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26

 翌朝、僕たちは約束の時間まで少しでもお金を稼ごうと、ギルドに顔を出した。


「……うーん」


 今日はまた、昨日よりも一段と冒険者の数は少ない。


 どうも騎士募集なんて嘘だろうと信じていなかった冒険者たちも、昨日、街中を騎士の姿で歩く元冒険者たちを目の当たりにして、収まりかけていた冒険者離れが再発したようだと、フレイが教えてくれた。


「あっ、ルシールさん、フレイさん、おはようございます」


 ギルドに足を踏み入れてすぐに「来てくれてよかったです」と言う受付嬢のリリさんが僕たちの前でペコリと頭を下げた。


「あっ、リリさん。おはようございます」


 どうもリリさんはウリボア討伐の依頼を引き受けてくれる冒険者を探していたみたいだ。


 というのも、冒険者自体が少なくなってしまったから、どの依頼を優先して誰に引き受けてもらうか、ギルド職員はここのところ毎日頭を抱えているそうだ。


 当然、その依頼は報酬を上乗せしないといけないらしく、ギルド内は暗い雰囲気に包まれている。


 ――リリさん、顔色悪い……大変なんだろうな……


「それでですねルシールさん。今年は例年よりもウリボアの討伐数が足りてなかったみたいで、郊外の畑に被害が出てきているのです」


「へぇ、ウリボアって畑を荒らすんだ」


「そうなんです、だから困ってるんですよ」


 ――そうか、困ってるのか……じゃあ僕は、依頼を受けてもいいんじゃないかと思うけど……


 確認のためにフレイに顔を向けてみると、フレイはまるで僕の意思を察するかのようにこくりと頷く。


 ――ははは……


「いいですよウリボア。任せてくだい。これで、報酬まで上乗せされているなんて、なんだか悪い気がするね」


「ははは……ギルドにも色々と都合があるのですよ」


「そうですか、大変ですね」


「ははは……はぁ」


「……」


 ――うわ、なんか僕、よけいなこと言ったみたい。


 笑っているようで、笑っていないリリさんが少し怖い。


 僕たちは逃げるようにウリボア討伐依頼の手続きを済ませギルドの外に出た。


 ギルドを出ていく際、僕たちと入れ替わるように入ってきた冒険者たちも――


「あっ」


 すぐにギルド職員に捕まり、少し困った顔をしているのが見えた。


「……ギルドも依頼を回すのに必死」


「そうか……そうだね……」


 ――――

 ――


 郊外に出てすぐに目的の場所にたどり着いた。


「あれ、僕たちだけじゃなかったんだ」


 ほかの冒険者たちも何組かいて、数人でウリボアを囲み込むように狩っている姿が見えた。


 ――へぇ、あれだと簡単に狩れそう……


「ルシール、ウリボアいた」


「え!? もう? こんな近くまで、うわーっ、本当にウリボアがいる。

 あー、あいつ、畑の作物を齧ってるっ」


 ウリボアは探すまでもなくすぐに見つけた。リリさんから聞いた通り、畑の作物をいいように食い散らかしている。


「作物、食べてるやつから狩ったほうがいい」


「わかった。フレイ行くよっ」


 僕たちは他の冒険者を真似て挟み撃ちにしながら狩ってみると、思いのほかサクサクと狩れている。


「この狩方、なかなかいいね」


「うん」


 けど、ウリボアはレベルが低い魔物で数は多いけどレベルは上がりそうにない。


 はじめこそ張り切って狩っていけど――


「ふぇ、多すぎ〜」


「ルシール、文句言わない」


「わかってるよ」


 同じことの繰り返しで、これはもう作業だ。ウリボアの多さにうんざりしていると、その中にウリボアが成長したボアボアを発見した。


「えっ!? こんな近くにボアボアまで……

 こいつは牙が大きくて鋭いから危険なんだ。こいつも積極的に狩っておこう」


「うん」


 ――――

 ――


 それからしばらくの間、僕とフレイはウリボアと、ボアボアを狩りに励んだ。


「ルシール、こっちのも拾う」


「あ、うん」


 嬉しい誤算は、討伐品のウリボアの肉とボアボアの牙が大漁にたまったってことと、上がらないと思っていたレベルが上がったことだ。


【空間把握のレベルが上がった】

【魔眼レベルが上がった】


「あれ?」


 でもなぜか上がったのは、空間把握のレベルと魔眼レベルだけだったが、頭の中で把握できる世界が広くなって行動しやすくなった。


「おおっ」


 ――レベルが上がったから範囲も広くなっててって……あれ、魔眼スキルのシルエットに色がある? フレイは青と緑……これって……魔力の色?


「フレイ凄いぞっ。魔眼スキルのレベルが上がったんだけどさぁ」


「スキルのレベル?」


 冷静なフレイは、僕の顔を見て何を言いたいのかわからない、といった様子で小首を傾け返してくる。


「ほら、あれだよあれ。昨日買ったばかりの空間把握と魔眼スキル。その魔眼スキルのレベルが上がって色がついたんだ」


「色? ルシールよく分からない。けど、一日でスキルレベル上がるなんてあり得ない。あ、ルシールずっと発動させてたから?」


 フレイはまだ、信じられないといった風だったが、前みたいにずるいという反応ではなく、少し嬉しそうに見えるのはなぜかな……


「うん、そうかも。ちなみにフレイは青と緑が混じってるよ。青の方が濃いから、これはたぶん魔力の色だと思う。フレイは水魔法が得意だったもんね?」


「うん」


 僕はなんだか嬉しくなって夢中になって辺りを見渡し、草や木、畑の作物なんかの魔力の色を眺めた。


 ――へぇ、同じ草でも色の濃さが違うのか……すごい、すごいや魔眼っ。


 ちなみにウリボアとボアボアは茶色に少し白が混じったシルエットになった。


 ――白? 白ってなに?


 けどそれも――


 きゅるる。


 ――ん?


 突然、隣から聞こえた何かの音で我に返った。


 ――なんだ今の音……


 きゅるる


 僕は不思議に思いつつも、音の出どころを探すと、それは無言でずっと隣で立って待っていたフレイのお腹だとわかった。


「フレイ?」


 フレイがぷいっと顔を背ける。


 きゅるる


「フレイは……お腹、空いてたんだね」


「……」


 すぐに答えたくなかったのか、少しの間があり、照れたようにも見えるフレイがこくりと頷いた。


「ははは……ごめんごめん。じゃあお昼にしよう」


 ――どうもやりにくい


 少ししおらしくなったように感じるフレイは、まだ僕に気を遣っているのかもしれない。


 ――担保のこと、まだ気にしてるんだろうか……大丈夫なんだけどなぁ。


 僕のほうだけでも、できるだけ気を遣わせないよう、今まで通りにやろう思った。


 ――そのためにも早く稼がないと……


「えーと、じゃあ……」


 お昼にはまだちょっと早かったけど、昼食をとって待ち合わせに場所に向かえば丁度よさそうな時間である。


「あ、あそこがいいな。切り株があるし」


「うん」


 僕は安全そうな場所を見つけると、そこまで移動し、昼食の準備にとりかかった。


「フレイはそこに腰掛けて待ってて」


「うん」


 僕は手早く生活地魔法(ホルゾ)で穴を堀って簡易の釜戸を作った。この使い方はシャルさんに聞いた。


 生活魔法は使い方しだいでかなり便利なのだとか。でも、シャルさんが生活魔法を使っている所は見たことない。


 次に、集めてきた小枝に生活火魔法(マッチボウ)で火をつけ、大漁に手に入れたウリボアの肉を塩とハーブを刷り込み味付けして焼いていく。


 焼いて軽く味付けした簡単な物だが、いつの間にか僕の横に着ていたフレイは、肉のほうをじっーと見つめている。


「焦げたら大変」


「そう、なの」


「うん」


 肉当番は任せてと胸を張るフレイがなんだかいつものフレイに戻ってくれたような気がしておかしいく思う。


「じゃあ僕はスープを作るから、焼けたら教えて」


「うん」


 とはいっても、そのスープは乾燥野菜と干肉の細切れをお碗に入れ生活水魔法(リュウスイ)でお湯を注いだだけの簡単手抜きスープだ。あっという間にできあがる。


「フレイ、スープできたよ」


「うん。こっちも焼けた」


 フレイに肉を切り分けてやると、フレイは凄い速さで小さく切り、凄い勢いでその肉を口に入れていく。


「フレイ、そんなに入れて大丈夫か」


「もきゅ、もきゅ、ん」


 フレイは大丈夫だと、こくこく頷いて見せるが口一杯に頬張り食べるフレイはリスみたい見えた。


 ――お腹ペコペコだったんだ……


「僕も食べよう……」


 ――うっ。そうだった。フレイが美味しそうに食べるから……忘れてたよ。しくしく。


 味がしない僕は、匂いを腹一杯嗅いで勢いで食べた。お腹は膨れるがただそれだけ。思わず涙が出そうになったけど、僕の目の前でフレイが美味しそうに食べているのを見てぐっと堪えた。


「さてと……」


 昼食が食べ終わると、ちょうど約束の時間に向かうにはいい時間になっていた。



「フレイ、約束が終わってから、時間があまるようだったら、また戻ってきてウリボアを狩ろう」


「うん」


 ほかの冒険者たちは、まだウリボアを狩っていたが、僕たちは一度ギルドに向かった。


 ――――

 ――


「えーと」


 ギルドに戻りギルド内食事処を見れば僕たちがいつも座るテーブルにアッシュさんと、フードを被ったお爺ちゃんだか、お婆ちゃんだが分からない年配の人が腰掛けて待っていた。


「いる。もう来てる」


「ほんとだ、急ごう」


 僕たちは急いでそのテーブル席にむかった。


「アッシュさん、遅くなってすみません」


「そんなことないよ、ルシール君」


 アッシュさんは僕たちに手を振って応えてくれたが、心なしか元気がないように感じる。


 ――あれ? どうかしたのかな?


 テーブルの前で立ったまま話すのも、この場所では目立ってしまうので、僕たちは二人は並んで前の席に腰掛けた。


「あっ、僕はルシールです。こっちがパーティーメンバーのフレイです」


 僕はアッシュさんの連れてきていた年配の人に向かって挨拶をした。隣のフレイも僕に続けて軽く頭を下げている。


「それがルシール君。恥ずかしながら私の勘違いだった。最初に探し当てた四人でエルシャ様の目的は達成していたらしいのだ」


「黒髪、赤目の人を探してるって話ですよね?」


「はい。本当に申し訳ない」


 アッシュさんはそう言うが早いか僕たちに向かって頭を深く下げた。


「え!? あ、いやぁ、僕たちは別に気にしてませんから……」


「ありがとうルシール君」


 申し訳なさそうに顔をゆっくりと上げたアッシュさんだったけど、次瞬間には――


「でもですよ! エルシャ様。あっ、エルシャ様はこの人で、私の主なんだけど、私に人探しをさせておいて、目的の人物が見つかったなら見つかったって一言言ってくれてもいいと思いませんか? ルシール君たちにも迷惑かけたんですよ……

 勿論、これは私が声を掛けたのが悪いんですけで、でもでも、あー……エルシャ様、聞いてますか!?」


 よほど不満があったのだろう、エルシャ様と呼ばれてる老人に向かって開いた口が止まらない。


 けど、その老人もアッシュさんの話を聞いていないのか、なに食わぬ顔で砂糖豆をつまみ、薬茶を啜っている。


 ――あはは……これは、早めた帰ったほうがよさそうだ。


「あの~アッシュさん。ほんと、僕たち全然気にしてませんから。なあ、フレイ?」


 だから帰ろう、とアイコンタクトを送ったつもりだが、フレイはこくこくと縦に首を振っているが、その視線は老人の目の前で山積みになった砂糖豆に釘つけで、アイコンタクトが通らない。


 ――おーいフレイっ。


 そのフレイの視線が、老人の摘んだ砂糖豆を追い い口の中に消えては、次の砂糖豆を捉える。


 そんなフレイがぼそりと呟くのが聞こえた。


「あんなに一杯、美味しそう」


 ――ぶっ、あれだけ食べた肉はどこにいった。


「それはまた今度にして、フレイ行くよ」


「ん」


「アッシュさん、僕たちは引き受けている依頼があるので、これで失礼します」


「ほんと申し訳ない」


 名残惜しそうにするフレイの手を取り、席を立とうとしたところで――


 ――ん!?


 ふと、フードの中から鋭い視線を感じた。僕はなぜかそれが老人から感じたものだと思い、視線を老人に向けてみた。


 ――なっ!?


 すると、急に老人のシルエットが膨れだし何かを形取る。


「エルシャ様!」


 ――こ、これは……


 アッシュさんが慌てたように立ち上がるが、僕はそれが、ギルド図鑑で見たことあるドラゴンによく似た真っ白い大きなシルエットに見えた。


 それとともに、ギルド内の気温が下がった様に感じた。


「どっ、ドラゴン!?」


「ほう」


 そして、老人の線のような目が、急に見開いたかと思えば、次の瞬間には元の老人のシルエットに戻っていた。


 ――い、今のは……何? 僕の勘違い?


 そしてしばらく僕のほうに視線を向けていたかと思えば、今度は突然笑みを浮かべていた。


「アーシェス面白い。面白いのう」


「エルシャ様、そのようなことは二度とやらないでください。気付かれます」


「なーに、大丈夫じゃアーシェスよ。ワシくらいになればこの程度じゃバレやせん」


「それでもです」


 そのたるんだ頬を引っ張りますよ、と言うアッシュさんの目が怖い。

 先ほどまでの穏やかそうな人だと抱いていた印象が、がらりと崩れさり、なぜかシャルさんの匂いを感じさせる。


「あー、わかったわかった、そう怒るなアーシェスよ。二度とせんから、機嫌を直せ。そんなことよりも正解じゃったわ」


「正解?」


「そうじゃ。アーシェスを使えば面白い人物に会える予感がしたんじゃよ。ワシの勘は当たるからのぉ。小僧、いやルシールと言ったな?」


「……は、はい」


 突然、会話を振られた僕は戸惑いながら返事をすると、老人は、先ほどの出来事が幻ではなかったのだということを証明してくれた。


「お主はワシの姿がドラゴンに見えたのじゃろ?」


 老人が何を考えているのか分からない表情のままニヤリと口角を上げた。ちょっと怖い。


「えっ……と……それは……」


 ――どうしよう。なんて答えればいいんだ。下手に答えると魔眼がバレる。


「かっかっかっ。まあいい。答えんでもワシには分かる」


「ええっ」


 ――なに、どういうこと……


 僕の心中は穏やかではなく、話どころではないが、老人はたいして、気にした様子や素振りもなくそのまま話をつづけた。


「今お主に見えたのはワシ本来の姿じゃ。魔力とは本来の姿を形どるものじゃかるな」


「本来の姿……」


「うむ。まあ、それが全てでもないがのぉ。ほっほっほっ。

 ワシくらいのレベルにでもなれば魔力の姿もお手の物じゃて、こんな風にの」


 そう言う老人が両手の平をテーブルに乗せたかと思えば、老人の両手から小さな白い塊が浮かび上がった。


 ――なんだ?


 そして、その塊はぐにゃぐにゃと動き色々な形になってき、しばらくして消えた。


「そこの、お嬢ちゃんには見えんだろうが、ルシール、お主には見えたじゃろ。魔力が……」


「……はい」


「お主、異形が見えたとアーシェスに話したのであったな?」


 ――アーシェス? 


「いいえ。誰ですか、アーシェスさんって」


「ほれ? アーシェスは。こやつじゃ。お主の目の前にいる。気付いていたのじゃろう?」


 アッシュさんがあちゃ~と右手で顔を煽った。


 ――そりゃあ、アッシュって偽名だろうって分かってたけどさ、こんな簡単に教えていいの?


「まあ……でも、アッシュさんが、アーシェスさんだとは思いませんでしたよ」


 むぅっと少し膨れ顔になったアーシェスさんが砂糖豆に手を伸ばしたエルシャ様の手をはたいた。


「エルシャ様、これは以前、女性の格好で尋ねて回っていたら、変な輩に狙われまして、勿論、返り討ちにしましたけど、もう面倒で面倒で、それから偽名を使ってます。あと少し男装も」


「いつつ……そうじゃったか。そうじゃったか……すまんかった。ワシは知らんかったでな」


「嘘ですよね?」


 本名アーシェスさんが、砂糖豆を諦めニヤつきお茶を啜るエルシャ様をジト目で睨み、その視線が、なぜか僕にまで向けられる。


 気づいていたなら言えばいいのに、とでも言いたいのだろうか?


「かっかっかっ。年寄りは物忘れが早いのじゃ。それよりルシール?」


「はい」


「お主が見たのは、多分、穢れ邪鬼じゃ。邪鬼はあやつの下っぱにすぎんが、そやつだけじゃないから厄介なんじゃ」


「あやつ? 邪鬼? ってなんですか?」


「今、この王国だけじゃない、世界(人界)そのものがおかしな方向へ回りはじめておる」


「……」


 ――そんな話聞きたくない。話がだんだん大きくなってる。僕のような冒険者が聞くようなことじゃないよ。


 エルシャ様は僕の首元のボックリくんに視線を向けた。


「ふむお主は、エルフ族とも繋がりがあるようじゃしな。面白い」


「エルシャ様。さっきから僕には何が何だかはさっぱりで。これ以上は……」


「それはすまんかった。じゃか、あと少しだけ、ワシの話に付き合え」


 ――やめてぇ。


「それでじゃが、お主が見た異形とは穢れ邪鬼と言うが。

 これは、あやつがこの世界に放った鬼だ。この王国だけではない、世界各国に現れているが……」


 そこまで言ったエルシャ様は少し考えた口を開いた。


「今のお主は身体に何かしら制約を受けておるみたいじゃしな……まあ、あえて聞かぬが。今はそちらを優先したほうがよいじゃろ」


「……はい」


 ――なんで分かるんだろ。でもよかった。僕もこれ以上は聞いたらいけない気がする。


「だからこの事は下手に関わらん方がよい。話すのも駄目じゃ。これは忠告のために話したのじゃ。でないとお主だけじゃなく……」


 エルシャ様はフレイに視線を向けた。


「お主の仲間のためでもあるのじゃ。呑まれれば人族はあやつの元に戻ってしまうでな……」


 ――呑まれれば? まあいい……


「分かってます。もともと僕に、大それた考えはなくて、ただ……」


 ――お金を稼がないと借金もあるし……


「分かっておる。この王国が心配なのじゃろう。まあ心配するなとは言わんが、今すぐにどうこうはなるまい。

 それにじゃ、今は詳しく言えんが、この異変に気づき動いてる者もおる。ワシ達もそちら側じゃ」


「えっ」


 ――いやいや、勝手に勘違いしないで。なんでギルドランクFの僕が王国を心配するんだよ。

 自分の事で一杯一杯なんですよ。借金返さないといけないんです。


「ちが……」


 だが、僕が弁明する間もなくアーシェスさんとエルシャ様の矢継ぎ早に言う。


「そうですルシール君」


「うむ。まあ、今お主に一つだけ言えることは強くなることじゃな、何が起きても払いのけるほどの力を。あと、何度も言うが、その身体を早く戻せ」


「エルシャ様二つ言ってますが……」


「アーシェス。細かいことは気にするでない」


「エルシャ様はそんな人? ですもんね。ええ分かってますよ」


「しかし、そのような身体でも王国を案じる正義感、と心意気にワシは感服した」


「えっ、何……ちょっと……」


「アーシェス決めたぞい。ルシールよ。これも何かの縁じゃ。これをやろう。竜のブレスレットじゃ」


「っ!?」


 いつの間にかエルシャ様の手に握られていたブレスレットを見せられた僕は思わず息を呑んだ。


「ドラゴ……」


 そのブレスレットは普通に見ると大したことのない質素なブレスレットなのだが、魔眼で見ると虹色の小さな竜がくるくるまとわりついていた。


 ニヤリと笑みを浮かべるエルシャ様がシッと口元に人差し指立てる。


「エルシャ様それは!?」


「ちょ、ちょっとエルシャ様。こんな凄い物、僕には貰えません」


 ――これはダメだ。こんな凄い物、貰ったらダメだ。


 僕は必死になって断ってみるも――


「かっかっかっ。やはり分かるか? 分かるなら資格はある。これはあの四人にもやった奴じゃしの」


「しかし、これは……」


「アーシェス、なぁに一つ多く作り過ぎて、どうせ倉庫に眠らせとくことになるのじゃ、ならばこやつにやったほうが面白いじゃろうて」


「はぁ。面白いで、やる物でもないと思うのですが、エルシャ様がそう言われるのでしたら、私はもう何も言いませんが……」


「いやいや、アーシェスさんダメです。止めてください」


 ――色々と尋ねたいけど、それはそれでやぶ蛇になりそうで怖い。


「これを見ても、そう言うお主は人族にしては謙虚じゃな……うむ。ますます気に入った、ほれ」


 エルシャ様がそう言うが早いか、エルシャの手からブレスレットがふっと消えたかと思えば、僕の左腕にしっかりとはまっていた。


「うわっ、ブレスレットが……」


「はぁ、ルシール君頼んだよ」


 すでにアーシェスさんは諦めていたようで、僕に諦めろとでも言いたげな顔で僕の肩をぽんと軽く叩いた。


「アーシェスさん……」


「今はこれくらいじゃな、どうしようもなく困った事があったらそのブレスレットに念じると良い。今のお主でも少しは助けてくれよう」


「あ、ありがとうございます」


「だかいいか? この事は人に話しては駄目じゃぞ。そしてもっと上手く、そのスキルを使うのじゃ、アーシェスそろそろ行くぞい」


「はっ」


 エルシャ様は話を終えたとばかりに、僕とフレイの肩をぽんと叩いた時にはその姿はなかった。


「エルシャ様、うまく使うスキルって……どれですか……」


 当然、それに応えてくれる者はなく、左腕のブレスレットを眺め悩むルシールの隣では、ちゃっかりとエルシャから貰った砂糖豆を口一杯に頬張るフレイがいるのだった。


「はむ、はむ……おいひい」


 ――――――――――――――――――――


【名前:ルシール:LV11】

 ギルドランクF


 戦闘能力:171身体能力低下中(121)

 種族:人間??

 年齢:14歳

 性別: 男

 職業:冒険者

 スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉

 〈文字認識〉〈アイテムバック〉〈貫通〉

 〈馬術〉〈カウンター〉〈早寝〉

 〈早起〉 〈早食〉 〈早技〉〈早足〉

 〈早熟〉〈治療:2〉〈回避UP:3〉

 〈剣術:3〉〈見切り:2〉〈捌き:2〉

 〈毒耐性:2〉〈覗き見:2〉

 〈危険察知:1〉〈空間把握:2〉up

 固有スキル:〈浄化〉〈魔眼:3〉up


 魔 法:

 〈生活魔法〉

 〈初級魔法:1〉


 *レジェンドスキル:《スキルショップ》

 《スキル制限解除》


 所持金 :78,913カラ増

 借金残高:シャルロッテ3,949,850カラ

 フレイ 1,300,000カラ


 スキルショップ借入:60,000,000カラ

 担保提供:視角左右、聴覚左、味覚


 レア装備:竜のブレスレットnew

 :風のシルエア


 ――――――――――――――――――――


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