3
翌日、スキルを取得したはいいが、魔物を倒したことのない僕のためにシャルさんが付き合ってくれた。というかギルドに入るなり依頼書を手渡されたのだ。
シャルさんの薦め? もあり《ウリボアの肉を五つ納める》という依頼を受けた。
ただ、ギルド受付嬢から依頼書が間違ってますよと、言われ軽くショックを受けたけど、今まで受けたことのない依頼書を手に取り心配してくれたのだと前向きに考えることにした。
僕は昨日のうちに中古のショートソードを100カラで購入していた。
新品はさすがに高くて手が届かなかったけど、それでも嬉しくてステータスとショートソードを何度となく見ていた。
――ふふふ……
つい、口元が緩んでしまう。
「ほら、ルシール。そこで呆けてないでウリボアが出たわよ」
「えっ!! ウリボアって、結構大きい……」
ウリボアは僕の膝下くらい、蹴ったら転げそうな、まるまるした魔物。
見た目は可愛らしいけど、硬めの体毛に包まれ鋭い牙がむき出しになっていて、レベル3の僕にとっては一突されるだけでも命の危険がある魔物だ。
「ほら、何してるのルシール! 構えなさい! 前を見みるのよ、向かって来てるわよ!!」
「おわっ!!」
ウリボアの突撃を間一髪で回避すると右手に握っていたショートソードを、ウリボアに向けて振り抜いた。
ザシュ!!
確かな手応えのあとにウリボアがゴロンと倒れた。
「おお!」
初めての戦闘だったけど、僕はあっさりとウリボアを倒してしまった……
「やった。やったよ僕」
知らなかったけどスキルがどう動けばいいか教えてくれた。身体も軽かった……
――スキルって凄い。
僕が素振りをしていた頃と振り抜く剣の鋭さが違う、僕は感動のあまり涙で視界が歪んだ。
「ほらほらルシール、泣かないの。早くギルドの依頼なんて終わらせなさい」
「うっうう……はい。すみません。つい嬉しくて……グスッ」
そして、調子に乗った僕のウリボア無双が始まった。
ザシュ!!
ウリボアを両断した。
「おお!!」
ザシュ!!
ウリボアを両断した。
「おおお!!」
ザシュ!!
ウリボアを両断した。
「おおおぉぉ!!」
ウリボアを――
「ふふふ、僕に触れるとケガするんだぜ」
ゴツン!!
「いたっ」
「何ウリボア相手に意気がっているのよ。さっさと暴れて回っている、あのウリボアを倒さない」
「あ、はい」
僕は暴れ回るウリボアの側面から近づきサクッと両断した。
――うーん。やっぱりスキルってすごい。
「ねぇルシール。そろそろお昼にしましょう。丁度ウリボアの肉もあることだし。そのウリボアの肉で何か作ってよ、足りなくなった分はまた狩ればいいでしょう、ね」
そう言って大きな切り株に腰掛けるシャルさんは脚を組み直した。
――あ、今……
「ルシール?」
僕は首を振って雑念を払う。
「あ、そうだ。僕、火を起こすための木の枝を拾ってきます」
――いけない、いけない。
近くで落ちている枝を集めながらウリボアの肉と絡める薬草を採取した。
肉に絡めるとうまい具合に肉の臭みが消えるらしい……なぜかそんな知識がある。
きっとこれは料理スキル恩恵だね。
「お待たせしましたシャルさん」
「ん、意外に早かったわね」
「そうですか?」
早速、少し斜めに穴を掘ってその穴を囲むように手頃な大きさの石を四つ置きその上に薄て大きな石を置いた。
次にその下に拾った枯葉や枝を置いていく。
――こんなもんでいいか。
「シェルさんこの枝に魔法で火をつけてくれませんか?」
「あら、ルシールって意外と器用ね……でも生活魔法は使えないの?」
「僕が使える分けないじゃないですか、シャルさん、あははは」
「自慢することじゃないわよ。生活魔法は少しでも魔力があれば誰でも使えるのよ」
「え……」
「その顔……もしかしてレベルが上がれば勝手に使えるようになるとでも思っていたの?」
「……ち、違うんですか?」
「はあ、生活魔法というのはね――」
こめかみを押さえながら、シャルさんが肩掛けの袋をごそごそし始めた。
その肩掛け袋は薄い緑色と白の可愛いらしい袋だけど、その袋には葉っぱに目が付いた可愛い? 人形が下がっている。
「ああ、捨ててなくて良かった。はい」
シャルさんは、袋から取り出した一冊の本を僕に見せてくれた。
「何ですかこの本」
「これが生活魔法書よ。ルシールも文字認識スキルがあるから読めるはずよ」
「生活魔法書」
「そう。魔法は基本魔法書で学ぶのよ。適性がない属性はいくら魔法書を読んでも使えないけどね」
僕はシャルさんから生活魔法書を手渡された。
「こ、これが魔法書……あれ、薄いですね」
「そうよ。生活魔法書と言っても火魔法と水魔法と光魔法と風魔法と土魔法くらいしか載ってないのよ」
「生活魔法にも属性があるんですね」
魔法のことなんて誰も教えてくれなかったから、僕は嬉しくてたまらなかった。
「そうね。各属性魔法の、初級魔法の初級と思ってもいいわ。じゃあ、火魔法を試してみて」
「は、はい」
――これで僕も魔法が……
僕はごくりと生唾を飲み火魔法のページを読んだ。
――おお、読める。
文字が読めるっていいな。マッチボウの知識がすらすら頭に入ってくる。
――ほほう、なるほど。
「シャルさん。僕、生活魔法……なんか使えそうです」
「へぇ、ふふふ、どうぞ」
「はい、では早速、ご飯に必要な火を……むぅ」
僕は火魔法と唱えながら指をパチンと鳴らし人差し指を立てた。
身体の中から何かが抜けて行く感じがすると――
ボウッと小さな音を上げ僕の指先に小さな炎が燃え上がった。
――……出た……
僕の指先で、その小さな炎がゆらゆら揺れている。
【ルシールは生活魔法を取得した】
「おおぉぉお!! シャルさん、みてみてみて!! 出たよ、ひ、火、火が出た」
「あはははは、いいわよ。その調子でそのままその炎を枝に落として、指先から炎を落とすようにイメージするといいわ」
「はい!」
――よーし、炎を、落とすんだ……
僕があまりにも興奮しているのが面白いみたいでシャルさんがお腹を抱えて笑っている。
でもいいんだ。だって嬉しいんだもん。
「ふふふ、落とした後も火がつくまで魔力を注ぐのよ。炎が消えない様にイメージをしていればいいわ」
「はい」
僕は落とすイメージして、ぽとんと炎を枝の上に落とした。
――できた! 次は……
僕はそのままじーっと炎から目を離さず、炎が燃えているイメージを続けると――
ボウッ!! と木の枝にうまく炎が燃え移りパチパチッといい音を出して勢いよく燃えはじめた。
「ふぅ……」
「上出来よ。後はお願いねルシール」
「はい。ふふ、ふふふ」
――あぁぁ魔法だ。僕が魔法を、夢見たいだ。
嬉しくて、パチパチッと燃える木の枝をしばらく眺めた。
――ふふ、ふふふ……よく燃えてる……燃えろ、燃えろ、もっと燃えろ。
僕は、嬉しくて拾ってきた枝をどんどん付け足していく。炎は勢いを増し薄い石板をはみ出し燃え上がっている。
――おお、さあ、もっと。どんどん燃えろ……っいて!
頭をはたかれ見あげれば、隣でシャルさんが腕を組み僕を見下ろしている。
「ルシール! あなた何やってるの」
「あ」
――ハッ、そうだった。嬉しくて燃やすことしか頭になかった。
「あははは、シャルさん直ぐに料理しますね」
「もう……」
少し不機嫌そうなシャルは、僕の様子を見て、もう大丈夫だと思ってくれたのだろうか? 大きく息を吐きだして、また切り株に座り直していた。
――危なかった。でも……
どう見ても、燃えすぎていため、僕は枝を少しずつ取り出し炎を料理しやすい勢いまで弱まるように調整した。
――うん、これなら料理ができそうだ。木の枝も余分にたくさん拾っていてよかった。
その後は、料理スキルに補助を受け、ウリボアの肉と薬草を混ぜて炒めた薬草肉炒めを作った。
辺りには肉の焼けた香ばしい匂いが漂っている。
「シャルさんできましたよ。薬草肉炒めと、僕がいつも食べてる硬パンです。パンは硬いですけど、火に少し炙ったから食べやすくなってると思います」
そう言って別に拾っていた薄い石板に料理を乗せてシャルさんの前に出した。
一様、覚えたての生活魔法の水魔法で綺麗に洗っているから大丈夫なんだよ。
「うん。いい匂いだわ」
そう言ったシャルさんはどこから出したのかわかないけど、箸を遣い食べやすくしていた肉の一切れを口に入れた。
「ど、どうですか?」
シャルさんが、ゆっくりもぐもぐと咀嚼している。
人に食べさせたことのない僕は動悸がすごい。握りしめた手にも汗がびっしょりだ。
何も言ってくれないシャルに不安が押し寄せてくる。
「し、シャルさん……」
するとシャルさんが僕を見てにっこり微笑んだ。
「うん。美味しいわルシール。魔物の臭みが全く無くてびっくりだわ、それにこれ本当に硬パンなのそんなに硬くないし甘味があって美味しいわ」
その言葉を聞いて、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「よかった〜。実は料理スキルのおかげですよ。料理に関する知識が流れて来るんです。
それに硬パンは僕がいつも食べている通りにしたんですけど料理スキルの恩恵でしょうかね?」
「そうだっの。ふふふ、料理スキルは正解だったわね」
「はい」
そこで初めて僕も料理を口にした。
――うん。うまい。
自分で言うのも何だけどすごく美味しく。こんな美味し料理を食べたのは初めてな気がする。
しばらく二人で黙々食べていたんだけど、シャルさんが急にポンッと両手を軽く叩いた。
「そうだわ」
――ん?
「ど、どうしたんですか?」
シャルさんが何やらニコニコ、イタズラを思いついたような悪い笑みに見えるのは気のせいだよね。
「ねぇねぇ、ルシール。アイテムバックスキルはある?」
「……アイテムバック?」
「いいから、いいから。ほら早く見てみなさい」
「あっはい、ちょっと待って下さい」
僕は目を閉じてスキルショップを使った。
――ん〜……これか、な? いや違うな。……あ、これか? おっ、これだ。
「ありました。ありましたけど、かなり高いですよシャルさん。50万カラもします」
「はい、ルシール」
「はいって、シャルさん?」
シャルさんが僕の手を強引に広げると、その手のひらに一万金貨を50枚入った小袋を置いた。
またこのパターンなのか……
「これは、何ですか?」
「金貨よ、ルシール」
「はい、金貨ですね。ってそうじゃなくて、ですね」
「いーい。ルシール……」
シャルさんが、僕に向け人差し指を立てて「聞きなさい」と言いつつ笑みを浮かべた。
「アイテムバックはスキルの中にアイテムを入れることができるのよ。容量は取得している人によって違うようだけど、それがあれば運搬系の依頼を受けれるわよ。報酬も高い上にすごく便利なのよ」
「でも……これ以上はとても。シャルさんに返せなくなります」
「私は別に少しずつでいいのよ。ほら、できる依頼が増えれば冒険者ランクもすぐに上がっていくわよ。そうなれば……報酬も高くなるわよ、ね」
「冒険者ランク! 報酬も……」
「そうよ。スキルがあれば、あっという間に返せるくらい高くなるかもよ」
シャルさんが横目でちらちら見ているようだけど、僕の意識は別のところにあった。
――シャルさんの言う通りにして僕は、ウリボアも狩れるようになったし、生活魔法についても教えてもらって使えるようになった。シャルさんが言うなら、間違いないかも……
「……そうですね」
「そ、そうよ……」
「そうですね、それじゃあ。シャルさんに借りることになりますけど、僕頑張ります」
「え、ええ。頑張るのよ」
「はい」
僕は元気よく返事をすると、アイテムバックスキルの購入手続きを完了させた。
僕の頭に無機質な声が聞こえくる。
【ルシールはアイテムバックスキルを取得した】
「シャルさん取得できましたよ」
「そう。じゃあ、はい。これお願いね」
そう言ったシャルさんからずしりと重い肩掛け袋を預かった。シャルさんは軽そうに抱えてたけど――
――何これ、お、も、い!!
「し、シャルさん重いですけど……」
「ルシール、何手で持ってるのよ。そこはアイテムバックスキル使いなさい」
「あっ、そういうことですね」
――なになに、収納で入れて、取出で出すみたいだ。
「収納」
僕がそう言うと重かったシャルさんの肩掛け袋がなくなった。
「おお!!」
アイテムバックスキルに意識を向けるとその中に《シャルさんの可愛いアイテム袋》とある。
重さも感じない。僕はスキルをうまく使えたみたいだ。
このアイテムバックは魔力が上がれば容量が増えていくようだ。
――よーし。ついでだ。僕の袋も入れちゃえ。
すると僕の荷物がスーッと消え、スキルに意識を向けると《ルシールの凄く汚ない袋》とあった。
――ぶっ!! そりゃあ汚かったけど……ねぇ……
僕は地味にショックを受けた。
――――
――
その後、おいしくて食べすぎたウリボアの肉を集めるために、再びウリボア無双した。
「あれれ、レベルが1つ上がってる」
「おめでとう。ほら、もっと、もっといいのことが増えるわよ」
借金も増えていくルシールだった。
【本日のシャルさんへの借金50万カラ増】
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【名前:ルシールLv4】
戦闘能力:60→65
種族:人間
年齢:14歳
性別: 男
職業:冒険者
スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉
〈剣術レベル2〉〈治療レベル2〉
〈回避UPレベル2〉〈文字認識〉
〈アイテムバック〉
魔 法:〈生活魔法〉
*レジェンドスキル:《スキルショップ》
所持金 :313カラ
借金残高:3,340,850カラ
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★スキル・魔法レベル補正(目安)★
Lv1=威力1.2倍・(初心者レベル)
Lv2=威力1.5倍・(騎士レベル)
Lv3=威力2倍・(騎士団長レベル)
Lv4=威力2.5倍・(将軍レベル)
Lv5=威力3倍・(達人レベル)
★簡易魔法補足★
火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法、闇魔法、空間魔法、回復魔法、生活魔法など。