27
更新遅くなりました。ごめんなさい。
何時もこんな感じですみません。
エルシャ様とアーシェスさんと別れた僕たちは郊外に戻り再びウリボア討伐に精を出した。
エルシャ様も言っていたし、いつまでも気にしているように感じるフレイのためでもあるけど、やはり一番は僕自身が借金を早く返して元の状態に戻りたい。
貰った腕輪はなんかすごそうだけど、今は何も考えない、後回しだ。
「フレイ、そろそろ日も暮れるし。ギルドに戻ろうか」
「うん」
ギルドから依頼された討伐数は優に越えているので僕たちはキリよく、周囲にウリボアがいなくなったところで帰ることにした。
「かなり狩れたと思うけど、いくらになるかな?」
「んー、わからない。でも期待できる」
「そうだよね」
はやる気持ちからか、僕とフレイの帰る足取りは自然と早くなっていた。
「少なくなっても、この時間は混むね」
「うん」
とはいっても、以前に比べれば全然早い。僕はいつものお願いするガルネさんの列に並び、順番を待ってウリボアの肉とボアボアの牙を納品した。
「ガルネさん、お願いします」
「おおルシール。今日もありがとな。え~、ちょっと確認するぞ」
「はい」
すぐに確認作業に入ったガルネをしばらく待っていると――
「うん。討伐の報酬は20000カラだったよな。それにウリボアの肉が26000カラ、ボアボアの牙が14000カラ、全部で60000カラになる」
ニカッと顔を上げたガルネさんがそう言った。
「え? ガルネさん……多くないですか?」
予想以上に多い金額を提示され、怖くなった僕はそう尋ねていた。
「ああ。今はこんな時だ、少しばかりギルドからの謝礼が入ってるんだよ」
間違ってはないから安心しろ、と笑うガルネさんが早くしまえと、カウンターに置いてあるお金に視線を向けた。
「あ、はい。そうですね。ありがとうございます」
僕が慌ててお金をしまっていると、ガルネさんが笑顔を向けてきた。
「それとな。フレイはEランクになって日が浅いからもうしばらくかかるが、ルシールは、後数回ギルドの依頼を達成すれば、フレイと同じEランクになれると思うから、この調子で頼むぞ」
そんなガルネさんの言葉に僕は嬉しくなって――
「はいっ!」
思わず大きく返事をしていた。
当然周りにいた他の冒険者たちが僕をみて笑い、ガルネさんもくつくつと笑っている。
「あ、ははは……」
「ルシール」
そんな僕はすぐに、顔を少し赤くしたフレイに、いつものテーブル席まで引っ張られてしまったけど本当に嬉しかったんだ。
だって僕は、Fランクになるまでにも数年かかった。だからEランクに昇格できるなんて思いもせず、ずっと考えないようにしていたからだ。
「フレイの分」
「違う……」
テーブル席で落ち着いてから僕たちは今回の報酬金を分けることにした。
「え、どうして?」
僕は報酬の半分30000カラをフレイ手渡したのんだけど、フレイは首を振り、その内20000カラを返してきた。
「……これでいい」
「いいわけないだろ、どうしてさ?」
「……」
でもフレイは首を横に振るだけで何も言わない。早く借金を返してほしいのだろうと思うけど、フレイの取り分をそのまま僕の分として貰うのに気が引けた僕は――
「……分かったよ。じゃあこうしよう」
「うん」
結局は、僕がフレイから20000カラを借りたという形にした。
――フレイって、意外に頑固なんだよね。
「何?」
「な、何でもないよ」
――それに勘も鋭くなった……
そんな時だ。納品カウンターのあるからのほうから、誰かを罵倒する冒険者たちの声が聞こえてきた。
「邪魔だ、どけっブス!」
「あ、私が、並んで……」
「うるせえぇぞブスッ。横にデカすぎなんだよっ」
――なんだ……
僕は何事かと思い、空間把握の意識をそちらに向けてみた。
――ん?
そこには、僕より年が少し上に見える少年が三人と、フレイくらいの女の子が一人が何やら揉めているように見えた。
その少年三人の印象は、やんちゃそうに見え正直あまり関わりになりなくない部類の人に見え、女の子のほうは太っていて顔は吹き出物が出ている。かなり個性の強い女の子に見えた。
――見たことない人たちだ……最近この町に来たばかりなんだろうか、冒険者不足を補うためにギルドがほかの町に依頼したのかな……
僕がそんなことを思っていると――
「だからどけよ!!」
「きゃっ」
受付カウンターの列に並んでいたその女の子を少年三人がドンッと押し出し、押された女の子がバランスを崩して尻餅をついた。
「あははは……コケてやんの」
「ざまぁ……」
少年たちは謝るどころかその女の子を見て笑い、嫌なのもが見えたと言っては変顔をして舌を出しあっていた。
周りにいた冒険者たちは、その女の子を助けるどころか、距離をとりクスクスと笑い声さえ聞こえる。
でも、これが普通なのだ。基本的に冒険者は、知り合いでもなければ関わるのを避ける。というよりも、知らない冒険者をみな警戒するんだ。
ほら、これが演技で罠だったり、実は悪いことをしている常習犯でトラブルに巻き込まれたりと、その他にも色々なリスクがある、かもしれない……
だからこれは自分の身を守るためでもあって、あっ、でも冒険者がみんな薄情だというわけではないよ。
これは冒険者登録時にギルド職員さんに教えて貰う冒険者としての心構えの一つなんだから……
ん? フレイたちの時? その時はギルドの職員さんに頼まれたんだ。田舎村からきた子たちだから街を案内してやってくれって……報酬にパンを一つもらったっけ……
――なんか懐かしいや、アレスたち元気かな……
この後、どうなるのかと思って様子を見ていたけど、その女の子はゆっくりと立ち上がりると、お尻のホコリを軽く払い捲れ上がったローブの丈を直すと、少年たちに言い返すことなく隣の列の後ろのほうに並び直していた。
――……
しばらく気になって様子を見ていたけど、その女の子は列に並びながらも、誰とも話すことなくずっと俯いたままだった。
――あの子、一人なんだ。
その時、ふと僕の脳裏を過ぎるものがあった。
それは一人で悩み落ち込んでいた頃、悔しくて一人で泣いていた頃、自分で自分を励ましていた頃、自分で自分を元気づけていた頃のことが……
今でこそ、シャルさんと出会い、フレイと共に行動をする様になったけど、僕はいつだって一人だった。
――一人か……
彼女は僕と違うと思っても、どうしても自分と彼女が重なり――
――一人は……寂しい……よね。
「ねぇ、フレイ」
「ん?」
「僕さ、あの子を僕たちのパーティーに誘ってみようかと思うんだ」
気づけば、フレイにそんなことを提案していた。
「ルシール。大きのがいい?」
するとなぜか、僕の思っていた返事がくるでもなく、意味がわからない。そしてフレイのそのあとの行動も……
フレイは自分のローブの襟口を両手で広げて、自分の胸元を寂しそうに覗いているのだ。
「大きいって?」
「胸……」
「ぇ!? ええっ」
フレイに言われるまで意識していなかったけど、その女の子は太っているけど胸も大きかった。
フレイがAランクとすれば、その子はEランク。かなり大きい。たゆん、たゆん、なのだ。
「ち、違うよフレイ」
でも、その女の子は身体が横にも大きく、お腹もたゆん、たゆん、と揺れている。色っぽさは残念ながらない。
「じゃ、スカート短いのが好き?」
今度はフレイが自分のローブを膝上半ばまで捲り上げた。
――ぃっ!?
目の前でフレイの白くて長い脚が露わになり、それが意外に色っぽい。
でも、周りには人がいるし、見せたらダメだろうと思う僕は焦りに焦った。
「ふ、ふ、ふフレイ、ダメだって」
「ん」
すぐに元に戻したフレイだったけど、慌てる僕に、フレイはその女の子に視線を向けたあと、自分の足元スに指を差す。
「……フレイの脚を見ろってこと……」
「違う、あの子のローブ」
「ローブ?」
「見たから」
「見た……?」
フレイが言うから、再び女の子の着ているローブに意識を向ければ、そのローブはパンパンに広がり今にでもはちきれそうになっている。
――あれ、もしかしてサイズが合っていないの?
そのため、横に広がった分ローブ丈が上がり、膝上半ばまでしか生地が届いてない。
つまり太い足がより多く露出していたのだ。
――あっ!?
ようやくフレイの意図したことに気づいた僕だったけど、お世辞にもその女の子から色っぽさは微塵も感じとれなかった。
「そ、それも関係ないから」
「じゃあ、なぜ?」
「えっと、あの子、たぶん回復魔法使えるんだ」
「回復魔法?」
「そう。シルエットの色が淡いオレンジ色なんだ。今は魔物も増えているし、僕も練習すれば少しはマトモに使える様になると思うけど、今は練習不足で戦いながらだと全く回復魔法が使えない。それに……」
「何?」
「一人は寂しい……つらい、と思う」
フレイはその後、少しだけ俯いたかと思えば、すぐに顔を上げて「分かった」と頷いてくれた。
「フレイありがとう」
それに、僕が、あの女の子をパーティーに誘いたい理由がもう一つあった。
そう、その女の子のシルエットの姿は綺麗で、とても悪い人には見えなかったのもあるけど――
――なんで、細いのかな……
シルエットと実物の体型があまりにもかけ離れていたから、疑問に思ったのだ。
「でもルシール。こっちで勝手に決めることじゃない」
「分かってる。断られたら断られただよ」
「うん」
しばらくテーブル席で女の子の換金が終わるのを待っていた。最後尾に並び直しただけあってかなり時間がかかっている。それでも気長に待っていると――
「やっと終わったみたい」
「そのようだね」
ギルドの外は暗くなり、食事処のほうからは冒険者たちが楽しく騒ぐ声が聞こえていた。
「よかった、こっちに来る」
僕は自分の荷物を椅子に置きなおして、誰も腰掛けないよう椅子をキープする。
少し席を外すからフレイに連れが居るようにみせておかないと、他の冒険者にこの席を取られ兼ねないのだ。
「じゃあ、行ってくる」
フレイにそう言い残して、トボトボ歩いてる女の子に声をかけた。
「ね、ねぇ……ち、ちょっといいかな?」
声をかけた女の子がきょろきょろと周りを見渡した。幸いなことに、周りには誰も居なかったので、女の子は自分が話し掛けられたのだと思ってくれて立ち止まってくれた。
――あ、ヤバい……緊張してきた。
よくよく考えれば僕から女の子に話しかけることなんてない。
当然、気のきいた言葉なんてすぐには出てこない。
――……はっ、そうだ。こんな時こそあれだ。
【ルシールはスマイルスキルを使った】
――ふぉ。顔が……
ルシールはにっこり微笑んだ。
――おお、よし、緊張がだいぶとれた気がする(この間、2秒ほど)
「きゅ、急に声をかけてごめんね」
「えっ、私?」
女の子は驚きながらも自分を指差し――
「そうだよ」
「ひゃい」
僕がそう応えるとなぜか、みるみる顔が真っ赤になっていく。
改めて近くから見た女の子は、やっぱり太っていて、ローブはぱつんぱつんだった。
――そりゃそうか……空間把握で意識して見てたんだから、近くからだろうが、遠くからだろうが、それは変わるはずないもんな。
そんな彼女はサラッと長い茶髪を後ろで一つ結びにしている。
顔は少し丸く顔中吹き出物ができていた。テカテカの脂肌だ。
「僕はルシールと言って冒険者なんだ」
僕がそう言うと、太って腫れぼったいマブタから見える、細い瞳が僕を見つめ返してきたかと思えば、モジモジし始めた。
「る、ルシールさん。わ、私はアルテ。き、昨日村から出て来たばかりな……の。
お、おお付き合いするには、まだ早いちゃよ」
――お付き合い?
彼女は何か勘違いしてる。なんとなくそうじゃないかと分かった僕の顔は青くなっていたと思う。
「えっ! ぃゃ、ち、ちがうっ……」
「あ、でもでも、笑顔が素敵ちゃ。それにいい人そうやっちゃし。ああ、どうしようちゃあ……」
「アルテさん。ま、まずはあっちのテーブルで……話を……聞いて……」
「きゃう。都会の男は大胆って、ほんとやっちゃね……でも、この人なら……」
彼女はそんなことを言ったかと思えば、首まで真っ赤になり、両手で自分の顔を覆った。
――や、ヤバイ、なんかすごく勘違いされてるっぽい。こ、ここはスパッと言わないと。
「アルテさん。あのテーブルで僕の話を聞いてほしいんだ」
僕はフレイが腰かけているテーブル席を指差したけど、その彼女は僕の顔をジーっと見たままで、僕が指を差したほうを見てくれない。
「そ、そこまで私のことを。わ、分かったっちゃ。いいちゃよ」
それでもなぜか僕の言わんとすることを分かってくれたようで、了承を得ることに成功した。
――よかった。
僕はホッと胸を撫で下ろしフレイに向かってオッケーだったサインを出そうとした。
けど、そのサインを出そうとした僕の手に向かって、彼女の手がスッと伸びてきたかと思えば、彼女にガッチリとその手を握られていた。
――ええ!?
「あ、アルテさんっ、手が……」
「私、分からないから連れていってほしいっちゃよ」
――……。テーブル席そこなんだけど。
そんなことを思いつつも、そう言われれば無理に振り解くことなんてできない僕は、彼女の手を引きテーブル席へと向かう。
「ふふふ」
笑みを溢す彼女に、まぁいいかと思った瞬間、鋭い視線を感じたあと、ゾクゾクッと僕の背中に悪寒が走った。
――えっ、今のは何?
僕はその正体を、探ろうと辺りに意識を向ける。するとなぜか、フレイが僕の荷物を杖で叩いているではありませんか。しかも、誓いの指輪に向かって何やら呟いている。
――……ああ、フレイ何してるのさ。
なんて言える雰囲気ではなく僕は、愛想笑いを浮かべながらテーブル席に向かった。
「ははは……」
【フレイへの借金20000カラ増】
余談だけど、シャルさんはBランクからCランクの間っぽいよね……え? どこがって、あはは、どこでしょう。




