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屋代→祠に変更しました。
なんとなくスライムに使えそうなスキルを見つけた僕は早く伝えたくてシャルさんを探した。
――シャルさん……
「アイスニードル!!」
ビッグモアスライムに向けたシャルさんの手のひらから小さな氷柱がいくつも飛んでいき――
ポスッ、ポスッ、ポスッ!! と池に石ころを落としたような軽い音と波紋を描きビッグモアスライムのゼリー体がぷるぷると揺れた。
氷柱をすべて飲み込んだようにも見えるビッグモアスライムに、その魔法は効いていないらしく平然とした様子で止まることなくズルズルとゼリー体を引きずるようにシャルさんに向かって動いている。
それでもシャルさんはビッグモアスライムから距離を取りつつ色々な属性魔法を繰り返し放っていた。
シャルさんは僕に言った通り時間を稼ぐだけに集中しているようだった。
――あっ!!
今度はビッグモアスライムの方が大量の溶解液を飛ばし、続けて鋭くした体の一部を無数に伸ばしてくる。
――あのスライム、溶解液でシャルさんが逃げれる範囲を制限した!?
僕は一瞬冷やっとしたが、シャルさんには焦った様子は見られず、それをヒラリ、ヒラリといとも簡単に躱していく。
その姿は、まるで優雅に舞う森の精霊のようで――
――シャルさん、きれい……ぁっ!? 見とれている場合じゃないんだ。
「シャルさーん!! 貫通スキルなんてどうですか? 40万カラしますけど……」
僕は大きな声でそう叫んだ。
攻撃を躱かわしつつチラリと僕を見たシャルさんは、コクりと頷いてビッグモアスライムを引きつけたまま僕の方に向かってくる。
「お願いね」
シャルさんはすれ違い際、僕にお金の入った小袋を手渡してくれた。けど、シャルはなぜか横にステップするかのように直角に跳躍した。
――んん?
シャルさんはいったい何をしているんだ、と疑問に思う間もなく、シャルさんの身体で見えなかったビッグモアスライムがニードル状にした体の一部が直ぐ目の前まで迫っていた。
「のわ!?」
ニードル状のゼリー体を不恰好ながらも紙一重で躱した僕は、意味が分からずシャルさんの方を見ると――
――むぅ。
シャルさんはなんと、僕を見てくすくすと笑っていた。
あのイタズラが成功したような笑みは絶対わざとだと思う。
――あれ?
でも、そのニードル状のゼリー体をよく見れば、その鋭いはずの先が何かで切断されているように見えた。
すぐに本体に戻っていったから、もう確かめようがないけど、シャルさんは僕も常に警戒しているようにと、言いたかったのかもしれない。と都合よく考えることにしとこう。
ただ面白そうだったからってことじゃないよね? まだにたにた笑みを浮かべいるシャルさんを横目にみる。
――……きれいな人、じゃなくてエルフなんだけどね。はぁ……
僕は大きく息を吐き出すと気を取り直し、スキルショップを使い貫通スキルを購入した。
【ルシールは貫通スキルを取得した】
またもや無機質な声が頭に響いてきた。
「よし!!」
僕は貫通スキルを発動するとビッグモアスライムに向かって駆け出しショートソードで斬りつけた!!
「たあ!!」
スパッ!! っと抵抗なくスライムの一部を突いた。
ショートソードをスライムのゼリー体から引き抜くと拳大の穴が空いていた。けど、その穴は直ぐにふさがり元に戻った。
「そうだよ。ショートソードではスライムの核まで届くはずがない。
急に恥ずかしくなって顔が真っ赤になってしまったけのど横目に見たシャルさんは口元に手を当てにまにましていた。
「ふふ、ルシール何してるの。私に貫通スキル使うのよ」
「は、はい」
――そうか……でも。他人にスキルってどうやって使うんだ。こうかな……
シャルさん見ながら使ってみる。
――ダメだ。
シャルさんに使うとイメージしながら使ってみる。
――ダメだ、ああ、もう……こうなったら。
僕はシャルさんに急いで近づき肩に手を置いて使ってみた。
――たのむ……おお!
シャルさんはびっくりしたみたいだけど、上手くいった。
貫通スキルがシャルさんに発動したのが分かった。
「できました!! シェルさん」
「あっ、ありがとう。ルシールは少し下がってて」
ほんのり顔を紅潮させながらシャルさんが何か分からない魔法を唱え始めた。
その間、こちらに狙いを定めたらしいビッグモアスライムは体をふるふるとさせ始めた。
――あれは、溶解液? ニードルどっちだ。
もう役目を終えた僕は、シャルさんの後ろでおろおろとすることしかできない。
「シャルさん、スライムが何か仕掛けてきます!!」
僕が一人焦っている間に、シャルさんの右手に火魔法が纏わりついていく……それはどんどん大きくなり僕にまで熱さが伝わってくる。
「さあ、いくわよ。火魔法!!」
右手を突き出し放った火の魔法は、先程とは違い炎の槍に薄い光の膜に包まれていた。
――あの薄い光の膜が貫通スキル? ……あ、あつっ!!
後ろに下がっていた僕まで熱風が襲ってくる。攻撃魔法って凄い、速く唸りを上げながら飛んでいくファイヤランスは、高速回転しながらビッグモアスライムの核まで届き、そのままスパーンッと貫いた。
核を貫かれたビックモアスライムは体を保つことができなくなったのか、ドロドロに溶け出した。
――あれ?
今度は大量のスライムゼリーの波が襲ってくる。
「おわわわぁぁあ!! シャルさん逃げないと……」
「ルシール落ち着きなさい」
シャルさんの手を取り逃げようとする僕の頭をパチンとはたくと――
「アイスミスト!!」
シャルさんはなに食わぬ顔で水魔法を放った。
大量のスライムゼリーの波はパキパキッと音を立て凍りついていく。
「もう」
「はぁぁ、助かった。シャルさんありがとうございます。ってこんな便利な魔法があるなら最初から凍らせて倒せばよかったんじゃないですか?」
そんなシャルさんはこちらを見てにこにこしている。
「ダメよ。そんなの勿体無いから」
「もったいない?」
何が? と僕が聞くけどシャルさんはにこにこしているだけで教えてくれない。
――うーん。
「でもルシール助かったわ。普通の剣も魔法も届かない相手は久しぶりだったわ」
「そ、そうですか……あれ、久しぶりって前も戦ったことがあるんですか?」
「うーん。前は戦う必要がなかったから逃げたのよ(戦う意味もなかったし)」
「ああ、そういうことですか」
「そうよ。でも貫通スキル、今はレベルが低いから反動がそうでもないけど、高くなってあまり多様すると腕が痺れたりするから気をつけてね」
「そ、そうなんだ」
――貫通スキル、こわっ……
「そうよ。でもこれで目的は達成できたわね」
シャルさんがふぅっと、ここで初めて安堵の息を吐き出した。
「んー目的? シェルさんの目的って……結局何だったんですか?」
「うーん。そうね……」
少し考える素ぶりを見せたシャルさんは僕の胸元辺りに視線を向けた後――
――あれ、今僕の首に掛かっているボックリくんが微かに光ったような……
「分かったわ」と言って、少し顔を引き締め口を開いた。
「この世界は、ずっと穢気というこの世界によくないものが発生しているのよ」
「よくないもの……」
「そう。だから私たちエルフ族は昔から各地、至る所に祠を置き穢気から守りつつ、その祠に穢気が集まるようにした。
ただ祠にも限界があるから溢れだす前に、定期的に浄化をしているの」
「そんなことを……じゃあ今倒したスライムも……」
「そう。その穢気の影響ね。浄化に失敗したから濃く集まった穢気が魔物化して襲ってきたんだけど……
ここ最近特に酷くなっていて、様々な生物、そして魔物までも悪い影響を与え始めているわ」
「そ、そんなことが起こっていたなんて、僕ぜんぜん知りませんでした」
「そうね。このことはエルフ族しか知らない事だから……
ただ、何故、穢気が発生しているのか原因は未だに分かっていない。
それで私たちは冒険者ギルドで資金を稼ぎながらその原因を探っているのよ」
「それはエルフ族だけなのですか?」
「色々と誓約があるのよ。それにエルフ族は他の種族との交流を苦手としている」
そう言ったシャルさんはどこか寂しそうに遠くを眺めている。
――シャルさん……
とても口をきける雰囲気じゃなかったので、黙ってシャルさんの横顔を見ていた僕はふと思った。
――あれ、じゃ僕は何で……? もしかして僕に惚れてる?
僕があれこれ都合よく頭を悩ませていると、シャルさんはいつもの口調に戻っていた。
「さあて、ギルドに戻るわよ。ルシールもウリボアの肉を納品するんでしょう?」
――そうだった。
「はい」
「そうだ。ルシールにも少しいいことあるかもよ」
背中を見せたまま何か言ったシャルさんは、少し歩いてから僕に振り返り、いつもの調子で可愛くウインクして僕を見た。
――ちょっと今、聞こえてない……
「え、え? シャルさん。今なんて……あ、待ってください」
――――
――
ギルドに戻ってウリボアの肉を納品した。報酬は500カラだ。
――ふふふ。少しずつ報酬が増えてる。
僕がいつものおばちゃんから報酬の受け取ろうと待っていると――
――あれ、シャルさん?
ふと、いい香りが漂ってきたので隣を見るとシャルさんがビッグモアスライムの核が結晶化した魔石を換金していた。
「さすがシャルロッテさんは凄い。はい、この上質の魔石は200万カラで引き取らせてもらうよ」
――ぶっ!! なんですと!! 今、換金所のガルネさんはなんて言った?
耳を疑うような金額を耳にした気がしたんだけど、平然としているシャルさんの顔を見て、やっぱり気のせいだったと思うことにした。
「うーん。まあまあだったわね。ありがとうガルネおじさん」
――あれ、今シャルさんがスマイルを使った?
シャルさんの笑みを見た換金所のガルネおじさんは嬉しそうに鼻の下を伸ばしている。
「シャルロッテさん。これ上質薬草なんだが、納品数越えているから一つ持っていきな」
「うわーありがとうガルネおじさん。とても助かるわ」
鼻の下を伸ばしたガルネさんは気前よくシャルさんに上質薬草を差し出した。
――こ、これは……シャルさんのスマイルが決まり上質薬草を獲得したってこと!?
なるほどスマイルスキルはこうやって使うのか……
役に立たないと思ったスマイルスキルの意外な使い道に僕は深く反省した。
――スマイルスキルごめん……僕はまだまだだ……
ただ当のシャルロッテは別に、スマイルスキルを持っているわけではないことに、まったく気づいていないルシールだった。
「待たせたね。はい500カラだよ」
僕は恰幅のいいおばちゃんから報酬を受けとった。
「ありがとうございます」
――ふふふ、やったね。
僕がホクホク顔でいつものテーブルに向かうと、シャルさんはすでにテーブルに添えられた椅子に腰掛けていて、僕に向かって手を振っている。
――あれ、何かおかしい?
僕の方が先に並んで換金所にいたはずなのに、なんでシャルさんの方が先に座ってるの……
――はっ!? これもスマイルスキルの力?
「ほら、ボーッと立ってないで、ここに座って」
シャルさんがポンポンと隣の椅子を軽く叩いて座れと促す。
「は、はい」
僕が隣の椅子に腰かけるとシャルさんが小さな布袋を僕に差し出してきた。
「はい。ルシール」
「え?」
思わず受け取ってしまったけど、その小袋はずしりとした重さがあった。
「こ、これは何ですか?」
「それはビッグモアスマイルの魔石を換金した半分よ」
「えっ!」
「換金分の半額100万カラあるわ。これがルシールの分ね」
「こ、こんな大金を僕に!?」
――あれ、視界が歪むよ……
気づけば嬉しくて涙が流れていたようだ。
「シャルさん。僕、嬉しい……あ、れ?」
両手でしっかりと持っていたはずの小袋が、気づけば僕の手には何もない。
「はい。確かに100万カラ受けとりましたよ」
「はい?」
それもそのはずだ。笑顔のシャルさんがしっかりと握りしめていて、代わりに紙一枚を差し出してきた。
「はい、これは受領証ね」
「あはは……そうですか」
僕の目の前にはスマイル発動中のシャルさんがいる。
その笑顔が素晴らしく綺麗で見惚れそうになるけど……なるけど……
――うっ、うっ……
僕の感涙を返して欲しい。
その後は、少し豪華な食事をシャルさんが奢ってくれてギルドを後にした。
「シャルさん今日もありがとうございました。レベルも上がりましたし、僕、明日も頑張りますね」
僕が元気よくそう言うと、シャルが歯切れ悪く首を少し捻った。
「そうね。う~ん、でも帰れるかしら……」
「へっ?」
僕は意味が分からなかったけど、シャルさんはたまに意味が分からないことを言うから気にせず、馬小屋に帰ろうとした、が――
――あれ、身体に違和感が……なんかだるい? いや、違うな……これは……
「痛い、なんか痛いです!?
「あら……」
「痛たたたた!! ぐあぁぁあ! シャルさん身体が痛いです。凄く痛い!!」
僕は立っていることが叶わず、その場に倒れこんだ。
「やっぱり……きたわね」
「ぐおぉ!! 痛い。痛い。や、やっぱりって……何ですか?」
あまりの痛さにゴロゴロと転げる。転げ回らないと痛さでどうにかなりそうだ。
「これは間違いなく付与魔法の副作用ね」
「ぐおおぉぉ」
――何、シャルさんは何て……
「大丈夫よ、後は私に任せなさい」
ちらりと見えたシャルさんはニッコリ微笑んでいて女神に見えた。
「風魔法!!」
シャルさんが何かしてくれたようだけど、それよりも眠さが襲ってきて、僕は深い眠りについていた。
【シャルさんへ支払い80万カラ減少】
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【名前:ルシールLv5】ギルドランクG
戦闘能力:70
種族:人間
年齢:14歳
性別: 男
職業:冒険者
スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉
〈剣術レベル2〉〈治療レベル2〉
〈回避UPレベル2〉〈文字認識〉
〈アイテムバック〉〈貫通〉
魔 法:〈生活魔法〉
*レジェンドスキル:《スキルショップ》
所持金 :1,213カラ
借金残高:2,539,850カラ
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★スキル・魔法レベル補正(目安)★
Lv1=威力1.2倍・(初心者レベル)
Lv2=威力1.5倍・(騎士レベル)
Lv3=威力2倍・(騎士団長レベル)
Lv4=威力2.5倍・(将軍レベル)
Lv5=威力3倍・(達人レベル)
★簡易魔法補足★
火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法、闇魔法、空間魔法、回復魔法、生活魔法など。




