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翌朝
「ルシール。朝、起きて…。」
「んん…むにゃぃむにむにゃ…もにゃもにゃ…むにゃ…ごにょごにょ…むにゃむにゃ…」
夢の中のルシールは瞳を開ける事なく右手を宙に漂わせた。
「あむあむにゃ……にゃに…おっこ……たににゃむ……」
ルシールの手は右に左に宙を漂い、何かを掴む。
「…あっにゃ…」
ポフッ……
「…むに?…」
ぱむぱむ
「…むにゃなぁ……むににや……むにに…」
ルシールの手が右に漂うと、また何か掴む。
ポフッ…ぱむぱむ
「…こにゃも…むにゃなぁ…にゃだてなに…ふぅむゅ」
「ルシール…」
ルシールの手がまた左に漂うと、また掴む。
ポフッ…ぱむぱむ
「…あぅ……まにゃにゃい…まにゃにになぁれ…」
「ルシール…」
ぱむぱむ
「ルシール…朝」
ぱむぱむ
「…ににゃぃ……にやにゃい…待って…フレイ…これ取って…ギルドに報告……あう揺れる、落ちちゃう…落ちちゃう…………」
ポフッポフッ!
「ルシール朝」
ルシールは誰かに揺らされ意識がゆっくりと覚醒するも、部屋の中はまだ薄暗く、何で起こされたのか理解するのに時間がかかった。
「…ほぇ?…落ちてない…あ!フレイ……おはよう。」
「おはよう。………それよりルシール、手。」
「へっ!」
「手のけて!」
「…いぃぃ……!?」
ルシールは、夢の中で木から落ちそうになり、何かに捕まろうと両手を伸ばし無意識に何かを掴んだ。
そこまではいい。
だがその掴んだモノがルシールを覗き込むフレイのささやかなお胸と知るまではー。
ルシールの両手はフレイのお胸をがっちり鷲掴みにしていた。
フレイは元々美少女だったが、ルシールの眠る3年の間に、更に磨きがかかり、美しかなっていた。それはエルフ族の神秘的な美しさに近いものがある。
これは精霊界で口にする食事や水による効果だと後で知る事になるのだが、その効果は残念ながらお胸にまでは至っていなかった。
「ぁぁ…わ、ワザとじゃないんだ…」
ルシールは両手を素早く離すとガバッと上体を起こした。その間フレイはジーッとルシールを無言で見つめている。
「……。」
ルシールにはこの無言が死への宣告にも思えてならなかった。
「ご、ごめぇぇ…じゃなくて…すみません…!!」
だからこそ、ルシールのその後の動きは早かった。フレイから一歩下がり、ベットの端でルシールは必死に頭を何度も下げると、最後はそのまま這い蹲った。現代でいう土下座である。
「……」
「……」
どれくらい頭を下げていたのか、ルシールは時間の感覚が分からなくなっていた。
――これは…皆に知れて…終わった…な。
ルシールが己の運命を受け入れようとそう覚悟を決めた時ー。
「……別にいい…」
フレイは気にした風もなく…いつもの調子でそう返してきた。
土下座をして頭をベットに押し付けていなければ耳まで真っ赤になったフレイの顔を拝めたのだが、ルシールにそんな余裕は何処にもなかった。
「…それより、何を探してたの?」
「へっ?」
ルシールは質問の意味が分からなく、恐る恐る顔を上げるも、フレイは明後日の方向を見ていた。
「ルシール、夢見て何か探して掴でた。私と…」
何処か弾んだ声にも、聞こえるフレイの声にルシールはしどろもどろになる。
「え、え〜と…それは…」
――言えない。アプルの実を探してたなんて…その実が小くて………どうしよう…。
生憎とウソの苦手な性分のルシール。正直に話そうとするも、勇気がなく途中から口ごもる。
「…冒険者ギルドで依頼を受けてた…頃の夢と思う…。」
「2人で活動してた時?」
「たぶん……」
「……そう…」
そこでフレイの追求は終わった。
ルシールはフレイが少し嬉しそうにしているように見えた己の頭はおめでたいなと思いつつも、それ以上に追求されなかった事にホッとした。
「じゃあ僕も、そろそろ起きて着替えるから…フレイは…その…外で待っててくれる?」
「ん…」
フレイにそう伝えるも、何を思ったのか、フレイは弾んだ足取りでベットを回り込んで僕の側に来ると、ごく自然に僕の着ている寝間着を掴んだ。
「ちょちょっと、フレイ何をしてるのさ?」
「リリーナの代わりに来たから、リリーナ疲れててまだ起きない。私が代わりに来た。」
リリーナはまだ起きていない。
それもその筈、朝がまだ早いから、昨晩、食事会でメイドの仕事を自慢気に話していたリリーナを何となく面白くないと思ったフレイは、リリーナより先に来てその仕事を自分がしてやろうと思ったのである。
ちなみに昨晩、あの後は使用人も含めての無礼講となった。
楽しくなったのか小さな精霊達とラッシュはくるくると飛び回り、見ているこっちまで楽しい気分になれた…そこまでは。
セリーナ族長がお酒を取り出すまでは…。
セーバスの助けがなければ果たしてどうなっていたのやら、ルシールはブルリと肩を震わせた。
ぐでんぐでんになった皆には遅いし、危ないからと客間に泊め、ルシールはげっそりしながら部屋に戻って来たと記憶にある。
――やめよう。
ルシールは頭を振って昨晩の記憶を封印する。
「…い、いいよ。自分で出来るから…」
「ルシール。メイドの仕事を奪うの?」
何処かで聞いたフレーズである。ルシールは嫌な予感がした。
「フレイはメイドじゃないだろ。」
「今の私はリリーナの代わり。仕事奪ったらダメ。」
「だから…それは…メイドの仕事であって…フレイがしなくても…フレイ…フレイさん……?」
ルシールは手際よく脱がされていく、何故に、と疑問に思うも、手際が良すぎて言葉を発する間もない。
「私、慣れてる。大丈夫。」
ルシールは咄嗟に一歩下がると、口元に笑みを浮かべたフレイはその行動を読んでいた。
ルシールが下がった分、前に乗り出していたフレイは逃がさないとばかりに手をワキワキさせルシールに押し迫る。
「……フレイや…め…あぁぁぁ……!!」
ーーーーー
ーーーー
「おはようルシール。それにフレイも早いわね。…それにリリーナ……は何不貞腐れてるの?」
鼻歌でも聴こえて来そうな程上機嫌なフレイとは正反対に口を尖らせたリリーナ。
リリーナはその不機嫌さを隠しもしないままシャルロッテに頭を下げた。
「…あ!シャルさんはおはようございます。」
「シャルロッテさんおはよう。」
「シャルロッテ様おはようございます……」
シャルさんはフレイ、リリーナ、最後に僕の順に顔を見て怪訝な表情を浮かべた。
「ルシール……何もしてないでしょうね?」
ギクッ!!
「し、してませんよ。」
「本当に?…まあいいわ、ボックリくんの機嫌も直ったようだし、後で疲労回復ドリンクを準備しておくわ。朝から顔に疲れが出てるわよ。」
シャルさんは僕の顔から首から下げた小さなボックリくんに視線を下げてそう言った。
「あ、ありがとうございます。」
――助かった…
「じゃあ、次からはボックリくん忘れちゃダメよ。連絡も取れなくなるから。」
「はい。」
そうシャルさんに返事を返し、ボロが出る前にダイニングルームに向かおうかと思っていると、、。
「…そうだルシール……その…昨晩の事は忘れて頂戴…。」
そう言うと、シャルさんは、僕の返事を聞く間も無く、そそくさとダイニングルームに向かっていった。
「…昨晩…ってあれの事…」
ルシールは昨晩の出来事、封印した筈の記憶を簡単に解いていた。
そうだ、昨日は1日置いてきぼりをくらったボックリくんが、それはそれは不機嫌に僕を睨みつけていた。いつもの倍以上に鋭い睨みを向けていたっけ。
まあ、正確にはそれに宿る言霊精霊なのだけれど。
言霊精霊には、不思議な力があり人の善し悪しが分かるらしく、邪な感情を内に秘める人族で、ここまで言霊精霊に気に入られるのは稀らしい。
シャルさんにそれを聞いて僕も正直嬉しかった。今度からボックリくんも大事にしないと。
その言霊精霊の力もあってシャルさんは人界でも、大したトラブルもなく活動出来ていたそうで、シャルさんが懐かしそうにボックリくんを撫でながら教えてくれた。
今思えば、たしかに会った当初は、シャルさんは僕の首からかかったボックリくんを度々も見ていた気がする。フレイの時にもそうだ。
シャルさんは、しばらく口を開けたり閉じたりと、繰り返し、最後には口ごもりながらも、本当は私、人族が嫌いだったの、と僕達に打ち明けた。
正直、僕とフレイとアルテは反応に困り、思わず見合わせ苦笑いを浮かべるしかなかった。
確かにシャルさんは、特定の人族と深く関わろうとはしていなかった。
その後、俯き何も言わなくなったシャルさんに変わってリードさんが、“じゃあルシール達は私の部下にしようかな”とイタズラっぽく言うと、シャルさんは慌てて子供みたいに口を尖らせると“ダメよ、ルシール達はもう、私の家族だもん。”とリードさんを睨んだあと、ハッと僕達を見回し、顔を真っ赤にしていた。
まあ、エルフ族からしたら人族なんて、ただの厄介者である。
そんな人族に好意を感じる要素は皆無だろうから、シャルさんのその言葉を聞いて正直ホッとした。と同時に嬉しい気持ちにもなった。
まあ、そこまでは良かったんだけど、恥ずかしくて居た堪えなくなったのか、シャルさんは、その場に注いであった飲み物を一気に飲み干した。
それがちびちび飲んでいたセリーナ族長のお酒だと知らずに。
後は、フレイとアルテがいなくなったかと思ったら、シャルさん豹変していて、僕は捕まった。
目の座ったシャルさんはやたらくどくなり、私の酒が飲めないのか、から、やれルシールは女性の扱いがなってないとか、やれ誰でも優しくするなとか、やれ勝手に死にかけるなとか…だんだんと酷く絡み始めた。
嬉しい気持ちも吹っ飛んだ…。
そこに酔いの回ったリードさん、族長が加わり、そこから僕の長い夜が始まった…。
――ヒィィィィ……!!!
ルシールはブルリと肩を震わせた。本日2度目である。
――そうだ思い出した。
僕はシャルさんには、お酒を絶対飲ませてはならないと心に誓ったんだよ。
「……」
「ルシール何してる。行くよ。」
「ルシールさま、もうみんな席に着いてますよ〜。」
ダイニングルームから顔を出したリリーナさんが僕に向き手を振っている。
「は、はい。すぐ行きます。」
ダイニングルームで再びみんなと顔を合わせたルシールは、いつもの調子で挨拶すると食事済ませた。
そして、出立を惜しむリリーナを始め、セーバスなど屋敷の使用人に挨拶を済ませたルシール達は、郊外にある精霊大核門へと向かった。
すみません人界は次回になりました。
影の薄くなっているフレイとアルテが気になったもので、先にフレイだけでも絡めて見ましたm(__)m
その内、戦闘でも頑張ってもらいます。
(`・ω・´)キリ




