感がないか身体を軽く動かしてみた。


 ――うん。大丈夫かも……


「もう大丈夫みたいですね」


「身体を限界以上に酷似したことになるから、次レベルが上がるときに少しはその恩恵があるはずよ」


「本当ですか!! すごく嬉しいです。ありがとうございますシャルさん」


 カバッ!! 僕は嬉しさのあまり、つい、傍にいたシャルさんに抱きついてしまった。


「きゃっ!」


 ボフッ!! シャルさんの右拳が僕の鳩尾に深くめり込んだ。


 そして本日三度目、僕は意識を手放した。


 ――――

 ――


「あいたた……ふぅ、まだ痛いです」


「ルシールが悪いのよ。急に抱きつくから」


 僕はいま真っ赤な顔をしたシャルさんと冒険者ギルドに入った。


 今回はウリボアじゃなくて、ホーンラビットの角を納品する依頼を受けようと思っている。

 ホーンラビットはレベル5で、鋭く長い角が特徴の魔物なのだ。報酬も600カラと少しいい。


「あっ、アレス」


 朝ゴタゴタしたこともあり、今日はいつもより少し遅い時間にギルドに入った。


 この時間は冒険者で溢れ混む時間だから、いつもは避けていたんだけど――


 ――あーあ……


 案の定、僕が避けていたアレスパーティーとも顔を合わせてしまった。


「……なんだルシール先輩ですか」


 僕を見るなり、アレスはどこか見下したような目を向けてきた。


 どうもスマイルスキルの一件が効いたらしい。あれから僕は今まで以上に多くの冒険者から陰口を叩かれるようになっている。


 ――くっ。いつか僕だって……


「……!?」


 丁度人混みがはけて、後ろにいたシャルさんが、僕の隣に並んだ。

 するとアレスが、急に緊張し強ばった顔になり――


「ルシール先輩そこどいて、シャルロッテさんの邪魔になってるから!」


 強めの口調でそんなことを言ってきた。


「アレス?」


「だからそこを退けって言ってる。邪魔なんだよ。分からないのか!」


「くっ!?」


 そう言うが早いか、急に身体をアレスに押された僕は、バランスを崩してシャルさんの少し後ろの方へと下がったが、でも、それを見ていたシャルさんが――


「きみ、ちょっと何。ルシールは私とパーティーを組んでいるのよ」


 少し強い口調でアレスに睨みを利かせた。


「へっ? 今なんて言われましたか?」


 理解できないのかアレスが少し呆けた感じでシャルさんに尋ねて返した。


「だからルシールは、わ・た・しとパーティーを組んでるって言ったのよ」


「ルシールとシャルロッテさんが同じパーティー……」


 アレスはよほどショックを受けたのか一歩後退して、魂の脱け殻みたいに真っ白くなっている。


「冒険者の間で、三大美女の一人と呼ばれているシャルロッテさんが、こんなルシール何かとパーティーを……ルシールなんかと……」


「俺もシャルロッテさんとパーティーをと狙っていたのに!! ルシールお前何をした!!」


「ぐっ!!」


 急に怒りだしたラインが僕の胸ぐらをつかんできたかと思えば、力任せにグラグラと頭を揺らす。


 ――朝から頭が痛いのに……何てことだ。


「ら、ライン。苦しい、それに痛い。何をするんだ」


 ――一つ年下なのに力も強いなんて……


「こいつに弱味を握られたんですね。俺がシャルロッテさんを助けますから」


「なに、勝手に言ってる」


「おい、ルシール。正直に言え!! シャルロッテさんに何した!? 言えよこの卑怯者!! じゃなきゃお前なんかとシャルロッテさんがパーティーを組むはずないんだよ!!」


 ちょっと待てよ。何で僕が卑怯者になるんだ。そう叫びたかったけど、苦しくて声が出せない。


 ――くっ、ラインのバカ力め。


「ちょっとライン止めなよ」


「ラインもアレスもバカじゃないの」


 黙って聞いていたマリアとフレイが面白くなかったのか、そう言ってラインを止めようとしてくれている。


 ――僕としては助かった、のか?


「う、うるさいな。マリアとフレイは関係ないだろ、黙ってろ」


 それでも少しは冷静になったのか、僕の首を締めるラインの手がゆるくなっていた。


 これならどうにか少しは声が出せそうだ。


「僕はシャルさんに何もしてない。勝手な言いがかりはやめてくれ。

 いい加減離してくれないか、苦しいし、僕はギルドの依頼を受けたいんだけど」


「なっ、ルシールの分際で、よくも!! あーもう。分かった決闘だ、決闘しろ!!」


 ラインが物を捨てるように激しく僕を押し離し、人差し指を突き立ててきた。


「へっ? なんでそうなるんだよ、嫌に決まってるだろ」


「うるせえ!! 俺が勝ったらシャルロッテさんとのパーティーを解散しろ」


「そんな勝手な、レベル差だってあるのに僕がラインに勝てるわけないじゃないか」


 僕の返事に押し黙ったラインだったけど、意外な人がラインに味方した。


「ふふふ、いいじゃない。受けてあげなさいよルシール」


 シャルさんだ。シャルさんの言葉を聞いたラインは、肯定されたのがよほど嬉しいらしくニヤリと笑みを浮かべ口角をつり上げた。


 せっかく脱け殻になって黙っていたアレスまでも息を吹き替えしてしまった。


「ええ、なんでそんなことを言うんですかシャルさぁん……」


「ほら、見てみろ。シャルロッテさんはお前と組みたくないんだよ」


 ――そうなの……


「あー、でも、このままだとルシールばかりが不公平だからいけないわね。そっちは何も賭けないの?」


「えっ!?」


 何も考えていなかったらしいラインは言葉に詰まり、アレス、マリア、フレイの順にその顔を見ている。それは、まるで助け船を求めているように見える。


 ――これってシャルさんが言ってなかったら誤魔化されていたのかな。


 僕も黙ってラインたちを見ているとフレイが大きくため息を吐き出した。


「はぁ……まったく……」


 そして、何かを決意したようだが、表情が乏しすぎて分からない。


「ラインが負けたらわたしがそっちに付いていく」


「おい。ちょっと待てフレイ!! 何いってるんだよ」


「「フレイ!!」」


「あー、フレイさん。間に合ってますからこっちに来なくていいですよ」


 そんなやりとりに割って入って僕は丁重にお断りした。正直フレイの毒舌は堪える。

 そんなの一日だって聞きたくないんだ。でも、そうは問屋がおろさない。


 フレイは僕をきつく睨みつけたあと、今度はシャルさんに視線を移した。


「分かったわ。フレイさんには一回だけこっちのパーティーに付き合ってもらうわ。それならいい?」


「分かった」

「まあ、一回ならいいか」

「フレイがそれでいいなら」


「僕はいや……ゴンッ……いてて」


 こくりとフレイは頷いてみせた。


 他のメンバーであるアレス、ライン、マリアも一回と聞いて安心したみたいだ。

 けど、僕はシャルさんの拳骨で頭が痛い。


「あの、僕の意見は……」


「もう決まったわよルシール、頑張らないと私たち解散になっちゃうわよ」


 シャルさんが少し意地悪っぽく言ってくるからかってる?


「もう、シャルさんが決闘を受けるから……」


 ――はっ、もしかしてシャルさん。ほんとは僕とパーティーを組むのが嫌になった……!?


 僕のそんな考えを読まれたのだろうか。急にシャルさんの綺麗な顔が近づいてきて、小声で語りかけてきた。


 ――ぃ!?


「ほら、ルシール。周りを見て。ここで断ってもいずれ同じようなことがまた起こると思うの。

 私、これでも結構人気あるみたいで、それならまだあの子と決闘してギルド公認になった方が、今後のためにもいいと思うの」


「……は、はい」


 ――たしかに、それはいいかも……


「ふふふ、それに私もルシールに負けてもらったら困るし、いい。すぐに見切りのスキルを買いなさい。回避UPスキルとの組み合わせはいいはずだから、ね」


「わ、分かりました 」


 シャルさんは「よろしい」と言っても元の位置に戻ったけど、急に近づいてきたらびっくりした。


 僕のこともちゃんと考えてくれていたのに、変な期待をしてしまった自分が恥ずかしい。


 僕は、自責の念に駆られて少し俯いていると――


「ルシール。もうすぐ解散するからってシャルロッテさんに近づき過ぎだ」


 ――あ!


 いつの間にか、みんなの視線が僕たちに集まっていた。


「じゃあ、私はギルドにルシールとラインくんの決闘申請をしてくるわ」


 そんな視線を浴びていてもシャルさんに別に気にした様子はなく、僕たちの代わりにギルド申請に行ってくれた。


 ギルド内はすごく混んでいたけど、シャルさんが通る先は自然と人混みが割れていく。


 そんな凄い人とパーティーを組んでいる。それは分かっているけど、まだまだ僕だってシャルさんとのパーティーを組んでいたい。解消なんていやだ。


 ――やってやる。


「ふん。そうやって気合いでも入れているのか? シャルロッテさんに良いところを見せようたって無理だからなルシール先輩」


「楽しみだよ、ルシール。これで俺はシャルロッテさんに良いところを見せれるぜ!!」


 せっかく決意を固めえ拳を握れば、アレスとラインが普通に水を差してくる。


 ――絶対負けたくない。


 決闘はすぐに受理された。


 僕たちは決闘場に移動した。野次馬もぞろぞろついてきて練習場の回りにある観戦場はすぐに一杯になった。


 パーティーメンバーのみは当事者の近くで応援できるらしく、椅子代わりに並べられた空樽に腰掛けていいらしい。


「ルシール、今のうちよ」


 急ぎ足でギルド裏の決闘場まで移動すると、審判をするギルド職員が来るまでの僅かな時間に僕は見切りスキルを70万カラで購入した。


【ルシールは見切りレベル2スキルを取得した】


「できました」


「丁度ギルド職員がきたわね。間一髪ってところね」


「はい」


「ルシール。焦らずにがんばるのよ。落ち着いてやれば絶対に勝てるから、ね」


 ニコリと笑ったシャルさんに手を振りながら僕はラインとギルド職員が待っている中央の位置に向かった。


【シャルさんへの借金70万カラ増】



 ――――――――――――――――――――


【名前:ルシールLv5】ギルドランクG

 

 戦闘能力:70

 種族:人間

 年齢:14歳

 性別: 男

 職業:冒険者

 スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉

 〈剣術レベル2〉〈治療レベル2〉

 〈回避UPレベル2〉〈文字認識〉

  〈アイテムバック〉〈貫通〉

〈見切りレベル2〉

 魔 法:〈生活魔法〉


 *レジェンドスキル:《スキルショップ》

 所持金 :1,213カラ 

 借金残高:3,239,850カラ


 ――――――――――――――――――――


 ★スキル・魔法レベル補正(目安)★

 Lv1=威力1.2倍・(初心者レベル)

 Lv2=威力1.5倍・(騎士レベル) 

 Lv3=威力2倍・(騎士団長レベル)

 Lv4=威力2.5倍・(将軍レベル) 

 Lv5=威力3倍・(達人レベル)



 ★簡易魔法補足★

 火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法、闇魔法、空間魔法、回復魔法、生活魔法など。

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